宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

54 / 107
SIDE 『ヤマト』


第五十二話 かくも世は残酷なりけり

 

  西暦2199年 7月26日


 

 ナデシコ勢からの共闘の提案を断り、デープ・スペース・13より出航した宇宙戦艦『ヤマト』は、イスカンダルへの航海を再開するべく自分達の世界へ帰還する術を探していた。

 

 だが並行世界間を移動する術など容易く見つかる筈もなく。か細い蜘蛛の糸を手繰るような思いで、『ヤマト』は並行世界へと迷い込んだ場所――銀河系と大マゼランの中間点バラン星の亜空間ゲートへと進路を取っていた。

 

「進路上に障害物なし。まもなくワープ予定地点に到達します」

「……怖いくらいに順調だな」

「ガミラスの襲撃もなく、この宙域では『ボーグ』の活動も観測された事がない……辺境だからな」

 

 『ヤマト』の第一艦橋で操舵席に座る島が操舵桿を握りながらも何とも言えない表情を浮かべながら呟くと、戦闘指揮席に座る古代は窓の外に広がる宇宙空間を見据えながら答える……その声は自らの感情を抑える為に努めて平坦な物であった。

 

 


 

 デープ・スペース・13を旅立った後、『ヤマト』の艦内では乗組員達は何時も通りに任務に従事していたが、元の世界へと帰る術が見つからず、人類滅亡へのカウントダウンは無慈悲に流れていた。そんな絶望的な状況でも一応の規律を保っていられるのは、艦長である沖田十三宙将が見せる決して諦めないという鋼の精神と、必ず地球を救うという強い意思が、『ヤマト』艦内に一応の秩序を齎していた……のだが。

 

「こらぁ! 待ぇい、翡翠!」

「な、何でぇ、何で怒っているの、真琴ねぇちゃん!?」

 

 艦内通路を鬼の形相で走りながら、目の前でちょこまか逃げる小さな悪戯娘を捕えようとするピンクの大魔王(原田真琴衛生士)。

 

「待てって言ってるでしょうが! 逃げるな!」

「何をそんなに怒ってるの!? ねぇちゃんに必要だと思ってプレゼントしたのに!?」

「だからって! 何て物をよこすのよ!?」

「――えっ? 薄くって伸びる奴」

「生々しいのよ! アンタは!?」

 

 真琴は腕を伸ばして小悪魔を捕まえようとするが、まるで後ろが見えているかのような絶妙のタイミングでスルリと抜けて、壁で動いているコンベヤに乗ると上層の通路へと逃れる。即座に追って上層の通路に上ると追跡を開始する……とりあえず、丸いゴムなんてませた物を寄越した翡翠はお仕置きするとして、あんなモノを子供に渡した相手を探し出して、きっちり制裁しなければ気が済まないのだ。

 

 気持ちも新たに小悪魔を捕獲しようと走る速度を上げた途端、小悪魔(翡翠)が急停止したのに巻き込まれて、もう少しで二人そろって転びそうになる。

 

「わきゃ!? 何するのよ、真琴ねぇちゃん!」

「アンタが急に立ち止まるせいでしょう!?」

 

 密着状態になった事を利用して翡翠のお腹に手を回して捕獲した真琴だったが、捕獲された翡翠が妙におとなしい事に疑問に思って顔を覗き込むと、翡翠は何時になく真剣な表情を浮かべて視線を横に向けていた。

 翡翠の視線を追って真琴も視線を横に向けると、いつの間にか食堂まで追いかけっこをしたようであり、翡翠の視線は壁側に置かれた観葉植物の辺りに向けられているようだ。そして、その観葉植物の側には青いカラーの制服を着た壮年の男性の姿があった。

 

「……副長?」

 

 そこに居たのは『ヤマト』の副長であり技術班を束ねる真田史郎三等宙佐であった。何をしているのかと疑問に思うも、真田は難しい顔をして観葉植物を凝視していた。真田があまりに真剣な顔をしている事に驚いた真琴は、思わずその場に立ちすくんでいると捕獲していた手が緩んだ隙を突いてするりと抜けた翡翠は、トコトコと真田の側まで行って同じように観賞植物へと視線を向けていた。

 

「……翡翠か」

「……不味いね、これは」

「――分かるのか?」

「まぁね」

 

 同じように観賞植物を見つめる翡翠に気付いた真田は、何かを確認するかのように問い掛けると、翡翠は短く答える……二人が何を言っているのか分からない真琴は、疑問を現すかのように小首を傾げるが、それ所ではないとでも言いたげにアッサリ無視して会話が進む。

 

「……これだけで済むのか、あるいは我々も…」

「……多分、『ヤマト』もそうだと思う…」

「……翡翠、ちょっと付き合ってくれ」

「分かったよ、真田のおじちゃん」

 

 何やら不穏な会話が続いた後、真田は翡翠を伴って中央エレベーターのある方向へと歩いて行き、後には首を傾げる真琴だけが残されていた。

 

 


 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』艦長室

 

 第一艦橋にて定期報告を受けた後に、『ヤマト』艦長沖田は自室である艦長室へと戻っていた……状況は最悪と言っていい。並行世界へと迷い込み、孤立無援の状況で元の世界へと帰還する術もなく。時間だけがただ過ぎていく。

 

 『ヤマト』は地球を救う為にイスカンダルへと赴き、赤く焼けた大地を再生させるコスモリバースシステムを受領して帰還する為に、ガミラスの猛攻を凌いで未知の宇宙を旅してきた……だが、それにはタイムリミットがある。地球を蝕む放射能は人類が避難している地下都市へと迫り、人類が生存できるのは一年しか残されていないのだ……何とかして元の世界へと戻り、イスカンダルへの航海を再開しなければならない。

 

「……諦める訳にはいかんのだ」

 

 艦長室から見える冷たい宇宙を見据えながら、沖田は自分を奮い立たせるように呟く……『ヤマト』の艦内に不安が広がり始めている。殆どの者が地球に家族や近しい者を残しており、イスカンダルへの続く道を見失い、悪戯に時が流れて地球が滅亡してしまう事を恐れて、それが苛立ちへと変わっていっているのだ。

 

 このままでは『ヤマト』は内部から崩壊してしまう。

 

 何とかそれを阻止する方法はないか? 一抹の望みを賭けて、並行世界へと迷い込んだ地――この世界のバラン星へと進路を取っているが、もしそこに何も無かったら……ふと、そんな弱気な事を考えてしまうが、そんな弱気な考えを振り払うように首を振った時、突然胸の辺りに鈍い痛みが走る。

 

「くっ!? うぅぅう……」

 

 激痛が走る中、胸を押さえてうずくまる沖田は、それでも倒れる訳には行かないと歯を食いしばって耐える……どれだけそうして居ただろうか、ようやく胸の痛みが薄らいでいき、荒い息を整える様にしながら艦長席に身を預ける様にして深く息を吐き、ようやく落ち着いてきた時に艦長室の扉をノックする音が聞こえる。

 

「真田です、今よろしいでしょうか?」

「……入りたまえ」

 

 先ほどまで苦しんでいた事をおくびにも出さずに入室の許可を出すと、扉を開けて副長である真田と小さな人影が共に入ってくる……沈着冷静な真田と、天真爛漫というか“そう演じている”節のある翡翠が共に来るとは、珍しい事も有るものだと思いながら要件を聞く事にする。

 

「実は、最近艦内に置かれている観葉植物や個人所有の花などが原因不明の枯死をおこすという事があり、独自に調査していたのです」

 

 真田の話では、『ヤマト』艦内に設置されている植物や個人所有の鉢植えに至るまで、揃って同時期――具体的にはこの並行世界に迷い込んだ時点から暫くして突然枯れ始めたのだ。

 

 最初は小さな鉢植えが枯れ始めて、水のやりすぎか艦内という特殊な環境下でのストレスの影響かと思われたが、枯れるという現象が『ヤマト』艦内全域の植物に及んだ事で問題化したである。だが現在、『ヤマト』艦内は元の世界へと帰る術を探すという、先の見えない状況下で乗組員達は強いストレスに晒されており、植物の枯死という問題は優先度が低い問題として扱われていたのだ。

 

「個人的に気になる事があり、原因について調べていたのですが……」

「――真田のおじちゃん。こんな厳つい顔しているのに、宇宙基地でナデシコの人に頼んで小さな植木鉢を貰ったんだって」

「――うっおほん!」

 

 好き勝手な事を言う翡翠に向けて咳払いして黙らせた真田は、気を取り直して話を続ける。

 

「翡翠の言う通り、あの基地で入手したこの世界の植物と比較検査をしたのですが、DNAに殆ど差異はありませんでした。ですので同じ環境でどうなるか観察した結果、我々の世界の植物だけが何らかの理由で症状が悪化しました」

「……ふむ。その症状が植物だけの物なのか、もしくは違う世界に来た事が原因なのか、分からないのは不安ではあるが……」

 

「――艦長のおじいちゃんの予測の通りだよ」

 

 難しい顔をした沖田と真田が議論していると、苦笑いをした翡翠が頭の後ろをポリポリと掻きながら断言する。

 

「私達はこの世界に取って“異物”だから排除されるんだよ」

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 『ナデシコ』や『エンタープライズ』と別れて帰還への術を探す『ヤマト』は世界の残酷な事実を知った……だが、彼らは諦めなかった。

 次回 第五十三話 『翡翠』 次で翡翠が大暴れします。
 ……そして翡翠の素性の手がかりも。


 では、また近いうちに。

 最後に誤字の申告有難うございます。
 推敲はしているのですが、どうしても見落としが……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。