宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第五十三話 『翡翠』

 

 宇宙戦艦『ヤマト』 側舷展望室


 

 艦長室で艦長沖田と技師長兼副長である真田と長く話し込んでいた影響で、この側舷展望室に来た時にはシフト変更の時間だったようで人影もなく、展望室にいるのは翡翠只一人であった。

 

 暗闇の中に仄かに輝く星々の光……だが、いまの翡翠の瞳には冷たく無慈悲な光に見える。

 

 艦長沖田や真田との会話会話の内容を思い出す翡翠……『ヤマト』艦内にある植物が一斉に枯れ始めたという事態。真田が入手したこの世界の植物には何の反応もなく、『ヤマト』と共に来た自分達の植物のみが枯れるという事態を以て、翡翠はこの並行世界そのものが“異物”である自分達を抹消しようとしている事を確信する……元々記憶が戻ってから妙な気配を感じてはいたのだ。

 『ヤマト』を取り巻く周囲の空間そのものから妙な圧迫感を感じ、『ヤマト』が進むと共に見えない何かを押し退けているかのような感覚を感じていた。

 

 やはりどの並行世界も優しくはないと言う事か、と翡翠は小さくため息を吐く。宇宙とはその宇宙特有の秩序というものがあり、並行世界から迷い込んだモノなど、その宇宙には不要なものでしかない。

 

「……けど、これで分かった事がある」

『……何がです?』

 

 展望室の窓から見える宇宙を見据えて翡翠が小さく呟くと、逸れに答える存在があった――何時の間にか翡翠の背後に仄かに輝く発光体が現れていた。

 

「……つまり、この事態を招いた『演出家』はこの世界には居ない……この下手糞な演出の操り手は“私達の世界”に居る」

『……貴方に干渉出来て、ピンポイントに『ヤマト』へと導いた操り手は、銀河系に存在する可能性が高いですね』

「そうね。『ヤマト』なんて船、私達は把握していなかったからね。何故『ヤマト』なのか? 理由は分からないけど、状況から考えて銀河系に“居る”存在でしょうね」

 

 宇宙を見据える翡翠の眼の鋭さが増す。

 

「ま、勝手に私達の運命に干渉したのだから、きっちり落とし前を付けて貰わなきゃね……さて、『エテルナ』。“あれ”の準備をしておいてくれる」

『……何故です?』

「……ふざけた事をしてくれた『演出家』以外に視線を感じるのよ……『ヤマト』がこの世界に迷い込んでから今まで、どうやら『演出家』の他にも『評論家』も居るようだからね」

『わかりました』

 

 どんな事にも“保険”は必要だ。翡翠は最も頼れる相棒に指示を出すと、展望室への入り口へと視線を向けて肩を竦める。記憶が復元されて以来ずっと距離を置いていたお姫様が供を連れて此方にやって来る気配を感じる。

 

 はてさて、一体何の用なのやら。

 

 思わず後頭部をポリポリと掻きながら、翡翠は発光体との会話を終わらすと視線を窓へと戻す……口元には小さな笑みをうかべながら。

 

 


 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』 側舷展望室

 

 展望室の窓から宇宙を見上げる翡翠は。静寂が広がる部屋の中で『お姫様』が来るのを大人しく待っていた。記憶をなくして只の少女だった頃、何かと構ってくる鬱陶しくも何処か憎めない年上の困った『お姉さま』だと思っていたが、『ボーグ・ドローン』の襲撃の折に危機に陥った『お姉さま』を助けた後、何かを感じ取ったのか目に見えて距離を取るようになっていた。

 

 その『お姉さま』が此処にやって来ようとしている。どんな心境の変化があったのか、あるいは何か目的があるのか。何方にしても『お姉さま』がこの展望室に来て何を語るか――ほら『お姉さま』、いや『お姫様』のご来場だ。今は頑固な〇〇れのように地球人の岬百合亜に憑依しているが、本来は惑星イスカンダルの第三王女であり、絶世の美女だと本人が言っていたが。

 

「……此処にいたんだね、翡翠」

 

 岬百合亜の身体を借りたユリーシャが声をかけて来る。その表情は努めて平静を装ってはいるが、声に若干の緊張の色がある。やはり何か思う所があるのだろう、展望室の窓に映ったユリーシャは若干の緊張した様子であるようだ……怖がらせているのは心外である、と内心で苦笑する――今の私は『翡翠』なのだ。『ヤマト』のマスコット・ガール(誰も認めていないが)であり、〇%$&〇#%$・%$#〇%ではないのだから。

 

 展望室の窓から宇宙を見つめる翡翠をただ見ていたユリーシャは、暫く何かを言いたそうにしながらも言い出せずと言った感じであったが、ようやく決心して翡翠に向けて話し出した。

 

「翡翠、あの時は助けてくれてありがとう。翡翠はとっても強いんだね」

「……どういたしまして」

 

 まずは『ボーグ・ドローン』から助けてくれた事へのお礼を述べるユリーシャ。

 

「けど、あの時の翡翠の瞳を見て、私はびっくりしたの」

 

 普段の翡翠の瞳は名付けられた名前の通りにエメラルド・グリーンの筈なのに、ドローンを倒した時には血のように真っ赤な瞳をしていたから――それは遥か昔に聞いた、おとぎ話に出て来る人物を思い出させるような鮮烈な紅であった。

 

「そして私は真琴に、翡翠が『ボーグ』に襲われた時の事を聞いたの」

 

 記憶を失って普通の少女だった翡翠は、真琴や佐渡先生と共に医務室に立てこもっていたが、力づくで進入して来たドローンに掴まって首筋に同化チューブを打ち込まれた後に激変して、瞬く間にドローンを制圧したという話を聞いたユリーシャは、その時に翡翠が気になる事を口走っていた事に関心を寄せた。

 

『アケーリアスめ、手を抜きやがったな! あの引きこもり共め』

 

 太古の昔に繁栄して銀河系に様々な遺跡を残して姿を消した大いなる種族アケーリアス文明を知っているかのような言動と、おとぎ話に出て来る真紅の瞳を持つ少女を見つめながらユリーシャは核心を突く問い掛けをする。

 

「ねぇ、翡翠。アナタは『IMPERIUM』の人なの?」

 

 ユリーシャがそう尋ねた時、突然周囲の空気が重くなり息苦しさを感じる。

 背筋に冷たいものが走り、周囲の温度が突然下がったかのように肌寒さを感じた。

 

「……迂闊だなぁ、ユリーシャねえちゃん」

 

 ゆっくりと振り返る翡翠の顔は一見普通に笑っているように見えるが、その表情には感情と言うモノが欠落しており、笑みを浮かべる口元は禍々しく、見る者の背筋を凍らせるものであった。そしてゆっくりと、だが確実に一歩また一歩と近付いて来る翡翠に、言葉を失ったユリーシャは彼女をただ見つめる事しか出来なかった。薄く笑いながら近付いて来る翡翠の表情は、普段の子供らしさは鳴りを潜めており、笑みを浮かべながらもその真紅の瞳は冷たい光を放っている。

 

「『IMPERIUM』――かつてあまたの銀河を血と恐怖で染め上げた、『いにしえの邪悪な帝国』……血のような紅い瞳を持ち、絶大な力で嘆きと怨嗟を生み出す、悪魔のような怖い人たち……翡翠は悪い子なの?」

 

 翡翠が発する圧に気圧されて身動きすら忘れたユリーシャの両頬を小さな手が包む――その手は優しく、しかし冷たくユリーシャの頬を包んで紅い瞳が見つめる。

 

「そこまで分かっていて、一人で私の前に来るなんて――それとも、借り物の身体だから大丈夫だと思ったのかな?」

 

 翡翠の口が半月を浮かべる。

 

「……けどね、精神だけを滅ぼす方法なんて、いくらでも有るんだよ?」

「……翡翠」

「だけど、そんな事はしないわ……ねえちゃんの言う通り、今の私は『翡翠』。『ヤマト』に居る間はユリーシャねえちゃんや真琴ねえちゃんの妹分で、『ヤマト』のマスコット・ガールの翡翠だよ」

 

 何時の間にか翡翠の瞳は翠色に戻り、冷たかった手のひらは子供特有の温かさを取り戻していた。そしてつま先立ちをした翡翠は、ユリーシャの耳元に顔を寄せると小さく呟く――この奇跡を楽しみましょう、と。そして身体を離して展望室の入り口に視線を向ける。

 

「――だから星名にいちゃんも、そんな物騒な物はしまって」

 

 呼びかけに答える様に展望室の入り口から姿を現した星名の手には、安全装置を外した拳銃が握られていた。銃口を向けられていても翡翠は一向に気にした様子はなく、何時もの通り緑色の瞳を向けて、にかっと笑う。

 

「それじゃ、私は艦長のおじいちゃんに呼ばれているから艦橋に行くね」

 

 そう言って翡翠は展望室を出ていく……後に残ったのは、翡翠の闇の一片を見て驚き固まっているユリーシャと、展望室の入り口を厳しい目で見つめる星名の二人だけであった。

 

 


 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』 第一艦橋

 

 『ヤマト』の中枢である第一艦橋は緊張感に包まれていた。艦長室から降りた艦長の沖田は、第一艦橋に居るクルーに重大発表があると告げて準備をするように指示した後に、艦長席にて発表に必要な人物たちの到着を待つ。そうしている内に、必要な人物の一人である技師長兼副長の真田が入室して自席に座り、少し遅れて第一艦橋に通ずる主幹エレベーターの扉が開いて小さな人影が入室してくる。

 

「……翡翠? ここは艦橋だぞ」

 

 近くにいた相原が艦橋に入って来た翡翠を咎めるが、翡翠が口を開く前に沖田が彼女の入室を認めた。

 

「翡翠には、これから行う発表に必要だから来てもらった」

 

 そして沖田は通信管制席に座る相原に艦内放送の準備を指示して、準備が終わると艦長席に備え付けられたマイクを手に取る。

 

「『ヤマト』の諸君、艦長の沖田だ。我々はイスカンダルへ向かう航海の途中で並行世界へと迷い込み、元の世界へと帰る手段を探して航海を続けていた」

 

 その為に元の世界で銀河系の亜空間ゲートがあった宙域に向かい、『ボーグ・キューブ』と遭遇して戦闘状態に突入して、ナデシコのクルー達に救われたが、元の世界へ帰る事を優先して同盟の話を断り、一抹の望みを賭けてバラン星のあった宙域を目指して航海をしていたのだ。

 

「だが諸君も知っているだろう、『ヤマト』艦内の全ての植物が原因不明の枯死を起こしている事を。その原因を探っている内に恐ろしい事が分かったのだ――我々はこの並行世界にとって異物であり、いずれ排除される運命にある事が」

 

 沖田はそこで一拍おいて話を続ける。

 

「我々は亜空間トンネルの途中で量子的に不安定になり、この並行世界に我々を構成する物質ごと転移した……最初のうちは問題なかったが、今回の件で徹底的な調査を行った結果、我々を構成する物質の原子の結合が少しずつ崩れている事が分かった……このままでは、いずれ我々は塵になるだろう」

 

 沖田の語った言葉――その衝撃に第一艦橋に居た乗組員のみならず、『ヤマト』艦内で放送を聞いていた全ての乗組員が絶句する。ただでさえ地球を救う航海の中断を余儀なくされているのに、このままでは『ヤマト』は地球を救う事は出来ずにただ塵になる運命だというのか!?

 

「……ふざけるなよ! なら俺達は、俺達の旅は何だったんだよ!?」

 

 誰かが己が運命を受け入れられずに叫ぶ。それは周囲に波及していき、憤りと悲しみそして嘆きの声が上がる。自分達が何も成しえずに消えていくだけなど誰が許容できようか……しかし沖田の話は、これで終わりではなかった。

 

「ワシは、そんな運命に屈するつもりはない。そしてそれは皆も同じだろう。その為にもバラン星のあった座標に向かうのも一つの道だが……しかし今、我々にもう一つの道が示された――翡翠。説明を頼む」

 

 沖田の言葉を聞いて翡翠は通信管制席に座る相原に近づくと、彼の身体をよじ登って相原の身体を椅子代わりにする。

 

「――お、おい」

「……仕方ないじゃない、私にはこの椅子は大きすぎるんだから。それより相原のおじちゃん、私の声を艦内に放送してくれる?」

 

 よじ登られた相原は、翡翠の要求を聞いて沖田の方へ振り向いて判断を仰ぐと、沖田は小さく頷いて翡翠の声を放送するように促す。沖田の許可を得て相原は機械を操作して備え付けられたマイクを起動する。

 

「ほら翡翠、これで話せるぞ」

 

 相原の言葉に満足げに頷くと、翡翠は喉の調子を整えて語りだした。

 

「みんな~、『ヤマト』のマスコット・ガールの翡翠ちゃんだよ――って痛い! 何すんのよ、相原のおじちゃん!?」

「まじめにやれ! それと俺はおじちゃんなんて年じゃない」

 

 相原に拳骨を落とされて痛む頭を押さえながら、場を和ますジョークなのにとブツブツ言いながらも翡翠は改めて話し始める。

 

「まじめにやれと言われたので、まじめにやります――本来この話はリスクが高すぎて話す気はなかったんだけど、現状はそうも言っていられないので」

 

 そこで翡翠は、コホンと咳をして間を置く。

 

「前に私が示した帰還する方法――仲間の船が迎えに来たら一緒に帰還するという方法の他に、実はもう一つ方法がある」

 

 翡翠の話を聞いた第一艦橋の乗組員の中でも、航海長である島の関心は並々ならぬものであった。『ヤマト』の舵を預かる者として終着点を見失うなど多大なストレスになっていたのだ。そしてそれは島だけでなく、古代や雪や太田に南部という第一艦橋に詰める人々の視線を一身に集めた翡翠は、その方法を語る。

 

「『ボーグ』が所有する超光速大規模輸送用施設『トランスワープ・ハブ』を利用するという事」

「どういう事だ、翡翠。『トランスワープ・ハブ』は、銀河系に張り巡らせた『トランスワープ・コンジット』に接続する施設なんだろう? それでは、この並行世界から抜け出せないじゃないか」

「通常の使い方をすればね」

 

 島の疑問に答える翡翠――彼女によれば、『トランスワープ・コンジット』は言わば亜空間のトンネルであり、そのトンネルに強い力を掛ければ内部のモノは量子的に不安定になり、この並行世界からはじき出される可能性が高いと言うのだ。

 

「量子的に不安定になる……『ヤマト』がこの並行世界に迷い込む前に近い状態になり、『ヤマト』を構成する要素が自分達に近いモノへと引かれて、元の世界へ戻れる可能性が高い」

「……帰れるのか」

 

 誰かがそう呟くと、それが周囲に伝播して行き――大きな波となって絶望の淵に立っていた乗組員達の感情を揺さぶる。懐疑的な者も確かに居たが、暗闇の中に示された一筋の光に縋る者達の方が大多数を占めていた。

 

「――けど、この方法にはリスクがある」

 

 一つは連邦とナデシコ勢が『ボーグ』に攻撃を仕掛けている渦中に飛び込まなければならない事。

 二つめは『トランスワープ・コンジット』を破壊すれば、その崩壊に巻き込まれる可能性が高い事。

 そして三つめは元の世界に帰れるかは完全に賭けになると言う事。

 

「『ヤマト』を構成する物質が元の世界に引かれる事は確かだけど、辿り着けるかどうかは完全に賭けになる」

 

 語るべき事を語り終えた翡翠は視線を沖田に向け、頷いた沖田は再びマイクを取る。

 

「バラン星に向かっても帰る手段を得られるかは未知数だ――そして、翡翠が示した方法も多大なリスクがある」

 

 どちらを選択するか――『ヤマト』の運命を決めるこの決定を、上層部だけで決めるのではなく全員で選択する事で、『ヤマト』艦内に流れ始めている不協和音を払拭する。

 

「準備が済み次第、どちらを選択するか皆の意見を聞く。『ヤマト』の――いや地球の命運を決める選択だ。皆よく考えて欲しい」

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 翡翠が紅い瞳に変わる事がユリーシャには『IMPERIUM』との関係を疑う最初の要因となりました。彼女の紅い瞳は、一見火星出身の山本玲の持つマーズノイド特有の赤い瞳よりも深く、戦闘態勢を取る翡翠の雰囲気と相まって血の様に深く紅く輝いています。

 今回、翡翠が本性まる出し、ノリノリでユリーシャをいじめて居ました。
 そんな翡翠より示される新しい道。

 次回 第五十四話 謎の視線


 それと翡翠の設定を公開できる所だけですが、懐かしいFateのサヴァント風でお送りします。

サーヴァント・ステータス

【CLASS】翡翠ちゃん
【真名】???・??
【性別】女性
【身長・体重】130cm・??kg
【属性】悪

【ステータス】
筋力E(EX) 耐久E(EX) 敏捷E(EX) 幸運E(根性でC)
( )内は戦闘時。

【固有スキル】
翡翠ちゃんパンチ 短い手を伸ばして殴る――相手は痛い。
翡翠ちゃんキック 短い足を延ばして蹴る――相手は痛い。
翡翠ちゃんバーリトゥード  何でもあり――相手は痛い。
【宝具】
翡翠ちゃん、上目使いをしてみる 悪戯などを咎められた時に行う……成功率5パーセント。

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