宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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 西暦2199年 8月2日 銀河系 ペルセウス腕外縁

 銀河系を形成する四つの大きな渦状腕の一つであるペルセウス腕の大きさは半径1万700パーセク(34882光年)もあり、数多くの恒星や星雲にて構成されている。静寂が支配するペルセウス腕の外縁部に突然眩い光が現れて、その中心部より人工物が現れた――艦首に巨大な砲口を持ち、複数の三連装砲塔で武装した特徴的な航宙艦――宇宙戦艦『ヤマト』である。




第五十四話 謎の視線

 

 宇宙戦艦『ヤマト』 第一艦橋


 

「――ワープ終了。次回は六時間後の予定」

 

 ワープ航法より通常空間に復帰したが休息などまるで考えずに、航海長である島は操舵稈を握ったまま次のワープに向けて準備に入る。航路監視席に座る太田も周囲の天体の観測に余念がない。

 

 並行世界に迷い込んだ自分達が、異物として排除されようとしている。その恐るべき事実が判明した時、『ヤマト』は選択を迫られた――一抹の望みを賭けてバラン星へと向かうか、それとも多大なリスクを承知で『ボーグ』の『トランスワープ・ハブ』へと向かうか。

 

 『ヤマト』の――地球の運命を決めるこの選択を、艦長の沖田は『ヤマト』の乗組員全ての選択を問う事にした。乗組員達が持つ個人用端末から、どちらの方法を選択するかを投票出来るようにしたのだ。

 

 全乗組員の投票の結果、僅差で不確かなバラン星への航路ではなく、危険だが自分達の世界へと帰還できる可能性がある『トランスワープ・ハブ』のある星雲を目指す事が決まったのだ。

 

「後二回のワープで、目的地である『トランスワープ・ハブ』のある星雲に到達する」

 

 艦橋の窓から見える宇宙を見据えて、古代は厳しい表情のまま呟く……デープ・スペース・13で『エンタープライズ』やナデシコ勢と別れる前に判明していた敵『ボーグ集合体』の戦力は、一隻で惑星連邦の艦隊を壊滅させるほどの戦闘能力を有した『ボーグ・キューブ』が三隻も存在していた。

 

「……それでもやるしかない」

「……ああ、帰るんだ」

 

 


 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』 士官室

 

 次のワープの準備の合間を縫って、艦長沖田十三宙将は副長の真田志郎を伴って士官室にて重要な案件に臨んでいた。始まりは岬百合亜に憑依したイスカンダルの重要人物ユリーシャの護衛を担当している保安部の星名透准尉の報告であった。

 

 ユリーシャの意向により彼女だけで翡翠と話したいと言う物で、当然星名は反対して粘り強く説得した結果、近くで監視する事を認めさせてユリーシャと翡翠の対話の場を見守っていたのだが――ユリーシャが何かを言った途端に翡翠の気配が豹変し、戦闘訓練を受けた星名が思わず拳銃を抜いてしまうほどのプレッシャーを放ったというのだ。

 

 沖田は対面に座るユリーシャに視線を向けて事の経緯を問い質す――星名の報告では、ユリーシャは翡翠の正体を知っている可能性が高いというのだ。

 

「ユリーシャ。君の知っている事を我々に教えてくれないだろうか」

 

 頬に掛かる髪の毛を弄りながらユリーシャは視線を逸らす。

 

「これからも翡翠と付き合って行く為にも、我々は彼女の事をもっと知らねばならないと思っている」

 

 真摯な態度で問い掛ける沖田。ひと月にも満たない短い時間ではあるが、『ヤマト』の中で生活を共にしてきた翡翠に仲間意識が芽生えている者も居る……当然、異星人である事を嫌悪する者もいるが、彼女の存在が地球に残した家族を思い出させて好意的な者もいるのだ。髪の毛を弄りながら考え込んでいたユリーシャは、真摯な態度に根負けしたのか小さな声で話し始める。

 

「……私が知っているのは、大昔のおとぎ話」

「おとぎ話?」

 

 興味を引かれた真田が言葉を反芻する。そして髪の毛を弄るのを止めたユリーシャは視線を沖田に向ける。

 

「むかし、むかし、気が遠くなるようななむかし。この宇宙にある噂が流れていた。“それ”は巨大な白銀の船に乗って人の住む惑星にやって来ると、人々に従属か、死かを選択させる――突然そんな事を言われた人達は反発して自由を守る為に抗った」

 

 種族の尊厳を掛けて、持てる力の全てを駆使して艦隊を組んで、白銀の船に戦いを挑んだ――その結果は、圧倒的な力に蹂躙されて、彼らの惑星は焼き尽くされた。だが従属を選択した惑星には占領する訳でもなく、白銀の船は必要とする物を提出するように要求し、要求が満たされると対価として優れた技術を提供したという。

 

「白銀の船は一隻だけでなく、何千、何万、何億という船が、あまたの銀河を従属させていった。けれども多くの種族は自由を守る為に戦いを挑んで逆に滅ぼされた――逆らう者を焼き尽くす、白銀の船に乗った真紅の瞳を持つ悪魔――邪悪なる『IMPERIUM(いにしえの帝国)』、数多の銀河に血と恐怖を巻き散らす」

 

 しかし、ある時を境に邪悪な帝国は進撃を止めて――人々の前から姿を消したという。だが人々は『IMPERIUM』の恐怖を忘れられずに、何時か彼らが帰って来るのを恐れている。

 

「小さい頃に良く言われたわ――悪い事をすると、帝国の亡霊が来て食べちゃうわよ、って」

「……それが翡翠だと?」

 

 沖田や真田の脳裏には、『ボーグ・ドローン』の艦内への侵入を許した際に、瞬く間にドローンを制圧した翡翠の瞳が赤く染まっていたという報告を思い出す……とはいえ瞳の色が赤く変わるからと言って、それをおとぎ話の邪悪な存在と結びつけるのは無理があるように感じる。

 

「……あの時に翡翠の眼を見ておとぎ話を思い出して、真琴に話を聞いて疑念を持った――大いなる種族『アケーリアス』を知るあの子に直接聞きたかった。貴方は『IMPERIUM』の人なの、って」

「……そして予想は見事に当たったという訳か」

 

 深く、深く息を吐きながら沖田は、翡翠という燻っていた問題が表面化した事に天を仰ぎたい気持ちになる……イスカンダルへの道に戻る為に、恐ろしい『ボーグ集合体』の待ち受ける星雲に向けての航海をしている途中でとんでもない問題が噴出したものだ……さて、どうしたものか。

 

 


 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』 医務室

 

 宇宙戦艦『ヤマト』に乗り組む999名の健康を一手に引き受ける医務室を統括するのが医官である佐渡酒造である。内科的処方から外科的処置まで手掛けるオールラウンダーな名医であるが、ただ一つの欠点を上げるならなら無類の酒好きな所であろう。

 

「くわっ~~! 五臓六腑に染み渡る」

「……ねぇ~、佐渡せんせい。一杯だけ、一杯だけね」

「かかか、子どもには、この味はまだ早いの」

「大丈夫! 私のかんぞうは、はいぱ~かんぞうだから」

「……この前の健康診断では、お前さんの身体はワシ達と変わらんという結果が出たがの」

「…………」

 

 佐渡には何度も勤務時間中には飲まないでください、と口を酸っぱくして言ってきた真琴としては、子供に悪影響がありそうな物は処分したいものだが中々機会がなく、目の前で祖父と孫娘のような漫才を繰り返す二人を見ながら、ストレス発散の効果が有るなら仕方ないかと嘆息していると、医務室の扉が開いて艦長の沖田が入室してくる。

 

「――失礼する」

「沖田艦長、何か体調に変化が?」

 

 体調を聞いてくる真琴に苦笑しながら首を振ると、奥で漫才をしている二人に近づいていく。沖田艦長に気付いた佐渡が片眉を上げるが、沖田艦長の歩行状態がしっかりしている事から緊急性はないと判断した。

 

「おお、艦長。どうかされましたかの?」

「いえ、佐渡先生。実は翡翠に用がありましての」

 

 沖田艦長に指名された翡翠は、きょとんとした顔をして自らの顔を指差し小首を傾げる。

 

「――翡翠、アンタ今度は一体何をやらかしたのよ?」

「――真琴ねえちゃん、酷い!」

 

 翡翠の突拍子もない悪戯の被害を受けている真琴がジト目で問い詰めると、頬を膨らませて抗議する翡翠。そんな疑似姉妹のじゃれ合いを微笑ましそうに見ていた沖田艦長は、時間はそれほどかからないと伝えて翡翠と共に医務室を出ていく。その後姿を不安そうにしながら見送る真琴と佐渡であった。

 

 


 

 

 医務室を出た沖田艦長に連れられて向かった先は何やら見覚えのある部屋であった事に苦笑いを浮かべた翡翠は、沖田艦長がこの側舷展望室を選んだのは意味があるのかと考えて……そう言えば少し前に盛大にやらかした事に思い当たり、額に一筋の汗が流れる。

 先にソファーに座るように言われた翡翠は、こりゃやべなぁ~と思いながらも飲み物の入ったカップを受け取りながら沖田艦長に礼を言って口を付ける……爽やかな味わいの中に少しの酸味を感じながら、翡翠は隣に座った沖田艦長の言葉を待った。

 

「翡翠、君のお陰で元の世界に戻れるかもしれないという希望が持てた、ありがとう」

「……どういたしまして」

 

 何を言われるかと構えていた翡翠は、沖田艦長からの感謝の言葉に、そっぽを向きながら短く答える……よく見ると耳の辺りが赤くなっており、感謝される事に慣れていない様で、そっぽを向いているのは恥ずかしさを隠す為なのだろう。

 

「……じゃが、この前の事はやり過ぎじゃのう、ユリーシャがショックを受けていたぞ」

「……ははは」

 

 ユリーシャにノリノリでプレッシャーをかけた事を咎められて、後頭部を掻きながら乾いた笑いを浮かべる翡翠。笑って誤魔化そうとする悪戯娘を呆れたように見ていた沖田艦長だったが、不意に姿勢を正して翡翠を見つめる。

 

「翡翠。君が『ヤマト』に遭遇したのは偶然だという言葉をワシは信用しているが、今も『ヤマト』に居続けているのは何故だ? ワシの勘じゃが、君だけなら帰れるのだろう?」

「……何故、そう思うの?」

「並行世界に迷い込んだのに、君には余裕と言う物が感じられるからかの」

 

 二つの視線が絡み合い、先に視線を逸らしたのはどちらだろうか。

 

「理由はそれだけ?」

「――そうじゃのう、後は時間が有れば君はこの展望室に来て宇宙を見ているそうじゃないか。ワシら地球人には見えない物が見える眼で、君は何を探しているのかの」

 

 頬をポリポリと掻きながら視線を合わさない翡翠に問い掛ける。

 

「――翡翠、君は“何を”見ているんだ?」

 

 ゆっくりと視線を隣に座る翡翠に向けた沖田艦長は、視線に力を込めて問い掛ける。鋭い眼光を受けても平然としていた翡翠だったが、大きなため息を一つ吐くと後頭部をポリポリと掻きはじめる。

 

「……艦長のおじいちゃんには敵わないなぁ」

 

 視線を手に持ったカップに向けながら、翡翠は話し始めた。

 

「ねぇ、艦長のおじいちゃん。必然って信じる?」

「なんじゃね、藪から棒に」

「……亜空間跳躍実験を終了して、通常空間に復帰しようとした時に実験艦の目の前に見知らぬ船が現れた。何とか回避しようとしたんだけど、あまりに至近距離すぎて避けきれずに脱出しようとした私ごと船の推進機関近くに激突してしまった……ねぇ、艦長のおじいちゃん。復帰しようとしたその先に、ワープ中の船が現れるなんて偶然あると思う?」

「……何者かの意思が介入していると思っているのか?」

 

 亜空間内でワープ中の宇宙船と出会うなど、確率的には殆どゼロに等しい。それが起こった事で、翡翠は何か途方もない力を持った存在の関与を疑っているのだと気付いた……だが、そんな存在が実在するのか? 神ならぬ人である沖田艦長には、どれほどの力が有ればそんな事が出来るのか理解出来なかったが、翡翠は確信しているようだ。

 

「……心当たりがあるのかね?」

「……物理法則すら通用しない、亜空間に干渉出来る存在――それは超常の存在『高位生命体』だと思う」

 

 翡翠の説明では、我々の世界である三次元世界から昇華されて、我々には認識できない位階へと昇った存在の総称であるとの事。突然の説明に面食らう沖田艦長だったが、何柱か知っているという翡翠は幼くも整った顔立ちで渋面を浮かべる。

 

「……アイツらは揃いも揃って厄介事しか齎さないし、その意図なんてまっとうな生命体である私達には理解不能な所が多いわ。けど、やらかしてくれた事には、きっちり落とし前を付けさせるつもりだけど、ね」

 

 ……何というか、翡翠と『高位生命体』という存在は、とことん相性が悪いらしい。心底嫌そうにする翡翠の表情が年相応に見えて、苦笑を浮かべる沖田艦長……だが翡翠の話が本当なら、『ヤマト』は『高位生命体』という遭遇した事のない脅威の干渉を受けている事になる……ならばこの並行世界に迷い込んだ事も、その『高位生命体』の仕業という事になるのか――しかし翡翠の話には続きがあった。

 

「……まぁ、それは良いんだけどね。問題は、この並行世界に来てから感じる、この鬱陶しい視線なんだよね」

「……視線?」

「うん、そこら辺から感じる……最初は何処かのロ〇コンかと思ったんだけど、誰か居る訳でもないし、展望室なんかでは外から視線を感じたから、この並行世界そのものから睨まれているのかと思ったんだけど」

「あの“世界は異物を好まない”という話か」

「……この視線は明確な意思をもって見ている」

「……つまり?」

「……この並行世界の何者かに見られていると、私は思う」

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 力の片鱗を垣間見せた翡翠は、宇宙を見据える。
 それは、常に『ヤマト』を見つめる視線に警戒しての事であった。

 

 次回 第五十五話 決着

 様々な要因が収束し、そしていま最後のピースが揃う。
 人の意思は巨大な『ボーグ』の悪意を退ける事が出来るのか?



 では、また近いうちに。
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