宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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 星雲内にワープ明けをした『ヤマト』の前には、敵『ボーグ・キューブ』の中でも恐るべき防御力と攻撃力を持つ『クラス4・戦略キューブ』の巨体が聳え、後方には星雲内のガスに隠れた幾つもの『ボーグ・キューブ』の姿が見えた。
 このままでは包囲殲滅されてしまうかと思われたが、正面にある『クラス4・戦略キューブ』に向けて最大戦速で突入するという艦長である沖田十三の機転により、この危機的状況を切り抜ける事に成功した。

 イスカンダル・テクノロジーにより開発された『波動防壁』の堅牢さと戦闘艦故の強固さにより『クラス4・戦略キューブ』の船体へと突入した『ヤマト』は、『クラス4・戦略キューブ』の船体を盾に複数の『ボーグ・キューブ』による攻撃の危険性を排除したのだ。




第五十六話 絶望の中に見える希望

 

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋


 

「……被害状況は?」

「波動防壁のお陰で船体の損傷は軽微です」

「よし、総員武器を携帯。白兵戦用意!」

 

 艦長席に座って突入の衝撃に耐えた沖田艦長は、他の乗組員には見えない様に胸を押さえながらも指示を出す。突入の衝撃から立ち直った乗組員達が近くにある保管庫から武器を取り出して戦闘の準備を行っている中、通信席に居た相原は外部からの通信が入っている事に気付く。

 

「艦長! 映像通信が入っています。このコードは……『ナデシコC』です」

「……パネルに出せ」

 

 何故『ボーグ・キューブ』内でナデシコのコードを使った通信が入るのか? 疑問に思いながらも沖田艦長は相原通信長に映像を天井のパネルに投影するように指示する。天井のパネルに灯が点って輪郭を形成するとパネルに見覚えのある銀色の髪と藍色に見える髪が映し出された。

 

『もしもーし、聞こえていますか?』

「……聞こえているよ、ホシノ艦長。ミスマル艦長と二人だけかね?」

『沖田艦長! 私はテンカワ・ユリカだって言ったじゃないですか、プンプン』

『……ユリカさん、まだその設定引っぱっていたんですか』

 

 パネルの中で口論をする二人と、最初は見えなかったが二人を呆れたように見ているユリカによく似た顔立ちの少女がいた……未だ口論している二人を見て、このままでは話が進まないと考えた沖田艦長が仲裁がてら何故『ボーグ・キューブ』の中に居るのか聞く。

 

『実は『ボーグ』に拉致られちゃいました、てへ』

 

 二十を超えている筈なのだが時折子供っぽい仕草を見せるユリカ……それが妙に芝居掛かっている事は置いて、彼女の説明を聞いた『ヤマト』の乗組員達は彼女達ナデシコ・クルーの大胆な作戦に開いた口が塞がらなかった。

 

 絶望的に戦力差が有ったからと言って、宇宙基地に係留されていた航宙艦を全て破壊される事が前提で突入させて『ボーグ・キューブ』のセンサーを攪乱するや、本隊である『ナデシコD』を持って肉薄して、遮蔽装置で潜伏した『ナデシコC』のシステム掌握を持って『ボーグ・キューブ』を無力化しようとしていたとは。

 

 しかも、その作戦が失敗した時の次善の策として『ナデシコD』自体にカウンタープログラムを組み込んだナノマシンを用意して、『ボーグ』の『同化』を逆手に取ろうとは……見た目に反して大胆な作戦を立案するものだと感心していた。

 

「……とんでもない作戦を思いついたものだ」

 

 理論家である真田が感心した様な声を上げる。彼女達の説明では、現在『ボーグ・キューブ』は機能不全に陥っているので危険は殆どないと言う。

 

『それで沖田艦長、実は『ヤマト』の医務室を使わせて欲しいんですけど?』

 

 ユリカの突然の申し出に理由を聞くと、探し求めた夫を膝枕している彼女の視線がルリの傍で眠る幼い少女に向けられる。話を聞くと、その少女は『ボーグ』に『同化』されたユリカ達ナデシコ世界からの転移した同胞であり、謎多き存在である『ボーグ・クイーン』に代弁者として仕立て上げられて『ボーグ・キューブ』の艦隊を指揮して『ナデシコC・D』と戦いを繰り広げたのだと言う。

 

「……詳しい話を聞く必要がありそうだな」

 

 困惑した空気が広がる中、真田がポツリとこぼした。

 

 


 

 『ヤマト』士官室

 

 主に上級士官達がミーティングを行う事が多い士官室だが、間接照明の落ち着いた光と鉢植えに植えられた色鮮やかな花々が雰囲気を柔らかい物している事も有り、外部からの人物を迎え入れる時などに重宝している。

 

 そして現在、士官室には『ヤマト』艦長の沖田と豊富な知識を持つ副長の真田と護衛として古代の三人が着席しており、反対側には『ナデシコC・D』の艦長であるミスマル・ユリカ艦長とホシノ・ルリ艦長の両名が揃って着席していた。

 彼女達と共に収容したテンカワ・アキトらしき人物と十代半ばの少女二人の内、意識を失っていたテンカワ・アキトと『ボーグ』に同化されていた少女は医務室にて処置を受ける事となり、もう一人のミスマル・ユリカ艦長の血縁者とおぼしき少女は、士官室へと移動している途中で出会った翡翠に引き摺られるように消えて行ってしまった……さて二人はどうして『ボーグ・キューブ』の艦内にいたのか問おうとする前にユリカ艦長が頭を下げた。

 

「――まずは救助して頂きありがとうございます」

 

 それからユリカ艦長に『キューブ』内で孤立していた経緯を聞いた沖田艦長と真田はぴくりと片眉を動かし、古代は呆れを含んだ苦笑いを浮かべる――拠点に停泊していた数十隻の航宙艦を破壊される事を前提に突入させて、破壊されて巻き散らされた破片とチャフなどと言う古典的な手段で相手のセンサーを妨害しつつ、突入した自らの船を囮に『ボーグ』にウイルスを仕込むなど大胆にも程がある。

 

「……随分と無茶をされたんですね」

「……アキトを取り戻す為です、頑張りました!」

 

 ふん! と豊かな胸を張るユリカ……ここに豊かではない翡翠などが居たら、どうなったであろうか?

 

 


 

 『ヤマト』医療区画

 

 宇宙戦艦『ヤマト』の中に設けられている医務室には、千名近いクルーの体調を管理する為の設備が効率よく配備されており、長期間の航海を想定している故に高度な医療施術すら施せる設備を誇る『ヤマト』の生命線の一つである。

 

 そして今、その医務室には二人の患者がベッドの上で規則正しい寝息を立てている。外せる限りの『ボーグ』製の器具を外して個々のベッドに寝かされている成人男性と年端の行かぬ少女、テンカワ・アキトとラピス・ラズリが寝かされており、その周りにはミスマル・ユリカからの連絡を受けてナデシコから文字通りシャトルで飛んできたイネス・フレサンジュとスバル・リョーコがテンカワ・アキトの眠るベッドの傍におり、その後ろにはウリバタケ・セイヤとハルカ・ミナトがテンカワ・アキトを救出出来た事に安堵したのか、ほっとした表情を浮かべていた。

 

「……やっと、帰って来たのね」

「……いや、分かんねぇぞ。コイツの事だから、日の当たる場所は俺には似合わない、とか言って出て行こうとするかもな」

「……言えてる。昔からアキトはヘタレな癖に変に頑固な所があるからな」

 

 規則正しい寝息を立てるテンカワ・アキトの顔を見ながら感慨深げに呟くハルカ・ミナトに、にやっと笑ったウリバタケ・セイヤが茶々を入れて、スバル・リョーコは昔の彼を思い出して苦笑を浮かべながら同意する。

 

 火星の後継者との戦いに決着がついた後も帰ってこなかったテンカワ・アキトを捕獲する為にネルガルの協力を得て作戦を遂行していたが、突然のアクシデントで未知の並行世界に放り出されて恐るべき敵『ボーグ』と遭遇して撃沈寸前にまで追い込まれ、三年の間に力を蓄えてようやく彼を取り戻したのだ……柔らかな表情を浮かべた彼らの胸中には達成感のような物が広がっていた。

 

 そんな中で眠るテンカワ・アキトの顔を無言で見ていたイネスは、アキトの眠るベッドから離れると備え付けられた机の上で機械に表示されている数値を難しい顔で見つめる『ヤマト』の医官である佐渡の側まで来て、難しい顔のまま表示されているバイタルを見つめる。

 

「……不味いわね」

「……そうじゃのう」

「……Dr佐渡。艦長に連絡を取ってもらえるかしら」

 

 


 宇宙戦艦『ヤマト』 士官室

 

 『ボーグ・キューブ』内で保護したナデシコの艦長ミスマル・ユリカとホシノ・ルリの両名からの事情説明を聞いていた古代と真田は何とも言えない表情を浮かべ、経験豊富な沖田艦長でさえ片眉が動いて驚きを現していた――だが驚いたのは『ボーグ・キューブ』内での騒動だけではなく、彼女ミスマル・ユリカ艦長の発したある発言によるモノが大きい。

 

「――『トランスワープ・ハブ』が破壊された?」

「ええ、ラピスに憑依していた“何か”が言ってましたけど、ピカード艦長率いる『エンタープライズ』が『トランスワープ・ハブ』の破壊に成功したようです」

 

 愕然とした表情を浮かべる古代と真田。並行世界に居続ければ並行世界に適合できずに塵と化してしまう事が判明して、起死回生の手段として『ボーグ』の『トランスワープ・ハブ』を利用して元の世界への帰還を果たす為に危険極まりないこの戦闘宙域へ決死の覚悟でワープしたと言うのに、目的である『トランスワープ・ハブ』が既に破壊されてしまっていた事に表情を曇らせる古代と真田。普段は沈着冷静な沖田艦長ですら眉間にしわを寄せて、知らされた事実の衝撃の重さを物語っていた。

 

 『ヤマト』側が動揺する様を見たユリカが小首を傾げていると、士官室に備え付けられた艦内通話機が鳴り、動揺しながらも努めて平静を保とうとしている古代が立ち上がって壁に備え付けられている艦内通話機を操作すると二、三言葉を交わした後、ユリカに視線を向ける。

 

「……ミスマル艦長。医務室のフレサンジュ氏より、医務室の方に来て欲しいとの事です」

 

 そう告げた瞬間、ユリカと傍に居たルリの顔色が変わる。今、医務室にはやっと取り戻したアキトが眠っているのだ。何か良くない事があったのだろうか? 

 

 


 

 宇宙戦艦『ヤマト』 医務室

 

「……そんな、嘘でしょう? アキトが二度と目覚めないなんて」

「……そうですよ。イネスさん、タチの悪い冗談は止めてください」

 

 イネス・フレサンジュに呼ばれて医務室へとやって来たミスマル・ユリカとホシノ・ルリは、告げられた言葉が理解できずに……否、理解を拒んでイネスの説明を拒否する。だが白衣を纏った女官は表情から感情を消して、淡々とした口調で彼女達へと説明を続ける……まるで説明するのが使命であるかのように。

 

「アキト君の身体に注入されたナノマシンが彼の脳を圧迫している話はしたわね。私が旧『ナデシコD』に乗り込んだのは、出来るだけ早く彼の身柄を確保して、少しでも人間らしい機能を残して最後を迎えてもらう為だったんだけど……」

 

 複数のナノマシンを注入された結果、彼の脳の周辺に歪な補助脳が形成されて、本来存在しない補助脳によって長期間脳が圧迫され続けたばかりか、火星の後継者から救出された後も補助脳は増殖を続け、止めとばかりに打ち込まれた『ボーグ』の『ナノプローグ』によって補助脳の増殖は加速したと説明される。

 

 努めて事務的にテンカワ・アキトの状態を説明しようとしているイネスは、医務室の設備であるデスクの上の情報端末を操作して先ほど精密検査により判明した現在のテンカワ・アキトの脳の3Dグラフィックを呼び出す――そこには3Dで表示された脳に機械の触手が侵食している姿であった。

 

「補助脳の侵食は脳の表面だけでなく、頭頂葉と前頭葉を隔てるローランド溝やシルビウス溝にまで侵食しているわ」

 

「……何とか出来ないんですか?」

 

 白い肌を一層白くしたルリが呟くように問い掛ける……何とか出来るとは本人も思ってはいなかったが、それでも問わずにはいられないのだろう。一抹の望みを賭けたその問い掛けに、無情にもイネスは首を横に振った。

 

「問題はそれだけじゃないのよ。火星の後継者によって大量に注入されたナノマシンによって、アキト君の脳の所々で細胞の壊死が起こっている……人として、どれだけの機能が残っているか……」

「――何だよそれ!? 何でそんなことになってんだよ!」

「私達はアキト君を助ける為に集まったんじゃないの!?」

 

 表情を削ぎ落して淡々と語るイネスと、残酷な事実に言葉を失っているユリカとルリの会話を驚愕の表情で聞いていたスバル・リョーコとハルカ・ミナトが悲痛なモノへと表情を変えて叫ぶが、答えは返ってこない……そんなやり取りを見ていたウリバタケ・セイヤは、後頭部を掻き毟った後に小さく「……そんなにうまい話はねぇか」と呟いた。

 

 淡々とした口調のイネスより語られる衝撃的な言葉に、表情を強張らせるユリカ。愛した男を救う為に、より良い未来を掴む為に、万難を排してやっと取り戻したと言うのに、こんなに近くに手の届く所に居ると言うのに、彼は目を覚まさずに言葉を交わす事すら出来ないなんて……ユリカの内面に激情が荒れ狂い、それに呼応するように彼女の身体の表面にナノマシンの燐光が激しく点滅し始めた。

 

 ミスマル・ユリカの身体を走るナノマシンの燐光を見たルリやミナト達の表情が強張る――以前、テンカワ・アキトの余命が殆どないと知った時、彼女の身体からナノマシンの光が溢れて幾何学模様を形成すると、瞬く間に周辺宙域に広がって船ごと並行世界へと転移させたあの時と同じ輝きに一同に緊張が走る。

 

 そんな緊迫した状況の中で、柳眉を寄せたイネスは無言でユリカに近づいて右手を振り上げると一閃、ぱーんと言う乾いた音が響きく。頬を打たれて呆然とするユリカに向けて厳しい視線を向ける。

 

「艦長――いえ、ミスマル・ユリカ。貴方はアキト君と夫婦になったのでしょう? 彼の妻を名乗るなら、彼を看取るのも貴方の役目の筈よ」

 

 


 

 

 医務室の中で突然行われた修羅場に、運び込まれた二人の患者の処置をしていた衛生士である真琴は職務に集中している風を装って巻き込まれないようにしながら、電子カルテを持って難しい顔をしながら端末に表示されている二人の患者の生体情報――特に成人男性 テンカワ・アキトという名前らしいが、彼のおかれている状態を見ている佐渡の下へと向かう。

 

「先生、指示された薬剤の投与が終わりました」

「おお、ご苦労さん」

 

 真琴の報告に労いの言葉をかけながらも佐渡は端末から目を離さない……それほど彼テンカワ・アキトの容態は予断を許さない状況なのだ。大量のナノマシンを投与されて肥大化した補助脳によって脳を圧迫され続けたばかりか、投与されたナノマシンの一部が異常な動きをして脳に被さる形で増殖した結果、脳の至る所で機能不全を起こし――特に脳幹部分にも障害が起きて、生命維持中枢に深刻な障害が起きてもおかしくない状態であり、正直いつ呼吸が止まっても可笑しくない状況であった。

 

 23世紀にも近い『ヤマト』の所属する地球においても、脳は未だ未知の領域であり、検査技術が向上してもまだまだ解明されていない複雑な領域であった。

 

 医療用のナノマシン技術が向上して病気疾患など内部から治療が可能となったが、今回は異星由来のナノマシンが大量に投与されている事も有って効果のほどは期待できない――しかもテンカワ・アキトは『ボーグ』の『同化』によって『ナノプローグ』を打ち込まれており、それがどのように影響するのか未知数なのだ……そこまで考えた時、真琴は妙な引っ掛かりを覚える。『同化』『ナノプローグ』というワードに胸の前で腕を組んで考えていた真琴は、そのワードを聞いた状況を思い出した。

 

『異物の進入を確認、抗体システム起動します』

 

 そうだ! 翡翠がまだ子供らしかった頃に『ヤマト』の艦内に侵入した『ボーグ』の戦闘員である『ドローン』によって『同化処置』を施された時に、翡翠の口から別人のような声で宣言した後に体内に侵入した『ナノプローブ』瞬く間に駆逐したばかりか、『ヤマト』に迷い込んだ時の影響で無くしていた記憶の復元までやってのけたのだ。

 

 ……まぁその後、本来の記憶を取り戻した翡翠は本性を現した、あるいははっちゃけたと言うか、大人を平気でオモチャにする悪戯娘になってしまったが――だが、忘れてしまいそうになるが翡翠は異星人であり、彼女の身体の中には未知のテクノロジーである『抗体システム』と呼ばれるモノがある。

 

「――佐渡先生」

「……ん?」

「この患者ですけど、翡翠を『ボーグ』の『同化』から守った、あの『抗体システム』とか言うヤツ使えませんかね?」

「……『抗体システム』? ああ、ワシが気を失っとった時に起動したというアレか」

 

 『ボーグ』の襲撃を受けた後に、驚異的な身体能力を発揮した翡翠の同意を得て精密検査を行ったのだが、結果は不自然なまでに彼女の肉体は飛球人類と大差なく、血液検査の結果も不自然なモノは見つからなかった為に、翡翠に協力してもらってサンプルを都合してもらったのだ……結果、二度も痛い思いをしたと半泣き(嘘)になった翡翠にタカられた真琴であった。(涙)

 

「……翡翠から提供されたサンプルを解析してみたんじゃが、まったく理解不能でのう。流石は異星人のテクノロジーと言った所か」

 

 やれやれ、とため息を付きながら後頭部をポリポリと掻く佐渡。

 

「――ちょっと、待って頂戴」

 

 そんな佐渡に待ったを掛けたのは、重苦しい雰囲気の中で厳しい視線をユリカに向けていたイネスであった。あの雰囲気の中でも佐渡と真琴の会話は聞こえていたようで、カツカツとヒールの音を鳴り響かせながら佐渡の下へとやって来る。

 

「Dr・佐渡。翡翠と言うのはナデシコの乗り込んで来たあのハチャメチャな娘よね? あの娘は、貴方達の世界の人間ではないの?」

 

 真剣な表情で佐渡に問い掛けるイネス――並行世界に転移する前から、彼女はテンカワ・アキトを治療する術を模索し続けていた。そしてそれは並行世界に転移した後にも模索を続けていたのだ。強大な敵に遭遇して壊滅的な被害をうけたが、幸運な事に未知の航宙艦が転移して来た事により敵は退けられて、ナデシコに巣くっていた製造元不明な未知のAIとの奇妙なやり取りの後に、この世界において一大勢力である惑星連邦が放棄した巨大宇宙基地へと導かれた。

 

――この望外な幸運にイネスは歓喜した――自分達よりも遥かに進んだ技術で建造されたこのステーションには、自分達よりも優れた医療技術が残されており、テンカワ・アキトの治療に光明が見えるかもしれなかったのだから。

 

 それからイネスは基地内に残るシステムの解析を主導しながら、医療施設の設備の把握とデーターベースにある症例――地球人類だけでなく様々な種族の特性や症例そして有効な治療法などをどん欲に吸収していった……だがそれでも長期間において脳を圧迫され続けて生命活動にすら影響が出ている患者の症例は無く、治療法も皆無であった。

 

 期待と共に医療用データーベースを閲覧したが、全ては徒労に終わって無力感に苛まれたイネスは、せめて彼の苦痛を和らげる方法を模索すると共に、最悪の事態に陥った時には彼を看取る覚悟を決めたのだ――そんな彼女の前に一筋の光明か現れた……あるいはメフィストの戯言か。それでもイネスは、蜘蛛の糸の如きか細いモノを手繰り寄せようと問い掛けたのだ。

 

「――あ~、実はのぉ……」

 

 あの娘は事故により『ヤマト』が保護した異星人の少女で、彼女の体内には緊急時に対処する為の『抗体システム』と呼ばれる異星由来のシステムが存在していると言う……佐渡の話を聞いたイネスは軽い驚きを覚える。ジャスパーの手引きが有ったとはいえ宇宙ステーションの施設内に探知されずに潜入して、誰にも感知されずにユリカの寝室へと潜り込んで彼女の精神の奥に潜んでいた『古代火星文明』の遺跡であるボソン・ジャンプの『演算ユニット』とやり合ったと言うのだ。

 

 やっている事を考えれば、とても十代前半の少女とはとても思えず、『ヤマト』の世界の強化人間か生物兵器の類かと思っていたが、よもやの未知の異星人だったとは、よくも拘束せずに自由にさせていたものだ。

 

 ――だが、ここに来て新たな道筋が見えるかもしれない。ここにきて未知の異星人のテクノロジーが現れたのだ。

 

「……なぁ? ってことは、その翡翠って奴の血の中にはアキトを救う事が出来るかもしれないモノがあるって話か?」

 

 それまで黙って話を聞いていたリョーコが恐る恐ると言った感じで聞いてくる――運命に翻弄され、絶望の淵に立たされていたナデシコ・クルー達に、微かながらも光明が見えてきたのかもしれない。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 『抗体システム』がアキトの治療の選択肢に出なかった理由。『ヤマト』の乗組員が『ボーグ』に同化された時は、申し出た翡翠によって調整されたり、バイオ神経回路の時は開発されたデーターがあったので調整が容易だった事。……今回は先の見えない航海に精神に不調をうったえる乗組員が続出して佐渡先生が多忙だった事と、先生自体が先の見えない状況にストレスを感じている事で判断が遅れた、という所です。

 次回 第五十七話 YAMATO狂騒曲
 『ヤマト』艦内を舞台にした大捕り物。ご期待ください。

 では、また近いうちに。
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