宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第四話 会談

 宇宙戦艦『ヤマト』艦長室


 

 艦長室へと着いた沖田は、帽子を取ると備え付けの机の上に置いて艦長室から見える宇宙空間へと視線を向ける……何故こんな事になってしまったのか? ガミラスの大艦隊を突破して大マゼラン側の亜空間ゲートへと突入する。そこまでは順調だった。だが突入の衝撃に耐えていると、再び大きな衝撃が『ヤマト』を襲った……あの二度目の衝撃は何だったのか? 恐らくそれによって『ヤマト』は目的地ではなく別の――銀河系内に出てしまったのではないか?

 

 思考の海に浸る沖田の目に不明船、惑星連邦所属と言う宇宙船『エンタープライズ』が映る――彼らと通信をしていた時、ピカード艦長の側にいた青白い……ガミラスとは違う青さをもった男性の言っていた事。自分たちが話している言葉を、『以前』極東で話していた言語と言った。

 

 沖田の脳裏に最悪の事態が想定される……『ヤマト』は滅亡の淵にある地球を救う為に航海している。その為に一年で往復三十三万六千光年を航海しなければ地球はタイムリミットを迎えてしまう。これまでの航海でタイムスケジュールに遅れが出ており、今回超空間ゲートを使えば取り戻せる筈であった。が、その結果は銀河系内に逆戻り。何とか航海の遅れを取り戻し、イスカンダルへと行かねばならない――諦める事など出来ない。

 

 決意を新たにした沖田だったが、艦長室に備え付けられた通信機がコールをする。

 それに気付いて通信機を操作すると程なく相手が現れた。

 

「何か」

「榎本です。ただいま艦体のチェックをしていたのですが、奇妙な物が艦体に引っかかっておりまして……」

「奇妙な物?」

 

 


 

 

『ヤマト』中央作戦室

 

 床に設置された大型パネルの両側に分かれて『ヤマト』のメインスタッフが揃っていた。技術長兼副長 真田士郎三佐・戦術長 古代進一尉・航海長 島大介一尉・主計長 平田一一尉・機関長 徳川彦左衛門三佐・砲雷  南部康雄二尉・船務長 森雪一尉・航空隊長 加藤三郎二尉そしてオフザーバーとして船務科士官候補生 岬百合亜准尉――霊感体質である彼女は、ある事件を通して意識不明の状態であったイスカンダルの第一の使者ユリーシャ・イスカンダルに憑依されていて特例として参加を認められている。

 

「……真田さん、艦長遅いですね。何かあったのですか?」

「医務室へ寄ってくるとの事だったが……」

「医務室? 艦長どこか悪いのですか?」

「いや、報告を受けて向かったという話だ」

「……けが人でも出たのですかね」

 

 遅れている沖田艦長について話す古代と真田。中央作戦室には沖田艦長を除いて全員が集まっており、すでに集合時間から十分が過ぎている。そうしている内に沖田艦長が入室してきた。

 

「すまない遅くなった。全員揃っているな」

「はい艦長」

「では始めよう」

 

 沖田艦長の号令で会議が始まる。

 まずは副長兼技術長である真田が、今回の亜空間ゲートから銀河系内に出た事について説明をはじめる。

 

「あの時、バラン星で大マゼラン側の亜空間ゲートに突入したが、何故か銀河系内にでてしまった。あのゲートが大マゼランに通じていなかった可能性だが、それは無いとユリーシャに確認した」

「なるほど、イスカンダルから来た彼女が言うんじゃから、間違いはないじゃろう」

 

 イスカンダルからの使者である彼女なら、実際に通って旅をして来たのだから間違いは無いと徳川は納得する。

 

「次の可能性だが、亜空間ゲートに突入した際に何らかの外的要因が加わった、か」

 

 そこで真田は参加したクルーを見回す。

 

「調査するには時間が足りませんでしたが、ゲートに突入した際に『ヤマト』は大きな衝撃に見舞われましたが少数の人間が衝撃で意識を失わず、しばらくは意識を保っていたようです。ですが、その後に意識を保っていたクルーも再び襲った衝撃で皆意識を失ったようです」

「つまり、『ヤマト』が銀河系に戻ったのはその衝撃の所為って事ですか?」

 

 南部の問いかけに真田が頷こうとするが、島が待ったをかける。

 

「実はあれから大田に再度計算をさせたんだが、ここは銀河系内で間違いはないんだが星の位置がおかしいんだ。観測された星は、今まであった場所からズレているし。何より出て来たはずの銀河系側のゲートが確認できない」

「それは本当かね、航海長」

「事実です」

 

 思考の海に沈む真田。

 

「ならば外的要因の特定と、何故星がズレているのかに関する原因の究明を当分の目標としよう。次はあの『エンタープライズ』とか言う船の事だな」

 

 沖田艦長の言葉を聞いて思考の海に沈んでいた真田が、コホンと一息つくと再び説明を始める。

 

「あの船――『エンタープライズ』についてだが、計測に寄れば全長は約七百メートル。円盤状の艦体に機関部を搭載していると思われる二つめの艦体を連結している。左右から伸びる棒状の物は用途が不明だがエネルギー係数も高く、彼らにとって重要な機関なのだろう」

「何故、円盤部にアルファベットが?」

「……それについては謎だが」

「あの船の艦長と話していて気付いた事がある」

 

 真田と古代の考察に沖田艦長が声をかける。

 

「あの時、ピカード艦長の側にいた者が我々の使用している言葉を『以前、極東で使用していた言語』だと言っていた。つまり、彼らは地球の日本の事を知っている。もしくはその影響を受けているという事だ」

「……案外、彼らは地球人かもしれませんね」

 

 沖田艦長の話を聞いていた相原が小さな声ながらも意見を言う。

 

「どうしてそう思うんだ?」

「いや、さっきの通信の時に艦長が三時間って言っていたでしょ」

「ああ、それが?」

「相手の艦長はその言葉に即座に三時間後にって答えた……それって時間の単位が一緒って事じゃないですかね?」

「翻訳機で訳されたのかもしれないぞ」

「そう言われればそうですけど……」

 

 『エンタープライズ』との通信において『ヤマト』側は翻訳機を使用する必要は無かったが、『エンタープライズ』の方はどうだったかは分からない。

 

「まずは情報だな、出来れば近隣星域の情報が欲しい。もしかしたら銀河系側のゲートについて知っているかもしれん。『エンタープライズ』から来る客から出来るだけ情報を集めよう。では解散」

 

 まずは相手から情報を得る事を第一とする、と方針を示した沖田艦長は中央作戦室に集ったクルーに向け解散を告げる。それぞれ任務に戻ろうとするクルー達――その中で、データーを纏めていた真田に声をかける。

 

「真田くん」

「はい、艦長」

「すまんが、ワシと一緒に医務室へ来てくれんか?」

「わかりました」

 

 沖田艦長からの提案に了承する真田。二人は中央作戦室を出て医務室へと向かった。

 

 


 

 

 『ヤマト』艦内中央通路

 

 『ヤマト』艦首から艦尾までを繋げる通路を歩きながら、沖田艦長は真田に同行を求めた理由を説明する。それによれば艦長室で考えを纏めていた時にある報告が上がって来たと言う。

 

「ある報告?」

「それは医務室に着いてから話そう」

 

 反対側から来た士官の敬礼に返礼しながら沖田は答える。

 つまりは、公開出来ない事が起こったと言う事か……沖田艦長の態度にそう推察した真田はそれ以上の追求をしなかった。

 

 しばらく無言のままの通路を歩いていた二人は、目的地である医務室へと到着する。医務室の前には保安要員が二人、沖田艦長の姿を見て敬礼している。保安要員がいると言う事は警備が必要な事態であると言う事……厄介事の予感に真田が頭痛を感じたような気がした。

 

 沖田艦長に続いて真田も医務室内へと足を踏み入れる。白を基調とした医務室には医士 佐渡酒造と、何故か掌帆長 榎本勇曹長の姿があった。

 

「榎本さん、何故ここに」

 

 真田の問いに榎本は一瞬だけ視線を沖田艦長に向けたが直ぐに視線を戻すと、肩を竦めて話し出す。

 

「いえね、元々は通常空間に出た後に艦体のチェックをしていたんですが。その時に第一格納庫近くの外殻装甲に損傷が認められて、原因を探したんですが……それが予想だにしないもんでしてね」

「……原因はなんだったんですか」

 

 おどけたような口調で話す榎本。もしかして二度目の衝撃の手がかりになる物が見つかったのでは、と真田は期待する。だが、それは榎本の次の言葉を聞いて吹き飛んでしまった。

 

「それが外殻装甲の破損箇所の周囲には、破壊された未知の宇宙船の残骸と、砕けた外殻にめり込んでいた人間だったんですよ」

「……人間?」

「見た事もない宇宙服を着た人間が『ヤマト』の艦体に突き刺さっていた訳でして」

 

 人間が超硬化テクタイトで出来ている『ヤマト』の艦体に突き刺さっていた……真田の頭の中が真っ白になった。普通なら突き刺さるような速度で超硬化テクタイトに激突すれば、人間ならバラバラになる筈だ―事実、乗っていたと思われる宇宙船の残骸が周囲に存在しており、たとえ着ていた宇宙服が激突の衝撃に耐えたとしても中の人間が衝撃には耐えられない筈だから。

 なのに医務室へと搬入したと言う事は、少なくともバラバラにはなっていないという事……バラバラになっていたら搬入先は分析室になっていた事だろう。

 

「それで対処に困ったあげく、艦長に報告した後にココへ連れて来たんですよ」

 

 榎本の視線は奥に引かれているカーテンへと向けられる。つまり件の人間は、カーテンの奥に居ると言う訳だ。真田の視線は医士である佐渡へと向けられる。

 

「佐渡先生。それで問題の人物は……」

「奥のベッドに寝ておるよ」

 

 佐渡の言葉を聞いて沖田艦長と真田は奥へ向かって歩き出すが、そんな真田に佐渡は声をかける。

 

「奥のカーテンを開ける前に深呼吸をする事をおすすめするぞぃ」

 

 訝しむ真田を尻目に、佐渡は“なぁ”と榎本に笑いかけると“ですなぁ”と榎本も笑い返す。そんな不気味な二人に嫌な予感を感じながらも真田は、先に行く沖田艦長に続いて奥のカーテンの前に立つ。すると沖田艦長は真田へと振り返り、

 

「……真田くん。開けるぞ」

 

 頷き返す真田。沖田艦長はカーテンを掴むと静かに開ける。そこにはベッドが一つと、側には生命維持システムの数値を記録する衛生士の原田真琴の姿があった。彼女は沖田艦長に気付くと敬礼する。沖田艦長と共に真田は返礼を返しながら視線をベッドの方に向ける……ベッドの上には件の人物が白いシーツに包まれていた。そこで真田はある事に気付いた。

 

「……生きているのか?」

 

 生命維持システムに繋がれているということは生きているという事――有りない。『ヤマト』の艦体は超硬化テクタイトで出来ている。その艦体装甲を破壊する程のスピードで激突したのなら、人間などひとたまりもないはずだ。思わず凝視した真田はシーツの膨らみが小さい事に気付く。

 

「……子供?」

「そう地球人類で言う所の十才前後に相当するとの事だ」

 

 視線を向ければ困惑気味な表情をした沖田艦長。

 

「驚いたじゃろう? ワシも驚いた」

「しかも驚いた事に女の子なんですよ、その子。それも結構可愛いんですよね、とても『ヤマト』の艦体を砕いたなんで思えない位にはね」

 

 佐渡と榎本が後から入ってくる。四人の男がベッドに眠る幼い少女を見下ろしているが、その表情には困惑が見て取れた。

 

「意識はまだ戻らないのですか?」

「外傷もないし、ただ寝ているだけじゃから時期に意識は戻るじゃろう」

「外傷がないっていうのも恐ろしい話ですがね」

 

 真田の問い掛けに気楽な口調で答える佐渡。外傷もなく無傷な事に苦笑いを浮かべる榎本。

 

「ワシは今回『ヤマト』に起こった現象について、何らかの事をこの子が知っているのではないか、と思っている。佐渡先生、この子の意識が目覚めたら連絡をくれんかの」

「分かりましたですじゃ」

 

 了承の意を示す佐渡に頷くと沖田艦長は真田に視線を向ける。

 

「さて、真田くん。もてなしの準備をしようじゃないか」

 

 『エンタープライズ』から来訪者が来る時間も迫っている。彼らとの会談を有意義な物にするためにも色々と準備が必要なのである。

 


 

 沖田艦長と真田それに榎本が任務に戻るべく退室してしばらくたった医務室では、佐渡は机に備え付けられたモニターを見ながらカルテの整理を行い、衛生士の原田はベッドで眠る少女を見守っていた。

 

「……見た目は可愛い女の子、なんだけどね」

 

 安らかな表情で眠っている少女を見ながら原田は小さくため息を付く。まだ小さな子供のように見えるが油断は出来ない。簡単な検査では地球人と何ら変わりはなく、華奢な何処にでも居る普通の少女のように見える――だがこの少女は突然『ヤマト』に現れた。しかも『ヤマト』の艦体に突き刺さっていたと言う。それだけを聞くと悪い冗談にしか聞こえない。

 

「……噛み付かないわよね」

 

 起きたらどんな反応をするのか? 少し怖くなった原田であった。

 そんな事を考えていた原田であったが、ふとカーテンの向こう側が騒がしい事に気付いた。佐渡先生何を騒いでいるのだろう? 酒でも飲みすぎたか、などと思ったが。どうやら声が違うようだ。

 

「ここにいるのね」

「待ってくださいユリーシャ!」

 

 どうやら声の主はルームメイトだった岬百合亜の身体を乗っ取っているイスカンダル人のユリーシャと、その護衛を務める保安要員の星名透の二人のようだった。そうしている内にカーテンが開けられ、件の二人が立っていた……思った通り、星名ではユリーシャは止められなかったようだ……しかし、どこで耳にしたのやら。

 

 騒々しく病室へと入ってきたこの不埒者どもに、原田は衛生士として一言、

 

「病室では静かにしてください」

「……はてな?」

「ほらユリーシャ、怒られたじゃないですか! 用も無いのに医務室に来ちゃ邪魔になりますから早く出ましょう」

「……用ならあるもん」

 

 何をいちゃついているんだこの二人は、思わずジト目なる原田。

 すると何を思ったかユリーシャがこちらに近づいてくる……どうやら目的はベッドで眠るこの異星人の少女のようだ。ベッドの側まで来るとユリーシャは少女の顔を覗き込む……すると騒動の音で目が覚めたのか、少女の目がゆっくりと開けられた。最初は眠そうに眼を細めていたが、自分が見覚えのない場所で寝ている事に気付いた少女は翠眼を大きく見開くと、上から覗き込むユリーシャと目が合う……しばらく少女とユリーシャは見つめ合っていたが、少女は無邪気な表情で問いかけた。

 

「……おばちゃんだれ?」

 

 瞬間、空気が固まり――ユリーシャは少女の顔を両手でがしっと掴む。

 

「をを!?」

「……おねえちゃん」

「えっ?」

「お・ね・え・ち・ゃ・ん」

 

 笑顔で諭すユリーシャであったが、その目は笑っていなかった。ユリーシャの鬼気迫る迫力に恐れをなしたのか、少女は固定された顔を引きつらせながらも精一杯の愛想笑いを浮かべる。

 

「わ、わかった。おねえちゃん」

「よし」

 

 満足したのかあっさりと手を離したユリーシャは、にこにこと笑いながら再び少女の顔を覗き込む。

 

「あなたは、どなた?」

「私? 私は……」

 

 ユリーシャの問い掛けに答えようとした少女だったが、何かに気が付いたように言葉尻が萎んでいく。少女の目が泳ぎ出し、あれっあれっと小さな声でつぶやきながら額に一筋の汗が流れ落ちる。そんな少女の困惑した様子を、下ろした髪の毛の一房をいじりながら暫くは黙って見ていたユリーシャだったが、混乱を続ける少女の姿に焦れてきたのか顔を近付ける。

 

「どうしたの?」

「……私はどなた?」

「……はてな?」

 

 苦し紛れにボケをかます少女にズレた反応を返すユリーシャ。

 にゃはは、と笑いながら後頭部をぽりぽりと掻いて誤魔化そうとする少女に原田と星名は冷たい視線を向けていた。その何とも言えない寸劇を聞いていた佐渡は、机から立ち上がるとベッドへ歩み寄る。

 

「まぁ、一時的な混乱じゃろう。ほっといたら元に戻るじゃろうて」

 

 なはは、笑う佐渡。そんな佐渡の何時も通りの姿に脱力する原田と星名。ユリーシャは髪の毛をいじり、少女はジト目を佐渡に向けていた……多分、豪快すぎる佐渡の性格に不安を感じているのだろう。

 しばらく笑っていた佐渡だが、気を取り直すと件の少女に視線を向ける。

 

「さて時間をかければ戻るじゃろうが、それまで名無しというのも不便じゃのう」

 

 ふむ、と考え込む佐渡。するとユリーシャがポンと手を打つ。

 

「それじゃ小さいから、チビちゃんで」

「……おねえちゃん、センスなさすぎ」

 

 ユリーシャの提案を即座に拒否する少女。はてな、と言いながら考え込むユリーシャ。ならば花子はどうじゃ、先生古すぎます、それじゃ髪の毛の色に合わせてクリちゃんで、などとユリーシャと佐渡そして原田の三人がワイワイと己の意見を主張する。

 ……このままではどんな名前になるのか、と不安になったのか少女の表情が引きつっていき、だんだん曇ってくる。そんな少女を見かねたのか、星名が少女を見ながら提案する。

 

「翡翠なんてどうでしょう?」

「ヒスイ?」

「ええ、その子の瞳って綺麗な緑色をしているじゃないですか。だから翡翠」

「翡翠ちゃんか、良いのう」

 

 地球では様々な民族がジェダイト――翡翠を、その神秘的な輝きに魅せられて護符などとして身に付けていた。それは日本も例に漏れず、古くから加工して勾玉として使用してきた。

 そんな日本人の子孫である三人は、少女の名前を翡翠とする事で納得し……ただ一人「チビちゃんの方が可愛いのに」と、ユリーシャがイジけた表情していた。

 

 


 

 

 『ヤマト』第一艦橋

 

 出迎え要員として席を外している古代に変わり、戦術長席に座っている南部は双眼鏡を片手に前方に位置している『エンタープライズ』を監視していたが、定刻になると『エンタープライズ』に変化があった。

 

「『エンタープライズ』より離艦する物体あり、こちらに向かってくる」

「出迎えのコスモ・ゼロ、シャトルに接近。第三格納庫へと誘導を開始」

 

 事前通達の通り、使者を乗せたシャトルが『エンタープライズ』より発艦して此方に向かって来た。通信によればあのシャトルには『エンタープライズ』の副長と科学士官そして護衛の士官と操縦を担当する士官の計四人が乗っていると言う。

 出迎え兼監視のコスモ・ゼロがシャトルと並行して飛び、シャトルを『ヤマト』の艦体下部にある第三格納庫へと誘導する。誘導に従いシャトルは『ヤマト』の艦体下部へと向かい、第三格納庫のハッチが開いて受け入れ態勢に入る。

 

 格納庫からアームが伸びてシャトルの艦体を固定すると、アームが縮んでシャトルを格納庫内に収容してハッチが閉じる。格納庫内に空気が満たされると通路よりタラップが伸びてシャトルの出入り口に接続した。接続してからしばらく経った後、シャトルの出入り口が開いて中から三人の士官が出てくる。

 

 『エンタープライズ』の制服だろうか、全身を覆うグレーの服に胸の所にバッチを付けた姿の士官達がタラップを歩いて通路へとやって来る。先頭に立った黒髪に口ひげを蓄えた男性が出迎え要員として待っていた古代と二人の保安要員の敬礼に返礼する。

 

「私はUSS『エンタープライズ』の副長ウィリアム・T・ライカー中佐。此方はブリッジ士官のデーター少佐と保安要員のウォーフ少佐。会談の使者として来ました」

 

 自己紹介するライカー中佐の紹介に視線を向けた古代と保安要員は、黒髪に青白い顔と金色の目を持つデーターから黒髪に口ひげに鋭い視線を持った男性に視線を向けて――その額にある突起物に小さな驚きを浮かべていると、それを敏感に察したウィーフ。

 

「……私はクリンゴン人だ」

「失礼しました」

 

 礼に反した事に気付いた古代達は、ウォーフに非礼を詫びる。

 

「私は宇宙戦艦『ヤマト』の戦術長 古代進。ようこそ『ヤマト』へ、ライカー中佐。会談場所までご案内しますので此方へ」

 

『 エンタープライズ』より来た三名の士官は、古代に先導されながら『ヤマト』艦内へと向かっていく。その後ろに二人の保安要員が着いて行く。

 

 格納庫から艦内通路に入った一行は、通路を歩きながら『ヤマト』中央部にあるエレベーターへと向かって行く。先導する古代のすぐ後ろ付いていたライカーは古代に話し掛ける。

 

「君は随分若いようだが、幾つになる?」

「自分は今年で20になります。あなたは?」

「私は四十になるよ」

 

 通達でもされているのか艦内通路には人影もなく、古代を始め保安要員達の若さに気付いたライカーは古代の返答を聞いて少し考え込む。そうしている内に中央エレベーターホール到着すると、一行は主幹エレベーターに乗り込んだ。上昇していくエレベーター内でもライカーは古代に質問を続けた。

 

「君はこの船に乗って何年になるんだい?」

「……まだ一年立っていないですね」

「そうか、君の他にも若いクルーが?」

「そこは軍機になりますので」

 

 気さくに話しかけてくるライカーに戸惑う古代。そうしている内に指定階層に到着し、通路に降りた一行はしばらく歩いた後に会談場所である士官室へと到着し、古代が扉の前に立つとドアが開く。

 

「『エンタープライズ』からの使者をお連れしました」

 

 そう言って古代は室内に入りライカー達三人もそれに続く、室内には副長である真田と技術科員の桐生美影准尉が座っていた。彼女は言語学を専門分野にしており、今回の会談でオフザーバーとして同席していた。

 『エンタープライズ』から来た三人が入室して来たのを見て、真田は立ち上がり歓迎の言葉を告げる。

 

「ようこそ『ヤマト』へ、私は当艦の副長 真田志郎。此方は部下の桐生、彼女は言語学に精通しており会談に同席してもらいます」

 

 『エンタープライズ』から来た士官に席に座るよう促した後に真田は席に着き、その隣に座る古代。向かい合わせ構図となり、『エンタープライズ』の士官が改めて自己紹介をした後に会談が始まる。

 

 まず真田が『ヤマト』に起こった原因不明の現象により当宙域に飛ばされた事を説明して『ヤマト』側に領域侵犯の意思はなかった事を伝え、『エンタープライズ』側もそれは了承した。

 

 次に議題に上がったのはお互いの所属に付いてだった。

 

「我々が属する惑星連邦は約150の惑星もしくは星間国家で形成されています」

 

 ライカーの説明では、ワープ航法を発明した地球は異星人との友好的なファーストコンタクトを経て惑星連邦を設立したと言う。それは『ヤマト』側にとっては俄かには信じがたく、夢物語のようであった。

 

「我々は、現在ガミラス帝国との戦争状態にあります」

 

 真田は説明をする。地球は国連の下に一つに纏まり太陽系を開発していたが、突如として現れた異星人『ガミラス帝国』との悪夢のファーストコンタクトを経て地球連邦は戦争状態に突入して宇宙艦隊は壊滅状態に有り、本土である地球もガミラスによる遊星爆弾による無差別攻撃により滅亡の危機にあると。

 

 真田の説明を聞いた『エンタープライズ』の士官の中で、特にライカーは強い衝撃を受けていた。彼ら惑星連邦にある地球も以前に異星人からの攻撃を受けており、アカデミーで攻撃の映像を見て衝撃を受けていた事を思い出す。

 だが彼ら地球は無差別攻撃により海は干上がり、大地は放射能に汚染されて赤い荒廃した惑星となっていると言う。もしも自分の故郷である地球のアラスカに遊星爆弾が落ちたと想定したらどれほどの被害になるか想像もしたくない。

 

 真田の話に衝撃を受けながらもライカーの冷静な部分は疑問を持つ……彼が言うような話はライカーの地球では起きておらず、地球に侵攻してきた異星人達は皆撃退した。なのに彼らの態度はそれが事実であると物語っている。淡々と話す真田に、机の下で拳を握り締める古代。そして桐生という娘は視線を下へと落としている。これはテレパシー能力を持つカウンセラーのディアナ・トロイを連れてくるべきだったか。彼らの話を聞くと、これではまるで地球が二つあるようではないかと思う。

 

「……おかしいですね。地球にそんな被害はないですし、ガミラス帝国という星間国家の存在も確認されていません」

「……我々が嘘を言っているというんですか?」

 

 自分の中にある情報との差異に今まで黙っていたデーターが否定の言葉を投げかけると、瞳に危険な色を浮かべた古代が静かな声で問い掛けてくる。まずい、と感じたライカーはデーターへ黙るように言う前に真田が古代を制止する。

 

「古代」

 

 真田の言葉に自制する古代。その姿を見て良く訓練されていると感心するライカー。

 するとデーターが今度は奇妙な事を言い出した。

 

「副長、どうやら彼らは平行世界の存在のようです」

「何を言っているデーター?」

 

 また突拍子もない事を言い出すデーターに困惑するライカー。

 自らを並行世界の住人であると言われた古代も戸惑いを隠せない。

 

「これまでの探査によればこの『ヤマト』の外殻は未知の物質が使われており、彼らの身体を構成する物質にもそれは含まれています。そして今の真田副長の話で確信しました。彼らは平行世界の存在です」

「……平行世界」

 

 データーの説明に『ヤマト』側のクルーも戸惑っているようだ。

 だが、ライカー達は彼らよりは戸惑いが少ない……何故ならば。

 

「並行世界の存在は初代『エンタープライズ』の日誌にも記載されています。それによれば我々の宇宙とまったく同じものでありながら、その性質のみが正反対であると言う――」

「……知っている。悪名高い鏡像世界だろ」

 

 初代『エンタープライズ』が五年間の調査航海の中で出会った初の平行世界との接触であり、強大な力を持った地球帝国が近隣の星々を次々と併合していた恐ろしい世界であった。

 

「ではこの宇宙は我々の宇宙ではない、と」

「その可能性が高いでしょう」

「俄かには信じられないな」

 

 深刻な表情を浮かべた真田に淡々と返すデーター。古代はまだ信じられないのか半信半疑と言う表情で呟く……むしろ信じたくなかったのだろう。もし平行世界に来ていたとしたら、『ヤマト』に取って重大な問題となる。

 

「……ライカー副長」

「何でしょう」

「我々は何としても自分たちの宇宙に戻らなければなりません。先ほどデーター少佐が言われた並行世界に関する資料と、この付近の星域に関する資料を提供してはいただけないでしょうか?」

 

 真田の申し出に熟考するライカー。惑星連邦の財産である調査資料を別の勢力である『ヤマト』に提供するなどライカーの一存では判断出来ない。

 

「真田副長。この件は私の一存では判断出来ません。一度『エンタープライズ』に戻り、ピカード艦長に判断を仰いでみます」

「お願いします」

 

 そうして会談は思わぬ方向へと流れて終了した。ライカー達三人は席を立ち、シャトルへと向かって歩き出す。それを見た古代は立ち上がるとライカー達を先導して士官室から退出する。

 ライカー達と共に歩き出す古代。彼らの後ろに保安部員が付き、一行は主幹エレベーターに乗って『ヤマト』下部階層へと向かう。エレベーター内では重苦しい雰囲気が流れていた。データー少佐の推察は、古代の中で消化しきれないのだろう。そんな心情が独り言として溢れる。

 

「……『ヤマト』は人類の期待を一身に背負って地球を飛び立ちました。みんな『ヤマト』の帰りを待っているんです」

 

 重い言葉だとライカーは思う。そうしている内に目的の階層に着いたライカー達は、通路を通って第三格納庫へと到着する。タラップを通ってライカー達はシャトルへと向かい、出入り口の前で振り返ると通路側で敬礼している古代へと視線を向けた。

 

「私も出来る限りの事はしてみる」

 

 古代に返礼しながらライカーはシャトルの船内へと姿を消す。それを見送った古代は通路から格納庫の制御室へと入り、シャトルの発艦準備に入る制御室内からシャトルを見下ろす。格納庫のシャッターが開いて接続アームが展開し、シャトルは宇宙空間へと出る。

接続が解かれ、シャトルは『エンタープライズ』へと帰投していく。シャトルを見送った後、古代は第一艦橋へ向かおうとすると制御室に通信が入った。

 

『古代。そのまま中央作戦室へと向かってくれ』

「……了解」

 

 通信の主である真田より中央作戦室へと直行するよう指示が出る。今後について協議するのだろうと推察した古代は、急ぎ作戦室へと向かうべく制御室より退出した。




どうも、しがない小説書きのSOULです。
今回、第四話をお送りします。
エンタープライズ側より並行世界に迷い込んだ可能性について指摘され、それを受けたヤマトは事の真偽を確かめようとします――さて、どうなるか?

では、また近いうちに。
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