宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
宇宙戦艦『ヤマト』 艦内通路
突然ナデシコから来たリョーコと呼ばれる女性士官とその仲間たちに追い掛けられて、その小さな身体を生かして艦内中を逃げ回った翡翠であったが、警戒態勢中であり様々な部署に詰めていた乗組員達の気配が一人また一人と消えて行き……そして、翡翠を追いかけている筈の『ナデシコ』の女性士官達も一人また一人と気配を消していき――今『ヤマト』の中には乗組員達の姿は誰も居なかった。
「……ありゃりゃ、とうとう誰も居なくなっちゃた」
「……なるほど、これが“ボッチ”という奴か」
「……ぶっ飛ばすぞ」
艦内通路でただ一人佇んでいた翡翠が、後頭部をポリポリ掻きながら呟いていると、艦内通路の先より白髪の少女―ソフィアの姿を見つけて近付いて来るのを待っていると、至近距離までやって来たソフィアの一言に思わず眼を三角にするが、当のソフィアは以前言われた事への意表返しをしただけなので涼しい顔をしている。
「それよりも、これがお前の言っていた」
「……そうね、恐らく『評論家』の仕業でしょうね」
誰も居ない通路を見ながら問い掛けて来るソフィアに、薄笑いを浮かべながら答える翡翠……この並行世界にやって来てから暫くして感じていた謎の視線。それは特定の人物というよりも『ヤマト』全体を見ているように感じた……『ヤマト』が何処へ向かい、何をするのか、その一挙手一投足を観察するかのように見ている謎の存在。
翡翠は“それ”を『評論家』と例えたのだ。
ん~、と唸りながら大きく伸びをした翡翠は、コキコキと首を振って身体を解してソフィアの方へ顔を向ける――その瞳は紅く輝いていた。
「さて、モラトリアムも終りね。準備は出来ている『エテルナ』?」
『もちろんですとも、翡翠』
何時の間にか翡翠の隣には光り輝くオーブが存在しており、そのオーブを見たソフィアの眼が細まる……それは、旧『ナデシコD』時代に攻撃を仕掛ける『ボーグ・キューブ』を圧倒的な力で捻じ伏せた、あの巨大戦艦が送り込んで来た発光体だった。
「……なるほど“繋がっていた”訳か」
「まぁね――さて、細工は流々――」
『あとは仕上げを御覧じろ、と』
『ヤマト』において“普通”を楽しんでいた少女は、己が半身と共に超常の存在へと戦いを挑もうとしていた。
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元の世界へと帰る手立てを求めて、『ボーグ・キューブ』艦隊と激戦を繰り広げているであろう星雲へと突入した宇宙戦艦『ヤマト』は、進路に立ち塞がった巨大な『クラス4・戦略キューブ』に向けて突撃を敢行した――その内部へと深く突入した『ヤマト』は、その中で予期せぬ出会いもあったが敵の腹の中に居る最悪に近い状況に警戒態勢を引いていた筈なのに、気が付けば巨大なホールのような場所に乗組員達は立っていた。
ありえない状況に混乱する乗組員達を囲む見た事もない服装をしたヒューマノイド・タイプの屈強な男たちが包囲し、それに反応した一部の乗組員は携帯武器を構えて対抗しようとするが、持っていた筈の武器が消失した事に気付いて驚き狼狽する彼らを鎮めたのは、艦長である沖田と機関長である徳川や医官の佐渡など経験豊富な年長の士官達であった。
不穏な空気が流れる中、周囲を見渡して状況の把握に努める沖田艦長達だったが、彼らを呼ぶ声がしたので視線を向けると『ナデシコ』のミスマル艦長とホシノ艦長そして副長であるアオイ・ジュンの三名が駆け寄って来た。
彼らの話では、突然光に包まれると次の瞬間にはこの巨大なホールへと転移しており、しかも周囲には他のナデシコの分離艦に乗り込んでいた筈のクルー達も同様に転移していたと言う。それらを纏めていると周囲に見た事もない武装をした男達が現れて武器を向けて威嚇して来た所に、『ヤマト』のクルー達が転移してきたと言う。
警戒態勢にあった『ヤマト』から乗組員を転移させたばかりか、他の『ボーグ・キューブ』に拘束されていたナデシコの分離艦からもクルーを転移させるなど、人の術とは思えない――そう考えた時、沖田艦長の脳裏に翡翠との話しを思い出す。
『……まぁ、それは良いんだけどね。問題は、この並行世界に来てから感じる、この鬱陶しい視線なんだよね』
『……視線?』
『うん、そこら辺から感じる……最初は何処かのロ〇コンかと思ったんだけど、誰か居る訳でもないし、展望室なんかでは外から視線を感じたから、この並行世界そのものから睨まれているのかと思ったんだけど』
『あの“世界は異物を好まない”という話か』
『……この視線は明確な意思をもって見ている』
『……つまり?』
『……この並行世界の何者かに見られていると、私は思う』
つまり、この並行世界に来てから観察を行っていた超常の存在が直接干渉を開始したという事か。我々を遥かに超える“超技術”か、おとぎ話にあるような“魔法”のような力を操る事が出来る“何者”かならば、『ボーグ・キューブ』の中から我々や『ナデシコ』の人員を連れ出すなど造作もない事なのだろう……何時の間にか自分達のいるホールの両側には無数の群衆が居て様々なヤジを叫び、大声で嘲笑を投げかけていた。
まるで見世物にでもなったようで気分が悪いが、恐らくは翡翠が警戒していた“何者”かが糸を引いているのは明白であり、並行世界に転移してからずっと監視しているような存在が大人しく黒子に徹しているとは到底考えにくい――沖田艦長の考えを肯定するかのように、いつのまにか現れていた分厚い本と携帯式の鐘を持った二人組の男達が、大きな声で周囲の群衆に静粛にするように伝えながら携帯式の鐘を鳴り響かせると、騒いでいた群衆が何かに恐れているかの様に急に静かになる。
「全員起立して『裁判長』に敬意を払え」
男の一人がそう言うと、周囲の群衆が一人また一人と立ち上がる。そして“何故か”気が付かなかったが目の前に大きな空洞があり、暗闇の中から何か重たい物が動いている音が聞こえてきて、姿が見えないのに重苦しい音だけが聞こえて来るという状況が聞いている者達の不安を掻き立てる。
重苦しい音を立てながら巨大な何かの姿が徐々に見えて来る。全体的に黒く塗られた巨大な台車がゆっくりとしたスピードで近付いて来ている。それを見た年長者達は、古代の催事に使用される『山車』を思い浮かべ、その頂上部分には装飾を施された椅子が置かれており、その椅子には大柄な一人のヒューマノイド・タイプの男が据わっていた。頭頂部まで黒い布に覆われて赤いローブと金の装飾を纏ったその男は片手を上げると、それを見た群衆が首を垂れる……自らへの権威付けのつもりなのだろうか。
「――慈悲深き裁きを受ける囚人たちよ、犯した『罪』の責任をとるのだ」
本を片手に男が宣言し、携帯式の鐘を持った男が鐘を鳴らす。
「――『罪』だって!? 俺達が一体何をしたって言うんだよ!」
男の宣言が気に障った男性クルーが声を上げるが、男は意に返さずに彼の言う『罪状』を読み上げる――曰く、別の世界から、この世界へと侵入して世界のバランスに悪影響を与えたこと。
「この世界に悪影響を与えたって、私達はそんな事はしていません!」
「そうです。この世界に転移した直後に私達は『ボーグ』によって壊滅的な損害を被って、放棄された宇宙基地に身を寄せて戦力の立て直しをしている間に、周辺の異星人の人達と多少の交流というか商取引はしましたが規模としては小規模なモノですし、世界なんて大きなモノに影響を与えてないと思いますけど」
「俺達は突然見知らぬ宙域に放り出されて、生きる為に必死でやって来たんだ。それをアンタ達は『罪』だというのかよ」
「お前たちの『罪』は歴史に埋もれた『遺物』を蘇らせたことだ」
黒と赤の服装を着た裁判官を名乗る男が朗々とした声で謳う――感情を暴走させたミスマル・ユリカの望みを叶えようとした『演算ユニット』は、時空間移動でしかない『ボソン・ジャンプ』では望みを叶える事が出来ないと判断して禁断の方法を試行する。並行世界に存在する別の『演算ユニット』と共鳴する事により、本来あり得ない並行世界への道を開いたのだ、と。
「それを察知した複数の種族は、未知のテクノロジーである『ボソン・ジャンプ』技術を手に入れるべく既に無数の探査艦を放っている――争奪戦の始まりだ」
一体何人死ぬかな? と裁判官は冷めた視線を向けながらユリカとルリにニヤリと笑う。その笑みは、自分たちの知らない技術を恐れながらも他の種族より先に制しようという生命体としての性を、愛する者を救う為に『ボゾン・ジャンプ』を始めオーバー・テクノロジーの真の恐ろしさを知らぬまま使うユリカ達ナデシコ・クルーに向けた嘲笑であった。
「……『演算ユニット』を含め『古代火星遺跡』を発見して研究したのは私達よりも前の世代から行われたもの。この並行世界に転移したのも私達が意図したモノではないから、仮に争奪戦が起こったとしても、それは私達の『罪』ではないわ」
「……自分達の所為ではないと?」
冷たい視線に凍り付いたように動けなくなったユリカを庇うように前に出たイネスは冷静に反論する。否と答えたイネスを、裁判長は尊大な姿勢のまま見下しながら口角を上げる。緊迫した雰囲気の中、第三者が声を上げる。
「……我々は糾弾される為に此処に呼ばれたのかね? 我々は地球を救う為にこれまで航海をしてきた。ミスマル艦長達は仲間を取り戻す為に過酷な運命に抗った。貴方はそれを『罪』だというのか」
貴方のやっている事は『裁判』ではなく『糾弾』であり、貴方が裁判官を名乗るならば、我々の意見を主張する場と、弁護人くらい付けて欲しいものだが、と皮肉たっぷりに主張する沖田艦長。
皮肉を食らおうが意に介さず、裁判官は「ふむっ」と顎に手をやり思案していたが、にやりと口角を上げると芝居がかった動作で片手を動かす。
「貴様の言う事も一理有るな。良かろう、とびっきりの弁護人をつけてやろう、お前達の事を良く知る男を」
そう言うと動かした手の先に強烈な光が現れ、その光が収まるとそこには一人の男性が佇んでいた。強い意志を感じさせる眼差しに、様々な人生経験によって刻まれたシワが歴戦の士官である事を伺わせる惑星連邦の艦隊士官の制服を着た男は、最初は戸惑った様子を見せるが自分の置かれた状況を理解すると、険しい表情を浮かべる。
その視線の先には装飾を施された椅子に座りながら不遜な笑みを浮かべた男がいた……見知った顔を見て、これほど嬉しくない思いをしたのはいつ以来だろうか。
「――よく来たなピカード」
「今度は何のつもりだ――『Q』!」
『Q』――突然現れた『エンタープライズE』のピカード艦長が叫んだその言葉に、ナデシコ・クルーの中心メンバー特に宇宙基地のデーター・ベースを精査していたホシノ・ルリとイネス・フレサンジュの表情が強張る。『Q』の名は、宇宙基地を建設した惑星連邦のデーター・ベースに記載されていた――『Q』、全知全能に近い力を持ち、あらゆる事象と知識に精通し、指を鳴らすだけで全ての物を作り出し、宇宙のあらゆる場所に瞬時に移動し、永遠の命を持つ高次元生命体。
惑星連邦において『Q』とは特定の人物の事を指す――神出鬼没で傲慢でワガママで独善的であり、周囲をかき回すトラブルメーカーな存在であり――何より、惑星連邦と『ボーグ集合体』の接触を速めた“元凶”である。
記録によれば、E型艦の前身であるギャラクシー級航宙艦『エンタープライズD』に現れた『Q』は、クルー達が深宇宙の脅威に立ち向かう気概があるかを判断する為に『エンタープライズD』を銀河系の反対側七千光年先へと送り込み、初めて接触した巨大な『ボーグ・キューブ』によって『エンタープライズD』は全滅寸前にまで追い込まれたのだ。
「……あの人が『Q』」
「……資料によれば、とんでもない性格をした御仁らしいぞ」
呟くユリカの傍で難しい顔をしたアオイ・ジュンがデーター・ベースに記載された記録を思い出しながら警戒する。資料によりある程度の事を知るナデシコ・クルー達は警戒し、『Q』の存在を知らない『ヤマト』のクルー達は、次々に起こる自分達の常識を超えた事態に警戒よりも戸惑いの感情が先立つ。
そんな二つの陣営を尻目に、尊大を通り越して傲慢とも言える態度の『Q』へ厳しい表情のピカード艦長が火花を散らす。
「――何故、彼らを拉致した?」
「この世界に無用な争いの種を撒き、宇宙を危険に晒したからだ」
「危険に? 君の方がよっぽど危険だと思うが」
皮肉るピカード。だが、そんな皮肉など効く筈もなく『Q』は視線を『ヤマト』のクルーに向けた。
「ピカード、君も気付いているのではないか? そう、罪深き『ヤマト』――かの船の存在が、この宇宙を滅ぼすのだ」
……やはりそう来たか。『ヤマト』のクルー達へ冷たい視線を向ける『Q』を見ながら、ピカードは彼の目的が『ヤマト』である事は早い時期から気付いていた。突然ワームホールから出現した『ヤマト』との接触の後、自分達の世界へ帰る道を探すべく独自の道を旅する事を決めた彼らと別れてからしばらくして突然『エンタープライズE』に現れた『Q』はピカードに向けて言ったのだ――“『ヤマト』を追え”と。
何故『ヤマト』なのか? 『Q』程の強大な力を持つ高位生命体が興味を持つ何かが『ヤマト』にはあるのか? 『Q』が関わってきた以上、『ヤマト』の行く道は平穏などではないのだろう。それこそ『ヤマト』の向かった宙域はおろか、アルファ宇宙域全域にかかわるような事態に発展する可能性もある……『Q』が姿を現した時に引き起こされた様々な事柄を考えると、あの『ヤマト』という航宙艦も一筋縄ではいかないと考え――それは正解だった。
『エンタープライズE』と宇宙戦艦『ヤマト』の前に現れた因縁深い相手『ボーグ・キューブ』。それは複数現れ、『エンタープライズE』は絶体絶命の危機に見舞われた。
そんな危機的な状況を打破する為に『ヤマト』は決戦兵器である『波動砲』を使用して『ボーグ・キューブ』を撃破した――『波動砲』極光の輝きを見た時、ピカードを始め『エンタープライズE』のクルー全員が驚愕に包まれた。『波動砲』の威力は強大な『ボーグ・キューブ』を崩壊へと導き、全ては光と共に消滅させていく……それは戦闘と呼べるモノではなく虐殺に等しいモノであり、人が手にするには過ぎた力と思えた。
確かに、『波動エンジン』を始めとした『次元波動理論』は使い方次第では恐るべき兵器へと変わる……それは『波動砲』の威力を見れば一目瞭然であった――あんなモノが量産されでもしたら、待っているのは殲滅戦であろう。
「……『波動砲』か」
険しい表情を浮かべたピカードの呟きには苦々しい感情が見え隠れしている……今でこそ『ボーグ』を始めとする様々な脅威に対抗する形で武装を強化しているが、本来艦隊士官達の任務は、深宇宙の探査と未知の種族と接触した際に平和的な交渉を行う事であった……それ故に相手を殲滅する事を目的とした大量破壊兵器の存在は、彼ら艦隊士官の理念とは相反するものであった。
「――待ってくれ! 確かに『波動砲』は強力な武器だが、俺たちは
「『ヤマト』が旅立ったのは故郷を救う為であり、敵の殲滅を目的としたものではない。並行世界に迷い込んだとしても、我々は自分達の世界に戻ってイスカンダルに辿り着き、汚染された地球環境を再生させる『コスモリバースシステム』を受領して故郷を再生させなければならない――我々を信じて待ってくれている人達の為にも」
『Q』とピカードのやり取りを聞いていた『ヤマト』のクルー達が勝手な事を言うと不快な表情を浮かべる中、一歩前に出た古代と真田が叫ぶが、ピカードはともかく『Q』の表情に変化はない。
「お前達は勘違いしているようだが、お前達の罪は“お前達の存在そのモノ”だ」
「……『Q』、彼らは言わば遭難者であり、望んでこの世界に来た訳ではない。彼らの存在そのものを罪と言うのは暴論ではないか?」
『ヤマト』がこの並行世界に迷い込んだ当初から関わっているピカードが擁護するが、『Q』はピカードの意見を鼻で笑う。
「ピカード。この宇宙はお前が思っているより不安定なのだよ。宇宙は絶妙なバランスにより辛うじて成り立っているのに、別の世界から船が紛れ込んだ。『ナデシコ』のようにこの世界の物質を使って再構成されたのは問題がないが、『ヤマト』はその構成物質ごとこの世界に転移して来た」
たかが船一隻分――だがその船一隻分の存在しなかった物質により宇宙はさらに不安定になり、破滅的な事象が起きる可能性が高い、と『Q』は言う。
「……破滅的?」
「――『真空崩壊』だよ」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
――この世界の最大の脅威は『ボーグ集合体』ではありません。
彼『Q』こそが最大、最後の脅威なのです。
TNGの第一話で、未熟で身勝手な人類に深宇宙に足を踏み入れる資格はないと『Q』は態々核戦争時代の法廷を創って『エンタープライズ』のクルーを糾弾した。これは新たに『ナデシコ』と『ヤマト』の乗組員達を糾弾する為に創られた新たな法廷。
次回 第五十九話 超常の対決
傲慢なりし存在に対峙するのは、やはり――
では、また近いうちに。