宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
謎の星間国家『ガミラス』との戦争により、人類は滅亡の淵に立たされた。じわじわと侵食してくる放射能汚染が人類の生存領域を汚染して、滅亡まで後一年と迫ったある日、『イスカンダル』を名乗る異星文明より『次元波動機関』の設計図と惑星再生システム『コスモリバース』の情報がもたらされた。
人類を滅亡から救う為、放射能により赤く変貌した地球を元の青い星へと戻す為に、人跡未踏の大航海へと繰り出した宇宙戦艦『ヤマト』は、強大な『ガミラス』の魔の手を掻い潜りながら中継点であるバラン星に到達し――約一万隻にもおよぶ『ガミラス』の大艦隊と戦い、奇策を用いて『亜空間ゲート』に突入して大艦隊を突破する事に成功した……だが亜空間内でアクシデントが起こった――亜空間を航行中の『ヤマト』は、亜空間跳躍実験より復帰しようとしていた翡翠と接触――その衝撃で量子的に不安定になり、『ヤマト』は世界から弾き出されて、そこで『ヤマト』は異なる歴史を辿た地球の属する『惑星連邦』の航宙艦『エンタープライズ』と接触する。
『エンタープライズ』のと接触により、自分達が並行世界へと迷い込んだ事を理解した『ヤマト』は、自分達の世界へと戻って任務を続行するべく足掻いている内に、恐るべき種族『ボーグ集合体』と戦闘となり、救援に来た『エンタープライズ』と共闘する事のより危機を脱する事が出来たが――突如転移して来た新たな『ボーグ集合体』の航宙艦『ボーグ・キューブ』により二隻とも行動不能にさせられた上に、艦内に『ボーグ集合体』の先兵『ボーグ・ドローン』を送り込まれて絶体絶命の窮地に陥った。
あわや『ボーグ』に同化されるかと思われたその時、周囲の空間に光が集まり――未知の白い航宙艦が転移して来たのだ。その白い船は極度に圧縮した重力波を武器として『ボーグ・キューブ』撃ち込み、続いて現れた『ボーグ・キューブ』に匹敵するほどの巨大な航宙艦を指揮する麗しき麗人『ミスマル・ユリカ』の強烈な個性に唖然とし、圧倒的に優位に有ったのに撤退する『ボーグ・キューブ』に戸惑いと困惑を覚えている間に、最初に乱入してきた白い航宙艦の艦長『ホシノ・ルリ』による軽い事情説明と彼らの拠点への招待を受け、彼らと対『ボーグ』を想定した同盟を結んで、紆余曲折を経て強大な『ボーグ』を退ける事に成功したのだ。
宇宙戦艦『ヤマト』 第一艦橋
「艦長、彼らは予定通り出発しました」
艦長沖田の代理として『ナデシコ』から迎えに来た白いシャトルに乗り込む『ナデシコ』のクルー達を見送った後、第一艦橋へと戻って技術支援席へと座った真田は、甲斐甲斐しく『テンカワ・アキト』に付き添う『ミスマル・ユリカ』達の姿を思い出しながら報告する。
強大な力を誇る『ボーグ集合体』から同化された『テンカワ・アキト』と『ラピス・ラズリ』を救出する事に成功したが、その代償として『テンカワ・アキト』は記憶の大半を失い、彼を救う為に尽力した『ナデシコ』クルーの事を何一つ覚えていないと言う状態へとなってしまった。
報告を受けて医務室に面会に行った時、彼は見知らぬ人間に囲まれて不安そうな表情を浮かべており、『ボーグ・キューブ』を指揮して我々に襲い掛かってきた時に纏っていた無機質な雰囲気は消え去っていた。
不安げな表情を浮かべる『テンカワ・アキト』は寄る辺を失った幼子の様に見え、とても演技の様には思えない。これまでに経験してきた事の記憶が殆ど失われ、自分が何者か根底の部分が揺らいているのだろうと佐渡先生から報告を受けている。
これからの彼らにどんな困難が待ち受けているか。真田は表情には出さないが、せめてこれからの人生は平穏である事を願わずにはいられなかった……ふと、視線を感じたので其方に顔を向けると、『テンカワ・アキト』に寄り添っていた『ミスマル・ユリカ』の藍色の瞳と目が合う。
「……心配しないで下さい。アキトは私が必ず幸せにします……これまで苦労して来たんだから、幸せにならなきゃ……」
宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋
『ナデシコ』のクルー達の出発を見送った真田は基幹エレベーターにて第一艦橋に到達すると、艦長席に座る沖田艦長に『ナデシコ』のクルー全員がシャトルに搭乗した事を告げる。すると森船務長がタイミング良くシャトルが『ヤマト』から発進した事を報告する。
艦底部より発進したシャトルがスラスターを吹かせて姿勢制御しながら上昇している姿が第一艦橋から見える。そしてシャトルはゆっくりと動き出して、彼らの船『ナデシコD』へと向かい始めた――その船体には『ボーグ・キューブ』との戦いにより至る所に被弾の跡が見え、白亜に輝いていた船体は攻撃と収容された『キューブ』の爆発から逃れる為に行った無茶で無数の焼け焦げた跡が付いて、辛うじて何とか自力航行が出来るという状態だと言う。
エンジンを点火して離れて行くシャトルを見ていた『ヤマト』の乗組員達だったが、通信席に座る相原より『エンタープライズE』から映像通信が入った事が伝えられ、沖田艦長の指示で天井にあるパネルに『エンタープライズE』のブリッジが映し出されると、中央に立った艦長ジャン=リュック・ピカード大佐が話し出した。
『『ナデシコ』のシャトルが発進したのは此方でも確認した。我々はダメージを負った彼らを拠点までエスコートした後に、宇宙基地へ帰還して今回の戦いの詳細を報告する予定だ』
今回の事変は惑星連邦を混乱の渦に叩き込んだ――二度にも及ぶ『ボーグ』の侵攻による損害から回復しきれていない状態で知った、複数の『ボーグ・キューブ』が惑星連邦の勢力圏のすぐ近くに潜んで、しかも大量の『ボーグ』を呼び寄せる事が出来る大規模移送施設『トランスワープ・ハブ』を建設していたなど、その兆候すら感知出来ていなかった連邦宇宙艦隊にとっては正に悪夢でしかなかった……二度にもおよぶ『ボーグ』の侵攻――たった一隻の『ボーグ・キューブ』により迎撃艦隊は壊滅状態になり、多くの人命が失われたのだ。
今回『エンタープライズE』より恐るべき力を秘めた『ボーグ・キューブ』が複数確認されたという報告を受けた艦隊司令部は、連邦の滅亡を覚悟していた……だが、続報が届くにつれ彼らは首を傾げる事となる。
――巨大な航宙艦を要する未知の勢力と接触して対『ボーグ』の共同戦線を張る?
――完成間近である『トランスワープ・ハブ』を破壊する為に攻撃を掛けて、紆余曲折の上に『ボーグ』艦隊諸共破壊する事に成功した!?
頭を抱えた彼らは『エンタープライズE』に即時帰還命令を出して、直接口頭で説明する事となったという。
「……それは、首脳部もやきもきしている事でしょうな」
『今回は想定外の事が多すぎましたからね、仕方が無い事です』
意味ありげな視線を向けるピカード艦長に苦笑を浮かべる沖田艦長……並行世界からの転移者である『ヤマト』の存在は、想定外の最たるものであろう……そしてピカード艦長は意味ありげな視線のまま沖田艦長に問い掛ける――これから『ヤマト』はどうするのか? と。
その問い掛けに『ヤマト』の艦橋内に沈黙が落ち、彼らの反応を静かに見据える……『ボーグ』との決戦の場所に突如現れた『ヤマト』の存在に疑問を持ったピカード。
『トランスワープ・ハブ』の破壊を成功させた『エンタープライズE』は、複数の『ボーグ・キューブ』相手に奮戦している筈の『ナデシコD』の援護をするべく戦闘宙域へと向かう途中で超生命体である『Q』により艦長であるピカードは拉致され、法廷とは名ばかりの断罪の場へと転移した――そこで初めて『ヤマト』が参戦した事を知る。
元の世界へ帰る術を探す事を優先した彼らが何故ここに居るのか? 方針を変化せざる負えない何かが起きたのか? 狂った法廷から解放された後に聞いた事情によると、予想だにしないアクシデントに見舞われて時間的な余裕がなくなった彼らは、苦肉の策として『ボーグ』の超光速大規模移送施設『トランスワープ・ハブ』を使用して元の世界への帰還を目指そうとしていたと言う。
だが『トランスワープ・ハブ』は既に使い物にならないまでに崩壊している。故に『ヤマト』の思惑は水泡に帰した事になるのだが、『トランスワープ・ハブ』崩壊を告げられた『ヤマト』の乗組員達は一様に言葉を失っていた。
改めて現実を突き付けられた『ヤマト』の乗組員達が浮かべる強張った顔を横目で見ながら、沖田艦長はどう答えるか思案する……自分達の属していた並行世界へと帰還するべくか細い糸の様な可能性に縋りながらも、決して諦めずに可能性を手繰り寄せる為に航海を続けていた時に判明した最悪の事態――この世界において“異物”である『ヤマト』の船体はおろか共に並行世界へやって来た乗組員を構成する分子構造すら崩壊する危険性が判明したのだ。
このままでは見知らぬ並行世界で塵になってしまうかもしれない。
頼みの『トランスワープ・ハブ』は崩壊して、これから当初の目的地である銀河系と大マゼラン星雲の中間点にあるバラン星宙域に向けて航海したとしても、そこに亜空間ゲートが在るかは不明瞭だ。
誰もが言葉を発せられない重苦しい雰囲気の中で突然軽い音が響く、何事かと視線が向く中で音の発生源である基幹エレベーターの中から小柄な人影が艦橋内に足を踏み入れる。
「……翡翠? ここは艦橋だ…ぞ……」
近くある通信席に座る相原は基幹エレベーターから出てきたのが翡翠である事に気付いて咎めようとするが、彼女の纏う雰囲気がいつもと違う事に気付いて言葉に詰まる……地球の平均的な同年代の子供より少し小柄な身体に比較的に整った顔立ち……そこまでは普段通りだが、その表情が普段の子供らしさは鳴りを潜めて不敵な笑みを浮かべていた。
それだけでなく、彼女の姿が『ヤマト』に乗り込んだ時から来ていた制服姿ではなく、白を基調としたボディースーツの所々に青く輝く鉱物の様な物を付けた見慣れない服を着て、威圧感すら感じる気配を纏った翡翠はゆっくりと歩き出して第一艦橋の中央部に進んで行く。その姿を目で追いながらも、艦橋に詰める古代や島だけでなく経験豊富な真田や徳川すらも声を発する事が出来ない……そんな中で艦長席に座る沖田は目を細めて翡翠の思惑を見据えている。
そして第一艦橋の中央部まで来た翡翠はゆっくりと振り返り、一段高い艦長席から見据える沖田と視線を合わせる。周囲に放たれる、圧倒的な力をも伴っているかのように錯覚させるほどのオーラを纏いながらも未だ緑色の輝きを保っている彼女の瞳を見て、翡翠がこのタイミングで第一艦橋にやって来た理由を推察できた。
「……帰るのか?」
「……ええ、迎えも来たようだからね」
そう言って笑った翡翠が『――エテルナ』と呼び掛けると、彼女の隣に小さな灯がともり、それが大きくなるにつれて輝きも強くなる。
「……次元潜航解除」
《YES・Ma'am》
ぽつりと呟いた翡翠の言葉に発光体が答えた途端、第一艦橋から見える宇宙に異変が起きる――目の前の空間が波打ち始めたのだ。
「――前方の空間に異常発生! 『ヤマト』の前方の空間が湾曲していきます!」
コスモレーダー受信席に座る森雪の緊迫した報告に、第一艦橋内の乗組員達の間に緊張が走る。思わず前方の空間に視線を向けた古代は、艦橋から見える星の輝きがどんどん歪んでいく様を見て“元凶”に向けて振り返ると硬い表情で問い掛けた。
「――何をした、翡翠!?」
『エンタープライズE』ブリッジ
惑星連邦所属の航宙艦の中でも最新鋭であり最大規模を誇る『エンタープライズE』のブリッジの中は重苦しい雰囲気に包まれていた。艦長ジャン=リュック・ピカード大佐が厳しい視線を向ける先には、『ヤマト』の艦橋内を映し出したメイン・ビューワーに突然現れた年端もいかない少女……だが、その少女が現れた途端に『ヤマト』を運用する上級士官達の様子が目に見えて変化した様を見るに“まとも”な人間ではないのだろう。
副長席に座るライカー中佐は席を立つと、メイン・ビューワーの前で厳しい表情を浮かべているピカードの側まで行く。
「……艦長、彼女が例の?」
「……ああ、『Q』が創った法廷に乗り込んできて、あの『Q』相手に大立ち回りを繰り広げた女傑だ」
これ以上『ボーグ』の進行を阻止するべく、『ボーグ』が要する超光速大規模移送施設『トランスワープ・ハブ』を破壊した『エンタープライズE』のブリッジで指揮を執っていたジャン=リュック・ピカード艦長は、並行宇宙からの来訪者である『ナデシコ』と『ヤマト』を裁くべく作られた核戦争時代の法廷に『弁護人』として『Q』により召喚された。
超越者らしい傲慢さを見せる『Q』の前に突然現れた栗色の髪と真紅の鮮烈な輝く瞳を持つ彼女は、一見少女の様な姿をしているが高位存在である『Q』相手に一歩も引かず、交渉という名の脅しをかける少女が“まとも”な生命体である筈がない。と言うのがピカードの見解であり、『ヤマト』のブリッジの様子を見るに、その見解は正解の様である。
さて、これからどうなるか? 事の推移を見守っていると、件の少女の隣に光が灯ると光度を増して発光体へと変貌していく……そして、少女が『……エテルナ』と呼び掛けた途端に事態は動いた。
「――サー、本艦の前方に空間異常が発生しました」
オプス・コンソールにて周囲の観測を行っていたデーター少佐が、センサーが感知した異常をピカードに報告する。それを聞いたピカードは片眉をわずかに動かし、傍に居たライカーはデーターに詳細を報告するように指示する。
「――本艦から後方50万キロの地点で空間湾曲が発生、湾曲率は未だ上昇を続けています」
「空間湾曲の原因はなんだ?」
「原因は不明。周囲に空間を捻じ曲げるような重力源は観測されていませんし、空間が湾曲したならば観測される筈の重力波はおろか重力場も検出されません」
報告を受けたピカードは空間湾曲の原因を問い掛けるが、空間に影響を与えるようなモノは確認されておらず、また空間を曲げるような存在が存在しているならば重力場が検出されないとは考えにくい……このような非常識な現象を引き起こしているであろう存在へと、ピカードとライカーの限りなく冷たい視線が向けられる。
「……原因は考えるまでもなく」
「……彼女でしょうな」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
『ボーグ集合体』の悪意を撥ね退け、超常の存在である『Q』の脅威を退けた『ヤマト』の艦橋に姿を現した『翡翠』は宣言する――元の世界への帰還を。
次回 第六十二話 故郷への道。
では、また近いうちに。