宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第六十二話 故郷への道

 

 宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋


 

 突然第一艦橋に乱入して来た翡翠が一言呟いた途端、変化は劇的に訪れた――『ヤマト』の前方の空間が唐突に歪み始めて、あり得ない程の空間湾曲現象を起こしていた。

 第一艦橋から見える光景が、あまねく星々の光がねじ曲がっていく――それはある意味冒涜的な光景であった。永遠不変とも思える星々の姿が瞬く間に変わって行くのだから。

 

「……これは」

「……宇宙が、星が歪んでいく」

 

 その光景を見た誰かが呟く。目の前で起きている事に現実感が無いのだろ……幻想的とも言える光景に誰もが目を奪われている故に気付かない……否、技術支援席で観測される測定結果を精査していた真田と人生の大半を宇宙で航海していた沖田や徳川などは、この現象の不自然さに気付く。

 

「……妙だな。目で見えるほどの距離で空間が歪んでいるのに」

「……殆ど船が揺れませんな」

 

 訝し気に呟く沖田に、機関制御席で何時でもエンジン出力を上げられるように準備している徳川が追従する……空間に作用して歪ませるモノとしては大質量による重力が一般的である。だが、この空間湾曲では歪ませている原因が観測できない。

 

「……おかしい。空間湾曲の原因が特定できない所か、こんなに至近距離なのに船への影響が殆ど皆無に近い」

 

 技術支援席で計測される観測結果に目を通しながら理解不能な現象に頭を悩ましていた真田は振り返ると、この珍妙な現象を引き起こしていた“いたずら娘”を眼ね付ける……圧倒的な存在感と共に現れた翡翠。今までは戦闘時や『Q』と呼ばれていた超存在と対峙する時にしか特異性を発揮していなかった彼女が、こうも容易く己の力を見せる理由――彼女はあるべき場所に帰るという事なのだろう……そして目の前の不可思議現象は、突然現れた発光体が彼女の意を汲んで起こしたモノ……そう考えると、自ずとこの現象を引き起こした意図も理解出来るというものだ。

 

「――そうか、君の迎えが来た……我々の世界からこの並行世界へ渡る力があるならば、今まではこの並行世界の裏側とも言えるサブスペースに身を潜めていた」

 

 そういう事だろう? と問い掛ける真田に、にこりと笑う翡翠だったが、その後に「派手にやり過ぎだ、いたずら娘」と真田に窘められると肩を竦めた。

 

 そんな他愛もないやり取りをしている内に空間湾曲の湾曲率は極限にまで達し、歪んだ星の光が重なって光り輝く輪を作るとその中心から白銀に輝く巨大な船先が現れて、この世界へとその姿を現す――それは巨大な結晶の様な姿をしていた。

 

 鋭く尖った船先から流れるようなラインを経て船体を輝きの輪から表すその姿は、人工物というより大自然が生み出した結晶体の様であった。だが、その結晶体は明確な意思を持って輝きの輪を潜ってこの宇宙へと顕現したのだ。

 

 この宇宙に姿を現した白銀に輝く巨大な船は、漆黒の宇宙に己の存在を主張するかのように船体が仄かな光を放ち、見るだけで『ヤマト』や『エンタープライズ』はおろか、二隻をはるかに超える大きさを持つ『ナデシコD』数倍はあるほどの大きさを持つことが分かるのだが……

 

「……レーダーは何も感知できません」

「……目に見えるほどの近距離に居るはずなのに、あらゆるセンサーがまったく反応しない……どういう事だ、翡翠?」

「……いや、そこで私に聞く?」

 

 その方が手っ取り早いと言う真田に呆れたような視線を向ける翡翠だったが、その事には触れずに艦橋から見える白銀の船に視線を向ける。

 

「……アレは『&&%$%%$$$』」

「……は?」

 

 眞田の質問には答えずに翡翠は外に居る白銀の船について語ったが、彼女の口より紡がれた言語を艦橋に居る誰も理解できなかった。呆けたように口を開ける者や訝し気に眉を顰める者達を見て、翡翠は後頭部をぽりぽりと掻きながら「……ああ、この言語では適切な表現が無かったのね」と少し困った顔で思案していたが、何かを思いついたのか掌を合わせてにこりと笑う。

 

「ならば、どこぞの『コンピューター思念体(笑)』が訳した名称を使いましょう――あの船の名は『アルテミス』」

 

 ゆっくりと手を上げて白銀の船を指差しながら船名を伝えた翡翠は、手を下ろすと艦長席に座る沖田に向き直る。

 

「それじゃ帰りましょうか、私達の世界へ――」

 

 そう告げる翡翠の姿が光に包まれ、光が収まった時には彼女の身体は第一艦橋から掻き消えていた。

 

「――翡翠?」

「……なるほど。『エンタープライズ』と同じく、彼女達も転送技術を持っているのか」

 

 翡翠が光に包まれて姿を消した事に驚く古代の声と推論を述べる真田の声が重なり、そういうモノかと納得する古代……『ボーグ』との初接触の際に『ボーグ・キューブ』内に取り残されていた古代と真田は、『エンタープライズE』から連絡要員として『ヤマト』に乗り込んでいたデーター少佐の要請を受けた『エンタープライズE』の転送技術により回収された事があるのだ。

 

 言いた事だけを言って翡翠が姿を消した後、第一艦橋の中に沈黙が落ちる……どう反応して良いのか分からなかったのである。

 そんな中で『ヤマト』の操舵手である島は、突然目の前の操縦桿が独りでに動き出した事に気付いて止めようとするが全く言う事を聞かなかった。波動エンジンが始動して、『ヤマト』はゆっくりと進み始める。

 

「……これは」

「どうした、島?」

「――舵が効かない!?」

「――何だって!?」

 

 異変に気付いた古代が問い掛けると、慌てた島が叫びを聞いて驚愕する。何とか艦のコントロールを取り戻そうとする島が波動エンジンの出力を絞ったり、スラスターを起動するが全くコントロールを受け付けなかった。

 

「……駄目だ。此方のコントロールを受け付けず、自動操舵にすら切り替わらない」

「――何とかならないのか、島?」

 

 コントロールを取り戻そうと試行錯誤する島に古代が声を掛けるが事態は全く好転せず、技術支援席に座る真田や機関制御席に座る徳川も異常事態に気付いて艦のコントロールを取り戻そうとするが制御が効かない状態で、『ヤマト』は乗組員の意思に反して進み続ける。

 

「……これはメインフレームに外部からの干渉を受けている可能性が高い」

 

 技術支援席で『ヤマト』のシステムをチェックしていた真田はそう結論付ける……以前にも『ボーグ・キューブ』との連戦の折にメインフレームへの干渉を受けて機能がマヒした苦い経験を受けて、真田を筆頭とした技術班が総力を挙げてプロテクトの強化を施したのだが……どうやら徒労だったようだ。

 

 現在、『ヤマト』は操作不能の状態である。

 

 


 

 通信が繋がったまま維持されていた事により『ヤマト』が異常事態に見舞われている事を知った『エンタープライズE』から『トラクタービーム』による支援を提案されて実行に移されるが、照射されたビームは『ヤマト』に届く直前に何かに打ち消されてしまう。

 

『……今のは? 何らかの干渉を受け得たようだが』

『――サー。所属不明艦より反重力波が照査されて、『トラクタービーム』を打ち消したようです』

 

 天井のパネルに映るピカード艦長が困惑のあまり一旦通信を切る事すら忘れて『エンタープライズE』の艦橋士官に問い掛けている。艦隊士官によると、重力子を用いる『トラクタービーム』に対して反対の性質を持つ反重力子とも言える物を照射する事により『トラクタービーム』を阻害したとの事であった。

 

 流石は“いたずら娘”の乗る船、色々と手札を持っていると妙な関心をする沖田艦長であったが、通信席に座る相原より例の『アルテミス』より広域通信が入った事を告げられて表示するように指示する――すると天井パネルの半分に、『アルテミス』からの通信が表示される。

 

 そこは一見すると鉱物の鉱床の様に見えた。蒼く仄かな光が鉱物で出来た床に反射して、仄かに青く輝く鉱物のような物で構成された部屋全体を浮かび上がらせる……恐らく、ココが『アルテミス』と名乗る船の中枢である『艦橋』なのだろう。

 そんな仄かに青く輝く鉱物に囲まれている艦橋の中央部に、一つだけ周囲の鉱物と同じ物で作られたシートの様な席が在り、その席に座る小柄な少女が座っていた。

 白を基調としたボディースーツの所々に青く輝く鉱物で出来たプロテクターを纏った少女は、『ヤマト』に乗船していた時と同じ翠瞳を細めていた。

 

『せっかく誘導しているのに、邪魔されちゃ困るんですけど』

 

 目を細めると言うか、翡翠がジト目を送った先は『エンタープライズE』のようだ。ジト目を送られた『エンタープライズE』のピカード艦長は困惑した表情を浮かべる……『ヤマト』の第一艦橋に現れた彼女は、確かに共に自分達の世界への帰還しようとは言っていたが、

 

「……だが、その為に『ヤマト』の制御を奪う必要は無いだろうが!」

『……その方が手っ取り早いでしょう?』

 

 奪われた制御を取り戻そうと必死になっていた島が怒りの咆哮を上げるが、当の翡翠は小首を傾げて答える……まるで悪びれない様子に二の句が継げない島……彼は理解してしまったのだ。パネルに映る少女は自分の行った事をまったく疑問に思っていない事を。

 

『……とにかく、『ヤマト』を収容した後に次元跳躍に移行するから、邪魔しないでね』

 

 ふんぞり返って言い放つ翡翠……その傍若無人ぶりに唖然とする乗組員達。そんな中で難しい顔をした真田がぽつりと呟いた。

 

「……翡翠のメンタル部分は我々と近しい物だと思っていたが、やはり細かい所では差異がある様だ」

 

 突然に『ヤマト』へとやって来た異星人の少女。

 その扱いについて、当初は様々な意見があった。今まで『ヤマト』が属する地球人類は火星にて発見された異星文明の船の残骸など痕跡は確認していたが、実際に異星人との初接触は星間戦争へと突入した『ガミラス』であり、その後に接触して来た『イスカンダル』の第三王女が二人目、そして『ヤマト』艦内へと招き入れた異星人の少女は、事故により昏睡状態になっている『イスカンダル』の王女と、『ガミラス』の女性士官に続いて三人目となる。

 

 予期せぬ事故で『ヤマト』で保護した未知の異星人である少女を、当初は徹底的に検査を行い――結果、肉体的には地球人類となんら変わらず、事故の影響で記憶の混濁は見られるがメンタル的にも地球人に近しい物であるという検査結果だったのだが……『ボーグ・キューブ』との戦闘の中で、『ボーグ・ドローン』に侵入されて彼女が危機に陥った時に彼女の身体の中に組み込まれていた抗体システムが起動して――少女は本来の自分を取り戻した……或いは“はっちゃけた”と言うべきか。

 

 本来の“力”を取り戻した少女が見せたのは、瞬く間に『ボーグ・ドローン』を駆逐した驚異的な身体能力と、超常の存在を前にしても一歩も引かない豪胆な性格。

 だが『ヤマト』の艦内では年相応の子供らしさを見せていたが、今考えればアレは“ワザと”見せていたモノだったのだろう。それだけ理性的な存在であるのだろうと、ある意味安心していたのだが……どうやら、此処に来て双方の認識の違いが浮き彫りになったようだ。

 

「……翡翠」

『なに? 真田のおじちゃん』

「……たとえ同じ目的を持つ者同士でも、断りもなく相手の船のコントロールを奪うのは敵対行為と変わらんぞ」

『……そうなの?』

 

 緑色の瞳を大きく広げて驚きを露にする翡翠。暫くは視線をさ迷わせていたが、深くため息を付くと後頭部をポリポリと掻いてバツの悪そうな顔をした。

 

『……そう言うモノなの? こっちの方が早いと思うんだけどなぁ』

 

 ポリポリと後頭部を掻きながらもまだ抵抗する“いたずら娘”に倫理について滾々と説教をしたい衝動に駆られる真田だったが、ようやく元の世界に帰還できるか手段が目の前にあるのだ……視線を向けると沖田艦長が頷いた。

 

「此方としても元の世界に帰還する事に異存はない――翡翠、エスコートを頼めるか」

 

 今度は真っ当な手段で頼む。そう言ってにやりと口角を上げる沖田艦長。威厳はあるが妙に愛嬌もあるその笑みに苦笑を返した翡翠は片手を上げると、それを合図に『ヤマト』のコントロールが戻り、第一艦橋に居る乗組員達は安堵の表情を浮かべているのを確認した翡翠は通信を切る。するとコスモレーダーを担当している森雪より、『ヤマト』と『アルテミス』の間に光るガイドレールの様な物が設置されている報告がされると、乗組員――特に『ヤマト』の舵を預かる島が憮然とした顔で毒づく……こんな物があるなら最初から出せよ、と。

 

 宇宙空間に設置された光点に沿って進む『ヤマト』の前に白銀に輝く『アルテミス』の巨大な船体が近付いて来る。相変わらず各種センサーは目の前の巨大な船を感知する事は出来ないが、視覚だけは漆黒の宇宙の中で輝く船体を見る事が出来る――船体外部には殆ど凹凸が存在せず、表面は磨き上げられた鏡のように星の光を映し出す。

 

「……まるで巨大な鏡のようだな」

 

 それ自体が仄かな光を発しているが『アルテミス』の巨大な船体には星の光が映り込み、よく見れば接近している『ヤマト』の姿すら映っていた。

 

「……人間の目で捉えられる可視光線は問題なく見えるようだ。それ以外の赤外線やエックス線などセンサーに使われている波長は全く反応しないと言うのに」

 

 しかもタチが悪い事に光学望遠観測器には全く映らず、肉眼でのみ見えると言う。ある意味あの“いたずら娘”が乗るに相応しい船だ、と真田にしてはボヤくように説明している。

 

 銀河系の外にある大マゼランへ航海という人跡未踏の旅に臨むにあたり、人類初の恒星間航行用宇宙船として建造された宇宙戦艦『ヤマト』には地球の最先端設備が搭載されている。

 

 地球人類は太陽系という狭い範囲での航海しか経験が無く、銀河の外はおろか太陽系外の星間宇宙にすら到達していなかった。

 そんな未知の宇宙を進むに為に、『ヤマト』には索敵だけでなく航路の安全を確保する為に高性能のセンサーが搭載されているが、その全てが眼前の『アルテミス』を感知する事が出来ない。

 

 一抹の不安と、それを上回る帰還できるかもしれないという希望を胸に『アルテミス』に近付いて行く『ヤマト』の通信機に短いメッセージが届いた。

 

「――前方の船より通信、『艦体に着水せよ』」

「――着水!? 船の上に降りろって事か?」

「……着水って、あの船は水で出来ているのかよ」

 

 ようやく真っ当な通信を送って来たかと思えば、向こうの翻訳機能が不調なのか変な内容になっている……事故によって『ヤマト』に保護された翡翠は当初から日本語を話していて、それ故に最初は『ガミラス』の送り込んで来たスパイではないかと警戒していたのだが、先ほど第一艦橋に現れた翡翠が白銀の船の船名を口にした時、聞きなれない言葉を話していた。

 つまり翡翠は日本語を話していた訳では無く、こちらには分からないような翻訳機を通して話していた訳だ……その証拠に、言葉が通じないと分かったら、何時もの癖か頭を掻きながら『……ああ、この言語では適切な表現が無かったのね』とボヤいていた。

 

 ……さて、内容としては『アルテミス』の船体に着陸せよ、と言うのが正しいのだろう。そう考えた相原が修正しようとした時、技術支援席に座る真田が、「着水で合っているかもしれない」と言い出した。

 

「……どういう事です真田さん?」

「一部のセンサーが『アルテミス』を感知する事に成功して、あの船の船体に関する組成が少し分かったんだが、どうやら船体の殆どがある種の流体金属で構成されているようだ」

 

  光点に導かれた『ヤマト』の目前に仄かに輝く『アルテミス』の巨大な船体が近付いて来る。目測で全長百キロ以上はあり、船体は磨き抜かれた鏡のように一切の歪みすらもない。光点に導かれた『ヤマト』は巨大な『アルテミス』の船体の上空へと進む――仄かに輝く船体表面には星々の輝きが映し出されて、降下態勢に入った『ヤマト』の高度が下がるにつれて艦底部分がどんどん大きく映し出される。

 

「現在、『ヤマト』は、『アルテミス』の船体上を航行中。まもなく『アルテミス』の船体表面部に接触します」

「島。出来るだけ、ゆっくりで頼む」

 

 相対距離を測っていた森雪の報告に、『ヤマト』の操舵を預かる島の顔に緊張が走る。隣の戦闘指揮席に座る古代の軽口に反応すらせず、波動エンジンの出力を最小限に絞って着水に備える――辛うじて測定しているセンサーによれば、『アルテミス』の船体は一種の流体金属だという。絶対零度に近い宇宙空間で液体になれるなど、どんな金属だと言う話だ。そんな流体金属に着水するとなれば、その粘度によっては『ヤマト』は大きなダメージを受ける可能性もある。

 

 細心の注意を払いながら『ヤマト』は高度を下げ、第一艦橋内には『アルテミス』表面までの距離を読み上げる森雪の声だけが響き――そして『ヤマト』の艦底部が『アルテミス』の表層に接触する。

 いくら速度を絞ろうとも全長三百三十三メートルの戦艦が着水するのだ、どれほどの衝撃が来るのかと近くにある物を掴んだり、身体を低くして備えるが、乗組員達の心配をよそに『ヤマト』は予想よりも少ない衝撃を受けるが比較的スムーズに表層に着水した。

 

「……思ったほど衝撃は無かったな」

「……信じられん事だが、『アルテミス』を構成する流体金属らしきモノの密度は水とほぼ変わらないのかもしれないな」

 

 思わずといった感じの古代のボヤキに、『ヤマト』の船体をチェックしていた真田が表示される測定結果を見ながら答える。視覚情報から金属特有の光沢があり、恐らく向こうの許可により測定結果を表示しているセンサーによれば一定上の熱や電気の伝導率があり、しかも比重もかなり重たそうなのに、いざ接触してみれば水の様な振る舞いをするおかしな金属だと眉間にシワを寄せながら唸るように呟いていると、着水した『ヤマト』周囲の流体金属らしい物体の性質が変わり始めた事に気付く。

 

「――これは、周囲の物質が硬化して『ヤマト』の船体を固定し始めた」

「なんだって!?」

 

 真田の報告に驚いている間にも周囲の物質は固まっていき『ヤマト』の船体を固定した物質は、ゆっくりと流体金属の内部へと『ヤマト』を誘う――第一艦橋から見える光景は不思議なモノだった。周囲は流体金属に満たされて、ただ静寂のみが其処にあった。

 

 そこに『アルテミス』からの通信が入り、天井のメインパネルに再び翡翠の姿が映し出される。

 

『『アルテミス』の領域内に『ヤマト』を固定したわ――これより次元跳躍により元の世界へ帰還するから待機していて』

 

 そう言って通信を切る翡翠――『ヤマト』の乗組員達はいよいよ元の世界へと帰還出来るかと言う期待と、本当に帰れるのかと言う不安が交互に襲ってきて何とも言えない表情を浮かべる。

 

 そんな中、『ヤマト』を取り巻く流体金属に変化が訪れる。『ヤマト』の遥か先の流体金属がゆっくりと動き出し、その動きはどんどん大きく周囲の流体金属を動かして複数の渦となって『ヤマト』へと押し寄せて来る。

 しかし周囲の硬化した流体金属が障壁となって『ヤマト』の船体への影響は皆無であり、古代達が船体への影響がない事に安堵の息を吐いていると、渦巻いている流体金属に変化が見られた。渦巻く流体金属が電荷を帯び始めて、流体金属の中を無数の紫電が走った。

 

「……これは一体?」

「……内部の流体金属を動かして、一種のダイナモ効果からエネルギーを得ているのか?」

 

 科学者の血が騒ぐのか真田は技術支援席で目の前で起こった現象の考察をするが、未だ殆どのセンサーが機能を果たさない手探りの状態では、目で見た光景を元に思考を巡らして推測するしかないのが現状であった。

 そんな何も出来ず傍観するしかない状況の中で、『ヤマト』の乗組員達は突如言いようの無い不快感に襲われる――敢えて言葉にするならば、目に見えない壁が迫って来て一つ一つの細胞の隙間に挟まって押し広げているような感覚といえば良いのだろうか。

 

 苦悶の表情を浮かべながらも必死に耐える古代達……どれほどの時が経っただろうか、『ヤマト』の周囲で猛威を振るっていた流体金属の渦達は既に無く、周囲に満ちた流体金属が静寂を取り戻した頃に、ようやく不快感が薄れ始めた古代達が頭を振るなどして意識を覚醒させていると、技術支援席で『ヤマト』の船体のチェックをしていた真田が『ヤマト』が流体金属から浮上し始めている事に気付いた。

 

「……これは、硬化した物質が『ヤマト』を押し上げているのか」

 

 第一艦橋から見える外の光景が真田の言葉が正しい事を示す。流体金属の中を上昇する『ヤマト』の頭上に境界面に映し出された『ヤマト』の姿がある――アレを越えれば、そこは宇宙空間だ。

 

「まもなく境界面に接触――『ヤマト』流体金属より浮上します」

 

 宇宙空間に浮かぶ巨大な『アルテミス』の流体金属で形成される船体に小さな波紋が起こり、そこから特徴的な構造物が浮かび上がって来る――左右に伸びる次元電波探信儀を持つ『ヤマト』の司令塔が徐々に姿を現して、続いて三連装陽電子衝撃砲が設置された甲板と艦首に備え付けられた巨大な砲口が流体金属から浮上する。

 

 流体金属より完全に姿を現した『ヤマト』は、ゆっくりと上昇しながら宇宙空間へと進んで行くが、第一艦橋内に居る乗組員達は未知の船から解放された喜びよりも、目の前に広がる光景を見て絶句していた。

 

 眩いばかりの星々の輝き――目の前一杯に広がる星の煌きを、彼らは何度も夢に見て来た。資料に目を通し、そこに到達する事を航海の大目標としていた――彼らの目指す場所。

 

「……大マゼラン」

「……ああ、大マゼランだ」

 

 大マゼラン雲――地球から十六万八千光年の彼方に位置する星や星雲の集まりであり、質量は銀河系の十分の一程度、直径は二十分の一程度の矮小銀河で、銀河系やアンドロメダ銀河と共に局部銀河団を構成している。

 その大マゼランが目の前にある……それは良い。喜ばしい事だ。

 ――だが問題は、目の前にある大マゼランが自分達の世界の大マゼランなのか、と言う事だ……そして、その答えは航路監視席で表示される情報を精査している太田によってもたらされる。

 

「バラン星以前に観測された星図と観測された星の位置が完全に一致します――アレは元の世界の大マゼランです」

 

 その瞬間、『ヤマト』の第一艦橋内が歓声に包まれた。

 

 


 

 『アルテミス』ブリッジ

 

 白銀に輝く『アルテミス』の内部に存在する構造物群――『アルテミス』の全てを制御する中枢部が存在しており、それを守るかのように分厚い流体金属の層が幾重にも重なって、全長百キロを超える巨大な船体を構成していた。

 その中枢部の中にはブリッジと呼べるべき物も存在している――巨大なブリッジの中は、冷たい輝きを放つ磨き上げられた鏡を思わせる床と、全ての素材が水晶の様に透明であるが鉱物としての強度を伺わせる壁に囲まれた広大な空間に聳え立つ幾つもの水晶柱。

 命の温もりというモノを排した冷たい鉱物によって形成されたブリッジの中に一つだけ周囲の鉱物と同じ物で作られたシートの様な席に座る翡翠は、正面に投影されたビューワーに映る大マゼランの煌びやかな光と、『アルテミス』の表層から離脱して進む『ヤマト』を見つめる。

 

『次元跳躍終了。指定通りに天の川銀河の伴銀河の手前に出現しました』

「――そう。時間的な差異は?」

『……想定通りです』

 

 『アルテミス』を統括する思念体である『エテルナ』から現在の状況を聞いた翡翠は、鉱物で出来た席から暫くは『ヤマト』を見つめていたが、一度目を閉じて再びまぶたを開いた時には視線に強い光が宿っていた。

 

「エテルナ――魚雷装填、雷数4」

『了解、クロ二トン魚雷装填、雷数4。クロニトン粒子の調整完了』

 

「――FIRE(撃て!)!」

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 この小説も終わりが見えてきました。

 『ヤマト』と共に元の世界へと帰還した『翡翠」だが――


 次回 第六十三話 エピローグ


 では、また近いうちに。
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