宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第六十三話 エピローグ

 

 巨大戦艦『アルテミス』の船体から浮上した宇宙戦艦『ヤマト』の前には、大マゼランの星の光が満ちていた。眼前に広がる煌びやかな星の海を見た『ヤマト』の乗組員達は、その圧倒的な光景に思わず席から立ち上がって見惚れていた。

 

「……大マゼランだ。帰って来たんだな、俺達」

「……ああ」

 

 万感の思いを込めて呟く島の言葉に、目の前に広がる光景を見つめる古代は短く答える……バラン星にてガミラスの大艦隊を食い破って亜空間ゲートへと突入したは良いが、亜空間内の事故で並行世界へと迷い込んで『ボーグ集合体』という恐るべき敵と遭遇して、紆余曲折の上にようやく大マゼランへと到達したのだ。

 

 誰もが言葉を失う中で技術支援席に座る真田は、大マゼランの光景を見ている途中で何かに気付いたのか、目の前のコンソールを操作してディスプレイに様々な星の軌道などを映し出しながら何かを探っている……そして導き出された結果に絶句して、思わず天を仰いだ。

 

「……みんな、現在時刻を計算したんだが……地球時間で今は十一月二十日になる」

「――なっ!?」

「――噓でしょう! 真田さん!?」

「――バラン星域に到達したのは五月だって言うのに、なんで六ヶ月も過ぎてるんですか!?」

 

 意を決した真田が、喜びに沸く『ヤマト』の乗組員達に残酷な現実を告げると、一瞬何を言われたのか理解できなかった島が驚きの声を上げるのを先頭に、第一艦橋に居る乗組員達が困惑の声を上げ、次第にそれが焦燥へと変わる――ガミラスの遊星爆弾に侵された地球は人類滅亡まで一年の猶予しかなく、滅亡を防ぐためにイスカンダルへと赴いて地球再生を可能にするコスモリバースを受領する為に航海を続けてきたのに、たとえコスモリバースを受領してもタイムリミットを過ぎては意味がない物となる。

 

「……真田君、確かかね?」

「はい、何度も計算しましたが間違いありません。恐らく、並行世界と我々の世界とでは時間軸に誤差があったのでしょう」

 

 沖田艦長の問い掛けに、視線を伏せながら答える真田……彼も認めたくはないが、現実は決して変えられないが為に努めて事務的に説明しているのだろう。

 

「……そんな、それじゃあ俺達は一体何の為に航海してきたんだよ」

「……地球が滅ぶ。滅んじまう」

 

 絶望的な現実に打ちのめされる乗組員達。

 

「……それでも、我々は諦める訳にはいかんのだ。もしかしたら、タイムリミットが過ぎても人類は生き残っているかもしれない。地球には『ヤマト』の帰りを、歯を食いしばって待っている人達が居る――ならば、『ヤマト』はイスカンダルへと赴いてコスモリバースを受け取って必ず帰らねばならん!」

 

 艦長席に座る沖田は、絶望に打ちのめされて圧し潰されようとしている乗組員達に一抹の希望が残っているならば航海を投げ出さずにやり遂げなければならないと説く……暫くは絶望感に苛まれていた乗組員達だったが、それでも諦めきれずに故郷を、愛する人々を救う為に再び立ち上がろうとしていた――その時にレーダー手である森雪が、レーダーが異常を感知した事に気付いて報告する。

 

「レーダーに感! 後方の『アルテミス』より飛翔体が発射されました――これは魚雷です! 数は四!」

「――なんだって!?」

 

 森雪の報告に驚きの声を上げたのは誰だろうか――共に並行世界へと迷い込んで苦楽を共にした『翡翠』の乗る『アルテミス』が攻撃を掛けるなど、誰が予想しただろうか。

 

「――対空防御! 後部魚雷発射管を開け!」

「――ダメ、早すぎる! 間に合わない!?」

 

 事態を把握した古代が迎撃の指示を出すが、レーダーに映る魚雷のスピードが尋常ではない為に、迎撃システムの起動が間に合わない事を悟った森雪が悲痛な声を上げる。

 

 何故今更攻撃を仕掛けて来るのか、それならば並行世界に居る時に幾らでも機会があった筈。それを態々元の世界に戻してから攻撃をするなど、翡翠の真意が理解出来ずに声を上げる真田――事故とは言え、『ヤマト』に乗り込み共に過ごした時間は何だったのか? 迫り来る四本の魚雷を睨み据えながら、真田は翡翠の真意を問わずには言われなかった。

 

「――何故だ、翡翠!?」

 

 迫り来る四本の魚雷――あの巨大戦艦から発射された物なら、どれほどの破壊力があるのか分からないが、最後まで諦めないと誓った沖田艦長が総員に衝撃に備える様に指示を出すと同時に、四本の魚雷が『ヤマト』に到達する――が、魚雷は『ヤマト』の至近距離をすり抜けていった。

 

 第一艦橋擦れ擦れを二本の魚雷が通り、残りの二本も『ヤマト』の船体ギリギリを通り過ぎていく、『ヤマト』を掠めるように通過した四本の魚雷は、『ヤマト』の前方の遥か先で信管が作動したのか凄まじい爆発を起こして、周囲の空間そのものに作用していく。

 

「――これは、爆発付近の空間自体が歪められていく……いや、時空そのものが押し広げられているのか?」

 

 前方の空間で発生している現象を見ながら、真田は『ヤマト』の至近距離を通り過ぎて炸裂した四本の魚雷の効果を考察する。追撃がない所から、今の攻撃は『ヤマト』の前方の空間目掛けて撃ち出された可能性が高い……態々『ヤマト』の至近距離を通り過ぎて行ったのは、あのいたずら娘の悪趣味なジョークだろう。今度会う機会が有れば、きっちりお説教をしようと心に決めている時、通信管制を担当する相原から後方の『アルテミス』から映像通信が入った事が知らされる。

 

「……パネルに投影しろ」

 

 沖田艦長の命を受けて天井部のパネルに光が点る――そこには全てが水晶のような鉱物でありながら、どこか温かみがあるという矛盾した素材で構成された部屋が再び映し出される映し出される。その部屋――艦橋の中央部に備え付けられた水晶のような素材で作られた席に見知った少女 翡翠が座っており、その傍にはあの裁判所で見た輝くオーブーー翡翠の乗る巨大戦艦『アルテミス』の統括思念体『エテルナ』の端末が寄り添っていた。

 

『やあ、プレゼントは気に入って「何のつもりだ、翡翠!」――おおっ!?』

 

 いつものお気楽なセリフにかぶせ気味に島に怒られて、思わずのぞけるいたずら娘。そして怒り心頭なのは島だけでなく、沖田艦長と徳川機関長そして真田を除く第一艦橋に居る乗組員達が次々にパネルに映る翡翠に向けて罵詈雑言を浴びせていく……流石に不味いと思ったのか小さくなった翡翠が弱弱しい声で『ごめんなさい』と呟くと、寄り添っている『エテルナ』の発光体が点滅している……何故か、それが呆れている様子である事が分かるのが不思議だ。

 

「で、今の魚雷は悪ふざけと言う訳ではないのだろう?」

 

 騒動が収まった所で沖田艦長が静かに問い掛けると、島や古代達に怒られて凹んでいた翡翠が口を開くより先に、傍に居た発光体『エテルナ』の意外に良く通る声が響く。

 

『ほら、ク――翡翠。早くしないと回廊が崩壊してしまいますよ』

 

 その言葉にこうしている場合ではない事を悟ったのか、水晶の椅子の上で姿勢を正した翡翠は、コホンと咳払いを一つする。

 

『さて、『ヤマト』のみんな。現状は分かっているよね? 元の世界に戻ったは良いけど、世界間の時間軸の差異で今は地球時間で半年の年月が過ぎている』

 

 改めて翡翠に指摘されて黙り込む一同……このままでは地球のタイムリミットが来て人類は滅亡してしまう。それでも『ヤマト』は進むだろう――故郷を救うという思いの強さを目の前で見ていた翡翠は、彼らの思いの強さ、鋼の意思を良く知っていた。

 

『――だから、最初で最後の手助け。クロニトン魚雷を四本同時起爆させる事により時間回廊を形成したわ』

『魚雷に装填されたクロニトン粒子が相互作用を起こして、今の時間と異なる別の時間軸へと繋げています』

『進んで『ヤマト』。時間回廊を通れば、亜空間ゲートを利用した時と同じ時間軸に行けるから』

 

 幸運を。そう言い残して翡翠からの通信が途絶えて、後方に存在していた巨大戦艦『アルテミス』の姿が陽炎の様に揺らいで、その巨体が宇宙に溶けるように消えてく……後に残ったのは、『ヤマト』とその先の空間に形成された時間回廊だけであった。

 

「……進もう。我々は前に進むしかないんだ」

 

 


 

 西暦2199年11月30日

 

 巨大戦艦『アルテミス』の助力により時間回廊を通った『ヤマト』は、過去の世界の大マゼランの前に到達する。改めて正確な時間を計測した結果、『ヤマト』が到達した時間軸は2199年の7月15日である事が判明した――イスカンダルへの航海を再開した『ヤマト』は、宇宙の要衝七色星団でガミラスの猛将ロメルを破り、イスカンダルの属するサレザー恒星系へと到達する。

 

 だがサレザー恒星系へと到達した『ヤマト』は、そこで驚くべき事実を知る。航海の目的地である救いの星イスカンダルと、宿敵ガミラスが双子星であるという事実を……紆余曲折を経てガミラス本星と休戦協定を結んだ『ヤマト』は、遂にイスカンダルへと到達して惑星再生システム『コスモリバースシステム』を受領して、地球へ帰還するべく航海を続けていた。

 


 

 宇宙戦艦『ヤマト』 艦長室

 

 『ヤマト』の第一艦橋の上層部に位置する艦長室には、病に伏せる艦長沖田十三がベッドにて安静にしていた。元々遊星爆弾症候群という病を押して『ヤマト』を指揮していたが、十六万八千光年もの未知の宇宙を航海するという過酷な旅は彼の身体に深刻なダメージを与えて、今はベッドから離れる事すら出来なくなっていた。

 

 遊星爆弾症候群は確実に沖田の身体を蝕み、意識すらも混濁して時折覚醒しては艦長室の外に広がる宇宙空間を眺めるという日々を過ごしていた……本来ならとっくに力尽きてもおかしくなかったが、コスモリバースを地球に持ち帰るという鋼の意思だけで持ちこたえている状態であった。

 

 沖田の意識が覚醒した時に、まず感じたのは息苦しさであった。体を捩って気道を確保しようとするが、意思に反して身体は身動き出来ずに荒い息をして少しでも酸素を取り込もうとしていた時、小さな手が沖田の身体を起こして気道を確保する手助けをしてくれる。

 ようやく楽になった沖田が目を開けると、そこには栗色の髪を持つ小さな少女の翠瞳があった。並行世界からこの世界へ帰還した時に『ヤマト』から降りた異星の少女が、何故ここに居るのか疑問に感じた沖田は目の前の少女に問い掛ける。

 

「……翡翠。君は星に帰った筈では」

「……『ヤマト』の事が気になってね。コスモリバース受領おめでとう、艦長のおじいちゃん」

 

 孫娘が居ればこんな感じなのだろうか、相好を崩して小さな頭を撫でる姿は好々爺といった感じであった。武骨な手に撫でられた翡翠は目を細めて心地よさそうにしている。

 

「ねぇ、艦長のおじいちゃん。聞きたい事があるんだけど――何で、艦長のおじいちゃんや佐渡せんせい、そして徳川のおじいちゃんは私に優しくしてくれたの?」

「……そうじゃのう、徳川君には地球に残した孫娘を重ねている所があるが、総じてワシら年寄りには子供は希望であり、未来そのものじゃからの。君も含めて、子供たちを見ると未来へと繋がっているという実感がわくんじゃよ」

「……そうなんだ」

「……ワシからも一つ良いかの?」

「……なに?」

 

 小首を傾げる翡翠に、沖田艦長はずっと気になっていた事を問う。

 

「君はことある事に“『ヤマト』に居る間は”翡翠だと言っておったじゃろう? ならば『ヤマト』から降りた今なら、本当の名前を教えてくれるだろうか?」

 

 沖田艦長に本当の名前を聞かれた翡翠は、一瞬きょとんとした表情を浮かべた後に苦笑しながら答える。

 

「私の名前は――」

 

 

 

 

 沖田艦長が再び目を覚ました時、すでにあの少女の姿は消えていた。一抹の寂しさのような物を感じながら、願わくはあの少女に幸多からん事を願って。そして『ヤマト』が地球に帰還するまで、この目に地球の姿を焼き付けるまで、意地でも死ねないと決意する。

 

 もし、またあの少女が『ヤマト』や地球に関わる時には、既に自分はいないだろう――共に戦う時が来るかもしれない。もしくは彼女と戦う事になるだろうか? そんな予感のような物を感じながら、沖田艦長は目の前に広がる宇宙空間を見つめた。

 

 願わくばそんな時が来ない事を祈って。

 

                    完

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 これにて、この小説も終わりになります。
 皆様、お付き合いくださり有難うございました。
 この小説で少しでもSTAR・TREKに興味を持ってくれた方が一人でもおられれば嬉しいのですか。

 『翡翠』の正体については『宇宙戦艦ヤマト2202 暗黒のプリンセス』までお待ちください(んなモノは無い。

 では、またどこかで(……もしくは『聖闘士市? ザコ蛇だってやるときゃやるざんす』で)
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