宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
第六十四話 呼び声
異星文明『ガミラス』の攻撃により、母なる海は干上がり大地は焦土と化して人類は滅亡の危機に立たされた。じわじわと滲みよる放射能汚染により生存圏を脅かされて滅亡の危機に立たされた人類の下に、遥か彼方大マゼランより新たな異星文明『イスカンダル』より、『次元波動理論』と惑星再生システム『コスモリバース・システム』の情報が齎されたのだ。
人類を滅亡の淵から救う為に赤く変貌した地球を元通りの青い星に戻す為に、人類は総力を結集して初の恒星間航行用宇宙戦艦『ヤマト』を建造して、16万8000光年の彼方にある救いの星『イスカンダル』へ大航海へと乗り出しただ。
様々な苦難を排し、宇宙戦艦『ヤマト』は『イスカンダル』にて惑星再生システム『コスモリバース・システム』を受領して地球へと帰還――そして地球は青い姿を取り戻した。
時に西暦2202年。宇宙戦艦『ヤマト』が帰還してから3年の年月が経った頃、新たな脅威が宇宙を席巻していた――『ガトランティス』。彼らの本隊が銀河系へと侵攻してきたのだ。彼らの目的はただ一つ――この宇宙に居る全ての知的生命体に等しく『愛』(死)を――大帝ズォーダーの大いなる意思を実現する為に。
宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち
紅い焦土と化した地球は、宇宙戦艦『ヤマト』が持ち帰った『コスモリバース・システム』により緑あふれる青い姿を取り戻した。
それからの地球は荒廃した都市群を復活させ、かつての暮らしを取り戻す為に精力的に働き、驚異的なスピードで復興して行った。
懸案である『ガミラス』の再侵攻に備えて既存の航宙艦を再設計して、武装面では主力の高圧増幅光線砲から陽電子衝撃砲に換装して、魚雷やミサイルも『ヤマト』に搭載されていた物を使用する事により大幅な火力の向上を実現し、それを支える量産型の波動エンジンによる大出力と波動防壁を装備する事で『ガミラス』艦とも対等に戦える宇宙戦闘艦を量産する。
とは言え、一度は敗北して国土を焦土と化した地球が再生したとはいえ、現時点では“すべて”が足りない状態であり、『ヤマト』の持ち帰った航海記録によれば敵の戦力は未だ一万近く存在しており、金剛改型宇宙戦艦、村雨改型宇宙巡洋艦、磯風改型突撃宇宙駆逐艦による再生地球艦隊を持って敵国『ガミラス』と戦う準備を整えたとしても、戦力差は如何ともし難いものであった。
――だが、そんな敵国である『ガミラス』より驚くべき提案がなされた。彼らから休戦の提案がなされ、以降の関係について協議したいとの連絡が来たのだ。
最初は疑心暗鬼に見舞われた地球は何かの罠でないかと考えたが、情報収集をするにつれて『ガミラス』国内で政変が起き、彼らも戦争を継続する余力がない事が分かる……そして何より、『ガミラス』本星での戦闘の折に『ヤマト』の取った行動が『ガミラス』人の世論に影響を与えている事が分かったのだ――かくして『地球』と『ガミラス』帝国は休戦の後に平和条約を締結したのだ。
復興に力を注ぎたい『地球』と国内の立て直しを図りたい『ガミラス』の双方の思惑が一致して、様々な思惑があるが表面上は平和な3年間が過ぎたある時期、辺境宙域に武装勢力が出現するようになった――強力な戦闘艦を有し、侵攻した惑星の住民を皆殺しにする残虐な脅威『ガトランティス』が。
当時の地球は『ガトランティス』の真の恐ろしさを認識しておらず、平和条約を締結したかつての敵国『ガミラス』と共に、辺境で殺戮の限りを尽くす『ガトランティス』の艦隊を排除するべく共同で艦隊を組んで対処していた。
その戦いのさなか――元『ヤマト』戦術長古代進を始めとした『ヤマト』のクルーは、遥か宇宙よりもたらされた『コスモウェーブ』の中で懐かしい人々に出会う。
『……古代。『ヤマト』に乗れ』
地球に迫る『ガトランティス』の大型戦艦を破壊した時、旧『ヤマト』のクルーの前に現れた“死者の声”……最初は戦闘における極限状態による幻覚かと思われたが、同時刻に太陽系全域で通信障害が発生し、『ヤマト』のレコーダーに記録されていた通信障害を引き起こした原因であろう情報を解読していた真田が解析装置で情報を展開した所でデーターが暴走して一つの映像を映し出す――たった一人で祈りをささげる女性の姿を。
「……見ただろ島。人だった、祈っている人……助けを求めて――真田さんも見ましたよね、俺達は此処へ行かなければならないんだ――此処に」
まるで熱に浮かされたような古代は、まるで何かに導かれるかのように『コスモウェーブ』の発信源へ向かう事を主張する――しかし“現実”はそう簡単ではない。『ヤマト』が地球に帰還して3年、クルー達もそれぞれの生活があり、復興を第一にしている連邦政府も不確かな情報に船を派遣する事に難色を示した。
どうにも出来ないもどかしさを感じている古代の前に『ガミラス』地球駐留武官クラウス・キーマンが現れ、秘密裏に古代を月面にある『ガミラス』の大使館へと誘う――そこで古代を待っていたのは、在地球『ガミラス』大使ローレン・バレルであった。
月面の大使館の中でバレル大使は語る――宇宙で語り継がれる伝説を――惑星『テレザート』。文明の頂点を極めたといわれる伝説の惑星。その星の民は人間の意志そのものを物理的な力に変え利用することが出来たという。
強大な力を得た彼らは何時しか肉体を必要としなくなり、精神だけの存在となった――そして生きた人間には決してたどり着けない次元の果てで一つの命となった――その名は『テレサ』。あの世とこの世の狭間にあって、すべての平安を願い続ける女神。
『テレサ』という高位次元の存在に呼ばれた事を知った『ヤマト』のクルーは戸惑う――高位次元の存在の強大さを『ヤマト』のクルーは良く知っていた――『Q』かつて並行世界へと迷い込んだ時に遭遇した超生命体。そんな超存在と同等かもしれない力を持つ存在が自分達を呼んでいる……もうこの世にはいない大切な人たちから宇宙で大きな災いが起きようとしている事を知らされた――『ヤマト』で旅した自分達だけがメッセージを受け取った、それは何か意味があるのかもしれない――彼らは決断した。『ヤマト』で『テレザート』へ向かう事を。
だが、そんな『ヤマト』のクルーの行動は、地球連邦の高官達には単なる反乱行為にしか映らなかった――滅亡の淵に立たされたという苦い経験をした彼らは、二度と地球を焦土にするまいと力を求めて『波動砲艦隊構想』を打ち立てて、地球の国力を高めるという選択をしたが故に見知らぬ異星系での争いに介入した結果、地球が戦火に巻き込まれる事を恐れた――そしてそれは思慮深い者達も結果として同意見であった。状況も分からぬままに飛び立つのは浅慮にしか見えなかったのだ。
『みんなよく聞いてくれ、これが俺達の現実だ。長官の仰る事も正しい――だが『ヤマト』は予定通り出航する。行かなければならないんだ、そこに救いを求める誰かが居る限り。義務からではなく、地球人はそうであって欲しいという願いに掛けて』
『ヤマト』のクルーの行動を若さゆえに浅慮だというのは簡単だ。
だが、滅びを経験したが故に力に頼る今の地球を良しとせず、『イスカンダル』に救われた地球人が、今度は誰かが困っている時には手を差し伸べられる存在でありたいと願うのを誰が笑えようか。
反逆の汚名を着ようとも、静かな青い海を切り裂いて『ヤマト』は旅立った――例えどんな困難が待ち受けようとも。
『ヤマト』が地球を旅立ったその頃、銀河系を含む局部銀河群より遥かな距離に一隻の白銀の船が航行していた。無数の銀河を眺めながら、銀河間の星間物質の密度の低い空間をただ一隻で航行する姿は、孤独な旅人のようであった――そこはラニアケア超銀河団と呼ばれる領域であり、直径5億2000万光年の領域に約10万個の銀河を包含している宇宙の巨大構造物の一つである。
そんなほぼ何もない空間を航行する白銀の船は、全長100キロを超える船体の形成する構成物質は流体金属で形成されており、仄かに輝きを発している船は限りなく低温である銀河間空間を物ともせずに航行していた。
『
流体金属の奥深にある主要施設の中にある結晶によって形成されたブリッジの中央に座るのは、『ヤマト』にいた頃は翡翠と名乗っていた少女であった。
彼女の本来の名は『クリス・エム』――突然のアクシデントにより宇宙戦艦『ヤマト』に保護され、共に流された並行世界を生き抜いて元の世界に帰還した事を確認した後に『ヤマト』を降りた彼女は、その後も逞しく生きていた。
『ヤマト』に乗船していた頃よりは少し背が伸びて身体を形成するラインも少しは女性らしくなっていた。『アルテミス』のブリッジにて瞳を閉じてシートに座っている彼女は、微動だにせず静かに座っていたがブリッジ内に警報音が鳴る事に気付いたクリスは、その瞼を開いて翠瞳を不機嫌そうに細める。
「――何ごと?」
『艦後方より強力なコスモウェーブが接近中』
「……そんなモノはシールドで弾き返せ」
『コスモウェーブは未知の特性を発揮してシールドを通過――本艦に接触し――』
『アルテミス』の統括思念体『エテルナ』の報告を受けている途中で、未知のコスモウェーブが『アルテミス』の船体に接触して、クリスの意識は何時の間にか黄金の空間へと迷い込んでいた。
「……これは、どこぞの高位存在の仕業かね――姿を現したらどうだ!」
翠眼を真紅に染めて油断なく周囲を警戒しているクリスの前に、何時しか紺色のコートを着た人物の後姿が現れる――クリスはその後姿に見覚えがあった。かつて亜空間跳躍実験の折にアクシデントにより迷い込んだ宇宙戦艦『ヤマト』において、艦の指揮を執っていた鋼の精神を持つ男。
「……艦長のおじいちゃん」
ゆっくりと振り返る、黄金の光に包まれた『ヤマト』艦長沖田十三を油断なく見据えるクリス――ここは『ヤマト』の属する天の川銀河から一億光年以上離れたラニアケア超銀河団の銀河間宙域である。こんな所にまで来られるほど『ヤマト』の能力は高くはないし、最後に会った時には沖田は気力のみで生きている状態だった。そんな彼が“ここに”居るなど、裏で糸を引いている存在がいるのは明白である。
「……悪趣味な事、この上ないわ」
渋面を浮かべるクリスに構わず沖田は口を開く。
『――翡翠。『ヤマト』を守ってくれ』
だがその言葉にクリスが頷く事は無かった。視線に力を込めて、睨み据えるかのように沖田を見つめるクリスは、沖田の他にもう一人の人物がその場にいる事に気付く――その人物が振り返った時、クリスの紅い瞳が大きく見開かれる。クリスと同じ栗色の髪を持つ壮年の男は、彼女と同じ白いボディスーツの所々に青い結晶体を備えていた。そして壮年の男は、クリスに向けて語り出した。
『『テレザート』に行くのだ。そこに全てがある――』
「……父さん」
『頼んだぞ』
呆然とした表情を浮かべるクリスに笑みを浮かべる二人はいつの間にか消えて、クリスは元の結晶体で作られたブリッジに佇んでいた。暫くは身動きすらせずに立っていたクリスだったが、次の瞬間には彼女の身体から紫電が周囲に放射された。
『――クリス!?』
驚いたような声を出す統括思念体に答える事無く、クリスは真紅の瞳を怒りの炎を燃やして身体の表面では小さなスパークが無数に起きていた――今の彼女は激怒していた。
「――『エテルナ』。反転160度、第二段亜空間跳躍準備――『炎の回廊』を通って、天の川銀河に向かう」
『――クリス、現在我々は作戦行動中です。よほどの事がなければ――』
「……私が見た物を司令部に送れ――そうすれば許可が下りる」
真紅の瞳のままシートに座るクリス。それ以降一言も発さない彼女とリンクした『エテルナ』は彼女がここまで激怒する理由を知って、それ以上の反論はせずに彼女の言葉通りに艦の向きを変える……彼女が激怒する理由は理解出来るし――なにより『エテルナ』も、彼女が見た物を見て怒りをおぼえたからだ。
続いて第六十五話を投稿します。