宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
『エンタープライズE』 艦長室
「以上が『ヤマト』での会談内容です」
「……並行世界の存在か、俄かには信じられんな」
ライカーから伝えられた内容に困惑した表情を浮かべるピカード。確かに連邦には平行世界の記録があり、ピカード自体も長い任務の間に様々な平行世界や、それを起源とする生命体と遭遇していた。
「そして『ガミラス』と呼ばれる異星人と戦争状態にある、か」
「『ヤマト』のクルーの大半が若い世代で構成されていました。戦いは長期間に渡って行われているのでしょう。艦長 彼らは遭難者であり、故郷に帰る事を強く望んでいます」
ライカーの話では、異星人との戦争に破れて絶滅寸前にまで追い込まれていると言う……ピカード達の地球も『ボーグ集合体』の侵攻を受けて危うく支配される寸前にまで追い込まれていた。そう考えると、彼らの心情も理解できる。
「彼らは故郷に帰る為に並行世界と周辺の宙域の資料を求めています」
「周辺宙域の資料は連邦の財産だ。おいそれとは渡す事は出来ん」
「ですが、このままと言う訳にもいかないでしょう。何処の勢力に取っても、あの動力源は垂涎の的ですよ」
『ヤマト』の動力源と思われるシステムは、その莫大なエネルギーを利用できれば新たな可能性の扉を開ける可能性がある。スキャンによる情報だけでもかなりの価値があり、もし『ヤマト』そのものを手に入れる事が出来れば、その価値は計りしれない物になるだろう。
だからこそ近隣の星間国家である『ロミュラン』や『クリンゴン』の手に渡ったり、ましてや最大の脅威である『ボーグ集合体』に同化されでもしたら……連邦は簡単に征服されてしまうだろう。
「火種の元には早急にお帰り願おうという事か……分かった、艦隊司令部に申請してみよう」
「ありがとうございます、艦長」
ニヤリと笑ったライカーが退出するのを見届けたピカードは、ため息を一つ付くと机の上の通信システムを操作して地球のカリフォルニアにある宇宙艦隊司令部に勤務する、ある提督を呼び出す……数回のコールの後に件の提督の姿が映し出された。
『あなたから通信なんて珍しいわね、ジャン・リック』
「これはジェンウェイ提督、ご無沙汰しております」
通信システムのビューワーに映し出されたのは、最近提督に昇進したキャスリン・ジェンウェイ提督であった。微笑を浮かべるジェンウェイ提督に笑顔を浮かべながら答えるピカード艦長。
「すでに此方の状況はお分かりだと思いますが」
『ええ、未知の船との会談を持ったと聞いているわ』
双方笑みを浮かべながら会話するがピカードに油断はない――キャスリン・ジェンウェイは連邦域から七万五千光年も離れたデルタ宙域にたった一隻で飛ばされて、孤軍奮闘の後に七十年以上かかる道のりをたった七年で帰還した功績を持って提督へと昇進した相手なのである。
「提督、先ほど『ヤマト』との会談は終了しました。詳細は今送った資料を確認していただきたい」
『ええ、届いたわ……並行世界の存在ねぇ。中々興味深い船のようね』
「彼らは自分達の世界から放り出された、言うなれば迷子のような存在です。出来るなら援助したいと思います」
我らながら狡い言い方をしていると思う。突然未知の存在によって七万五千光年の彼方に飛ばされ、多大な犠牲を払いながら帰還したジェンウェイに自身の過去と同じ境遇の存在が居ると伝えたのだから。
「彼らは自分達の世界に帰還する為に、平行世界の資料と近隣宙域の星図を求めています」
『ジャン・リック。あなたも判っているでしょうけど、星図は先人達が危険を顧みず己の命を掛けて作成したものよ。おいそれと渡せるものではないわ』
「それは重々承知しております。ですが『ヤマト』は連邦の属するアルファ宇宙域の軍事バランスを崩しかねない存在です。このまま放置しては望ましくない結果を齎しかねません」
『……』
鋭い視線のまま沈黙するジェンウェイ提督。
「ならば彼らの帰還に協力したいと考えています」
『気持ちはわかるけど』
「もちろん、此方も条件を出します。彼らが動力源としているシステムのデーターと引き換えにします」
しばらく考え込んでいたジェンウェイ提督だったが、考えをまとまったのか話し出す。
『『ヤマト』には航路計画を提出して貰う事と動力機関の資料と引き換えに、平行世界の資料と周辺宙域の星図を提供する事を認めます』
「ありがとうございますジェンウェイ提督」
『『ボーグ』を撃退したと思ったら新たな厄介事、休む暇がないわね』
「何、まだまだ若いですからね」
双方笑みのまま通信を終えると、ピカードは席を立って艦長室よりブリッジへと入室する。
彼に気付いたライカーが視線を向けて来た。
「ウィル、許可が降りた。彼らの動力機関の資料と引換に提供することになる」
「妥当ですね」
「それと連絡士官を一名『ヤマト』へ送ろうと思う」
「誰を送りますか?」
ピカードはしばらく考えると、
「データー、『ヤマト』へ連絡士官として乗り込んでくれ」
「了解しました艦長」
「データー、せいぜい派手な音を出す鈴になるんだぞ」
了承するデーターに向けてライカーが軽口を叩くが、私に音を鳴らす機能はありません、と真顔で答えられて軽口が不発に終わった。
『ヤマト』中央作戦室
シャトルを見送った古代が中央作戦室へ入室すると既に主要メンバーは揃っていた。全員が揃った事を確認した真田は、『エンタープライズ』からの使者であるライカー副長との会談内容を説明する。
それは俄かには信じがたい物であり、特にデーター少佐の発言についてはクルー達に激しい動揺を与えた。
「……平行世界?」
「そんな馬鹿な!?」
島と徳川は信じられず。南部や加藤もまた驚きに言葉を失っていた。
「信じられないのは私も同じですが、彼らの言葉を信じるならば彼らは別の道筋を辿った地球人であり、この宙域は彼らの勢力圏内であると言う事です」
真田の報告を聞いて難しい表情を浮かべる沖田艦長。
彼らの言葉を真に受けるならば銀河系内の星の軌道がズレている件や、自分達の知らない地球製の宇宙船の存在、そして『ヤマト』が銀河系に戻ってしまった事に一応の説明が付く――だが問題なのはそこではない。
「例えここが平行世界であろうと、我々のやるべき事は変わらない。それは一刻も早く航路に戻りイスカンダルへ向かう事だ」
そう『ヤマト』の目的はイスカンダルへと赴き、地球環境を改善するコスモリバースシステムを受領して地球に持ち帰る事だ。その為にも諦める事は出来ない。『ヤマト』は何としても地球に帰らなければならないのだ。
「艦長。亜空間ネットワークに記載されていた銀河側のゲートへ向かってはどうでしょう? もしかしたらゲートに類する存在がある可能性もありますし、無ければ無いで彼らの話の信憑性が増して此処が平行世界である確証となります」
真田の報告では、彼らエンタープライズが属する惑星連邦には平行世界の情報があると言う。ならばこの宇宙から自分達の宇宙へと帰還する為の助けになる可能性がある。
「ではエンタープライズからの返答を待って、『ヤマト』は銀河側ゲートへと向かう。総員準備せよ」
沖田艦長の号令の下、クルーはそれぞれの部署へ向かう……衝撃の事実に一時的な停滞をしていたが『ヤマト』は再び動き出した。
『ヤマト』第一艦橋
沖田艦長の号令の下、『ヤマト』のクルー達は艦体のチェックを終えて発進準備を整えた――後は『エンタープライズ』からの返答を待つのみである。
そうしている内に再び『エンタープライズ』から通信が入る。沖田艦長の命令により相原が通信機を操作して天井のパネルに映像を映し出す。『エンタープライズ』のブリッジが映し出されると中央の艦長席に座っているピカード艦長が立ち上がり、モニターへと近づく。
「沖田艦長。連邦宇宙艦隊司令部に問合わせた結果、宇宙戦艦『ヤマト』への情報提供の許可がおりました」
「感謝します、ピカード艦長」
「故郷を思う気持ちは理解出来ます。ですが条件が三つ程、余計な混乱を避ける意味でも航路は事前に艦隊司令部に申告する事。そして宇宙艦隊の士官を一人、『ヤマト』に乗り込む事を認める事。最後に貴方がたの動力源関連の資料を頂きたい」
つまり彼らの勢力圏で勝手な行動はするなという事か。しかし『波動エンジン』の資料が欲しいとは、思っている以上に『ヤマト』は危険な状況にあるようだ。だが破格の待遇である事には変わりない。
「了解しました、ピカード艦長。そちらの人員を受け入れた後、我々は出発しようと思っております」
その後、『エンタープライズ』から宇宙艦隊司令部と連絡を取る為に乗り込んでくる士官に亜空間通信機を持たす事などが決められる――これは超光速通信と似て時空連続体一部である亜空間を介して通信ネットワークへと接続するシステムである。
『エンタープライズ』からシャトルが発進して『ヤマト』へのアプローチに入る。しばらくして第三格納庫よりシャトル収容の報告を受けた沖田艦長は『エンタープライズ』に通信を送ると、程なくして返答があった。
「此方『エンタープライズ』。どうやら無事到着したようですね」
「色々援助して頂き感謝します、ピカード艦長」
「航海の安全を祈っています、沖田艦長」
「ありがとう、では」
通信を切った沖田艦長は第一艦橋に居るクルー達を見回すと、操縦席に座る島へと指示を出す。
「取舵反転一二〇度、『ヤマト』発進!」
「取舵反転一二〇度ヨーソロ! エンジン出力全開、『ヤマト』発進します」
島の操作により設置されたスラスターが『ヤマト』の艦体を動かして目的地である銀河側ゲートのある方角へと艦首を向けると波動エンジンの膨大な出力が『ヤマト』の巨体を押し出す。
加速していく『ヤマト』を見届けた『エンタープライズ』もインパルス・エンジンを点火して加速していき、両翼にあるワープ・ナセルが青白い光を放つと一気にワープへと突入した。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
今回、第五話をお送りしました。
元の世界への帰還を果たす為、一抹の希望にすがる『ヤマト」彼らの航海の先に待ち受ける者とは?
では、また近いうちに。