宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第七十話 悪魔の誘惑 重すぎる選択

 

 土星圏 アポカリクス級航宙母艦『バルゼー』艦橋

 

 全長1200メートルを超える巨大航宙母艦の艦橋で指揮を執る第七機動艦隊司令長官バルゼーは、『ガトランティス』の太陽系侵攻に抵抗する地球の艦隊との戦いの推移を見ながら首を傾げる。

 

 自らの生存を掛けて死に物狂いで抵抗するのは知的生命体の常だが、この種族の戦闘艦はいくら破壊しても尽きる事がないかのように次々沸いてくる……いくら『波動砲』という大砲を装備していても、これだけの物量を持って侵攻しているのに何故奴らは“折れない”。

 

 今も敵の増援艦隊が次々ワープアウトしてくる……これが一惑星の、しかもつい最近滅亡寸前にまで行った種族が持つ戦力なのか?

 

 


 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』医療区画

 

「はぁ~~、これはどえらいシロモノだぞ。一体どこで――」

「――本物なんですね! これで、遊星爆弾症候群を治せるんですね!?」

 

 航空隊隊長加藤が持ち込んだ薬のサンプルを解析した佐渡は、薬の効能の凄まじさに舌を巻きながらも薬の出所を聞こうとするが、鬼気せまる表情を浮かべた加藤の気迫に気圧される。

 

「……そうか…治るのか……治るのか」

 

 治ると言うのに絶望しきった表情を浮かべる加藤の様子に、訝しげに眉を寄せる佐渡。何故彼はこんな諦めきった表情を浮かべるのだろうか? 

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』拘置室

 

 拘置室のベッドに座る桂木透子は、室内を監視するカメラが停止して換気装置のカバーが閉まるに気付いて姿勢を正す……ほどなくして拘置室のドアが開いて一人の男性が入って来る……航空隊隊長加藤三郎であった。

 

「……これで分かったでしょう? あの薬を使えば貴方の子供は助かる――同じ病に苦しむ他の子供たちも」

 

 圧倒的優位に立つ桂木透子は、淡々とした口調ながらも相手をなぶるかのようにゆっくりと、一つ一つ確認するように語り掛け、その言葉を聞く度に追い詰められていく加藤。『ガトランティス』のスパイは桂木透子一人ではない、拘置室で監視されている彼女に薬を作る事など出来る筈もない――そして何より今まで接点の無かった加藤の家庭事情を何故知っている? 『ガトランティス』は死者を材料に蘇生体を製造して敵勢力に潜り込ませている事が判明している。

 

「レシピは簡単、ここで作れたんだから――要は組み合わせ――」

「――誰だ! 誰がお前に協力している!? 言え!」

 

 桂木透子の言葉が終わらぬ内に激高した加藤は桂木の服を掴んで首を圧迫しながら詰問するが、桂木は余裕を崩さない。

 

「――良いわ、殺しなさい。私が死ねば、子供も――」

 

 桂木透子が死ねば薬のレシピを知る者の手がかりも無くなる……目の前に子供の命を救う術があるのに、それが永遠に手の届かないモノになる……そう考えると、締め上げる手の力を籠められない加藤……自分にこんな酷な選択を強いるこの女が許せないのに、殺す訳には行かない。

 

「……何故だ! 何故こんな事を!? おまえらの力なら、『ヤマト』も地球も簡単に潰せるだろう――何で!?」

 

 何で自分なんだ――敵である『ガトランティス』が子供の命を救う薬をただで渡す訳がない――奴らの要求は十中八九予想できる――だか、何でそんな回りくどい手を使うのか理解出来なかった。

 

「――ゲームよ。愛が人を苦しめるっていうゲーム。だから約束は必ず守る……そうでなくちゃゲームは楽しくないわ」

 

 そう語る桂木透子が、加藤には恐ろしいバケモノにしか見えなかった。

 

 


 

 

 帝星『ガトランティス』

 

 諜報記録長官ガイレーンは地球艦隊と交戦するバルゼーの報告に疑問を覚えて、潜入させた蘇生体などを使って星の規模に似合わぬ物量を有する地球のからくりを調査させており、その調査結果が判明した。

 

「――なるほど。分かりました、あの星のからくりが」

 

 それは大帝玉座の間に座るズォーダーにも伝えられる。

 

「――時間断層……サーベラー!」

 

 ズォーダーの意を汲んだサーベラーは、帝星『ガトランティス』を相転移次元跳躍の指示を出して巨大な白色彗星は最後のワープを行い――土星圏へとその巨大な姿を現す。

 

 木星にも匹敵する直径14万キロにも及ぶ巨体は、高速中性子と高圧なガスによって構成されており、その巨体故の高重力によって土星のリングは崩れて土星自体も高重力によって崩壊して行く。

 その姿はこれまで戦っていた『ガトランティス』の大艦隊など何の脅威にもならないちっぽけな存在へと落とし、集結した地球艦隊もその高重力の影響を受け始めて隊列に若干の乱れが生じる。

 

「白色彗星出現、予測進路……地球です」

「全艦隊、交戦態勢を維持しつつ後退――引き続き、プランMに移行する」

 

 高重力の影響圏外へと退避した防衛軍艦隊は、旗艦『アンドロメダ』と他のアンドロメダ級を中核として左右に量産型武装運用システムとして建造されたドレットノート級主力戦艦が展開して、『波動砲』による一斉攻撃の陣形を取る。

 

「――全艦、『波動砲』へのエネルギー充填」

 

 アンドロメダ級より重力子スプレットを射出されて、防衛軍艦隊の前面に重力フィールドを形成する――これは防衛軍艦隊から発射される多数の『波動砲』を束ねて撃ち出す機能を持つ。各艦の『波動エンジン』からエネルギーが充填されて艦首にある波動砲口に苛烈な輝きが溢れる――集結して波動砲口に輝きを溢れさせる地球艦隊を、帝星『ガトランティス』の玉座に座りながら余裕の笑みを浮かべて見る大帝ズォーダー。

 

「発射10秒前、9,8,7,6,5,4,3,2,1――」

「――発射!」

 

 山南の号令の下、千隻近い『波動砲』搭載艦より極光の輝きが放たれて、前面に展開された重力フィールドに接触――千近い輝きは収束されて巨大な破滅の輝きとして束ねられて撃ち出される――途中で展開する多数のカラクラム級を瞬時に蒸発させながら突き進み、高速中性子と圧縮されたガスによって形成される白輝の渦と接触――あらゆる物を粉砕してきた白色彗星の超重力によって形成されていた高圧ガスの雲を吹き飛ばした。

 

 千本近い『波動砲』の輝きを束ねて白輝の一条の矢として撃ち込まれたその威力に誰もが勝利を確信した時、吹き飛ばされた高圧ガスの燻りの中に巨大な影が映し出される――徐々に広がって行く視界の中に惑星の影が現れる……その影は一つではなく複数あり、その惑星を捕らえる巨大な牢獄の檻が見え始めて、その頂上には惑星を遥かに超える規模の構造物に十個の赤い光が灯っていた。

 

 それだけでなく人工的な青い光を放つ巨大な檻の周囲には、これまで戦ってきた――否、それ以上の大規模な『ガトランティス』の艦隊が姿を現す……高速中性子と圧縮ガスの雲の中に潜んでいた『ガトランティス』の大艦隊がその姿を現したのだ。

 だがその大艦隊が霞むほどの威容を持つのが奴らの本拠地である帝星『ガトランティス』だ。巨大ガス惑星の直径に匹敵する複数の檻と、その上に存在する惑星クラスの構造物、そして眼下を見下ろす十個の赤い瞳の様な構造物――木星クラスの巨体の中には檻で囲まれた複数の惑星の姿があり、どれほどの文明レベルと技術が有れば、巨大惑星に匹敵する構造物を建造できるのか想像すら出来ない。

 

 誰もが『ガトランティス』の強大さに絶句して身動きすら忘れて呆ける中、天守閣のように伸びる構造物の上方に位置する大帝玉座の間にて、玉座に座っていたズォーダーは立ち上がって眼下に居る防衛軍艦隊を見下ろす。

 

「――踏み潰せ」

 

 大帝ズォーダーの命の下、巨大ガス惑星規模の構造物は前進を始め、白色彗星の時の超重力によって崩壊を始めていた土星を破壊しながら進む帝星『ガトランティス』――巨大な人工天体がゆっくりと進んで来るという現実感のない状況で正気に戻った山南は、再び全艦に『波動砲』へのエネルギー充填を命じる。

 

 白色彗星を形成していた高速中性子と高圧ガスの渦を消し飛ばした『波動砲』ならば、天体規模の巨大構造物をも崩壊させる事が出来る筈だ――というよりも、天体規模の敵にダメージを与える事が出来るのは『波動砲』のみと言うのが正しいだろう。

 

 再び防衛軍艦隊の艦首が極光の輝きを放ち始める――だが『ガトランティス』もたた見ているだけではなかった。『波動砲』へエネルギーが充填されている間に、帝星『ガトランティス』の巨大構造物に今まで無かった赤いリング状の物が複数現れる。

 

「――『波動砲』、撃てぇえ!」

 

 山南の号令の下に千本近い極光の輝きが帝星『ガトランティス』襲い掛かるが、紅いリング状の物が放つフィールドが千本近い『波動砲』の破壊力を完全に防ぎ、帝星『ガトランティス』はおろか付近にて待機している『ガトランティス』の大艦隊にすら何の影響も与える事が出来なかった。

 

 切り札である『波動砲』が何のダメージを与えて居ない事が信じられず、バイザーを上げた山南は呆然とした表情を浮かべている。だが敵はそんな防衛軍の狼狽をあざ笑うかのように、再び超重力を発生させて周囲に漂うガスや破壊された艦艇の残骸を引き寄せ始めて、影響を受けた防衛軍の艦隊は隊列を保てずに帝星『ガトランティス』に引き寄せられていく。

 

「――重力傾斜高まる、計測不能!」

「――反転180度、離脱!」

 

 整然とした艦隊運動など取れる筈もなく、ただ生きる事を目的とした離脱行動を行う防衛軍の艦船群は、傍から見れば烏合の衆と化していた――そんなバラバラに離脱を図る防衛軍の艦隊に、待機していた前期ゴストーク級ミサイル戦艦群より艦首に備え付けられた大型ミサイルの先に追加されている槍状の超大型ミサイルのような物が一斉に発射されて、逃げ惑う防衛軍の艦船に襲い掛かる。

 

 『アンドロメダ』の付近まで到達した槍状の超大型ミサイルは、その場で爆破して周囲に破壊の魔の手をばら撒く。その破壊力は凄まじく、直撃していないにも関わらずに『アンドロメダ』と空母タイプの『アポロノーム』大打撃を与え、『アンドロメダ』は象徴とも言える二連装の波動砲口を完全に破壊されて敗走するしかなかった。

 

 超大型ミサイルの攻撃に多数の防衛軍艦艇が破壊されて、生き残った艦は全速で戦闘宙域からの離脱を図っている……周囲に漂っていたガスを集めて再び白色彗星としての姿を取り戻しつつある帝星『ガトランティス』の大帝玉座の間で、無様に逃げ出す防衛軍の姿を見降ろす大帝ズォーダーは勝利を確信して笑みを浮かべ――何時しかそれは高笑いへと変わって行った。

 

 


 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋

 

 天井のパネルにて防衛軍の闘いの一部始終を見ていた『ヤマト』のクルーは、防衛軍と『ガトランティス』との戦いの結末に絶句するしかなかった

 

「……なんだよ、あれ」

「……あれが『ガトランティス』の」

「……あんなのと、どうやって」

 

 圧倒的な物量を誇る『ガトランティス』に対して、『波動砲』を搭載した新鋭艦隊で戦いを優位進め――千隻近い『波動砲』の一斉砲撃を持って『ガトランティス』の本拠地である白色彗星に挑んだ結果――その巨大な力の前に防衛軍艦隊は瓦解した。

 

 そんな敵を相手に、今更『ヤマト』一隻が加わった所で何が変わる……『ガトランティス』が見せた力の前に戦意が折れて途方に暮れる『ヤマト』のクルー達の中で、それでも戦う意思を失わなかった古代は戦闘指揮席から己の意思を奮い立たせる意味でも立ち上がり、顔色の悪い仲間達を鼓舞しようとするが、今の彼らには心強い先達者が居た。

 

「――古代。『トランジット波動砲』に全てを賭けるぞ」

「……はいっ!」

 

 圧倒的な戦力を保有して技術力でも遥かに差が有った『ガミラス』との地獄のような戦争を経験した土方艦長達は、此方の攻撃は技術力の壁で弾かれて殆ど有効な効果を発揮しない絶望的な状況でも沖田艦長や土方艦長を始め古参の戦士たちは戦ってきた。

 

 今の『ヤマト』には、『テレサ』のいう縁の力によって形になった『トランジット波動砲』がある。かの女神は、縁の力が『ガトランティス』を止めるだろうと言った――奇しくも様々な縁によって『ヤマト』に集った自分達の縁の力を信じよう。

 

 土方艦長は若い『ヤマト』のクルーにそう伝えて、『ヤマト』を混乱する戦場へ向かう為に最後のワープを行うよう指示する――自分達の敗北は地球人類ひいては宇宙に住む全ての知的生命体の滅亡を意味する――信じよう。これまでやって来た事が無駄ではなかった事を――信じよう。滅びの淵からも這い上がって来た自分達の力を。

 

 最後のワープを終えた宇宙戦艦『ヤマト』の前には、元の姿を取り戻しつつある巨大な白色彗星の姿がある。並行世界でも『ヤマト』は強大な戦闘力を有した『ボーグ・キューブ』の堅牢な壁の如き艦と対峙したが、今回は『ヤマト』の前面そのものが白い巨大な壁となって立ち塞がる――それでも『ヤマト』は自分達が紡いできた縁の力を信じて立ち塞がり、大帝玉座の間にて玉座に座るズォーダーは、たった一隻で立ち塞がる『ヤマト』に口角を釣り上げる。

 『ヤマト』のクルー達が見つめる先には『波動砲』発射装置のトリガーを握る古代がいた。誰よりも『約束』に拘り、『引き金』をひく事に躊躇した彼は覚悟を決めてトリガーを握る――全ては未来の為に……だが、悪魔は何時も静かに忍び寄る。

 

 


 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』拘置室

 

 装置室のベッドに腰かけたクラウス・キーマンは、白色彗星が存在するであろう方向を見つめながら事の正否を待つ。ここまで来れば自分に出来る事はなく、今はただ『トランジット波動砲』が成功するかどうかに賭けるしかなかった。

 そんな彼の耳は空調設備の奥から漏れ聞こえてくる女性の薄い笑い声を捉える……虜囚の身でありながら、圧倒的な力を持つ『ガトランティス』に挑む『ヤマト』をあざ笑っているのだろうか。

 

「うふふぅ……死に向かう子供を救えるのは親の愛だけ――そうでしょう。それはかけがえのない愛、身勝手な…愛。全てを破壊する……愛」

 

 違う! コイツは虜囚の身でありながらも『ヤマト』に何かを仕掛けてほくそ笑んでいるのだ。

 

「――お前! 何をした!?」

 

 


 

 

 戦闘態勢を取り誰もが持ち場にて緊張の中に居る中、『ヤマト』の艦内通路を一人の男が歩いていた。その足取りはおぼつかなく、表情はまるで幽鬼のように、何かに取り付かれたかのように生気が削げ落ちながらも男は一歩また一歩歩いて行く。その手にはクラウス・キーマンが仕掛けた反波動格子の制御デバイスを握り、何かに取り付かれた男はぽつりと呟く。

 

「……翼」

 

 制御デバイスを握る手は震え、苦悩に歪む表情を浮かべるのは航空隊隊長加藤三郎であった。遊星爆弾症候群に侵されて死の淵をさ迷う我が子の命を盾に、桂木透子ことシファル・サーベラーに『ヤマト』か子供の命かを選ぶという選択を強いられた男は、目に涙を溜めながら自分が握る制御デバイスを見つめる。

 

 愛する子供の命を救う為に差し出す代償が、これまで苦楽を共にしてきた『ヤマト』の仲間の命……今ここで反波動格子を活性化させれば再び『ヤマト』の心臓部たる『波動エンジン』が停止して、『ヤマト』は『ガトランティス』に破壊されるだろう……自分の命だけならば惜しくはない――だが、『ヤマト』の仲間全員の命を差し出すなど、出来る筈がない! しかもそれだけでなく、『ヤマト』が敗北すれば『ガトランティス』は地球に到達して多くの命が失われる。

 

 子供の命か、その他の多数の命かを選択せよと言うのだ……それは一人の人間が背負うには大きすぎる選択である。その他の命には、これまで苦楽を共にしてきた仲間達の命も含まれている……『ガミラス』との地獄の様な戦いを共に生き抜き、『イスカンダル』へ到達した時には肩を組んで喜びを分かち合った大切な仲間達の命を差し出せとあの悪魔は言うのだ……出来る筈がない……だがそうしなければ子供が……生まれてから三年にも満たない人生、これから色々な経験をするだろう、楽しい事もあれば辛い事もあるだろう……だが、それは生きているからこそ感じられる事なのだ。

 

「――翼! ……ゴメンなぁ…とうちゃん……地獄へ行くわ」

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 ヤマト2202がすごいと思うのは、この一連のエピソードがあるからなんですよね。愛する者と大切な仲間達を天秤にかける事を強要される……貴方ならどうしますか?

 では、次回。波動エンジンが沈黙して都市帝国へと落下する『ヤマト』。手痛い敗北を喫したがあきらめる訳には行かなかった……

 第七十一話 ヤマトを継ぐ者 その名は銀河

 では25日0時に、ではでは~。
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