宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋
今まさに『トランジット波動砲』を放とうとしたその時に『ヤマト』の艦首に集まっていた極光の輝きが消え去り、『ヤマト』の全システムが沈黙した。
「――なんだ!?」
「――機関長! 推力が!?」
システムが沈黙した影響で照明が落ちて非常灯に切り替わった第一艦橋で、発射寸前だった古代は事態の変化についていけず、操舵稈を握る島は『波動エンジン』からの応答がない事に焦りの色を浮かべる。
「……『波動エンジン』沈黙!」
機関制御席で『波動エンジン』を復旧させようと様々な試みを試す徳川だったが、肝心の機関室も大混乱に陥っているようで手の打ちようが無かった。突然の動力停止に大混乱に陥っている第一艦橋の中で、技術支援席で呆然とした表情を浮かべていた真田は、考えられる事態として一つの考えが浮かんだ。
「……まさか、反波動格子の暴走」
その声はけっして大きなモノではなかったが、大混乱に陥る第一艦橋内に響いて艦橋クルーは沈黙する……起死回生の切り札として発案された『トランジット波動砲』。『波動エンジン』に巣くう反波動格子という病原を燃やし尽くして『波動砲』の威力を増大しようという作戦の根本的な所が瓦解したという事実。
「――彗星帝国の重力エリアの突入します!?」
誰もが言葉を失う中、制御を失った宇宙戦艦『ヤマト』は白色彗星の超重力に囚われて白く輝く圧縮されたガス雲へ向かって落ちて行った。
地球艦隊との戦いに勝利した『ガトランティス』の本拠地『帝星ガトランティス』は、木星規模の巨体に再び高圧ガス雲をまとって白色彗星としての姿を取り戻そうとしていた時、眼前に立ち塞がるようにワープアウトしてきた宇宙戦艦『ヤマト』。
切り札たる『トランジット波動砲』を持って『帝星ガトランティス』に一太刀浴びせるべく発射態勢に移行していた『ヤマト』だったが、『ヤマト』の心臓部たる『波動エンジン』に巣くう反波動格子の影響によって動力の全てを失って、惑星規模の『帝星ガトランティス』が放つ超重力によって『ヤマト』は何の抵抗すら出来ずに木の葉のように『帝星ガトランティス』が纏う高圧ガス雲へと落下して行く。
必死に操舵稈を握る島は『ヤマト』の立て直しを図るが、動力を失った『ヤマト』から反応はない。機関制御席にて機関室と連絡を取りながら『波動エンジン』の再起動出来ないか色々な方法を試す徳川だったが……その表情は芳しくない。
この危機的状況の中で誰もが出来る事をしようとしているが、心臓部である『波動エンジン』が沈黙していては出来る事というのは限られている――そんな中で通信席から相原の報告があった。
「――『アンタレス』より緊急入電、「我『ヤマト』後方に待機セリ。まもなく離脱限界、長くは留まれない。あらゆる手段を用いて、速やかに脱出されたし」
『ヤマト』の危機を知った空母タイプのアンドロメダ級5番艦『アンタレス』が、両舷に主力戦艦を接弦する形で推力増大を図って『ヤマト』の救助の為に超重力に抗いながら接近してきていた。
艦長席に座る土方は絶望的な状況の中で視線を後方に飾られている前艦長沖田のレリーフに向ける……『ガミラス』との絶望的な戦いを共に戦い、『イスカンダル』という他の銀河に位置する未知の惑星への航海を、文字通り命を懸けて成し遂げた親友が遺した艦……だが。
(……沖田…すまん)
「全乗組員に告ぐ――総員、退艦。本艦は機関に損傷をきたし、敵の重力圏に引き込まれている。各班、速やかに退艦――後方の『アンタレス』に移乗せよ」
艦長として決断する土方。その決定は今まで『ヤマト』で航海して来た古代や島や南部などの若いクルーには耐えがたい物であったが、機関に重大な損傷を抱えた『ヤマト』で出来る事はもう無い……これまでにも様々な経験をして来た徳川や真田は一定の理解を示すが、それでも割り切れない者も居た。
「……嫌だ」
「……島」
「――嫌だ! 俺は『ヤマト』に――」
「――反論は許さん!」
『ヤマト』に拘る島の肩にそっと手が置かれる。これまでにも幾つもの航宙艦に乗って来た徳川が若い島に諭す――責任ある者の姿を。誰もがこの『ヤマト』に愛着を持っているが、責任者が動かねば他のクルー達にも迷いが生じる……そうなれば退艦行動にも支障が出て助かる命も助からない事になりかねない……だからこそ。
「――行こう。辛くとも、それが責任者の役目だ」
白色彗星へと落下していく宇宙戦艦『ヤマト』から、続々と艦載機群が脱出していって、後方で待機する『アンタレス』へと退避して行く。それは艦載機の推力では脱出が出来ない脱出限界点まで続き、『アンタレス』は反転して離脱行動へと入る……圧縮されたガスの流れに翻弄されながら落下していく『ヤマト』を尻目に。
宇宙戦艦『ヤマト』を失った地球艦隊だったが、抵抗の意思を失った訳ではなかった。元の姿を取り戻して白く輝く白色彗星の放つ超重力圏より離脱を図る地球艦隊。だが、それを許すような生易しい相手ではない――前期ゴストーク級ミサイル戦艦群より艦首に備え付けられた大型ミサイルの船体に追加されている高次元エネルギーを装填された槍状の超大型ミサイルのような物が一斉に発射されて、敗走する地球艦隊に止めの一撃を与えんと猛スピードで迫って来る。
「――ダメです! 機関に重大なトラブルが発生してこれ以上出力が上がりません!」
「――補助動力だけでもいい! とにかくスピードを上げるんだ!」
槍状の超大型ミサイルによる損害によって『アンドロメダ』の『波動エンジン』には重大なトラブルが発生して、推力が上がらない所か何時『波動エンジン』が停止するか分からない状況であり、『アンドロメダ』の機関長は後方から迫り来る槍状の超大型ミサイルの第二撃を回避するべく打てる手をすべて打つが、思うように推力は上がらずに後方から槍状の超大型ミサイルが迫って来る。
もはや万事休すかと『アンドロメダ』の艦橋で迫り来る槍状の超大型ミサイルを睨む山南艦長の眼に、突然強力な波動防壁の壁が形成されて衝突寸前の槍状の超大型ミサイルの進路を阻む。
「――これは」
『ヤマト』から脱出してアンドロメダ型空母『アンタレス』の飛行甲板に着陸しているコスモ・シーガルの艇内で負傷の手当てを受けていた真田も、壁のように広がる強力な波動防壁を見ていた。
「……巨大な波動防壁――はっ!? まさか――」
真田の推測は正しかった――時間断層の中で急ピッチで建造されていた『ヤマト』級3番艦 波動実験艦『銀河』が完成して、いま増援の地球と『ガミラス』の連合艦隊と共に戦場に到着したのだ。
同型艦ゆえに『ヤマト』と同じ主船体を持つが、上部構造部分は対空装備のパルスレーザー群を排して大小二つのドーム型の実験施設を持ち、小さめのドーム施設から後方に伸びる構造物を持つ艦橋がそびえている。
『ヤマト』と同じように配置された艦橋内では、波動実験艦『銀河』の艦長である妙齢の女性が白いコートを着て艦長席に座っていたが、敗走する味方を救う為に強力な波動防壁を展開して救った事に安堵しながらも立ち上がって、目の前に広がる白色彗星の威容に不退転の決意を持って宣言する。
「……ここから先は通さない――『ガトランティス』!」
銀河系辺境域 戦艦『アルテミス』ブリッジ
『バイオ・シップ』との戦いに敗北した『アルテミス』は、白銀の輝きを失って船体を構成する流体金属も黒く変色して、鏡のように全てを反射していた流体金属は黒い金属の塊と化していた。
黒く変色した金属の船体には戦闘の折に『バイオ・シップ』の眷属が突き刺さっており、戦いの激しさを物語っていた――眷属の中には勢い余って『アルテミス』の船体奥深くまで突入して、内部にある主要施設にダメージを与えているモノもあり、その中の一体は中枢であるブリッジのある施設を貫いているモノもいた。
本来なら仄かな青い光を発しているブリッジを構成する結晶体も輝きを失い、貫いている眷属から伸びる複数の触手がブリッジ内の至る所に突き刺ささって無残な姿をさらしていた。そんな目を覆うようなブリッジに突き刺さった一本の触手の先に結晶体とは別の何かが貫かれていた……力無く垂れた四肢、栗色の髪は乱れて微動だにしない人の形をした物――クリスであった。
ブリッジを破壊した眷属に変化が起こって表面に亀裂が入ったかと思うと上下に広がって巨大な眼球が姿を現す――伸ばされた幾つもの触手のうちクリスを貫いた触手が振動すると、突き刺さった結晶体から抜けてクリスを貫いたまま眼球の手前まで持って行く。
それはまるで自らの行いを誇って成果を確認するかの様であった。触手により巨大な眼球の前に持ち上げられたクリスは、頭垂れていた状態から顔を上げると、にやりと笑った。
思わず触手を振り上げてクリスを振り払おうとした眷属だったが、それより先にクリスが手刀を放って触手を切断して自由になった身体で近くの結晶体を蹴って勢いを付けると、翠眼を真紅に染めて眷属に肉薄する――眷属の表面に取り付いたクリスは、その口を大きく上げて犬歯の部分が大きく伸びると眷属の表面に咬み付いた。
声もなく悲鳴を上げる眷属――全長一キロの巨体を誇る眷属が、150センチにも満たないクリスに咬み付かれて悲鳴を上げながら身動ぎしているが、『アルテミス』の奥深くまで侵入している事が仇となり逃れることが出来ない……苦痛を感じているのか逃れようと身動ぎをする眷属の動きがどんどん鈍くなる半面、身体を触手に貫かれたクリスの傷がどんどん塞がれていく……咬み付く事で眷属の生体エネルギーを吸収して傷を回復させているクリス。
ついには身動き一つしなくなり触手を力無く垂らした眷属を前に、突き立てた牙を離して唇をぬぐう仕草をしているクリスに『エテルナ』の思念波が静かな口調で語り掛けて来る。
『……落ち着きましたか、クリス』
『……』
『あれだけの数の『バイオ・シップ』と眷属相手では、分が悪い事は最初から分かっていたでしょうに』
『……そういう貴方だって、反対しなかったじゃない』
『……お互い、頭に血が上っていたんでしょうね』
痛い所を突かれて苦笑するクリス――銀河間宙域にて『テレサ』からコスモウェーブを受けた時に、懐かしくも二度と会えない人に出会った――それが死者の眠りを妨げて使役しているかのようで、クリスと『エテルナ』の二人は激怒したのだ……故に冷静な判断が出来なかった二人は、白色彗星の奥深くに巣くう『バイオ・シップ』の脅威度も分からないまま、無謀にも戦いを挑んだのだ。
『……負けちゃったね』
『……そうですね』
クリスと言葉を交わしながら『エテルナ』は、黒く変色した船体の機能を回復させて元の白銀の流体金属に戻して突き刺さった眷属達の周囲の流体金属を固形化させて拘束すると、流体金属の奥深くへと沈めていく。
『――どうします、援軍要請しますか?』
『……近くには誰が居る?』
『……550万光年先にカリンがいますが』
『――アイツ!? 却下! 誰があんな“骨格標本”に頼むもんか!』
『バイオ・シップ』と眷属達に対抗する為に、近隣宙域に居る味方の勢力に援軍要請を提案するが、思ったよりも激しい拒絶反応に呆れる『エテルナ』……まぁ、件のカリンとクリスは相性がとことん悪いから無理もない反応だと思う……なら、どうするかと考えて居た時、クリスの方から不穏というか無気味な気配が漏れ出してくる。
『……クリス?』
『――こうなったら“保険”を使うしかないな』
白銀の姿を取り戻した『アルテミス』の船体より、一隻の航宙艦が浮上してくる。全長は500メートルと100キロを超える『アルテミス』から見れば小型だが、他の勢力では第一線を張れるだけの規模を持ち、航宙艦から四方に伸びたパイロンの先には、それぞれ異なる四重のシールド発生装置を備えた堅牢な航宙艦である。
『――実験艦、所定の位置につきました……けど、良いですか? 勝手に使用した事を教授が知ったら怒りますよ、きっと』
「――仕方ないじゃない、次元跳躍出来る艦がこれしかないんだから……教授も許してくれるよ……たぶん」
四基のシールド発生機関を搭載した500メートル級航宙艦のブリッジにて各機関のチェックをしていたクリスは、隣でピコピコ光ながら怖い事を言う『エテルナ』に、後頭部をぽりぽり掻きながら言い訳めいた事を言いながらも視線はウィンドウに映る実験艦の自己診断プログラムの進捗具合へと向けられていた――この艦は、クリスが『ヤマト』と接触する原因となった次世代の亜空間跳躍実験のその先――さらに積層を重ねた本来の目標である亜空間を調べる為に用意されたシールド強化型の実験艦であった。
作戦行動に従事する前に教授から「――どうせ、すぐ使用する事になるんだから」と無理矢理持たされた艦であった。つまり任務が終了した後も、クリスは教授にこき使われる運命にあったのだ。
「さて、気を取り直して。世界間の時間的差異の計算は?」
『それは既に終了しています』
「――では、実験艦次元跳躍準備」
『了解、機関始動。次元跳躍機関を始動して、目標世界へ転移します』
実験艦の制御システムの声を聞きながら、クリスはぺろりと唇を舐める……時空連続体としての構造が比較的強固なこの宇宙から目標世界への次元跳躍を行った後に、装備している『クロノトン魚雷』で時間回廊を形成して過去の世界へと移動してから目的地であるデープ・スペース・13を目指す……そうして態勢を整える時間を都合してからデープ・スペース・13と接触する……強行軍だが、あの無駄にデカい『バイオ・シップ』と『眷属』どもと戦うには準備が必要だ。
「――さて、“貸し”を返してもらおうか」
ゆっくりと動き出した実験艦は亜空間跳躍機関を作動させて、通常空間から隣接する亜空間へと突入すると、内蔵する『位相変換システム』を起動して人為的に位相変換を起こすと実験艦は亜空間から消え去った。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
今回はタイトルをそのまま使用しております……なんかワクワクするんですよね、こういうタイトルは。さて、これにて連続投稿は終了です……71話まで投稿したのは、この話を逃したら当分希望が持てる展開では無いからなんですよね。(汗)
では、次回。圧倒的な物量を誇るガトランティスに必死の抵抗を繰り広げる地球・ガミラス連合艦隊――都市帝国奥深くへ落下した『ヤマト」は荒廃した惑星に不時着し、そこでガトランティスの誕生の経緯を知るのであった。
第七十二話 愛を知る者
23年1月4日0時投稿予定です。