宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
波動実験艦『銀河』艦橋
土星圏において『ガトランティス』の大艦隊と戦う地球・『ガミラス』の艦隊にとって波動防壁を増幅出来る『銀河』は中心的な存在であり、ワープ機能を阻害する『ガミラス』臣民の壁共々白色彗星を土星圏に押し留める為に無くてはならない物であった――だが、その内の一つである『ガミラス』臣民の壁が、ワープ阻害フィールド内であるのに何らかの方法で転移してきた『ガトランティス』の特攻型小型艦群によって破壊されてしまう。
「ワープ阻害フィールド消滅、『ガトランティス』周辺での重力傾斜高まる――AIの予想B-7に符合、白色彗星移動を開始」
「……ついに――全艦離脱限界までの距離を確保!」
『銀河』副長の淡々とした声が艦橋内に広がると共に、『ヤマト』から転属となった島が唇を歪める……絶え間なく『ガトランティス』の圧力にさらされて来た地球・『ガミラス』連合艦隊。いくら時間断層で建造された『波動砲』搭載艦が増援として送られてくるとは言え、万を超える『ガトランティス』の大艦隊相手に、しかも敵の本拠地間近である影響か絶え間なく送られてくる増援に、敵にも時間断層があるのではないかと疑ってしまうような物量なのだ。
――そして巨大惑星クラスの白色彗星が速度を上げる。
巨大質量ゆえの超重力にて周囲の物質を引き寄せ粉砕しながら、白色彗星は増速して行き、その巨大質量が巻き起こす重力の嵐が周囲に展開する防衛軍艦隊へと迫り来る。
「――重力波、来ます」
「――火星守備隊に連絡、彗星都市は土星沖を離脱――火星沖にワープする可能性大! 警戒されたし」
宇宙戦艦『ヤマト』分析室
白色彗星内の惑星『ゼムリア』に漂着した宇宙戦艦『ヤマト』はそこで滅びた『ゼムリア』記憶システムに遭遇して、この惑星が『ガトランティス』が生まれた星である事を知る――調査に来た『ヤマト』の自立型サブフレームAUO9「アナライザー」を乗っ取った『ゼムリア』の記憶システムより、彼らが辿った愚かしい運命を聞いた『ヤマト』のクルーは、『ガトランティス』大帝ズォーダーの憎悪の深さに言葉を失う。それほどまでに彼は傷つき憎悪したのだ――『人間』を……だが、だからと言って黙って滅ぼされるなど許容できない――人は、生命は生き抜く為に存在しているのだから。
惑星『ゼムリア』の滅びの歴史を聞いた『ヤマト』の残留クルーの中でも比較的冷静なクラウス・キーマンは、この惑星が『ガトランティス』を生み出した星ならば当然用意しているであろうモノの所在を問い掛けた。
「『ゼムリア』が『ガトランティス』を生みだしたと言うのなら、有る筈だ――安全装置が」
戦う為の駒として製造された人造の兵士『ガトランティス』。彼らを制御して永久的に隷属させる為の安全装置は当然用意されてしかるべきモノ……だが『ゼムリア』の記憶システムは情報の開示を拒む――『ゼムリア』の機密情報をよそ者に開示は出来ないと拒否したのだ……拒む記憶システムを冷たい目で見ながら、再度情報の開示を迫るキーマン。
そこへ森雪と航空隊の山本玲に監視されながら現れた『ガトランティス』のスパイとして送り込まれた桂木透子こと「シファル・サーベラー」は厳しい表情で命令する。
「答えなさい――最後の『ゼムリア』人である、この私が聞いているのです」
桂木透子の気迫に押されたのか、最後の『ゼムリア』人であるシファル・サーベラーの血に反応したのか、「アナライザー」を乗っ取った『ゼムリア』の記憶システムは素直に語り出す――滅びの調べを奏でるモノ、『ガトランティス』の要にして最大の“くびき”を――その名は『ゴレム』。
記憶システムは語る――遥か昔に『ゼムリア』人が造りだした制御装置、作動すればあらゆる人造生命に死をもたらすモノ。反乱を起こした時にズォーダーはまずそれを奪い去ったが、破壊する事は出来なかった……何故ならば、破壊されると同時に『ゴレム』は謳い出す――人造細胞を死滅させる滅びへの調べを宇宙の隅々にまで。
『ゴレム』の存在を知ったキーマンはその所在を詰問する。
『ゴレム』が謳えば宇宙の隅々にまで作用を及ぼす……つまり現在活動している『ガトランティス』の全てを根こそぎ滅ぼすことが出来ると言う事だ――戦局が一気に決する。無言を貫く記憶システムに尚も詰問しようとした時に、突然「アナライザー」はシステムダウンを起こして沈黙してしまった。
恐らくは、此方の動きに気付いた『ガトランティス』の仕業だろう。リンク切れを起こして、これ以上の情報は得られない……肝心な所で情報を得る手段を失った事に歯噛みするキーマンだったが、そこに桂木透子の静かな声が響く。
「……分かる――『ゴレム』は、いま大帝と共に」
帝星『ガトランティス』大帝玉座の間
「……奴らは知り過ぎた」
大帝ズォーダーの座る玉座の間に、諜報記録長官ガイデーンの静かな声が響く。太陽系に侵入した白色彗星を迎え撃った地球艦隊を蹴散らしている時に現れた宇宙戦艦『ヤマト』は、起死回生の一撃を放とうとした所を潜入させた蘇生体の工作に動力を失って高圧ガスの雲の中に落下して行った……これで『ヤマト』の命運も尽きたかのように思われた。だが運命の悪戯か、かの船が落下した先にあったのは惑星『ゼムリア』――『ガトランティス』が生み出された星へ墜落した『ヤマト』はしぶとく生き残って、残されていた記憶システムと接触して“秘密”を知ってしまった。
「……地球を喰らうには、どのみち星を一つ捨てねばならぬ――『ゼムリア』を消せ」
本来ならばもっと早く決断すべきであった。人造生命体である『ガトランティス』最大の弱点を知る惑星『ゼムリア』だったが、既に死滅した惑星であり彗星帝国の奥深くに囚われる哀れな星であり、誰も気に留めなかった……いや、消せなかっただけかもしれない。そんな感傷にも似た躊躇いが、『ヤマト』に『ゴレム』の存在を知られる原因となってしまった。想定していなかった事態にズォーダーは思う――これもまたお前の導きか『テレサ』、と。
大帝ズォーダーの命を受けて、惑星『レムリア』を破壊するべく無数のカラクラム級大戦艦が集結して『レギオネル・カノーネ』の陣を敷く――天体クラスの質量を破壊するには大出力の砲撃が必要であり、本来は数十万隻単位の大戦艦が円筒状に並んで砲身を形成して、恒星クラスの物体の爆縮エネルギーを増幅・制御して軸線方向に発射する物であるが、彗星帝国内ゆえに数十万の大戦艦の雷撃ビットを連動させて威力を上げて、巨大なビームを放つ『インフェルノ・カノーネ』の大出力版として惑星破壊規模のビームを射出して、惑星『レムリア』の地表に到達するとその地殻を破壊する。
大出力砲撃の威力は凄まじく、『レムリア』の地殻を砕いて内部構造に致命的なダメージを与える。星としての構造に致命的な損傷を受けた『レムリア』は崩壊への道を走り始めた。
宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋
「――なんだ!?」
「……惑星規模の地殻変動発生!」
対『ガトランティス』戦の勝敗を左右する情報を得た『ヤマト』は、不時着した惑星『レムリア』から発進して彗星都市帝国からの脱出を図る為に発進準備を整えていた矢先に、『ヤマト』を揺るがす程の振動を感知した古代は驚きの声を上げ、コスモレーダー受信席に座る西城は惑星規模の異変が発生した事を感知して報告する。
『ゴレム』の情報をもたらした『ゼムリア』の記憶システムとの突然のリンクの途絶といい――秘密を知った『ヤマト』に対する『ガトランティス』の攻撃が開始されたと考えられる――ならば予定を繰り上げて発進するべく土方艦長は号令を掛ける。
「――総員位置に付け、『ヤマト』発進準備」
強大な『ガトランティス』の大艦隊を迎え撃つ地球・『ガミラス』連合艦隊は、火星を絶対防衛線と定めて全ての戦力を集中させてこれ以上の進撃を阻止するべく決死の覚悟で戦いに挑んでいた――時間断層で生み出される『波動砲』搭載艦やAIにて制御される無人艦を実戦に投入して、物量にて勝る『ガトランティス』と戦っていた。
地球連邦 防衛軍司令部
モニターに映る最終防衛ラインである火星をもはるかに上回る規模の白色彗星を睨みながら、地球連邦防衛軍統括司令副長である芹沢は、これまでに被った被害のレポートが示されるタブレットを見て眉を顰める……撃沈された無数の艦船、地球・『ガミラス』双方の人命が湯水のごとく浪費されている……滅びを経験して総人口の7割を失った地球はこれ以上の人的被害には耐えられない……だが、ここで踏ん張らなければ人類に未来は無い。芹沢は立ち上がって広域通信の準備をすると、戦っている防衛軍将兵へと呼び掛ける。
「防衛司令部より、全艦隊に発令――徹底抗戦だ! 戦線を維持せよ! 一日持たせれば次の戦力を送り出せる。二日ならその倍、三日ならさらに――時間断層ある限り、地球の戦力は無尽蔵だ!」
芹沢は将兵を鼓舞する――怯むな、戦え、地球の為に、明日を生きる子供たちの為に――知的生命体の殲滅を掲げる『ガトランティス』との間に交渉の余地はない。防衛軍の敗北は地球の滅亡に直結する――『ガミラス』との戦争で滅亡の淵に立たされた地球が、ここまで立ち直ったのだ――なのに『ガトランティス』に敗北して滅亡しては、地球を守る為に死んでいった将兵たちの犠牲が無駄になり、これまで血と汗を流して復興に携わって来た人々の思いすらも泡と消える。
故に芹沢は鼓舞する――我らの文明を、人類と言う種を絶やすなと――生き延びる為に、どんな犠牲を払おうともこの戦争に勝利するのだ。時間断層がある限り、戦力に限りは無い――戦いの果てにどんな姿になろうと、人類は生き延びるのだ、と。
宇宙戦艦『アンドロメダ改』ブリッジ
土星沖海戦で致命的な損傷を追った『アンドロメダ』を時間断層内工場で修理強化して、新たな姿に生まれ変わった『アンドロメダ改』は、激しい戦争により航宙艦を運用する人員不足に陥った地球艦隊の回答の一つ、自立型AI制御の反自立型戦闘艦として改造され、人員はAIの判断の承認をする一名のみとなり、圧倒的な物量を誇る『ガトランティス』の分厚い防衛網を突破する為に各所に高機動ブースターを設置して、生身の人間では耐えられないような殺人的なGに耐える為に強化宇宙服を着た山南艦長は、『アンドロメダ改』の艦橋から見える黒く塗装された無人艦仕様の後期生産型の『アンドロメダ・ブラック』の艦隊を見つめる。
時間断層によって大量に生産される戦闘艦群だったが、すでに地球にはその船を運用する人員はおらず、艦隊戦力を維持する為に生み出されたのが自立型AIによる無人制御の戦闘艦群であった……そんな血の通っていない冷たい機械の戦闘艦隊を率いて山南は、これから分厚い『ガトランティス』の警戒網を突破して本体である彗星都市帝国に一撃を加えるべく出撃をする……だが山南の胸中には、戦いに赴く高揚感よりも、誰も居ない艦橋にただ一人で座る寂寥感の方が大きかった。
(AIによる自立制御、乗組員は遂に俺一人か、寂しいな――なぁ、『アンドロメダ』よ)
火星絶対防衛線上において、地球・『ガミラス』連合艦隊は襲い来る『ガトランティス』を迎え撃って激しい戦いを繰り広げていた。『ガミラス』本星からの援軍も到着して反撃の準備が整った地球・『ガミラス』連合艦隊は、『ガミラス』臣民と壁のワープ阻害機能を持って敵の奇襲と白色彗星本体のワープによる地球本土強襲を阻止しながら、分厚い『ガトランティス』の防衛網を突破して、白色彗星の分厚いガスの渦の中に潜む都市帝国に一撃を与えるべく奮戦していた。
だが、そんな地球・『ガミラス』連合艦隊の思惑に『ガトランティス』が何時までも付き合う訳もなく、白色彗星のガスの中から姿を現した第7起動艦隊司令官バルゼー麾下のアポカリクス級航宙母艦が姿を現し、飛行甲板より大量の甲殻攻撃機デスバテーターを発艦させると、ワープ阻害機能を持つ『ガミラス』臣民の壁を制御するゼルグート級大型航宙戦艦に向けて襲い掛かかったが何とか迎撃する事に成功して、再び戦況は一進一退の拮抗状態へと移行する。
高速中性子と高圧なガスの渦で構成された白色彗星の内部には、外で地球・『ガミラス』と戦う大艦隊以外の艦艇が木星規模の巨大構造物である都市帝国の周囲を固めて守りについている――万を超える大艦隊が戦闘を行って尚、それを超える数の艦艇が白色彗星のガスの中に待機して都市帝国を守っていた――そんな高圧ガスの中に潜む都市帝国のはるか上空で無数のワープアウトの光が輝いて両舷にブースター代わりのドレットノート級主力戦艦を固定した無人艦仕様の『アンドロメダ・ブラック』により編成された決死隊が、艦首に備え付けられた二連装『波動砲』にエネルギーを充填しながら急降下を掛ける……都市帝国の周囲を固める『ガトランティス』の艦艇が気付いて迎撃行動に出る前に、出来るだけ接近して『波動砲』の一撃を撃ち込んで惑星規模の都市帝国にダメージを与える――生還を考えない、無人艦だからこそ出来る戦法である。
「――全艦、『波動砲』発射用意」
決死隊ただ一人の人間である山南艦長が、『アンドロメダ改』の艦橋で制御下にある全『アンドロメダ・ブラック』へと命令を下す――決死隊の存在に気付いた都市帝国周囲の艦艇が決死隊に向けて迎撃の砲火を放ち始めるが、既に『波動砲』へのエネルギー充填は終了している。迎撃の砲火によっていくつかの『アンドロメダ・ブラック』は撃沈されているが、殆どの艦艇が『波動砲』を撃ち込んだ――無数の『波動砲』の輝きが都市帝国に降り注ぐが、都市帝国上部に赤いリング状の防御シールドが展開されると、降り注ぐ『波動砲』の輝きを完全に防ぎきった。
千載一遇のチャンスを逃した決死隊であったが、防がれたからと言って諦める訳にはいかない。決死隊を殲滅せんと襲い掛かって来る『ガトランティス』の艦艇を迎撃しながらも、都市帝国にダメージを与えるべく攻撃のチャンスを探る山南艦長。彼の視線は惑星規模の都市帝国の上部構造物の下部に位置する動力炉を狙撃できないか探っている時、都市帝国の巨大な牢獄に囚われている惑星群の一つが『ガトランティス』軍の砲撃によって崩壊していく姿が映った……何故、自らの星を破壊するのか?
どうも、しがない小説書きのSOULです。
生き残る為に死力をつくす地球。ガミラスとの戦争で滅亡寸前まで追い込まれたが故に、再び同じような経験をすまいと足掻く防衛軍首脳部というか芹沢のセリフがどんどん狂気が感じられるようになってきていますね。
では、次回。進撃を続ける白色彗星帝国を止めようと必死の抵抗を続ける地球。悪化する戦況の中で、波動実験艦『銀河」の指揮AIは『G計画』の発動を宣言する。
第七十四話 美しくも愚かしいもの、それは――
1月18日更新予定です。ではでは~。