宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
デープ・スペース・13 司令部
何もない壁から突如として指の骨が生えると、その後から白い頭蓋骨が壁から浮き出てユリカ司令達の前に降り立つ――不審人物(?)の侵入に『USSタイタン』のライカー艦長とアオイ・ジュンが腰に携帯していたフェイザーを取り出して白い骸骨に向けるが、骸骨ゆえに表情は分からないが雰囲気からまるで意に介していない事は分かる。
「――貴方は、何が目的でこんな事をするんですか?」
さりげなくユリカ司令を庇いながら目の前に現れた白い骸骨に問い掛けるルリ……油断なくフェイザーを構えながらもライカー艦長は、信頼する妻にテレパシーで何か感じないかと小声で問い掛けるが、ディアナは小さく首を振って何も感じない事を伝える……テレパシーを遮断しているのか、もしくはこの骸骨はただのドローンで本体は別に居るのかと考えるライカー艦長。
「カカカッ、オ前タチハ自分ガ何ヲシタノカ分カッテナイノカ? オ前タチノ所為デ、時空連続体ニ深刻ナダメージガ入リ、亜空間亀裂ガ起キヨウトシテイル事ヲ」
「亜空間亀裂?」
「オ前タチガ時空間移動ヲ乱用スル事デ、コノ近辺ノ時空連続体ニ負荷ガ掛カリ、イツ亜空間ニ亀裂ガ入ッテモオカシクナイ状態ナノダヨ」
「――そんな、『ボゾン・ジャンプ』個人もしくは大きくても船一隻を飛ばすのがやっと……しかもナビゲード出来る人間は限られています――そんな状態で時空連続体に影響を与えられる筈がないじゃないですか! 貴方の言っている事は、こじ付けのような物です」
反論するルリに向けて白い骸骨は カカカッと笑う。
「オ前ハ何モ分カッテハイナイ。確カニ、時空間移動ノ使用頻度ハソレホド多クナイ――ダガ、コノ宙域デハ以前カラ亜空間航行ニヨルダメージガ蓄積シテイルノダ、ソコニ毛色ノ違ウ時空間移動ガ加ワレバ……」
「……亜空間亀裂問題か」
苦々しい声を出すライカー艦長――彼が副長をしていた『エンタープライズE』の前身『D型艦』の時代に持ち上がった大問題である。アルファ宇宙域のみならず全ての宇宙域で多くの種族が亜空間を利用したワープ航法を行っており、ワープエンジンの発生する高レベルの亜空間フィールドが宇宙空間に致命的なダメージを与え、それがいずれ亜空間に亀裂をもたらすと警告した科学者が命を懸けて立証したのだ。
「オ前タチハ小賢シクモ亜空間フィールドノ形状ヲ調整シテイルヨウダガ、ソンナ事デハ何時カ亜空間亀裂ガ発生シテ、多クノ星ガ飲マレルゾ」
カカカッと白い骸骨が笑い、それに反してユリカ司令達の顔色が蒼白になる。『ボゾン・ジャンプ』は『ナデシコ』部隊にとっては切り札の様なモノであり、それが使用出来ないとなれば戦略の幅は縮まり、小型チューリップを使った三千メートル級の『ナデシコD』艦内のネットワークにも支障が出る。もし白い骸骨が言うように本当に亜空間に亀裂が生じる事態になれば、何が起こるかどこまで被害が及ぶか分からない……これがあの法廷で『Q』が言っていた、この世界へと侵入して世界のバランスに悪影響を与えたと言う事なのか。
「――サァ、罪深キ者タチヨ、罪ノ報イヲ受ケヨ!」
白い骸骨が放つ気配が変わり、周囲に物理的な力を持つと錯覚するような圧倒的な力の波動が放たれて、ユリカ司令達は気圧されて一歩下がる……呼吸すらままならない状況の中で白い骸骨は、片手を上げると凄まじい光量を持つ輝きを生み出すと、それを放とうとして――司令部の天井近くに転移して来た何者かによって阻止された。
「何をしとるかぁああ、この骨格標本がぁ!」
「――ヘブゥウウ!?」
天井近くから落下するスピードも併せて繰り出された両足は見事に白い骸骨を捉えて吹き飛ばした。ゴロゴロと床を転がる白い骸骨を尻目に蹴り飛ばした反動を利用して空中で一回転した何者かは軽い音を立てて床に着地する……白い骸骨と同じ白いボディスーツに青い結晶体を所々に付けた、栗色の髪をショートボブに揃えて少し背が伸びた少女は転がっている白い骸骨に向けて叫ぶ。
「――話をややこしくするんじゃないわ、この骨格標本が!」
「――私ノ美シイ頭蓋骨ガ!? 何テ事スルノヨ、アンタ!」
白い骸骨と怒鳴り合う少女を最後に見たのは、宇宙戦艦『ヤマト』の医療区画であった。その頃よりは背も伸びて身体つきも女性らしいラインになってはいるが、やる事が無茶苦茶なのは変わっていないようであった。8年前に元の世界へと帰還する宇宙戦艦『ヤマト』と共に自分達の世界へと帰った筈の少女。
「……貴方、翡翠ですか?」
「……そうだよ」
「――翡翠、アンタなんでこの世界に!?」
突然現れたクリスの登場に驚きを隠せないルリとジャスパー。見れば他の人間達も驚きの表情を浮かべていた……8年前に自分達の世界へと帰還した筈の彼女が何故この場所に? 事態の変化に着いて行けず、呆然とするユリカ司令達を置いて、クリス……いや翡翠はカツカツと靴音を鳴らしながら転がっている白い骸骨の所まで行くと、見下ろす形で詰問を始める。
「で、アンタは何でこんな所で油を売っているんだ?」
「――イタタ、私ノ美シイ頭蓋骨ガ……コンナ事ヲシテ、覚悟ハ出来テイルンデショウネ……アナタ……アンタハ…クリス?」
頭蓋骨を振りながら立ち上がった白い骸骨が怒りの波動を放ちながら翡翠を見据えた途端に、眼球も無く眼窩だけなのに目を見開いて驚いている事が雰囲気で分かる……そんな白い骸骨を見据えた翡翠が ふんっと鼻を鳴らして「こんな超絶美少女に出会えたんだ、嬉しいだろ?」と煽るような事を言って、彼女を知る者が思わず頭を抱える。
「……ソウカ、ソウ言ウ事カ。貴方ガ翡翠……何故アイツハ“居ナク”ナッタノニ、貴方ハ生キテイルノ!」
暫く呆然としていた白い骸骨だったが、噛み締める様に呟いた後に身体から猛烈な戦意を滲ませて、物理的な力を伴って周囲を荒れ狂い、吹き荒れる暴風に栗色の髪を乱されながらも翡翠は白い骸骨を見据えてから小さくため息を吐く。
「……なるほど、此方の私はもう“居ない”のか――来なカリン、場所を変えよう」
瞳を真紅に変えた翡翠はそう言うと姿がブレて司令部から消え、それに続くように白い骸骨もまた姿がブレて消える……後に残ったのは事態の変化に着いて行けずに立ちすくむ者達だけであった。暫く呆然としていたライカー艦長だったが、隣にいるディアナに顔を寄せて問い掛ける。
「……ディアナ、君はあの白い骸骨から感情を読み取れたか?」
「……ええっ、どうやら彼女のお陰でシールドが解けたみたい」
恐らくは白いボディスーツの中身も骨格だけのようだが、あの白い骸骨はしっかりと自分の意志を持ち行動していた所から、そのような在り様を持つ知的生命体であると推察したライカー艦長の問い掛けにしっかりと頷いたディアナは、あの白い骸骨から感じた事を言葉にする。
「あの骸骨……彼女から感じたのは、戸惑いと困惑――そして自分への怒りだったわ」
翡翠に続いて位相を渡った白い骸骨―カリンの目の前に広がるのは、漆黒の宇宙空間であった。位相を渡って別の可能性の世界へと足を踏み入れた二人は、デープ・スペース・13に重なる別の可能性の中で対峙する。
『……此処なら、どんなに暴れても影響はないな』
周囲を見回しながら『思念波』を飛ばす翡翠。だが白い骸骨は『思念波』に何の反応も見せずに髑髏は下を向いたまま微動だにしない。
『で、アンタは何で『ナデシコ』勢にちょっかい掛けた訳? 『ボゾン・ジャンプ』が時空連続体に悪影響を与えるって事を警告していたみたいだったけど、あんな小さな勢力の――ましてやA級ジャンパーが居なけりゃ使い物にならないような技術、ほおっておいても廃れるでしょうに』
コテンと首を傾げながら翡翠は『思念波』を飛ばすが、白い骸骨は反応しない……いや、これは所謂“嵐の前の静けさ“だ。俯いている白い骸骨からは、先ほど感じた周囲を威圧するかのような気配は出ていない……出ていないと言うよりも内に溜め込んでいるのだろう。
『ハハハ、コレハ堪エルモノダナ。貴方ノ所為デハナイノハ分カッテイルノニ――貴方ヲ見テイルト、己ノ罪ヲ見セラレテイルヨウデ、耐エラレナイ!』
白い骸骨は顔を上げて何もない筈の眼窩に紅い炎が燃え上がっているかのように錯覚するが、そこには暗い奈落の様な穴があるだけであった。叫ぶかのように『思念波』を叩き付けた白い骸骨は一気に加速すると、腕を大きく振り上げて指の骨で手刃を作って翡翠目掛けて振り下ろすが、身を捻って避けながら回転を加えて加速した肘で白い頭蓋骨を打とうとした翡翠だが、あっさりと躱される。
『――悪イワネ、八ツ当タリナノハ分カッテイルケド、止メラレナイノヨ――“アイツ”ハモウ居ナイノニ、何デ“貴方”ハ生イキテイルノヨ!』
「そりゃ、私の方が美少女だからに決まっているじゃない!」
背後から襲ってきた巨大な骨で出来た拳を粉砕しながら、翡翠の胸を狙って繰り出された白い髑髏の突きの側面を叩いて軌道を逸らす。その攻防の間に白い骸骨は、自身が内包するエネルギーを物質に変換して幾つもの巨大な骨の刃を作り出して翡翠に振り下ろすが、その軌道を読んで回避しながら時には拳をぶつけて粉砕する翡翠。
『……まったく。向こうのカリンと言い、アンタと言い、内包するエネルギーを物質化しての力押しだけじゃ、私は倒せないぞ』
『……ソノ、ムカツク物言イモ、今トナッテハ懐カシイワネ』
『……何が有った?』
『――貴方ニハ関係ノナイ事ヨ!』
白い髑髏はエネルギーを凝縮すると翡翠目掛けて撃ち出すが、片手で弾き返す翡翠
「……分かった――トコトン付き合ってやる」
どれほどの時間が経っただろうか? 周囲の空間は戦いの余波で時空が歪み、所々で重力異常を起こして周囲の星間物質を集めて高温のガスへと変えていた。そんな重力異常の中心点に二人の人影が見える……二人が纏う白いボディスーツは破損こそないが煤に汚れて戦いの激しさを伺わせ、死力を尽くして力尽きたかのようにお互い背中合わせに無軌道に回転していた。
『……ねぇ、コッチの私はどんな最後だった?』
淡々と何気なく聞いているが並行世界の自分の最後を聞くなど悪趣味のようであったが、それでも聞いておかなければならない――これから、あの『破滅を謳う獣』と再戦をしようというのだから……白い髑髏ことカリンは暫く無言だったが、ポツリポツリと『思念波』を返してくる。
『……五周期ホド前ニ、珍シクアイツカラ援軍要請ガ来テネ、指定サレタ地点ニ到着シタ私ガ見タノハ、黒ク変色シタアイツノ船ト……』
『……そっかぁ』
再び黙り込んでしまったカリンを尻目に翡翠は思考の海へと沈む……デープ・スペース・13を覆う『イシュ・チェル』を見るに、この世界の自分もリバィバル級の殲滅型戦艦に乗っていたのだろう。なのに自分は敗れた……自慢ではないが、この内宇宙でリバィバル級殲滅型戦艦を機能停止に追い込める種族など、そうは居ないだろう……もしかしたら、居るのかもしれない……この並行世界にも『破滅を謳う獣』が。
デープ・スペース・13 司令部
デープ・スペース・13を覆う白銀の球体は依然として健在で、その球体から来たと思われる白い骸骨も突如として現れた翡翠と共に姿を消して、テンカワ・ユリカたちは打てる手もなく、ただ時間が過ぎていくだけであった……武器システムは白銀の球体からの干渉によりロックされ、白銀の球体も少しずつ縮小して行き、もはやシールドの間近まで来ていた……シールドが耐えてくれれば良いのだが、これまでの相手の能力を考えると望みは薄だろう。
「……どうやら、全員を『ナデシコD』に避難させた方が良いみたいね」
この危機的状況を鑑みて、ユリカ司令はデープ・スペース・13の全クルーと民間人を『ナデシコD』へと非難させる事を決意する……『ナデシコD』なら強力なシールドが張れるし、いざとなればデープ・スペース・13を自爆させて爆発を目くらましにして、『ナデシコD』を『ボゾン・ジャンプ』させて脱出するしかないと考える……問題があるとすれば、あの白銀の球体が『ボゾン・ジャンプ』への干渉能力を持っているかどうかだが。
――そしてユリカ司令が退避命令を出そうとした時、彼女の胸にある五つの花びらを象ったバッチが鳴り、相手を確認するとどうやら夫であるアキトからの通信のようだ……並行世界へ転移する前から過酷な運命に翻弄されて、一度は宇宙戦艦『ヤマト』の医療区画で息を引き取った彼だったが、翡翠の尽力で蘇生はしたもののそれまでの記憶の大半を失った彼を戦場に立たせる事を良しとしなかったユリカや『ナデシコ』クルーによって民間人としてユリカと子供たちと共に家庭を築いている彼が、この状況に何の用事だろうか?
緊迫した状況であり、アキトからの連絡は後回しにしようと思ったユリカ司令だったが、妙に胸騒ぎがして周囲の物に断りを入れてからバッチを起動して現れたアキトを映すウィンドウへと問い掛けて彼女たちは驚愕の声を上げる事となった。
「えぇええ~~! 何でぇええ!?」
時間は少し遡る。
巨大な宇宙基地であるデープ・スペース・13の居住施設は、並行世界からやって来た300名の『ナデシコ』クルーだけで運用するには大きすぎて、AI稼働のバッタを多用する事で何とか運用しているというのが現状だ。
故に居住施設には空室が多くあり、そんな中で例外的ににぎやかな部屋もあった――テンカワ夫妻が暮らす部屋である……この基地の司令官であるテンカワ・ユリカとその夫テンカワ・アキト。そして7歳になる彼らの子供テンカワ・ユウナとソフィアの双子の姉妹、そして居候としてテンカワ家のリビングのソファーを占拠しているラピス・ラズリの5人家族である。
夫であるアキトは昔大きな事故で記憶の殆どを失ったらしく、記憶が無く不安な表情をしていたアキトを甲斐甲斐しく世話をしてくれた幼馴染で妻だというユリカと共にこのデープ・スペース・13へとやって来て8年。積極的なユリカに圧倒されながらもにぎやかで楽しい生活を続けている内にユリカが懐妊して、生まれたのが双子の姉妹のユウナとソフィアだった。
ユウナの方はユリカ似の青い髪を持つカワイイ女の子だったが、妹の方のソフィアは“白い髪に金色の瞳”を持つアルビノの様な姿で生まれてきて驚いたが、二人ともすくすくと成長していて将来をちょっぴり楽しみにしているアキトであった。
そして居候を決め込んでいるラピスは、「私はアキトの手、アキトの足、アキトの目、そしてアキトの胃袋」などと何処で覚えたのか屁理屈を言って転がり込み、最初はあつかいに困ったが、近所に住むアオイ・ジュンさんや、ウリバタケ・セイヤさんが、「コイツは食っちゃ寝をさせとく方が世の為だ」と力説して有耶無耶のまま居候しているが、呼べば直ぐに来るし、手伝いも率先してやってくれるので、双子の姉貴分に丁度良いかと納得している。
そんなにぎやかで騒々しい生活の中で双子の姉妹も大きくなって手も掛からなくなった昨今、アキトは念願であった自分お店―ラーメン店を持ちたいという、かねてからの野望を成就させる為に自宅でラーメンの研究に明け暮れていた……試食係は双子の姉妹に居候と、何故か毎回隣に住むホシノ・ルリさんを巻き込んだユリカと食べる相手には事欠かないが、人がラーメンを作る度に涙ぐまないでも良いのではないか思う。
そして今日もラーメンの試作を作っていると、玄関のインターホンが鳴る……珍しいな、普通は胸の五つの花びらを象ったバッチを使用する者が多く、インターホンが鳴るなんて、娘たちのイタズラ位しかなかったが。
料理は火力だ、という謎のこだわりでわざわざ設置したガスコンロの火を止めて玄関へと向かうアキト。誰が来たのかとウィンドウの映像を見ると、見知らぬ二人組の少女の姿が映る――栗色の髪をボブカットにした翠色の瞳をした少女と、長い金髪を後ろで束ねた碧眼を持つ目も覚めるような少女がお揃いの白いボディスーツの所々に青い結晶体を付けた見知らぬ少女たち。
「……誰?」
『こんにちは! ソフィアちゃん、居ますか?』
どうも、しがない小説書きのSOULです。
今回は閑話をお送りしました。
並行世界に転移しても騒動に巻き込まれるクリス。
まぁそれでヘコたれるような可愛げのある性格ではないですからね。
では次回は本編でお会いしましょう、ではでは~。
それにつけても、本編と閑話のこの温度差よ。