宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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閑話5 visitor

 

 その日、テンカワ家はかつてない緊張状態に陥っていた――始まりは見知らぬ二人組の少女の訪問だった。天川家の双子の姉妹の妹ソフィアを訪ねて来たらしい彼女達を応対したテンカワ・アキトは了承すると、ソファーでポテチを食べていたラピスにソフィアを呼んでくるように頼んで、自分は訪ねて来た十代半ばの少女たちと世間話をしながら次女との関係性を探る。

 

 7歳になる双子の姉妹はちょうど可愛い盛りであり、年の離れたこの少女たちとどんな接点が有るのか会話の中から探ろうと言うのだ……それにウチの子の可愛いエピソードなどあれば聞けたらいいなぁ位の軽い気持ちだったが、話している内に雲行きが怪しくなる……ウチの娘を訪ねて来た割には双子の姉のユウナの事は知らなかったらしく露骨に驚いた顔をしていたし、来訪者を見る目が徐々に厳しい物になって行き、栗色の髪の少女の額に一筋の汗が流れる。

 

 そんな妙な緊迫感が流れる中、呼びに行っていたラピスと共に白い髪を肩口で揃えた下の娘ソフィアがやって来たようた。

 

「――父よ、呼んだか? ……お前は!?」

「――よっ、久しぶりだな」

 

 ラピスに連れられて奥からやって来たソフィアがアキトに声を掛けながら視線を玄関先へと向けると露骨に嫌そうな顔をして、栗色の髪をした少女が片手を上げて気軽に声を掛けた。

 

「……何故、お前がこの世界に居る?」

「……貸しを返してもらおうかと思ってな」

 

 何やら本当に知り合いみたいだが、普段はクールで殆ど表情が変わらない娘の表情が眉間にシワを寄せて嫌そうにしている所から、あまり良い知り合いではないようだ……お引きとり願おうと声を掛けようとした時、後ろに控えていたラピスがアキトのシャツを引っ張る。

 

「……ラピス?」

「……アキト、ユリカとルリに連絡して」

 

 何故二人に? 訝し気に眉を寄せるアキトにラピスは小声ながらも早口で説明する――いわくあの二人の少女の来ている服は、8年前の『ボーグ集合体』との決戦の折に確認された異星人たちが着ていたコスチュームであり、あの栗色の髪を持つ少女は恐らく宇宙戦艦『ヤマト』で猛威を振るっていた異星人の少女の可能性が高いと言うのだ。

 

「……マジ?」

 

 さて、どう話を誘導して奥さん達に連絡を取ろうかとアキトが思案していると、驚く事に来訪した少女たちの方からユリカ達に連絡するよう促して来たのだ……提案してきた栗色の髪の少女曰く「その方が話が早そうだからね」との事だ……訝し気にしながらもアキトは胸にある五つの花びらを象った『ナデシコ』専用のバッチを起動してユリカ直通の回線を起動すると、家の方に来訪者があった事を伝えて、途中から話に加わって来たラピスから来訪者に付いての詳細を聞いたユリカは、胸のバッチから最大音量で叫んだ。

 

『えぇええ~~! 何でぇええ!?』

 

 

 ユリカはすくに帰るから待ってて、と言って一方的に通信を切られてアキトは途方に暮れる……栗色の髪を持つ少女と睨み合う下の娘を見ながら、どうしたものかと思案するアキト。後ろに居るラピスが言うにはあの栗色の髪の少女は危険人物だと言う……そんな人物をウチの中に入れる訳にはいかないし、かと言ってこのままウチの前でにらみ合いを指せておく訳にもいかないし……本当にどうしたものかと考えていると、血相を変えて居住施設に繋がる通路を全力疾走してくる一団を見て驚いていると、そんなアキトの隙を突いて来訪者の少女たちはあっさりと脇を抜けてウチの中に入ると、間取を把握しているのかリビングのある方向へと消えて行く。

 

 思わず制止しようとしたアキトだったが、その前に通路を全力疾走して来た一団――妻であるユリカとお隣さんのルリさんや近所に住むアオイ・ジュンさん、惑星連邦の制服を着た人がゼイゼイと息を整えながらも来訪した少女の行方を問われたアキトは苦笑いを浮かべながらウチの奥を指差す。

 

 

 ――そしてこの現状である。ウチの中へとズカズカと入り込んだ来訪者あらため不審人物たちはリビングにあるソファーに座り込み、それを囲むようにしながらアオイ・ジュンと惑星連邦の士官―ライカー艦長は腰からフェイザーを抜いて狙いを定め、その後ろから厳しい表情をしたユリカとルリそしてディアナが様子を窺っている。

 

「……このウチは、お客にお茶も出ないのか?」

 

 ぶてぶてしいと言うのはこういう事なのだろう……栗色の髪の少女――翡翠と名乗った少女は、にやにやと笑いながら来客として持て成せと要求……いや、煽ってきている。そんな彼女の物言い、アオイ・ジュンや、騒ぎを聞いて駆け付けたウリバタケ・セイヤなどは額に青筋を浮かべたが、そんな大人たちを尻目にラピスと共にお盆を携えて来たソフィアは、翡翠ともう一人の不審人物の前にお茶と、レプリケーターで造ったのか一部地方で食べられる米と呼ばれる穀物と長期保存できるように付けた野菜にお茶を掛けたモノをどんぶりで置く。

 

「……何、これ?」

「……やるわね」

 

 二人組の不審者の内、金髪碧眼の少女はお茶だけでなくどんぶりが出て来た事に首を傾げ、翡翠はと言えば にやりと口角を引き上げる……どんぶり出て来たモノ、それはある地方では“ぶぶ漬け”と呼ばれるもので、意味は「早く帰れ」と暗黙に伝えるモノであり、僅か7年でそんな高等技術を使えるようになったのか、と感心したのだ。

 

「……どうだ、演算ユニット。肉の身体を持った感想は?」

「……戸惑いの方が多い人生だよ」

「――けど、それなら大手を振ってミスマル・ユリカを母と呼んでも問題ないし、アンタのお望み通りに一緒にいられるだろ?」

「――ちょっと、待ってください!」

 

 感心した表情のままソフィアと話す翡翠だったが、会話に中に看過できないワードがあり過ぎて思わず止めたルリを煩わしそうに見る。

 

「……なに?」

「――貴方は、8年前に元の世界に帰ったのに、何故その後に生まれたソフィアの事を知っているのですか? しかも今、貴方はソフィアの事を“演算ユニット”って呼びましたよね、まさか――」

 

 8年前、『ボーグ集合体』との戦いに勝利した『ナデシコ』と『エンタープライズE』そして宇宙戦艦『ヤマト』の前に姿を現した白銀の巨大戦艦は、翡翠と『ヤマト』を連れて元の世界へと帰還した筈……テンカワ・アキトとユリカの間に双子の姉妹が生れたのは、その1年後の事であり、ユリカが生んだ双子の内の姉であるユウナは、ユリカ似の普通の赤ん坊であったが、問題は妹の方であった。

 

 生まれたばかりで短い髪の毛は白く、産声を上げるでもなく母であるユリカを見つめる眼は金色をしており、とてもまともな赤子とは言い難かった……最初はアルビノ(先天性色素欠乏症)かと疑ったが金色の瞳の説明が付かず、火星の後継者に拉致されて古代火星文明の遺産である『ボゾン・ジャンプ』の演算ユニットに接続された事による影響かと目されたが、時が経って赤子が安定してくると、そんな生易しい事態ではない事が分かって来た。

 

「……私達も迂闊でした。何時もは鬱陶しい位にユリカさんにべったりな、あの“演算ユニット”のアバターが姿を現さない事を気にも留めていなかったのですから」

「……時折、ふらっと居なくなっていた時があったからな あの娘は……もっとも双子の赤ん坊が生まれて僕達も右往左往していた所為で、余裕がなかったと言うのも有るが……」

 

 ユリカの産後の騒動を思い出して遠い目をするルリと、若いクルーで構成されている『ナデシコ』の中でお産を経験したクルーなど少数であり、もっとも頼りにされたのが科学者兼医療を担当しているイネスと、3人の子持ちであるウリバタケ・セイヤであったという事を思い出して苦笑するジュン……ウリバタケの名前が出てくるあたりが当時の迷走っぷりを物語っていた。

 

「……普通の赤ん坊よりも、かなり早い時期から流暢な言葉を操って話し始めましたが――分かりますか、貴方に! 「おはよう、ホシノ・ルリ」と、まだ歯も生えていない赤ん坊から声を掛けられた私の驚きが!」

 

 明らかに普通の赤子と違う反応をみせる双子の妹の方を精密検査したイネスの見解は、大脳皮質があり得ないほどに活性化しており、しかも大脳皮質の下にある脳梁(のうりょう)の部分に未知の働きをしている組織が存在している事を告げられて、心労からユリカが倒れて大騒動になりながら何とか双子の姉妹を育てたという。

 

「……でだ、何とか成長して言葉を操れるようになったソフィア――ああ、これも本人の強い希望で名付けられたんだが……まぁ、この時点でおおよその見当は付いたが……彼女から自分が“演算ユニット”の生まれかわりだと聞いたんだ」

 

 冷たい視線を翡翠に向けるルリとジュン……もっともそんな視線くらいでしおらしくなる様な性格をしていない翡翠だったが、流石に大騒動になるとは思っていなかったらしく後頭部をぽりぽりと掻きながら視線をさ迷わせる。

 

「……いや~、本当に実行するとは、びっくり――」

「お前が、原因かぁあああ!」

 

 

 流石に『ナデシコ』クルーからの追求に燃え尽きて真っ白になった翡翠だったが、まだ言い足りないが早急に解決しなければならない問題がある『ナデシコ』クルーは渋々話題を最大の問題である、デープ・スペース・13を覆う白銀の球体に付いての話になり、司令部に突然現れた翡翠が白い骸骨と共に消えた後も白銀の球体の収縮は止まったが、未だに存在し続けている問題を翡翠にぶつけてみる。

 

「それで結局あの後どうなったんですか? あの球体が健在な以上、司令部に現れたあの白い骸骨も生きているといか、存在しているとは思うんですが……」

 

 ルリの問い掛けに燃え尽きていた翡翠だったが、何とか復活すると隣で涼しい顔してお茶を飲んでいる金髪劇眼の同行者に視線を向ける。

 

「――ほら、呼ばれているぞ」

「――?」

 

 翡翠の視線に倣って、その場にいる全員が金髪碧眼の少女に視線を向ける……翡翠と同じというか、あの白い骸骨が着ていたボディスーツと同じと言うかそのものを纏い、8年もの間この世界に居なかった筈の翡翠と妙に親し気にしている少したれ目の品の良い感じがする。

 

「……まさかとは思いますが、もしかしてその人が?」

「――そっ、骨格標本の本来の姿――カリン、アンタまだ『イシュ・チェル』片付けていなかったのか、邪魔になるから早く片付けろよ」

「……うるさいわね、コッチも頭に血が上ってそれ所じゃなかったのよ」

 

 白い骸骨姿で現れたくせに血が上るとはこれ如何に、向けていた視線がジト目になる『ナデシコ』クルーとライカー艦長……そんな視線の中でカリンと呼ばれた少女が パチンと指を鳴らすと同時に司令部で白銀の球体を監視していたノゼアから連絡が入り、デープ・スペース・13を覆っていた球体が突然姿を消したとの報が入る。

 

 当面の危機は去った訳だが、それでも目の前に新たな問題が浮上している……デープ・スペース・13の内部警備システムでは感知出来ずに、人知れず司令部まで侵入していた白い骸骨の持ち主らしき少女と、8年前に元の世界帰った筈の翡翠が単独で現れた……最初 白い骸骨は『ボゾン・ジャンプ』がこの時空に悪影響を与えると言って、このデープ・スペース・13を破壊しようとしたのに、今はあっさりと攻撃を解除する……まるで別の目的があり、『ボゾンン・ジャンプ』などどうでも良いように――そして8年間姿を現さなかった翡翠がこのタイミングで現れる……。

 

「――結局、貴方は何がしたかったんですか? 『ボゾン・ジャンプ』の危険性を説くにしても、こうもあっさり撤収するなんて、何か別の目的があるんじゃないんですか」

 

 淡々と、だが確実に非難するルリ……お茶を飲み終わったカリンは静かにカップを置くと、その碧眼をルリへと向ける――途端硬直するルリ。彼女に向けられた作り物めいた蒼い瞳が向けられると、全てを見通し、全てを吸い込みそうな恐ろしい感覚に支配されて身動き一つ取れなくなる――だが硬直は直ぐに解かれる。横に居る翡翠が ポカリとカリンの頭をぶん殴ったからだ。

 

「――痛い! 何するのよクリス、私の美しい頭蓋骨にヒビでも入ったらどうするのよ!」

「――うっさい、一般人を脅かしてんじゃない。っていうか、やっぱりコッチのアンタもナルシ~な訳?」

 

 ぎゃあぎゃあ言い合いをしていたが、翡翠が「ほれ、話せ」と言うとカリンに催促すると、翡翠の顔を見ていたが大きくため息を付いて話し出した。

 

「……まあ、『ボゾン・ジャンプ』による亜空間亀裂なんて私達にとっては些細な事だから、それほど力を入れている訳ではない――8周期前に、この辺境の銀河で次元転移反応が観測された……私が来たのはその調査の為だ」

「――些細な事って、私達にとっては大問題ですよ! それを――」

 

 カリンの物言いにカチンっときたルリが噛みつくが、カリンの蒼い瞳はどこまでも冷たく深い。

 

「――それは君達の都合だ。我々にとって亜空間亀裂など些細な問題だよ」

「――そんな言い方――」

「……つまりアンタは、8周期前の次元転移反応を追ってこの銀河に来た訳だ……まったく、どこまでがアイツの筋書きだ……」

 

 突き放すようなカリンの物言いに抗議しようしたルリだったが、翡翠の呟きにかき消されるほどの弱弱しいモノでしかなかった。翡翠はそんなルリを見る事無く、カリンと話を進めて行く。

 

「……まぁ、その次元転移の原因も判明した訳だけど」

 

 ジト目で翡翠を見るカリン。

 

「――それで、貴方は何故、また次元の海を渡って来たのかしら?」

 

 そして何故 私をここに連れて来たと視線を強くして問い掛ける。

 

「さて、それじゃ話しましょうか」

 

 翡翠は語り出す――次元の海を渡って元の世界へと帰還してからの事を。宇宙戦艦『ヤマト』と供に元の世界へと帰還した後、彼らは目的地である大マゼランへの航海へ復帰し、翡翠も本来あるべき場所へと帰還したが、3年の時が経った頃に銀河間空間を航行中の『アルテミス』に未知のコスモウェーブが接触し、はた迷惑なコスモウェーブを送り付けて来る相手に文句の一つでも言ってやろうと、発信源である天の川銀河に向かう間に情報収集の傍ら『ヤマト』がどうなったかの情報を収集してみると、せっかく母星を再生したのに新たな厄介事に見舞われていた。

 

「……彼らの地球は救われたのか」

 

 翡翠の説明を聞いたライカー艦長は、故郷を救う為に必死になっていた若い士官―古代の事を思いながら、彼等の思いが報われた事に安堵したが、また新たな問題に見舞われているのかと前途多難な人生だなと思う。

 

「……それで厄介事って何があったんですか?」

「……彼らの銀河に向けて巨大な彗星が迫っていた――進路上にある星を砕き、そこに住まう知的生命体の全てを根絶やしにしながら、巨大な彗星は宇宙に死と破壊を振り撒きながら進む――巨大な彗星を操るのは『ガトランティス』……地球の、いえ宇宙戦艦『ヤマト』の新たなる敵」

「……星を砕き、全ての生命を根絶やしにする」

 

 翡翠の説明に出て来た全てを破壊する『ガトランティス』……デルタ宇宙域を旅したUSSヴォイジャーの航海日誌『ヴォイジャー・レポート』の記述を思い出すライカー艦長――デルタ宇宙域で猛威を振るう『ボーグ集合体』。だがその『ボーグ』をも上回るかもしれない脅威として記載されていたのが、『生命体8472』……この世界に隣接する流動空間に生息して、強大な力を誇る『ボーグ・キューブ』を一撃で破壊する排他的な種族。この銀河系に住む生命を自らを汚染するモノとして浄化しようとしたと言う。

 

「はた迷惑なコスモウェーブを送り付けて来た相手――高みへと昇華して、この世の始まりから終わりまでを見通す、女神なんて物に祭り上げられている高位存在により呼ばれた宇宙戦艦『ヤマト』は、『ガトランティス』を止める為に、私は白色彗星に潜むこの世の理に反した獣―『破滅を謳う獣』を仕留める為に――」

 

 翡翠が『破滅を謳う獣』の存在を告げた途端、カリンの碧眼が大きく見開かれる。

 

「――貴方達は、“奴ら”の侵入を許したのですか!?」

 

 驚きを露にするカリンを冷たい目でみていた翡翠は にやりと嗤う。

 

「……居るんだな、この世界にも“奴ら”が」

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 骸骨ことカリンですが、彼女は自分大好きっ娘で、自分磨きに余念がないのですが、何時しか「私のもっとも美しいのは内面ではないのか?」との考えに取り付かれて、それが変形合体して「内面から滲み出る美しさ――つまり、一番奥こそが美しいのでは!?」と とち狂って、人体の奥底にある“骨格”こそがもっとも美しい、と肉の身体を亜空間に保存して、自らの骨格を通常空間に投影している……早い話がなるし~の変態です。


 では、次は1月18日の本編でお会いしましょう、ではでは~。
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