宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
「……圧倒的な物量を持つ白色彗星と“超能力”を操る『バイオ・シップ』と『眷属』どもが相手では、不屈の精神で勝利を掴んで来た宇宙戦艦『ヤマト』といえど勝てない――だから、“手助け”が必要だと思うんだ」
貴方達は『ヤマト』に借りがあるだろう? と翠眼で見据えながら翡翠は問い掛ける……いや、これは問い掛けなどと言う生易しいものではない――言外に借りを返せと言っているのだ。傲慢不遜ここに極まれり、当然の如くライカーとディアナは難色を示す……連邦宇宙艦隊の任務は人跡未踏の深宇宙の探査が大部分を占めているが、それだけでなく外交や防衛任務も含まれている――しかも昨今の情勢は、惑星連邦と長年 緊張関係にあったロミュラン帝国の首都 惑星ロミュラスが超新星爆発の影響で崩壊して、多数の難民が溢れて不安定な情勢になっている。
そして銀河系の反対側のデルタ宇宙域には未だ『ボーグ集合体』が健在であり、何時『ボーグ・キューブ』による再侵攻が行われるのか未知数な中で、ただでさえ航宙艦不足であり士官の数さえ不足している宇宙艦隊から航宙艦を派遣するなど情勢が許しはしなかった。
そしてそれは『ナデシコ』側も同じであった。
アクシデントによって並行世界へと転移した『ナデシコC・D』に乗艦していたクルーの大半は故郷に家族を残しており、『ボーグ集合体』の手に落ちたテンカワ・アキトを救出する目的を達成した後、彼等は自分達の危うさに気付いた……並行世界という寄る辺の無い世界の中で生きて往かなければならないという現実、家族とは二度と会えずにその消息を知る術もない。
しかも彼らの持つ『ボゾン・ジャンプ』の技術を狙う、様々な異星人の勢力から自らを守らなければならないというプレッシャーが圧し掛かり、『ボーグ集合体』との戦いの中で同盟を結んだ惑星連邦という後ろ盾でさえいつまで援助してくれるのか分からない状況の中で、彼等は自分達の立場を早急に固める必要がある。
そんな中で別の世界の戦いに干渉する余裕など彼らには無かった――だが翡翠は、そんな彼らの逡巡を許さなかった。
「――この世界に迷い込んだ宇宙戦艦『ヤマト』は、『ボーグ』と遭遇した時も見も知らぬ貴方達と共に戦う道を選んだ……貴方達を置いて撤退してもいい筈なのに――それは彼らが、誰かを犠牲にしてまで進むのを良しとしなかったから」
……青臭い理想論だけどね、と肩を竦める翡翠。
「……ねぇ、ライカー艦長? 連邦が大切なのは分かる。『ナデシコ』のみんなも、何時までも根無し草の
――けどね、貴方達の大切なモノに宇宙戦艦『ヤマト』のクルーは入らないのかしら? 翡翠の翠眼がまっすぐにライカーとユリカそしてルリを見つめる。確かに対ボーグ同盟を起こした時に、元の世界へと戻る事を優先した『ヤマト』は離れた……それでも彼らは彼らの出来る範囲で協力して来た筈である――そしてそれは『ボーグ』対する最後の切り札であるカウンタープログラムを入力されたナノマシンを完成させる要因となった……どこぞの、全てを見通す女神に祭り上げられた高位存在の言葉を借りれば“縁”を紡いだ結果だろう。
……とはいえ、いくらライカー達が信義に篤かろうと仮にも航宙艦を預かる艦長だ――彼の決断によってクルー数百人の運命のみならず彼らの後方に居る連邦市民の安全を危険にさらす事など出来ないだろう……8周期前の『アルテミス』の情報収集により、惑星連邦の周辺状況はかなりきな臭いモノがある事が判明している……それが悪化こそすれ、こんな短期間で改善しているとは考えにくい――ならば、彼が“動ける”ように状況を整える必要がある。
「ねえライカー艦長。もし私の要請に応えてくれるなら――期限付きだけど、デルタ宇宙域との間に障壁を張ってあげる」
「……障壁?」
「――そう。連邦の領域とデルタ宇宙域が隣接する領域のワープを阻害するフィールドを張る、そうすればデルタ宇宙域への警戒……『ボーグ』の侵攻を気にしなくても良い、代償としては不足?」
翡翠の言葉を聞いたライカーは、彼女の言う“代償”に付いて思考を巡らす……現在惑星連邦を取り巻く情勢は予断を許さない。『ボーグ』による三度の侵攻とガンマ宇宙域に勢力を持つドミニオンとの戦いで大きく疲弊した連邦宇宙艦隊は、この8年間でルナ級を始めとする新型航宙艦を就役させたり、教育により優秀な艦隊士官を輩出する事によってそれなりに回復する事は出来たが、近年 連邦と長年緊張関係にあったロミュラン帝国が災害に見舞われて多数の難民が出て内部がかなり不安定になっている。
それだけでなく、銀河系の中心領域を挟んで反対側にあるデルタ宇宙域の動向にも注意を向けて行かなければならない――アクシデントによって7万光年も離れた未知の宙域に単艦で飛ばされた『USSヴォイジャー』の航海日誌――通称『ヴォイジャー・レポート』によれば、彼等の飛ばされた先であるデルタ宇宙域には様々な脅威になりえる種族が存在しており、アルファ宇宙域でも恐怖の代名詞となっている『ボーグ集合体』の本拠地があるだけでなく、『死体』から仲間を増やす種族や、全員が『死病』に侵されて新鮮な臓器を求めて他の種族を襲う種族。狩猟に喜びを見出して獲物を仕留める為ならばどんな危険な行為すら行う種族。
そして、強大な『ボーグ・キューブ』を一撃で破壊する恐るべき戦闘能力を持つ、この宇宙とは異なる流動空間からの侵入者など、警戒すべき様々な種族が存在するデルタ宇宙域――銀河系の反対側に位置する宇宙域からの
「……そんな事が可能なのか?」
「……実はこの世界から本来の世界に帰った後に、ちょっとトラブルに巻き込まれたんだよ」
切っ掛けは例に漏れず“教授”の実験だった……元の世界に戻った翡翠は待ち構えていた教授に捕獲されて、彼女が手掛けている亜空間跳躍実験用に準備された改良型のシールドを搭載された実験艦へと放り込まれて、次なるステージである炎の回廊の先である水の回廊と呼ばれる高密度の亜空間へと跳躍したのだ……そして実験はアクシデントによって失敗して、彼女はまったく見知らぬ世界へと迷い込んでしまったのだ。
その世界で翡翠は、銀河を旅する大規模な移民船団と出会う――巨大な円盤状の母艦を中心に無数の航宙艦で構成される船団に身を寄せて、アクシデントの際に出会ったもう一人と共に迎えが来るまで休息と洒落こんだのだ。
「――その世界の銀河には、ワープを阻害する次元の裂け目である断層が存在している」
船団の航宙艦には空間湾曲型である超光速航行技術『フォールド』と呼ばれるワープ技術が搭載されているが、その世界には特有の現象であるフォールド断層と呼ばれる次元の裂け目があり、無理に突破しようとすると船団ごと次元の裂け目に墜ちるという……だがフォールド断層の調査をすると、その次元の裂け目はあらゆる攻撃を別の位相へと逸らすリバィバル級殲滅型戦艦の防御シールドである『位相変換型シールド』と類似する部分があった。
「――その世界特有の兵器『
真剣な表情を浮かべて検討するライカーとディアナを横目で見ながら翡翠は翠眼をユリカ達へと向ける。
「……さて、アンタ達には貸しがあるな? どこぞの自称コンピューター思念体の要請を受けてミスマル・ユリカを目覚めさせたし、彼を蘇生させた事もあった」
指を折り数えながらニヤリと笑う翡翠……その笑みはローティーンの少女が決して浮かべてはいけない笑みであった。
一連の騒動が収まった後も
――そしてなにより、昨年の2385年。
難民となったロミュラン人を輸送する為の船を旧ピッチで建造する火星ユートピア平原造船所で作業していた
USSタイタン 艦長室
展望ラウンジにて上級士官達と議論を行ったライカー艦長は、艦長室に備え付けられたデスクの上に表示される投影型の情報ディスプレイを整理し終わり、ふぅとひと息を付く。デープ・スペース・13で起こった事への説明と、その中で現れた
目頭を揉みながら酷使した目のコリを取っていると、長年連れ添った妻でありタイタンのカウンセラーを担当しているディアナがレプリケーターで入れてくれたコーヒーをデスクに置いてくれる。
「――ありがとう、ディアナ」
「どういたしまして……で、どうするの? 他のクルーは彼女の提案に懐疑的よ」
「彼らの意見も理解できるが、『ボーグ』の侵攻を警戒しなくても良いというのは魅力を感じる……それに共に戦った彼らを見捨てるというのは、どうもな……」
浮かないかをしているライカーを見ていたディアナは、艦長としてではなく“夫としてのウィル”に提案する。
「……たまには先人の知恵を借りてみては? きっと暇をしていると思うわ」
麗らかな日差しが零れる地球のフランス地方郊外。文明が発達して科学万能の時代が来ても、自然豊かなこの郊外の風景は変わる事なく人々の心に安らぎをもたらしている。そんな自然豊かな土地の一角に無数のブドウの木が植えられており、そのブドウ畑の中心に石造りのレトロな二階建ての民家があった。
――シャトー・ピカード。惑星連邦の宇宙探査において多大な功績を上げたジャン=リュック・ピカード元大将が退役後に営むワイン醸造所である。元々はピカード元大将の生家を改装して退役後の住処としたものであり、彼はそこで元タル・シアーのジャバンとラリスの夫婦と共に生活していた。
石造りレトロなリビングに隣接するように作られたベランダに設置されたチェアーに座りながら午後の穏やかな日差しの中で主人であるピカードはブドウ畑を見ながら休息を取っていた。
だがその表情は乏しく何か考え事をしていた……長年 連邦宇宙艦隊で航宙艦の指揮を執り、昇進した後も宇宙の平和と連邦の安定に尽力していた彼だったが、ロミュラン帝国の主星であるロミュラスが公転する太陽に超新星爆発の兆候が見られ始めてから避難する市民が難民となって溢れ、難民となった人々からの要請を受けて大量の避難船を率いたピカードは多くの難民を安全な避難先へと送り届けていた……だが宿敵であったロミュラン帝国の難民を救う行為に反対を表明する勢力が惑星連邦の中にあった――ロミュランの工作により不利益を被った連邦に加盟している複数の惑星が。
――そこに
その決定を受けたピカードは、打ち切り決定に何度も抗議したが決定が覆る事はなかった……それが彼の心に影を落として、彼が艦隊を去る要因となった……全ては自分の力不足。ロミュランを救った所で、勢力を回復すればまた同じような事をすると疑う惑星を説得出来なかった事による無力感……シャトー・ピカードは傷ついた彼の隠匿の場でもあった。
2367年に起こった『ボーグ集合体』による太陽系侵攻の折に心に大きな傷を負ったピカードは生家であるこのシャトー・ピカードにて傷ついた心を癒す事が出来た……だが、そこには彼の兄や甥の存在が大きかったが――その兄や甥は既に亡く、今の彼は孤独であった。
のどかな田園風景を見つめていたピカードだったが、不意に彼を呼ぶ声に気付く。今の彼の傍には、ロミュラン人でありながら彼の危機を救ってくれた元タル・シアー ジャバンとラリスの夫妻が居た。
「提督、通信が入っています」
「――通信? 珍しいな こんな老骨に、誰からだ?」
呼びに来たラリスが相手の名を告げると、ピカードは軽い驚きの表情を浮かべる……通信相手の彼は今も宇宙艦隊で活躍しているはずなのだが、彼の休暇はもう少し先の筈……一体何の要件だろうか? そう思いながらもチェアーから立ち上がると迎えに来たラリスと共に家の中に入り、通信設備の整った部屋へと向かう……通信相手は遠方ゆえにそれなりの設備が必要になる。
部屋に入ったピカードが投影型のウィンドウを起動すると、そこに懐かしい顔が映し出される。
『ご無沙汰しております、提督』
「――おおっ、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
ウィンドウに映し出されたのは『USSタイタン』の艦長をしているウィリアム・T・ライカーであった。ピカードが宇宙艦隊時代に艦長をしていた『エンタープライズ』でライカーは副長を務めており、それ以来の付き合いであった彼とは友人として話す間柄でもあった。
挨拶から始まった語らいは、近年の出来事からデープ・スペース・13で起こった騒動から8年ぶりに姿を現した翡翠の事と、彼女からの提案に付いて話が進む……期限付きでデルタ宇宙域との間に障壁を張る。実現出来るのかは未知数だが、もしも出来るのなら魅力的な提案ではある。
だが、その対価が宇宙戦艦『ヤマト』の存在する並行世界へと艦隊を送ると言うモノであった……いくら数多くの惑星国家が加盟する惑星連邦といえども航宙艦が余っている筈もなく、昨年起こった火星ユーロピア造船所の壊滅によって航宙艦が不足するのは目に見えている事であり、とてもそんな余裕が有る筈もなかった。
「……そんな事になっていたのか」
『今の連邦に余裕はない……ですが、デルタ宇宙域を気にしなくて良いと言うのは魅力的な提案ではあるんですが』
旧友の言葉を吟味するピカード。確かに期限付きであるがデルタ宇宙域――『ボーグ集合体』を警戒しないで良いと言うのは魅力的だ。だが昨今の情勢では艦隊を動かすには“それなり”の理由が必要である……ピカードの脳裏には『ナデシコ』と共に星雲内で『ボーグ集合体』のたくらみを阻止した後に現れた超生命体『Q』による法廷に乗り込んできて猛威を振り、巨大な白銀の航宙艦に乗り宇宙戦艦『ヤマト』と共に自らの世界への帰還の道を開いた少女 翡翠の姿が浮かび上がる……彼女はそれほど手の内を見せなかったが、あの白銀の巨大航宙艦を見るに高度なテクノロジーを持っていると思われる……ならば、もう少し手の内を見せてもらうのも手だろう。
それから二三話をした後に通信を終了して部屋を出たピカードにラリスが気付いて近付いて来る。
「お話は終わりました?」
「……ああ、突然だがデープ・スペース・13に行く事になった。船の手配を頼む」
「――はい? どうしてそんな遠くへ行く事になったんです」
「――なに、古い友人達とパーティーの準備があるのでね」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
最初はピカード元提督の登場予定はなかったのですが、書いていく内に必要になり登場しました……これがキャラが勝手に動くという奴か(汗
流石にStar Trek: Picardのキャラクターは登場しませんので、念の為。(最終シーズンが楽しみではありますが)
では2/1の本編でお会いしましょう。ではでは~。