宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第七十六話 亜空間の脅威

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋

 

 『ガミラス』が誇る4隻の次元潜航艦の協力により異次元空間に潜航して次元潜航艦の亜空間航行用機関『ゲシュ=ヴァール機関』の力によって異次元空間を進む宇宙戦艦『ヤマト』。かの船の目指す先は、惑星サイズを持つ巨大な都市帝国内部に突入して、大帝ズォーダーの座す大帝玉座の間に存在する全ての『ガトランティス』を死滅させる『ゴレム』の奪取を目指す。

 

 第一艦橋から見える異次元空間の緑色に見える光が、艦橋内のクルーの硬い表情を浮かび上がらせる。これから待つ戦いの苛烈さを覚えば、生きて帰れる者は何人いるだろうか? 未だ惑星規模の都市帝国には、その規模に見合った戦力が存在するだろう。惑星規模の戦力に『ヤマト』1艦で突撃をするのだ、過酷な戦いになる事は予想できる……だがこの戦いに勝利しなければ、地球に明日は無い。

 

 既に地球・『ガミラス』の連合艦隊の損耗率は50%を超えており、彗星都市帝国は地球近辺まで到達している……『ガトランティス』の艦隊が動くまでもなく、都市帝国が超重力を解放するだけで地球は壊滅的な被害を受けるだろう。

 

 


 

 次元潜航艦UX-01ブリッジ

 

「……まもなく彗星都市帝国の領域に入ります」

 

 次元航行機関を連動して中心に位置する『ヤマト』と共に亜空間の海を進みながら、周囲の空間に監視の目を向けるブリッジクルーより報告を受けた艦長フラーケンは鋭い視線を前方に向ける……ここまでは順調だが、そう易々と事を運ばせるような相手ではないだろう。通常空間とは異なる異次元とはいえ油断はできない。

 

「――ソナーに感。前方に巨大な障害物!」

 

 来たか、半ば予想していた通りに一筋縄ではいかないようだ。

 

「全艦戦闘配置――なんとしても『ヤマト』を予定ポイントまで送り届けるぞ」

 

 


 

 

 前方に現れた巨大な障害物の存在は『ヤマト』側でもキャッチされた。『ガミラス』戦役の時に初めて次元潜航艦と接触した『ヤマト』は、サブ・システムの一つを亜空間ソナーに転用した事があり、並行世界で出会った“いたずら娘”対策として真田が密かに開発を進めていた装備によって探知されていた……だが、技術解析席で障害物の詳細なデーターを計測していた真田は、詳細が判明していく内に唸り声の様なものを上げた。

 

「――どうしたんです真田さん?」

「……前方に全長千キロほどの障害物らしき物をキャッチしたんだが、その障害物から生命反応が有るんだ」

「――生命反応? この亜空間にも生命体が生息しているっていうんですか!?」

 

 古代の脳裏に、『イスカンダル』の帰路の折に遭遇した浮遊惑星に生息していた地球外生命体の事が思い起こされる……こんな異次元世界にも生命体が存在するのかと驚くが、そんな古代に真田は首を振って計測された生命反応はもっと大きなモノだと答える。

 

「大きい?」

「――ああ、これではまるで前方の障害物全体が一つの生命の様な反応だ」

 

 目の前に立ち塞がったのは、千キロはあろうかというほど巨大な物体であった。長く伸びた身体の四方に放熱板のような熱を帯びた翅の様な器官を備えた障害物……いや、計測によれば生命体のようだが、この異次元特有の生命体なのだろうか? だがこんな大事な場面に現生物があらわれるものなのだろうか、白色彗星が太陽系に侵攻してきてから太陽系内では激しい戦いが繰り広げられてきた……通常生物ならば生存本能により危険な場所には近付かないものではないのか? それとも通常空間で起こった事はこの亜空間には何の影響も与えないのか。

 

 亜空間の中を泳ぐように悠然と構える巨大生物はその先端……航宙艦でいえば艦首に当たる部分に亀裂が入ると、その部分に幾つもの牙が見え――次の瞬間、亜空間の中が沸騰した。巨大生物の口に相当する部分が大きく開くと、凄まじい衝撃波が発生して亜空間内を伝播して、『ヤマト』を含む5隻の戦闘艦は、時化の海で翻弄される木の葉のように衝撃波に翻弄される。

 

「――くっ! 姿勢制御スラスター……ダメだ、通常空間よりも効果が少ない!?」

「……この亜空間は、我々の宇宙とは空間の性質が異なる。次元潜航艦のような特殊な機関が必要なのだろう」

 

 激しい振動に見舞われる『ヤマト』の船体を何とか安定させようと苦心する島だったが、通常空間とは異なる亜空間内では『ヤマト』はまともな機動が出来ず、目の前の巨大生物が発生させた衝撃波が収まるのを待つしかない……だが、それよりも気になる事があった。

 

 先ほど巨大生物が発した衝撃波が『ヤマト』を襲った時、数々の戦場を『ヤマト』と共に駆け抜けた戦士であるクルー達の身体が硬直して全身をおぞましい感覚が駆け抜けたのだ……あれは、全てを見下すモノ。アレは、全ての存在を嘲笑うもの――彼らは身を以て実感した。

 

「……アイツが、あの生物(バケモノ)が放ったのは、底知れぬ悪意」

 

 アレは“敵”だ――生けとし生けるもの全ての敵だ。

 

「――主砲一番、二番発射用意! 艦首魚雷発射管開け――」

「――古代! 位相が異なるこの亜空間では、通常兵器は使用不能だ……ここは次元潜航艦に任せるしかない」

 

 目の前の巨大生物(バケモノ)が放つ悪意に反応した古代が攻撃態勢へと移行しようとするが、技術支援席で巨大生物の詳細なデーターを計測していた真田が諭す……通常空間とは異なる理で存在する亜空間内では通常装備はまともに機能せず、頼みの三式弾もこう距離が開いては射程の外になり『ヤマト』では戦う手段が無かった……歯噛みする古代を尻目に、狭まった索敵範囲内をレーダーで探っていた西城が次元潜航艦からの攻撃が始まった事を告げる。

 

「――先行する次元潜航艦より魚雷が発射されました」

 

 


 

 

 次元潜航艦UX-01ブリッジ

 

 亜空間ソナーにて目の前に立ち塞がる巨大生命体との正確な相対距離を把握したUX-01は、艦首に装備された6門の魚雷発射管に亜空間魚雷を装填して計測された目標までのデーターの入力も終了し、後は艦長の号令を待つばかりである。

 

「――魚雷発射準備完了」

「よっしゃぁ、準備完了――ヤリますかぁ、ヤリますかぁ、艦長?」

 

 ブリッジにて担当士官の報告を聞いた副長のゴル・ハイニは、努めて明るい声で楽しそうな口調で話す……今までも異次元に潜って来た彼らでも知らぬ未知の巨大生物が、この大事な局面で現れた……とても『ガトランティス』と無関係とは思えない。思っていたよりも高い技術力を持つ奴らの生物兵器――亜空間に設置された防衛兵器の一種かも知れない……目の前に現れた巨大な『壁』に対する次元潜航艦のクルーを鼓舞する為に、あえて陽気な声を上げる副長の似合わない気遣いに小さな笑みを浮かべたフラーケン艦長は攻撃を指示する。

 

 次元潜航艦4隻から放たれた亜空間魚雷は内蔵された小型の亜空間推進タービンにて亜空間内を進んで目の前の巨大生物と接触して爆発を起こすが、千キロを超す巨大生物相手には火力不足は否めなく全く効果を現す事は出来ない。

 

 その後も連続して亜空間魚雷が放たれるが効果は無く、『ヤマト』だけでも目標ポイント近くに浮上させようとするも、巨大な身体に似合わぬ俊敏さで進路を妨害する巨大生物の所為で『ヤマト』を浮上させるタイミングを掴めない。

 

 そうしている内に巨大生物の表面に変化が現れる――巨大な表面の一部がささくれ立つと、『ヤマト』と次元潜航艦群へと向けて射出される。高速で飛来する黒い棘――千キロを超える巨大生物が放つが故に、棘の一つ一つも下手な魚雷よりも巨大であり、迫り来る無数の黒い棘の群れを何とか回避する事に成功した『ヤマト』と次元潜航艦群……いや、回避したと言うよりも、あえて外したと言うべきだろう。その証拠に巨大生物の先端部分が歪に歪んでいた。

 


 

「……くっ、完全に遊ばれている」

「……こんな所で時間をかける訳には行かないのに」

 

 宇宙戦艦『ヤマト』の艦橋から次元潜航艦と巨大生物との戦いを見ていた古代と島は、巨大生物に翻弄される自身の不甲斐なさに歯噛みしながらも打開策は無いか探っていたが打てる手は無く、次元潜航艦群が上手くやってくれる事を祈るだけである……そんな中、厳しい表情で得られたデーターを解析していた真田は、ある決断をする。

 

「――『波動魚雷』を使おう」

「……『波動魚雷』?」

 

 聞いた事もない兵器名に思わず問い返す古代。

 

「並行世界で運用されていた『光子魚雷』をヒントに試作した試作魚雷で、『波動砲』の百分の一のエネルギーを充填したモノを小分けにした物を複数装填して射出するんだが、コストが問題になって試作段階で終わった兵器だよ」

 

 光子魚雷――並行世界にて惑星連邦の航宙艦が使用していた兵器の一つであり、黒いペレット型弾頭内に正・反重水素を数千のパケットに入れて射出されて、標的付近でばら撒かれた数千のパケットが物質・反物質反応を起こして対象を破壊する大規模破壊兵器であり、その破壊力は小惑星クラスならば粉砕する威力を持つ。

 

 その威力を目の当たりにした真田は、地球に帰還した後も研究を続けて、『ボーグ・キューブ』の様な巨大な敵に遭遇した場合に、通用するのが『波動砲』だけという現状では戦術の幅が狭まり、相手に対応される事が予想された。そこで『波動エネルギー』を用いた兵器の研究を行って一つの成果として完成したのが『波動魚雷』だった。

 

 常の空間魚雷と同サイズながら、『波動砲』の百分の一のエネルギーを数十個の充填パケットに内包した魚雷が対象に命中した時に拡散した充填パケットが内包した『波動エネルギー』を解放して広範囲を破壊する――だが、試作段階から充填パケットの高コストが問題になり、しかも大量の希少金属を必要とする事も有って試作の2発をもって開発は中止となった曰く付きの兵器である。

 

「この亜空間では通常兵器は使用できないが、広範囲を破壊できる『波動魚雷』なら発射管から射出した運動エネルギーで巨大生物の近くまで到達してダメージを与える筈だ」

 

 真田の提案を受けて試作魚雷の発射準備を整える『ヤマト』。やがて準備が整って艦首魚雷発射管より2発の『波動魚雷』が射出され、位相が異なる亜空間を射出された運動エネルギーのみで飛んでいき、今まで脅威となりえるような攻撃を受けなかったが故に、侮った巨大生物は飛来する試作魚雷に対して何の反応も見せず――『波動魚雷』が着弾する――百分の一とは言え『波動砲』のエネルギーを充填された魚雷が炸裂して、今まで傷つく事が無かった巨大生物の表面が抉れ、周囲に肉片を巻き散らす……大陸すら破壊する『波動砲』の百分の一とは言え、その破壊力は油断しきった巨大生物に打撃を与えるには十分だった。

 

 


 

 

 彼もしくは彼女は、いま予想だにしない痛みに悶えていた。

 寝床を燃やされた彼もしくは彼女は、身を沈めた位相の中に5つの小さな船を感知して戯れに干渉してみたが、取るに足らない力しか持たない哀れな存在であった。戯れにも飽きてきて、そろそろ砕くかと思考していた時、小さな船の中の一つが小癪にも攻撃して来た――無駄な事を。そう嗤った彼もしくは彼女は、5つの小さな船を砕くべく力を振るおうとしたが、小さな船から放たれた攻撃は彼もしくは彼女の身体を砕き、初めて受けた痛みに悶え――確信した。

 

 この攻撃――家主が遊んでいた惑星の前に居た船から放たれた、あの苛烈な光と同様のエネルギーだった――コイツ、コイツだ! 心地よい微睡みを邪魔して、高速中性子と高圧ガスの雲の寝床を燃え上がらせたのは! その身に走る痛みと共に、彼もしくは彼女は怒りの炎を燃やす。許せない……取るに足らない存在の分際で、栄光ある我が主に傅く彼もしくは彼女を煩わせるとは――怒りの感情に支配された彼もしくは彼女は、細胞の稼働レベルを上げて、“超”能力をもって眼前の小賢しい小船を破壊しようと決意する。

 

 


 

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋

 

 目の前に立ち塞がった巨大生物に対して試作兵器『波動魚雷』を使用した宇宙戦艦『ヤマト』は、此方を侮り無警戒故に『波動魚雷』の直撃を受けてダメージを負った巨大生物が口の様なモノを広げて絶叫のように周囲に衝撃波を巻き散らす。その光景を見て追撃を提案する古代。

 

「――効いている! 真田さん、次の弾頭を――」

「……言っただろう、試作兵器だって。あの2発しか無いんだ……後は次元潜航艦に頼るしか――」

 

 首を振りながら真田が答えていた時に外を見ていた島から巨大生物の様子に変化があった事を知らされて、二人の視線が第一艦橋の窓の外――かなり距離が開いているが相手の巨大さゆえに容易く認識できる生物の切っ先が此方を――『ヤマト』に相手の意識が向いている事が分かる。

 身動きすらせずに此方を、『ヤマト』を意識している巨大生物の切っ先……いや“口”が開いたかと思うと再びあの衝撃波が放たれる。千キロを超える巨大生物が放つ咆哮を、333メートルしかない『ヤマト』はまともに受けて『ヤマト』自体が激しい振動に見舞われ、中に居るクルーの全身を強烈な敵意が打ち付ける。

 

「……これは怒り……あの巨大い生物の感情が分かる…何故だ?」

「……あれは我々の知る生物のカテゴリーから外れたモノ。常識では計り知れない生物ゆえにテレパシーらしき物を持っていても不思議はないが……」

 

 だがそんな生物が存在するのだろうか? しかし問題はそこでは無い――目の前の巨大生物は、この『ヤマト』を標的にしているという事。溢れんばかりの戦意を纏う巨大生物の切っ先はまっすぐ『ヤマト』を向いている……巨大な生物から発せられる敵意は、クルー達の中にある遺伝子に刻まれた原始の頃の恐怖を呼び覚ます。

 

 ……太古の昔、鋭い牙と強靭な爪を持つ肉食獣から逃げ惑っていた人は、何時しか知恵を巡らせ武器を作って凶悪な肉食獣に立ち向かった――彼らは怯える自身を鼓舞して戦う気概を取り戻す。此処を突破して、都市帝国奥深くの大帝玉座の間に存在する『ゴレム』を奪取しなければならないのだ。

 

 『ヤマト』のクルーが戦う意思を取り戻した時、『ヤマト』や次元潜航艦のはるか後方より紅い輝きが飛来すると、猛スピードで『ヤマト』を追い抜いていって敵意溢れる巨大生物に命中――これまでにない程の爆発を起こして、周囲の空間を振動させながら絶叫上がる。

 

「……何だ、次元潜航艦か?」

「……いや、今のは次元潜航艦の遥か後方から飛来して来たようだったが」

 

 


 

 

 リバィバル級殲滅型戦艦『アルテミス』

 

 忌々しい『破滅を謳う獣』が巣食う白色彗星を、サブスペースに身を隠しながら追跡していた『アルテミス』の統合思念体『エネルナ』は、もしも表情筋を持っていたなら思わぬ僥倖にほくそ笑んだ事だろう――忌々しいバイオ・シップに屈辱的な敗北を喫した『エテルナ』は、雪辱の機会を伺っていたが案外早く巡って来たものだ。

 

 生憎クリスは“祭り”の準備の為に不在だが、こうして機会が巡って来たのだ、少し位は“借り”を返しても良いだろう。通常空間では武装にも制限が付くが、この位相がズレた亜空間の中なら十全な力が振るえる――躾の悪い獣に教育をしてやろうではないか。

 

 白銀に輝く流体金属の船体に溢れん闘気を宿して、『アルテミス』は戦闘態勢に移行していた。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 試作された波動魚雷は、そのコストの高さゆえに正式採用は見送られ、それに代わる物として三式弾同様主砲から発射して込める波動エネルギーを一つの弾殻に込める方式に変更した波動カートリッチ弾が開発された……などという妄想をいたしました。


 では、次回。亜空間内で猛威を振るう巨大生物に翻弄される『ヤマト』の前に再び現れた白銀の船『アルテミス』――そして、彼女も。

 第七十七話 絶望に抗う者達
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