宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
デープ・スペース・13 会議室
突然 翡翠からの呼び出しにより、『ナデシコ』側から司令官であるテンカワ・ユリカと副司令のアオイ・ジュン、実働部隊からホシノ・ルリと腹心のタカスギ・サブロウタ。科学・技術部門よりイネス・フレサンジュとウリバタケ・セイヤの六名の他に各部門の責任者たちが応じて足を踏み入れ、惑星連邦側からはUSSタイタンの艦長ライカー大佐と同艦のカウンセラー ディアナ・トロイ、科学士官や警備部門より責任者の他数名が要請に応えて会議室へと足を踏み入れると、そこには翡翠だけでなく見知った顔であるジャン=リュック・ピカード元提督が席に座っている事に驚きながらも納得をする……デープ・スペース・13に来訪したピカードが早速 翡翠と接触してくれたのだろうと、仕事の着実さは現役時代と遜色ないと思っていたのだが……事態は思わぬ方向へ向かう。
てっきり翡翠を諫めたか、何らかの妥協点を見出したのかと思ったが、何故かピカードと意気投合しだした翡翠によって改めて敵『バイオ・シップ』と眷属に付いて詳細説明がされ、意気投合しだす異色のコンビと、そのコンビから改めて説明された“敵”の厄介さに頭を抱えたライカーとユリカ達……翡翠の説明によれば、敵『バイオ・シップ』と眷属は生物でありながら過酷な宇宙空間を進み、通常の細胞や遺伝子すら破壊する強烈な放射線すら防ぐ強靭な外骨格であらゆる攻撃を弾く……それだけでも厄介なのに、巨体に見合う巨大な脳より生み出される思念波は物理法則すらも捻じ曲げて、思念波により作り出される壁『思念防壁』により通常の攻撃は巨体の表面にすら届かないと言う。
「……本当に生物か?」
「……あははは……どうしよう?」
説明を聞いたライカーは生物の定義に疑問を浮かべ、『バイオ・シップ』の厄介さを聞いたユリカは渇いた笑いを浮かべて途方に暮れる。そんな反応を見ながら翡翠もため息を付いて「……『思念防壁』を抜くだけでも面倒なのに、アイツらの表層は無茶苦茶硬いから面倒なんだよ」とボヤく。投影型のウィンドウに表示された『バイオ・シップ』の概略図を前に唸りながらも攻略法を考えていたライカーは、既視感を覚えて眉を寄せる……ウィンドウに映る『バイオ・シップ』の姿と名称……概略図を睨むように見ていたライカーは、アクシデントによりデルタ宇宙域に飛ばされながらも7年の年月を掛けて帰還したUSSヴォイジャーの恒星日誌『ヴォイジャー・レポート』に記載されていた未知の存在である『生命体8472』が運用していた生体航宙艦『バイオ・シップ』の事を思い出した。
故郷へと帰還する為にUSSヴォイジャーは、デルタ宇宙域の中でももっとも危険な領域である『ボーグ領域』へと足を踏み入れた――何千という恒星系が『ボーグ』に同化され、無数の『ボーグ・キューブ』が飛び交う『ボーグ集合体』の本拠地とも言える。
危険を覚悟で足を踏み入れたUSSヴォイジャーの前に現れたのは、未だ見た事もない“15隻もの”『ボーグ・キューブ』の艦隊……ヴォイジャーの艦長キャスリン・ジェインウェイは、絶望的な状況でも希望を捨てずに全艦に
先を急ぐかのような『ボーグ』の行動を不審に思ったヴォイジャーは通り過ぎた『ボーグ』艦隊の痕跡を追って追跡し、無残にも破壊された『キューブ』の残骸を発見する……このデルタ宇宙域には『ボーグ集合体』を上回る存在がいるのか? 破壊された『ボーグ・キューブ』を調べていたヴォイジャーは、そこで生物機的な航宙艦と接触して未知の種族の存在を知った。
当時クルーの中にテレパス能力に長けた者がおり、その者は少し前から何者かの意思を感じ取っており、それは『ボーグ・キューブ』を破壊した生命体の意思を感じ取っていた事が判明する――かの存在は天の川銀河に存在する生命体を、自らを汚染する汚染源と断定して浄化――銀河に住む全ての知的生命体を殲滅しようとしていたのだ。
『キューブ』を容易く破壊する存在が全ての種族を滅ぼそうとしている――『ボーグ』を上回る脅威の出現にヴォイジャーのジェインウェイ艦長は驚愕の決断を行い……結果的に未知の種族――正式な種族名が不明な為に『ボーグ』の分類に倣って、仮称『生命体8472』の脅威は去ったのだった。
「……そのとんでもない決断って?」
「――劣勢に陥っていた『ボーグ集合体』に交渉を持ちかけたんだよ」
「「「……はっ?」」」
突然 人跡未踏のデルタ宇宙域を踏破して地球に帰還したUSSヴォイジャーの話を語り出したライカー艦長。その話の中に出て来た生物的な航宙艦を運用する未知の種族の件になった所で、ユリカやルリそしてイネスと言ったこの基地のデーターベースを隅々まで網羅していた者を除き、翡翠や他の『ナデシコ』のメンバーの視線を集めたライカー艦長は特大の爆弾を落として――聞いていた者は己の耳を疑った。
自らを高める事を至上の命題とし、自身に有用であると判断すれば力ずくで『同化』する『ボーグ集合体』……その脅威を嫌と言うほど味わった『ナデシコ』クルー達。この世界に転移した直後に『ボーグ・キューブ』と遭遇して船を放棄するほどのダメージを受け、新生した『ナデシコ』を持って決戦に挑むも力及ばず虜囚の身となった苦い経験は消えるモノではない。
そして、それは『ボーグ』の侵攻を受けた惑星連邦とて同じはずなのに――まさか連邦に属する航宙艦の艦長が、『ボーグ』に対して交渉を持ちかけていたとは。
「……当然、『ボーグ』の反応は芳しくないモノだったが、ヴォイジャーには切り札があった――未知の種族が運用する生物的な航宙艦『バイオ・シップ』に有効な兵器『生体分子弾頭』が」
「……『生体分子弾頭』?」
『ボーグ集合体』が恐怖の代名詞と呼ばれるのは、『同化』という個人の尊厳を破壊する行為だけでなく、此方の攻撃がほぼ通用せずに有効な反撃手段が無い事も大きい――『ボーグ』と遭遇した初期においてはあらゆる種族が持てる力を持って抗い、時には優勢になる事もあった――だが、『ボーグ』の恐ろしさはそこから“始まる”。
いくら優勢に戦いを進めようとも必ず犠牲になる者は出る――ひとたび『ボーグ』に囚われれば、全てを解析されて『同化』され、それ以降は その種族が使用する兵器に特化した無敵の『ボーグ・シールド』が全ての攻撃を完全に防ぐ――かつて『ナデシコ』が接触した『ボーグ・キューブ』に対して攻撃が無効にされたのも、それ以前に『同化』したユーチャリスの技術を解析したが故にだった。
――だが逆を言えば『同化』出来なければ相手の強力な攻撃を防ぐことは出来ず、『生命体8472』が要する『バイオ・シップ』相手に敗北を続ける要因でもあった。
「……ヴォイジャーのジェインウェイ艦長は『ボーグ』領域に入る前から対『ボーグ』の戦術を練り、『同化』に対抗する為の研究も重ねていた」
『生命体8472』に襲われたクルーを救う為にヴォイジャーのホロドクターは研究していた『ボーグ』の『ナノプローブ』を改造してクルーに注入された異星人の細胞を死滅させる事に成功し――採取したサンプルから、異星人と『バイオ・シップ』は同じ有機質で出来ている事を知ったジェインウェイ艦長は、大量に複製した『改造ナノプローブ』を搭載した『生体分子弾頭』を交渉材料に悪魔と取引したのだ。
「……はぁ、惑星連邦にも とんでもない艦長が居たモンだ……けど『生体分子弾頭』か、中々面白い代物じゃないか」
「君の言う『バイオ・シップ』と眷属たちの生体サンプルが在れば、このデープ・スペース・13にも『ボーグ』の『ナノプローブ』のサンプルがあるだろうから――」
「――もちろん、在るともさ」
にやりと男くさい笑みを浮かべるライカーに、翡翠はローティーンの少女が浮かべてはいけない類いの笑みで答え……周囲の人はドン引きして身を一歩引いていた。
宇宙歴65186.3(西暦2388年6月)
深宇宙基地デープ・スペース・13。アルファ宇宙域とベータ宇宙域という広大な領域に影響力を持つ惑星連邦において外縁部にあるジュレ星系近くに位置する巨大なステーションであり、辺境であるが時折銀河系の反対側にあるデルタ宇宙域に向かう“変わり者”が寄港したり、反対にデルタ宇宙域に異変がないか監視をする機能も備えていた――そんなデープ・スペース・13のセンサーの一つが、異変を感知する。
デープ・スペース・13司令部
「長距離センサーに反応在り、空間に重力特異点が発生して時空連続体が歪められています」
デープ・スペース・13の全てを制御する司令部には、テンカワ・ユリカ司令以下、副司令としてユリカの補佐をしているが運営に関する厄介事を丸投げされて胃がヤバいと噂されるアオイ・ジュンと実働部隊を率いるホシノ・ルリそして科学・医療部門を統括するイネス・フレサンジュとエンジニア部門の責任者であるウリバタケ・セイヤが揃ってノゼアからの報告に気を引き締める。
「……時間通りですね」
「……時間に正確なのは良い事だが、登場の度にこう派手だと隠密任務には不向きだな」
空間異常の報を聞いたルリの呟きに、同じくその場に集まっていたUSSタイタンのライカー艦長が顎をさすりながら答える……途中からデープ・スペース・13に来ていたピカード元大将は、生家のブドウが気になると言って地球へと帰還しており、後の事を託されたライカーが連邦を代表する形でこの場に参加していた。
そんな他愛もない話をしている内に、司令部に備え付けられていたメイン・ビューワーに映し出された空間の時空連続体に変化が起こり、周囲の空間を押し退けて一隻の航宙艦が姿を現す――黒い主船体に赤いラインが走り、四方に伸びたパイロンの先には四つのそれぞれ別のシールド発生装置を備えた船――翡翠の乗る『実験艦―02』だった。
「――ユリカ司令、黒い船からホログラム通信が入っています」
「――ホログラム通信機起動して下さい」
「了解、起動します」
ユリカ司令の了承を得てホログラム通信機を起動するノゼア。
するとメイン・ビューワーの前に設置された装置が起動して台座から投影された光が重なって人の形を作り上げる――栗色の髪をウルフカットに整え、白いボディスーツに青い結晶を付けた翠色の瞳を持つ少女 翡翠の姿が映し出される。
『――やあ、2周期ぶり。準備は整ったかな?』
……開口一番これである。どこまでも自分のスケジュールを優先する態度にいっそ感心してしまう。8年ぶりに突然現れて、強大な敵と戦う運命にある宇宙戦艦『ヤマト』に助力を求める翡翠……周辺状況を鑑みて難色を示す連邦と『ナデシコ』に交渉と言う名前の強要を強いて来て、最後には「……もしも拒否されたら、失意に溺れた私は侵食魚雷に次元転移システムを付けて、あの生モノを別の次元に放り出すかもしれないかも……?」などと本当にいい根性をしていると思う。
彼女の提案に対してどう対処していくかと頭を悩ませている時に、翡翠と話をしたいと突然デープ・スペース・13に来訪した連邦宇宙艦隊ジャン=リュック・ピカード元大将……数々の功績を立て様々な難問を解決して来たかの御仁の交渉力に期待したのだが――何をどう間違えたのか、翡翠とピカードは意気投合して『ヤマト』の世界に援軍を送る事を主張し始めたのだ……曰く、一度は共に戦った友人が困難に直面しているのだから、手を差し伸べるのは自然な事だと。それ以外にも、このおてんば娘に人の輝きを見せてやりたい、と言ったピカードの表情は何時もの気難しい表情ではなく、驚くほど穏やかな表情を浮かべている。
……そういえば、以前に宇宙戦艦『ヤマト』の副長と会談のスパイスとして話していた時に、『ヤマト』艦内での翡翠は幼い容姿も相まって地球に家族を残して参加していた年長のクルーに可愛がられていたと言う……どうやら翡翠は、いわゆる“おじいちゃん子”のようであった――本来他者を必要としない彼女は記憶を失った状態で『ヤマト』に保護されて、そこで人のぬくもりと言うモノを知った――自らを年相応の子供として扱い、親しみの視線を向ける相手を好ましく思う……普段の傍若無人の性格故に本人も理解していなかったようだが。
……だが気高い理想を持って豊富な経験から最善と思える道を見出す慧眼を持つピカードと、人外の能力を見せる翡翠が合わさると、これほど厄介になるとは考えていなかった……『ヤマト』へ援軍を送る為に持てる人脈を屈指しようとするピカードを諫めようとしたライカーに、ピカードと翡翠は にやりと人の悪い笑みを浮かべて言い放ったのだ。
『問題は無いんだよ、ウィル』
『……別に今すぐ艦隊を送れって言っているんじゃなから、今から2周期の間に準備してくれたら良いから』
『……は? 『ヤマト』は強大な敵と戦うから援軍を送るのじゃないのか、それでは間に合わないだろう?』
困惑するライカーにピカードも「……聞いた時には私も困惑したよ」と苦笑しながら教えてくれた――惑星連邦が存在するこの世界へと転移する際に、翡翠は世界間の差異を利用して過去へとタイムトラベルを敢行して宇宙歴63136.9(2386年2月)のデープ・スペース・13へと来訪したと言う……つまり、今の宇宙歴65186.3(西暦2388年6月)こそが彼女 翡翠が存在していた本来の時間軸だと言うのだ……初めてその事実を聞いた時、ライカーは思った――そういう事は早く言え、と。
デープ・スペース・13
再びこの世界に姿を現した翡翠は、管制官を務めるアゥインの指示に従い『実験艦―02』をデープ・スペース・13上層の係留施設へと進入させる……通信を送ってくるアゥインの顔が微妙に引き攣っているのは気のせいだろう……巨大な傘上のドームの中に進入した『実験艦―02』はアゥインの指示に従って推力を落としながら中心部にある大規模な施設近くで停止する。
すると施設から連絡通路を兼ねたアンビリカル・アームが伸びて、迎える『実験艦―02』の黒い船体に変化が起こると形を変えてアンビリカル・アームに備え付けられたエア・ロックを迎え入れられる形へと変化する――そしてアンビリカル・アームが船体に届いてエア・ロックが船体へと接続されると、『実験艦―02』側のエア・ロックが開いて白いボディスーツを来た少女が連絡通路に足を踏み出した。
デープ・スペース・13内の施設に足を踏み入れた翡翠は、連絡通路の先で出迎えたイネス・フレサンジュと共に最終的な段取りを確認すべく大会議室へと向かう傍ら準備の進捗状況に付いての説明を受けていた。
「――じゃあ、『生体分子弾頭』の方は問題ないんだ」
「ええ、貴方から提供された『バイオ・シップ』の生体組織のサンプルを解析して擬態するようにプログラムを組んで組み込む――『ボーグ』との戦いで私達が用いた戦法の原型の様なモノだから、ウリバタケ辺りが張り切って増産したわ」
「ふむふむ」
「と言う訳で、今貴方の船に量産された『生体分子弾頭』を積み込んでいる所よ」
翡翠が去り際に提供した『ヤマト』の世界に存在する敵『バイオ・シップ』の生体サンプルを解析して、そのデーターを元にデープ・スペース・13にて厳重に保管されていた『ボーグ』の『ナノプローブ』を敵の細胞に擬態するよう再プログラムして敵の内部に送り込み、細胞に取り付つくと複製を作成した後に細胞もろとも自壊する凶悪な兵器へと改造したのだ。
「……よくこんな悪辣な事を思いつくな」
「――あら、要請に応えなければ、別の世界に“生ゴミ”を不法投棄するなんて脅しをかけて来る誰かさんに比べれば可愛い物ものよ」
「……」
「……」
無言で連絡通路を歩く二人。
「……まったく、そんな些細な事に気にしているから、婚期を逃すんだ――」
口角を釣り上げた翡翠に皆まで言わせず、素早く脱いだヒールを片手のイネスはその後頭部を引っ叩いた。
「……余計なお世話よ」
デープ・スペース・13 大会議室
痛む後頭部を摩りながら翡翠は指定された部屋へと足を踏み入れる……以前にこの部屋に来た時には、自称コンピューター思念体(笑)を名乗るジャスパーに懇願されて眠りから覚めないユリカを目覚めさせた後に、紅い制服を着た女性士官を煽りまくってピンクの大魔王に強烈な一撃を貰った物だが……あの人は元気にしているだろうか? そんな他愛も無い事を考えながら見回せば、あの場に居たメンバーだけでなく連邦の人間も居た。
『ナデシコ』に関わる者達が纏まる中心的な存在であるテンカワ・ユリカと、彼女の元でその手腕を遺憾なく発揮して実働部隊を束ねるホシノ・ルリ。そんな二人を陰から支えるアオイ・ジュンとハルカ・ミナトそしてゴート・ホーリーが傍に座り、先ほど後頭部に強烈な一撃を加えてくれた科学部門と医療部門を統括するイネス・フレサンジュと技術部門でその才を遺憾なく発揮しているウリバタケ・セイヤの姿も見える。
それから一段下がって以前煽りまくった――たしかスバル・リョーコとか言う女性士官と『ヤマト』艦内で追いかけて来たメガネと暗い感じの女性士官が並んで座り、それ以外にも各部門の責任者らしき顔が揃っている。
そしてこの場にはUSSタイタンの艦長を務めるライカー大佐とエキゾチックな美貌を持つディアナ・トロイ、そして艦隊の制服を着た耳の尖った……恐らくバルカンとかいう星出身の士官も同席している……どうやら役者は揃ったようだ。後頭部を摩りながら大会議室の中心まで歩いた翡翠は、にやりと笑う。
「――準備は整ったようだな」
そう言って翡翠は大会議室に備え付けられたシステムに手をかざすと、それだけでシステムが起動してこの場に集まったメンバーの前にホログラムが投影される――映し出されたのは一面の白、画面を覆う白、全てを塗り潰す白――高速中性子と高圧のガスで構成された惑星規模の大きさを持つ白色彗星の姿と、その進路上で青い輝きを放つ地球の姿。
「――これは『エテルナ』から送られて来た最新の情報、白色彗星を擁する『ガトランティス』は地球の防衛ラインを突破して地球軌道へと到達した」
ホログラムに映し出された白色彗星は巨大で、その進路上にある地球の何倍もの巨体に言葉を失う一同だったが、長く宇宙探査をしてきたライカーを始めとする連邦士官や、ユリカの懐刀として様々な任務で宇宙を航海してきたルリなどは、あれほど巨大な天体が傍に存在しているのに地球がその影響を殆ど受けて居ない事を疑問に思った。
「……殆どがガスとは言え、あれほどの密度が集まれば かなりの質量になる筈」
「……ですよね、なのに地球にはそれほど影響がないのは何故でしょうか?」
「……『ガトランティス』は重力を完璧に制御する程の高いテクノロジーを持っているのだろう」
物質が集まれば塊となり、塊が集まれば山となり、それが無数に集まれば大地に――星となる。そこにはその質量に見合うだけの空間の歪み重力が存在していなければならない――巨大惑星サイズの白色彗星が傍まで来ているのならば、その質量に見合うだけの重力が地球へと影響を与えて居なければならない筈なのだが、地球にその兆しはなく、最も影響を受けそうな大気すらも気象は荒れているようだが重力による流出も見受けられない。
「……そうだね。『バイオ・シップ』と眷属どもだけでなく、白色彗星を擁する『ガトランティス』もそれなりのテクノロジーと、何より膨大な物量を持つ――それでも、『ヤマト』は故郷を守る為に“必ず”現れる」
翳していた手を下ろすと翡翠は視線に力を込めて断言する……その言葉を聞いたライカーやユリカ達に否は無い。この世界に迷い込んだ『ヤマト』は、絶望的な状況下の中でも元の世界へと戻って故郷を救うべく決して希望を捨てなかった。彼女の予測の通りに彼らの故郷である地球に危険が及びそうになれば必ず現れるだろう。
「――さあ、翡翠ちゃんと愉快な仲間達の出陣の時だ!」
こぶしを振り上げて気勢を上げる翡翠だったが、ルリを始め一同の視線は冷たい物であった。
「……脅迫まがいの協力要請をしておいて、よく言えますね」
「……そうだな、確かにデルタ宇宙域との間に障壁のような物は確認出来たが、君の交渉術は少し子供っぽいな――今度、艦隊アカデミーの願書の書き方を伝授しよう」
ルリから絶対零度の視線を向けられ、ライカーからは自身の稚拙な交渉術を揶揄される……元々 翡翠は力押しを得意とし、交渉事には不向きの性格をしている。自覚がある故に頬は羞恥に染まり、ニヤリと笑ったライカーに「そこはライカー大佐と勇敢な仲間達の方が良いだろう?」と勢いで言ったネーミングにまでダメ出しをされた翡翠は、頬を染めたまま叫んだ。
「――いいから、行くわよ!」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
Voyagerの第3から第4シーズンで恐怖の代名詞とも言える『ボーグ」相手に交渉しようなんて……さすが悪魔艦長。最初のプロットを組む時に、エンタープライズEではなくデルタ宇宙域を旅するヴォイジャーを出そうかと思ったのですが……悪魔艦長のアクの強さに、他のキャラクターが食われそうな気がしたので止めたんですよね。
想定以上に長くなった閑話ですが次回で終了となります。