宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
広大な領域に影響力を持つ惑星連邦において外縁部であるジュレ星系の近くに位置する深宇宙基地デープ・スペース・13。全長100キロを超す巨大なステーションの傘上の上部構造物内には宇宙を旅する航宙艦を停泊させる係留施設が存在しており、宇宙と係留施設を隔てるグランド・ゲートが開閉して一隻の連邦艦が進み出て来る――USSタイタンであった。
だが進み出る連邦艦はそれだけでなく、タイタンに続いて姿を現したのは『エンタープライズD』に代表されるギャラクシー級の簡易量産型とも言えるネビュラ級の連邦艦がグランド・ゲートから姿を現したのを皮切りに次々と姿を現す――それに続くのは重護衛艦にカテゴライズされるアキラ級の双胴船のような特異な姿が進み、後方より多重攻撃モードを搭載するプロメテウス級や、優秀な設計思想により23世後半から長く運用されているエクセルシオール級などの大型航宙艦が姿を現した。
デープ・スペース・13から姿を現したのは連邦艦でも大型航宙艦に分類される者達であり、その全てがアップデートを受けて最新の兵装システムと航行装置そしてトランスワープの一種である『量子スリップストリーム・ドライブ』を搭載している者達であった。
USSタイタンのライカー艦長からの連絡を行けた惑星連邦のピカード元提督は、デープ・スペース・13へと来訪して、そこで別の世界からの来訪者である翡翠と再会し――何故か意気投合して、彼女の望みである別の世界の地球の船 宇宙戦艦『ヤマト』の窮地を救う為に持てる人脈を屈指して、外面的には演習と言う名目で連邦航宙艦を集めたのだ――その数、40隻。
周辺宙域の情勢が不穏である昨今を鑑みたライカー艦長などはピカードを諫めようとしたが、ピカードは頑なに考えを変えず、何が彼をそこまで駆り立てるのか問い掛ける声に彼は答えた……「私は助けを求める者達の声を二度と無下にしたくないのだ」と。
最も援軍に艦隊を派遣した際に生じる戦力の空白に対し、翡翠は世界間を移動する際の時間的な差異を調整する事で、出撃した時間軸からそれほど離れない時間軸に帰還する事も可能と答え、聞いている全て者を困惑させた……だが。もし翡翠の言う通りに戦力の空白が殆ど生じないのであれば……ライカーとて、共に戦った『ヤマト』の危機には駆け付けたいという思いも有ったのだ。
USSタイタン ブリッジ
「サー。デープ・スペース・13を離脱、通常空間に出ました……後続の艦も基地を離脱、予定ポイントで停止します」
オプス・コンソールを担当する士官の報告に頷くライカー艦長。ブリッジ正面に設置されているメイン・ビューワーに視線を向けると、ピカード元提督の尽力で集められた航宙艦群の最後の船がグランド・ゲートから宇宙へと進み出ていた。
デープ・スペース・13 係留施設
ピカード元提督によって集められていた連邦航宙艦達は、この宇宙基地で演習と言う名の極秘任務に付いての説明を受けた後に補給と共に調整された光子魚雷『生体分子弾頭」を受領して、作戦の第一段階である並行世界への転移に備えるべくグラウンド・ゲートから宇宙空間へと進んで所定の位置にて待機していた。
そして係留施設内の最後の航宙艦――黒を基調に赤いラインの入った船体から伸びる四本のパイロンに支えられた四種類のシールド発生装置を持つ連邦艦とは異なる設計思想で建造された航宙艦、翡翠の乗る『実験艦―02』だ。かの船は連邦艦が係留施設より出航するのを確認するかのようにその場に留まっていたが、最後の連邦艦がグランド・ゲートから出航したのを確認すると音もなく動き出してグラウンド・ゲートから宇宙へと進む。
……そして全ての航宙艦が宇宙へと出航して静寂の間と化した係留施設の床に設置されている扉が開いて、格納施設に鎮座していた巨大な航宙艦が姿を現す――四本のナビゲーション・ディフレクター装備したディストーション複合ブレードは航行中の安全を守るだけでなく、敵対する脅威からのあらゆる攻撃から船体を守り、巨大な船体には無数のフェイザーアレイや光子魚雷の発射管を備えた移動要塞とも言える巨大航宙艦『ナデシコD 』――だがその真骨頂は船体の巨大さではなく内包されたシステムにある――強大な敵と戦うべく力を求めた『ナデシコ』のクルー達は、『ナデシコD』の巨体を有効活用するべく採用した攻撃システム『多重攻撃モード』――巨大な船体を四つに分離して、それぞれが独立した戦闘艦として運用出来る『ナデシコD』の奥の手である。
『ボーグ集合体』との戦いが終了した後も、周囲の宙域を支配する種族に対抗する為にアップデートを繰り返し、10年前よりも強力な航宙艦としてデープ・スペース・13の守護神となっていた。
『ナデシコD』第一艦橋第三階層
巨大な『ナデシコD』を運用する為に艦橋構造は三つに分かれ、巨大な『ナデシコD』の船体を制御する第一階層、デュアル・コンピューターシステム『ウワハル』・『シタハル』により周辺宙域の情報を解析して第三階層に上げる第二階層、艦の意思を決定する指揮所のある第三階層に分けられ、第三階層にて艦を指揮するのは基地司令官業務にて多忙を極めるテンカワ・ユリカに変わってホシノ・ルリが艦長が務めていた。
『航法システム正常、各種スラスターも問題なし』
『生命維持装置も正常稼働中、各武装システムも問題なしの、オールOK』
『ルリ姉さま、全システムチェック完了。問題ありません』
第二階層にてデュアル・コンピューターシステム『ウワハル』・『シタハル』を用いて『ナデシコD』の船体チェックを終了させたアゥインとノゼアは、艦のシステムに問題が無い事をルリに告げ、準備が整った事を確認した後に後方にて予備のシートに座るユリカ司令へと振り返る。
「ユリカ司令、発進準備が整いました」
「うん、じゃあ お願いねルリちゃん」
「分かりました――『ナデシコD』発進して下さい」
「りょうかーい、『ナデシコD』インパルスエンジン出力1/4、微速前進」
操舵手を務めるのは年齢を重ねても変わらぬ美貌を誇るハルカ・ミナト。彼女の操舵によって『ナデシコD』はゆっくりと動き出して、スラスターで微調整しながらグラウンド・ゲートへと向かう。
巨大な船体ゆえに細心に注意を払いながらも、長年『ナデシコD』の舵を担当して来た彼女は慣れた様子でコンソールを操作して巨大な船体を操る――通常基地を訪れる航宙艦は300mから1キロ程の大きさであり、宇宙と基地内を隔てるグラウンド・ゲートもそれを想定した大きさになっており、『ナデシコD』の巨体ではグラウンド・ゲート擦れ擦れになってしまうが、ミナトの操舵は慣れたもので狭いゲートを危なげなくすり抜けて宇宙空間へと進む。
『『ナデシコD』通常空間に出ました』
『前方に連邦艦隊、指定ポイントで待機中です』
艦橋に備え付けられたメイン・ビューワーに映し出された映像では40隻の連邦航宙艦隊が停止して傅く女王の到着を待っている騎士の様である……連邦艦群が停止している宙域には中央部にスペースが設けられており、翡翠によれば艦隊の中央部に『ナデシコD』を据えれば、後は彼女が並行世界への道を開くと言うが……どうしても不安が残るのは、翡翠のこれまでの所業を思えば仕方がない事だろう。そして宇宙空間を航行する『ナデシコD』は待機している連邦艦隊へと近付いて翡翠に指定されたポイントに到達すると その場に停止する。
『ナデシコD』第一艦橋第三階層
「――『ナデシコD』予定ポイントに到達、止めるよ~」
操舵席にて『ナデシコD』を操縦しているミナトが、予定ポイントに到着した事を告げて艦を停止させる……翡翠の指定したポイントに到着したのは良いが、これからどう並行世界へ飛ぶのか彼女の起こした騒動を考えれば真っ当な手段とは考えにくい……と言うのも今の『ナデシコD』には、翡翠からこの航海に必ず参加するようにと指定された人物が乗り込んでいるからだ。
キャプテン・シートに座るルリは視線を後方の予備シートに座るユリカへ向ける……『ナデシコD』の指揮を継いでかなりの時間が経つが、やはり後ろでユリカが見守っていると言うのは安心感を覚えて心強いが、今回はユリカの膝の上に座っている“白いの”が問題なのだ。
「――寒くない、ソフィア?」
「……ああ、問題ない。母の膝は温かいな」
……今から強大な敵と戦う為に出撃しようと言うのに、艦橋の一部にほっこりとした空間を作って親子の語らいをしている空気が読めない輩が居るが、それを無視していると第三階層の中央部に光が現れてそれが消えた後には栗色の髪と翠眼を持つ白いボディスーツを着た翡翠が現れる……『ナデシコD』には艦橋などの主要部分には転送ビームを阻害するシールドが張られているのだが、この不可思議生物には効果が無かったようだ。
「……素知らぬ顔でとんでもない事をしないで下さい」
「……?」
この10年間にも戦力の中核である『ナデシコD』には何度も小規模な改修やアップデートを行っているが、その努力がまったく効果が無い事を目の前で見せつけられたルリがその整った顔立ちを顰めて苦情を言うが、当の翡翠は何故苦情を言われたのか理解していない様で小首を傾げている。
さて、これから強大な敵と戦う宇宙戦艦『ヤマト』に助力する為に並行世界へと転移をするのだけれど、その方法が問題となる……こうして彼女が『ナデシコD』に転送されて来た以上、その方法は自分達がこの世界に来る事になった要因――『ボゾン・ジャンプ』の世界間跳躍だろう。本来は時空間移動である『ボゾン・ジャンプ』に世界間の移動能力は無い筈であるが、その時に行われたテンカワ・アキト(強制)帰還作戦において分かった事実――火星の後継者の人体実験の被験者であるアキトの寿命は尽きようとしている。
それを知ったユリカは激しいショックを受けて、混乱する彼女は現実逃避に縋り――それを『ボゾン・ジャンプ』の中枢である『演算ユニット』がくみ取り――並行世界に存在している別の『演算ユニット』とリンクして、ユリカの望み通りに別の現実へとジャンプさせた……だが、それには代償があった。
転移直後よりユリカの身体は激しい疲労に襲われ意識不明の状態となり、それはどんどん深刻になったがデープ・スペース・13に着いてからは小康状態で落ち着くことができたのだが、『ナデシコD』が再建して活動を再開すると、ユリカは再び『ボゾン・ジャンプ』を行って、遂には眠りに付いたまま目覚めなくなったのだ……紆余曲折はあったが、今のユリカは古代火星文明の遺産『演算ユニット』とのリンクは途切れていないが、折り合いを付ける事は出来ている――だが『ボゾン・ジャンプ』にて並行世界への転移を成功させたのは、ユリカただ一人しかいなかった。
「……準備は整った訳ですが、これからどうやって宇宙戦艦『ヤマト』がいる世界へと転移するんですか――まさかとは思いますがユリカさんを利用しようと言うのなら、許しませんからね!」
ルリはその美麗な顔を怒りに歪めて、金色の瞳は目の前に立つ翡翠を睨み据える……火星の後継者からユリカを奪還した後に判明した遺跡の『演算ユニット』とのリンクが途切れないと言う事実。それを知ったルリ達はリンクを断ち切ろうと様々な手段を講じたがその全てが徒労に終わり、人知れず己の無力に悔し涙を流した……なのに、またユリカを担ぎ出そうと言うのか!
睨み据える金色の瞳に力がこもり、もはや殺意の如き強い視線をまともに受けながらも翡翠に変化はない……いや、流石に何時もの にやにやとした人の悪い笑みは浮かべていないが、肩を竦めた後に睨み付けるルリへと近付く。
「それは無用な心配だよ、ホシノ・ルリ。別にテンカワ・ユリカにナビゲートして貰おうとは思っていないから――『演算ユニット』とリンクするのは“私”だよ」
にやりと妙に男前な笑みを浮かべた翡翠は、ルリにそう告げて視線をユリカの膝の上でご満悦なソフィアへと視線を向ける……だが、視線を向けられた白髪と金色の瞳を持つ幼女は「いやだ」の一言を告げてそっぽを向く。
「……おい」
「……何が悲しくて、お前なんかとリンクしなければいけないのだ」
「……言うじゃないか、『残念ユニット』」
「……誰が『残念ユニット』だ、今の私は“ソフィア”だ――この性格破綻者め」
んふふ、と笑いながら詰め寄る翡翠と、冷たく切って捨てる『演算ユニット』ことソフィア……十代半ばに見える翡翠を9歳の幼女がユリカの膝の上から睨み返す……行われている事はシュールに見えるが、どちらも途轍もない力を内包しているのに、なにを低レベルな言い争いをしているのだろうか? 唯でさえ大きな戦いに挑む前の緊張感がほっこり親子の所為でグダグダなのに、見れば周囲のアオイ・ジュンやミナトもあきれ顔になっている……幼少の頃の口癖であった「……バカばっか」と流石に胸の内で呟きながらも、なんとか場の雰囲気を立て直そうとして動こうかと思ったルリだったが、その前に至近距離で睨み合いを続けていた翡翠が離れると、にやりと人の悪そうな笑みを浮かべた。
「……んふふふ、良いのかなそんな事を言って?」
「……なんだ気持ちの悪い」
不敵なというか、楽しくて仕方がないと言った感じの笑みを浮かべた翡翠が右手を上げるとパチンと鳴らす――すると投影型のウィンドウが立ち上がり、一人の少女の姿を映し出す――母親譲りの藍色の紙を肩口で揃えて、俯きがちだった顔をまっすぐに上げて双子の妹を見つめる。
『……ソフィア』
「――ユウナ、なぜ君が?」
『……お姉ちゃん、でしょう』
「……はい?」
『お・ね・え・ち・ゃ・ん!』
何時になく積極的なユウナの押しの強さに混乱するソフィアは、そのまま押し切られてお姉ちゃんと呼び、それに気を良くしたユウナはそこから怒涛の小言を始める……いわく、女の子なのにおしゃれに全く興味がないだの、お風呂に入る時に服を脱ぎ散らかすのははしたないだの、何時もお母さんにべったりで、お父さんが時折落ち込んでいるなど、出るわ出るわのダメ出しのオンパレード。
旗色が悪くなり、そんなにダメなのかと落ち込み始めたソフィアを哀れに思ったのか、ユリカがやんわりと諫めようとしたら矛先がユリカへと向けられ、お母さんはソフィアに甘すぎるだの、食事の時でも汚れた口元を拭いてやって幼稚園児かだの、お父さんがあんなに甲斐甲斐しく世話をされた事がないと時折愚痴をこぼしているなど、怒涛のダメ出しにユリカとソフィアは揃って真っ白に燃え尽きていた。
そんなテンカワ家の親子喧嘩……いや、娘による母親と妹へのダメ出しに、普段のユウナを知るルリなどは目を丸くして驚き、どうゆう事なのかと視線を翡翠に向ければ、ウィンドウ越しに捲し立てるユウナに苦笑していた彼女から説明を受ける……たまたま一人で俯いていたユウナと出会った翡翠は、話を聞いている内に自分とは違う双子の妹の事で悩んでいる事を知り、非常に珍しい事に損得抜きでカウンセリングを行ったと言う。
「……まぁ、姉か妹かの違いはあるけど、トンデモない姉妹に苦労させられる気持ちは分かるからな」
若干嫌そうな表情を浮かべる翡翠……余談ではあるが、傍若無人を絵に描いたような翡翠ではあるが、彼女には二人の”天敵“がいた――その一人は、突然現れては彼女を面倒ごとに巻き込む”プロフェッサー“と、どこで仕入れたのか此方の弱みを握ると、それを盾に無茶苦茶な事を要求する理不尽の権化である彼女の実の姉である。
同じトンデモ姉妹に悩まされるユウナに親近感を持った翡翠は理不尽な相手に対する対処の仕方を、ソフィアが『残ね……演算ユニット』時代に起こした数々の所業をそのイタい言動と共に教えてやったのだ……え? なぜ妹どうしでソフィアに肩入れしないのかだって? なんであんな可愛げのない輩に肩入れしなければならないのか、とそれなりに育った胸を張り言い切った翡翠……そんな翡翠とウィンドウ越しにダメ出しされて燃え尽きているユリカとソフィアを見て、深々とため息を付くルリ。
『――いいから、翡翠ねぇの言う通りにしなさい!』
「……いや、だから――翡翠ねぇ?」
ユウナの言葉に疑問符を浮かべるソフィア……ルリがジト目で翡翠を眼ね付ければ、何か意気投合したんだよな、と後頭部をポリポリと掻く翡翠……理不尽な相手に対して豊富な対策を伝授した翡翠を尊敬の眼で見ていたユウナは翡翠に懐いてしまったのだ……これは頭が痛い事になったと こめかみを揉むルリ。
『――良いから、お姉ちゃんのいう事を聞きなさい!』
「――わかった、わかったから!」
どうやら彼方も決着が付いたようだ……勢いに乗ったユウナに押し切られる形になったソフィアが憮然とした表情で此方に近付いて来て「……ずるいぞ、ユウナを巻き込むなんて」と苦情を言うが、にやにやとした翡翠は「あれ、お・ね・え・ち・ゃ・んじゃなかったけ?」と人の悪い笑みを浮かべて揶揄する。
「――いいから、やるぞ!」
「へいへい」
己が不利を悟ったソフィアが強制的に会話を切り上げて翡翠と向かい合わせになると、二人とも眼を閉じて精神を集中する――やる事は単純明快――翡翠の持つ情報 目標となる世界の固有振動やヒッグス場のエネルギー数値などを正確にソフィアに伝えてナビゲートを行うというモノ……今まではA級ジャンパーといえども長距離を『ボゾン・ジャンプ』する際には、距離に応じて精神を集中して正確にイメージした物を『演算ユニット』に送る為に精神的な疲労を受け――今回は別の世界へのジャンプ故にどれほどの精神的負荷が掛かるか分からない。
だが周囲の心配をよそにソフィアと翡翠――二人を中心として周囲の空間に幾何学模様が走り、それは『ナデシコD』を飛び出して周辺に待機する連邦艦をも包み込む。
「「――ジャンプ」」
幾何学模様が激しく発光して、その光が収まった後には『ナデシコD』の巨体も、40隻の連邦艦も姿を消していた。
銀河系 ペルセウス腕
銀河系を形作る渦状腕の一つであるペルセウス腕の“何もない”宇宙空間に眩い光が灯ると、それは瞬時に広がって光りが収まった後には一隻の大型航宙艦を中心とした複数の航宙艦が姿を現す――惑星連邦の航宙艦隊と『ナデシコ』部隊の切り札『ナデシコD』であった――彼らは無事に並行世界への転移に成功したのだ。
『ナデシコD』第一艦橋第三階層
周囲の空間に幾何学模様を走らせて眩い光に包まれた『ナデシコ』クルー達は、光が収まってから最初にした事は、現状の確認であった――センサーによれば連邦艦は全て健在であり、脱落者は居ないようであった。そして周囲には自分達だけで、先ほどまで存在していた深宇宙基地デープ・スペース・13の姿はどこにも確認出来ず、観測できる星間分布図も記録された物とは98%しか合わず、この宇宙が自分達の居た宇宙とは別のモノであると確信する。
「――艦内にレベル3のチェックを掛けて下さい! 並行世界へ転移したんですから、船にどんな負荷が掛かったか……どんな小さな事も見逃さないで」
並行世界へと転移した彼らがまずした事は、並行世界への転移が船に不都合をもたらしていないかのチェックであった。前回に『エンタープライズ』の世界に転移した際には艦内チェックに不都合は無かったが、今回も同じとは限らない……宇宙戦艦『ヤマト』に救援に赴くにしても、激しい戦闘が予測される為に万全の状態である事が望ましい。
『ナデシコD』だけでなく随伴した連邦航宙艦隊も船に不都合が生じていないかのチェックを行っている時、翡翠は何かに気付いたかのように顔を上げて艦の後方に視線を向ける。
「――翡翠さん?」
彼女の変化に気付いたルリが声を掛けると、翡翠は厳しい表情で呟く。
「――もう、始まってる」
そう呟いた翡翠の身体が光りに包まれて、光が収まった後には彼女の姿は消えていた。翡翠の豹変に途惑いの表情を浮かべたルリだったが、彼女が呟いた内容を考えれば、彼女が何をする為に姿を消したのかは容易に想像出来た。
『――ルリねえさま、『実験艦―02』が突如方向転換してワープに入りました――進路は地球です!』
第二階層からのアウィンの報告を聞いたルリは即座に状況を理解して、艦内のチェックを出来るだけ急ぐように指示をする。
「――急いで下さい、戦いはもう始まっています!」
どうも、しがない小説書きのSOULです。
今回にて閑話も終了となり本編に合流します。……いや、長かった。
これで頭の中にあった閑話の構想も出し切ったし、本編に力を入れられそうです。
では、2/15の本編でお会いしましょう。ではでは~。