宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第八十二話 愛の戦士たち前編

 

 

 宇宙を席巻する白色彗星を要する帝星『ガトランティス』大帝ズォーダー。惑星レムリアにおいて戦争の道具として生み出された人造兵士『ガトランティス』を統率する最上位の個体として誕生した彼は、創造主たるレムリアに対して反乱を起こしたが愛する人を人質に取られて反乱軍は鎮圧され、そして愛する人も失った彼は生き残った『ガトランティス』を連れてレムリアを脱出して、伝承にある古代アケーリアス文明が悪しき種が蔓延った時の安全装置として設置した『滅びの箱舟』を蘇らせて――惑星レムリアを滅ぼした。

 

 感情に支配される人間を、宇宙に争いを蔓延させる不完全な存在であると断じ――人間を憎悪し、感情に惑わされる人間を嘲笑い、人造の生命体である『ガトランティス』こそが感情に惑わされる事なく、宇宙に秩序を齎す――そう考えていた彼は、己を庇ったガイレーンの死を目の当たりにして動揺する己に気付いて愕然とする。

 

 自分達『ガトランティス』も“人間”である事に絶望するズォーダー。愛ゆえに愛する人を失い、愛ゆえにそれを引きずり、愛ゆえに憎しみの炎を燃やす――自分達もまたそんな不完全な生命体であると自覚した彼は大剣を振り上げると、不完全な生命体である『ガトランティス』を滅ぼすべくレムリアの最終兵器『ゴレム』へと大剣を振り下ろした。

 

 大剣が刺さった『ゴレム』は長き眠りより目覚め、惑星規模の巨大構造物である都市帝国の上層部にある巨大な楼閣に赤い光が輝き、『ゴレム』は謳を――宇宙全てに向けて滅びの謳の波動を奏で始める。

 

 ――破壊されると同時にゴレムは謳い始める

 

 滅びの波動は都市帝国内部に存在する全ての『ガトランティス』人の人造細胞に干渉してその機能を停止させて、次々と絶命していく――そしてその波動は、都市帝国周辺で『ガミラス』や惑星連邦と『ナデシコ』の艦隊と戦っていた『ガトランティス』の艦隊にも伝播し、兵士達も次々と絶命して倒れ伏す。

 

 人造細胞を死滅させる、滅びへと導く調べを――宇宙の隅々にまで。

 

 万を超える『ガトランティス』の艦隊は内部に居る兵士達が絶命し、コントロールを失った艦艇が無秩序に放った自軍の兵器の直撃を受けて爆発四散し、艦艇同士が激突して連鎖的に爆発崩壊を起こして自滅していく……その恐ろしい光景を見る『ガミラス』軍の旗艦である白いゼルグート級一等航宙戦闘艦で指揮を執っていたバレル大使の眼前で次々と自滅していく『ガトランティス』の姿に、たった一隻で都市帝国に突入した宇宙戦艦『ヤマト』が『ガトランティス』を滅ぼす『ゴレム』の奪取に成功した事を確信する。

 

「――ガトランティス艦隊陣形乱れる、無線も途絶」

「完全に制御を失っています」

「……遂に――全艦隊、戦線より離脱」

 

 ゼクルートの艦橋でセンサーを担当する兵士達の報告を聞いたバレル大使は『ガトランティス』の全滅を確信し、生き残っている『ガミラス』艦に自滅する敵艦隊に巻き込まれないように離脱を指示する……『ゴレム』が起動した影響か、惑星規模の巨大構造物は紫電を放射しながら崩壊を始め、それに巻き込まれないように戦闘宙域からの離脱を始める『ガミラス』艦たち。

 

 ――勝敗は決した……かの様にみえた。

 

 


 

 

 滅びの謳を奏でる『ゴレム』の上で、大帝ズォーダーは一人佇んでいた……周囲には滅びの波動の干渉で生命活動を停止して目を見開いたまま絶命した『ガトランティス』の遺体があちらこちらに散乱し、大帝玉座の間は死者の棺と化していた……だが、そんな遺体が散乱する中で大帝ズォーダーは佇み、己が意思の通りに未だに動く手を見ながら何かを悟った彼は達観した表情を浮かべる。

 

「やはりな、知恵の実を喰らったガトランティスは共に逝けぬか」

 

 愛する人を失い、未来へ紡ぐ希望を失い、導いてくれた師とも言える人をも失い、そして仲間達が死のうとも自分は“まだ”生きている……自嘲気味に笑う彼の心は深い絶望に支配され――その絶望の深さに比例するかのように、都市帝国の下方に存在する巨大な動力炉が蒼い光を放ち、崩壊する都市帝国の構造材だけでなく周囲に点在する破壊された艦艇の残骸すらも引き寄せ始める。

 

 その引力にも似た力により周囲の物質が引き寄せられていき、突入部隊を回収するべく未だ都市帝国内部に留まる宇宙戦艦『ヤマト』の船体を揺らした。

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋

 

「古代、聞こえるか――突撃隊の撤収を急がせろ。これはゴレムの影響だけではない、未知の何かが都市帝国を崩壊に導き、あらゆる物体とエネルギーを吸収している」

 

 技術解析席にて周囲に影響を与えてあらゆる物を飲み込もうとする重力源を特定しようとする真田は、モニターに表示される数値から惑星規模の構造物である都市帝国の内部から引力にも似た何かが放射されて、周囲のモノ――それこそ都市帝国そのモノすらも引き寄せようとする力に抗えずに、崩壊していく。

 

 まさか、滅びの箱舟が自ら都市帝国を食っているのか?

 

 


 

 

 悪しき種の抹殺――創造主から与えられた使命を果たす為に滅びの箱舟は常に自らを最適な形へと進化させる……『ガトランティス』という間借り人が居ようと居まいと問題ではない――必要なのは、滅びを促す『裁定者』……人間の意志。

 

 崩壊する都市帝国の上部構造物にある大帝玉座の間で、全てを失ったズォーダーは佇み――それでも彼の中にある絶望は、憎悪の炎となって未だその身を焦がしている。その深い絶望が、都市帝国の中で長き眠りに付いていた『滅びの箱舟』を揺さぶり、箱舟は長き眠りから目覚める……人間に、世界に絶望した心が断罪を望むが故に――それは創造主が彼に課した使命である『悪しき生命の刈り取り』の時が来た事を告げるモノ――いま彼は“人間”になった。

 

「――我こそ“人間”――滅びの箱舟よ、真の目覚めを!」

「――待て、止めろズォーダー! よせズォーダー!」

 

 長き眠りから目覚めて全てを飲み込もうとする『滅びの箱舟』の影響で崩壊を始める大帝玉座の間で、『ガトランティス』最後の“人間”大帝ズォーダーは憎悪の炎にその身を焦がしながら、自らの願いが成就しようとしている事を確信して、引き金を引かぬと言いながらも まだ甘い事をいう古代を見下ろしながら勝ち誇った笑みを浮かべ、そして心からの愉悦ゆえに笑いが零れる。

 

 崩壊する大帝玉座の間に、ズォーダーの勝ち誇った高笑いが何時までも響いた。

 

 


 

 

 都市帝国 近郊宙域

 

 引力にも似た強大なナニかによって未だ惑星規模の巨体を持つ都市帝国の構造物は崩壊して引き寄せられ、大帝玉座の間を目指した突入部隊を回収する為に都市帝国付近に留まっている宇宙戦艦『ヤマト』もそれまでの激しい戦闘によって傷付いて、姿勢を維持する為に必要な制御スラスターの何割かは戦闘によって失われており、これ以上この宙域に留まる事は困難であると判断して離脱を始める。

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋

 

「――突入部隊、ただちに各個に離脱せよ。『ヤマト』は機関部に深刻なダメージ、エンジン内圧が高まり臨界寸前……」

 

 通信席にて相原は繰り返し何度も内部に突入した部隊に向けて通信を送る……惑星規模の敵本拠地へ侵入した『ヤマト』は、万を超える『ガトランティス』艦隊と激戦を繰り広げた結果 満身創痍となり、中でも機関部も何度も被弾して、心臓部たる波動エンジンは制御不能の暴走状態寸前になっていた。

 

 操舵席にて『ヤマト』の船体を制御している島は生き残っている姿勢制御スラスターを総動員して、恐ろしい程の力で周囲の物を飲み込み都市帝国の崩壊した破片を回避しながらも推力だけは通常出力を越えている現状に冷たい汗が流れる。

 

「……くっ、こんなの初めてだ。いつまで持ってくれるか……徳川さん……『ヤマト』…」

 

 

 満身創痍の『ヤマト』の中でも機関部員の尽力によって比較的損害が少ない機関室だったが、その場に立っている者は居なかった……『ガトランティス』の猛攻から波動エンジンを守る為に、身を挺して盾となり、命の炎を燃やし尽くした勇敢な戦士により波動エンジンは稼働していたが、エンジンには複数の亀裂が入っており中から“黄金の輝き”が漏れていた。

 

 


 

 

 『ガミラス』艦隊旗艦 ゼクルート級一等航宙戦闘艦 艦橋

 

 都市帝国の崩壊に巻き込まれない様に離脱する友軍艦艇の離脱状況を見つめながら厳しい表情を浮かべる。宇宙を席巻していた『ガトランティス』は『ゴレム』の滅びの調べにより滅んだが、今 都市帝国を崩壊に導いている力は別物であり、それは神の如き力を持っていた古代アケーリアス文明の遺産である『滅びの箱舟』の可能性が高い。

 

「重力源付近の開口部に全てが吸収されています」

「都市帝国中核のエネルギー反応、さらに増大」

「……これが、『滅びの箱舟』」

 

 ゼクルート級の艦橋要員からの報告を受けながらバレル大使はモニター上に表示される都市帝国の残骸に目を向ける……いや、これはもはや都市帝国ではなく、何か別のモノに変貌しようとしている。惑星規模の巨大構造物の中心部には無気味な光を放ちながら断続的に波動を放つ動力炉の存在があり、不気味な光によって浮かび上がるその姿は、惑星をも越える規模を持つ両翼を広げた告死天使のようでもあった。

 

 


 

 

 無気味な胎動を続ける『滅びの箱舟』は千年の休眠期間の間に減ったエネルギーを回復するべく、周囲の物質を引き寄せて貪欲に貪り喰らってエネルギーへと変換していく……それだけのエネルギーを溜め込んで何をする気なのか――滅びの名を持つが故にエネルギーを溜め込んだ後の行動を予測する事は容易い、満腹になった後は行動を起こすだろう……大帝ズォーダーの憎悪と共に、悪しき人間を滅ぼす行動を。

 

『このバケモノを止めるたった一つの方法……それはエネルギー変換が終わる前に、変換炉に近付いて爆破する……これしかない』

 

 未だ惑星規模の巨体を有する『滅びの箱舟』を止める術を求めた真田は、『ヤマト』の技術解析席で計測したデーターからそう結論付ける……『ガトランティス』との戦いで疲弊した地球と『ガミラス』に惑星規模の巨大構造物を破壊する術はなく、『ヤマト』は波動砲発射システムにダメージを負い、援軍に来てくれた惑星連邦と『ナデシコ』に求めるのは酷な話だ。

 

 そんな絶望的な状況の中、愛機であるツヴァルケに乗ったクラウス・キーマンは離脱する古代達を尻目に巨大構造物の中心にある動力炉を目指して飛ぶ――最後の波動掘削弾を搭載して。長い休眠期間から目覚めて貪欲に周囲の物質を貪り喰っている今なら、波動砲がない現状で最大の破壊力を持つ波動掘削弾を撃ち込めばあるいは……。

 

 そんなツヴァルケの抵抗を嘲笑うかのように、ズォーダーの意志は大量のニードルスレイブを差し向けて破壊しようとするが、ツヴァルケの機体上部に一体の2式空間機動甲冑が舞い降りる。

 

『――道行きだぜ、ガミ公!』

 

 空間騎兵隊長であり、『ガトランティス』により蘇生体として首輪を付けられていた彼は、首輪を外す為に命を削る方法を用い――今、己の命を燃やし尽くすに足る場所を見つけた。

 

 大切な何かを守る為に命の炎を燃やす――余命いくばくもない彼に人間らしい最後を迎えさせてやって欲しいと言う願いの前に歯を食いしばった古代は断腸の思いで機首を『ヤマト』へと向けた。

 

 キーマンと斎藤 二人の男の命を懸けた突撃は、動力源として都市帝国に組み込まれていた『滅びの箱舟』へと波動掘削弾を命中させて一度は機能を停止させたが、即座に回復した『滅びの箱舟』から放たれた一条のエネルギービームは月を掠め、それだけで月は半壊状態へと陥る……その圧倒的な破壊力を見せ付けられた者達は、これこそが『滅びの箱舟』の持つ力――星をも砕く一撃に恐怖した。

 

 

 ……言ったろう、もはや止められぬと。お前は、人間はとうに未来を失っているのだ。

 救いを受け入れろ、この苦しみを終わらせる たった一つの救い――“死”を。

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』の第一艦橋に戻った古代を待っていたのは、ズォーダーの放つコスモ・ウェーブによる宣告だった。月を半壊へと導いた『滅びの箱舟』は、ゆっくりと移動を開始する。

 

 ――さらばだ、地球の戦士……引き金を引かぬ者よ。

 

「――『ガトランティス』土星座標に向けて移動を開始」

「……崩れ残った土星のコアをエネルギーに変換して地球を……」

 

 満身創痍であり、希望を託した波動掘削弾すら通用しなかった『滅びの箱舟』を阻止するだけの力は、もう『ヤマト』には残されておらず、それどころか心臓部たる波動エンジンは戦いのダメージで制御不能になりつつあり、いつ暴走するかわからない状況であった。

 

「……食い止める術は、もう無い……総員退艦」

 

 誰もが見つめる中、艦長たる古代は断腸の思いで『ヤマト』からの退艦を決断し、艦橋の中が静寂に包まれて機械の差動音のみが響く……『ヤマト』は、自分達は地球を救う事は出来なかったのだ。

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。
 
 一人の人間の憎悪を受けて『滅びの箱舟」は目覚め、滅びの光は月を半壊させて次なる目標を地球と定めるが、満身創痍のヤマトに抗う術はなかった。

 次回 第八十三話 愛の戦士たち後編


 3月5日更新予定です。ではでは~。
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