宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル   作:soul

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第八十三話 愛の戦士たち後編

 

 

 『ガトランティス』との戦いで満身創痍となり波動エンジンに深刻なダメージを負った宇宙戦艦『ヤマト』は艦の放棄を決定し、救援に来た救命艦により退艦した乗組員達が収容されていく……その表情は暗く、死力を尽くして戦ったが地球を救う事は出来ず、長年苦楽を共にして愛着を持っていた『ヤマト』を放棄しなければならない現状が、彼等に暗く圧し掛かっていた。

 

 

 ……次の一撃で地球は星としての機能を失ってしまうかもしれない……でも、それでも、一人でも多くの人間が一秒でも長く生き残って見せなければ――たとえそれが、死ぬより辛い選択だとしても……人は生き続けなければならない。

 

 『ヤマト』から退艦した乗組員達を収容した救命艦がゆっくりと離れて行く……誰もが『ヤマト』から離れがたく、救命艦から万感の思いで『ヤマト』を見るめる乗組員の中の一人が、『ヤマト』の第一艦橋に残る人影に気付いた。

 

「……古代! 古代が残ってる!」

 

 その乗組員は候補生時代から共に居た島。『ヤマト』から離れて行く救命艦から必死に古代の姿を追い求めるが、救命艦は『ヤマト』から離れて行く……ちきしょう、何でだよ。何で俺を誘ってくれないんだよ、今まで一緒にやって来たじゃないか、なのに何でお前だけ、一人で残っているんだよ! 救命艦が離れるに従ってどんどん小さくなる『ヤマト』の姿を必死になって追い掛ける島。

 

 ――生き延びるチャンスが、一欠片でも残っているかぎり。

 

 

 火星近郊宙域に存在する地球・『ガミラス』艦隊の泊地では、これまでの戦いで深いダメージを受けた艦艇が集められて修理や補修を受けていた。そんな被弾箇所が生々しい艦艇群の中で異色の船が居た――ヤマト級三番艦 波動実験艦『銀河』 『ガトランティス』との戦いの中で目まぐるしい活躍をした彼女だが、白色彗星との戦いで大ダメージを受けた宇宙戦艦『ヤマト』を修理するべく装備を譲った『銀河』は、ようやく届いた予備の装備を艤装する事により以前の姿を取り戻しつつあったのだが、波動実験艦『銀河』の艦長 藤堂早紀三佐は白色彗星と激戦を繰り広げているであろう宇宙戦艦『ヤマト』からの通信を受けて困惑の表情を浮かべる。

 

 何故今この状況で通信が来るのか? 戦う準備を整えた宇宙戦艦『ヤマト』は、地球近郊にまで到達した白色彗星を止めるべく出撃して行き、地球の命運を決める戦いを繰り広げている筈であるのに……疑問に思いながらも通信を受けた藤堂艦長は、新しく『ヤマト』艦長に就任したという古代より「G計画の為に、直ちに太陽系を脱出して、新たな地球を見つけて欲しい」と告げられる……情報共有システムにより『ガトランティス』が滅び、古代アケーリアス文明の遺産『滅びの箱舟』が目覚めて月を半壊させた事も知ってはいるが、これではまるで地球の滅亡が確定したようではないか。

 

 

 宇宙戦艦『ヤマト』第一艦橋

 

『――まって、古代艦長まって!』

 

 通信席で波動実験艦『銀河』へと通信を繋げて要件を告げた古代は通信を終了して一息を付く……まだ通信をするべき相手がおり、古代は以前然教えられていた惑星連邦の標準通信コードを使って『USSタイタン』へと通信を送る……ほどなく応答があり、通信席のモニターに援軍に来てくれたタイタンの艦長ウィリアム・T・ライカー大佐の顔が映しだされた。

 

『……古代』

「この度の援軍に来てくれた事を感謝します、ライカー艦長」

『……古代。あの『滅びの箱舟』と呼称される惑星規模艦の解析を此方でも試みたが、エネルギー係数が非常に高い事が分かっただけで、他はセンサーを妨害されて解析不能だ』

「……そうですか」

『……我々には、あれほど巨大な惑星規模の人工物を破壊する手段は無い……『バイオ・シップ』共々ワープで消えた翡翠がいれば、あるいは……』

 

 都市帝国に突入する為に次元潜航した『ヤマト』の前に立ち塞がった巨大な生物兵器『バイオ・シップ』――『ガトランティス』と巨大生物兵器の同じ技術で造られたとみられるダウンサイズした生物兵器の大群に圧し潰されそうになった時に現れた翡翠とライカー達、彼らの尽力も有って圧倒的な物量を持つ『ガトランティス』と生物兵器の大群を撥ね退ける事が出来たが、『滅びの箱舟』の出現によって全てが徒労に終わろうとしている……そんな事は認められない。

 

 『ヤマト』は、自分達は、滅亡の淵に立っていた地球を救う為に、16万8千光年の彼方にある救いの星『イスカンダル』への大航海を行い、惑星再生システム『コスモリバース・システム』を受領して赤茶けた大地を再生したのだ……それなのに、千年の絶望に苛まれた一人の男の憎悪の炎が地球を飲み込まんとしている……だが今の『ヤマト』にはそれを阻止する術はない……ならば少しでも時間を稼いで、一人でも多くの人が脱出させる。

 

「――ライカー艦長、お願いがあります。地球にいる人々を一人でも多く助ける為に、助力をお願いします」

「……古代」

 

 地球にいる人々の脱出を手助けして欲しいと願う古代の顔は覚悟を決めた者が浮かべる表情をしており、長年艦隊に努めたライカーはそんな顔をした人々を、歯を食いしばって見送って来た……地球に住まう多くの人々を脱出させるには時間が掛かる、古代の要請通りに転送技術を持つ連邦艦や『ナデシコ』が脱出を援護したとしても地球からの脱出にはそれなりの時間が掛かる……それを理解している古代は時間を稼ごうと言うのだろう。

 

 「頼みます」と言って古代は通信を終える……これで連絡する所は全て終わり、誰も居ない第一艦橋には機械の作動音のみが聞こえ、艦橋からは遠ざかりつつある『滅びの箱舟』の姿が見える……通信席より立ち上がった古代は、艦長席のリフトに飾られた宇宙戦艦『ヤマト』の初代艦長沖田のレリーフの前に立つ。

 

「……沖田さん、お叱りは“そちら”で受けます」

 

 覚悟を決めた古代が踵を反そうとした時、誰も残っていない筈の扉が開いて一人の女性士官が艦橋に入って来る……それは退艦した筈の森雪元船務長であった。戦闘による負傷で『ヤマト』で過ごした間の記憶を失っていた彼女であったが、それでも身に残る衝動が彼女をこの場に来させた。

 

「……私、貴方を覚えていない。でも分かるの、地球から少しでも多くの人を脱出させる為の時間を稼ごうとしているって」

 

 

 

 大戦時の地下避難都市へと逃れていた地球連邦市民たちは、地下都市の街頭モニターで戦いの行方を見守っていたが、満身創痍の宇宙戦艦『ヤマト』がエンジンを吹かして動き出した姿を、固唾をのんで見守る……一撃で月を半壊させた惑星規模の巨大構造物の威力に絶望していた人々は、ただその姿を見つめていた。

 

 『ヤマト』のその姿は、地下都市にある旧防衛軍司令部で指揮を執る藤堂司令と参謀の芹沢も見ており、満身創痍の宇宙戦艦『ヤマト』が主機関を噴射させて『滅びの箱舟』へと向かう姿に衝撃を受ける……『ガミラス』との戦争で艦隊戦力が壊滅して、ただ滅亡を待つしかなかった地球からたった一隻で飛び立った宇宙戦艦『ヤマト』が、今再びたった一隻で強大な『滅びの箱舟』へと向かっていく。

 

「……『ヤマト』が、往く」

「――無駄にしてはならん、脱出計画を急ぐぞ!」

 

 


 

 

 地球軌道から離れた惑星規模の巨大構造物『滅びの箱舟』は、宇宙空間を土星宙域を目指して進む……地球艦隊との決戦の折に都市帝国の巨体に触れて崩壊した土星のコアを飲み込んでエネルギーへと変換して地球を撃ち抜く為に。

 

 千年前、お前は『滅びの箱舟』を目覚めさせた……何故、そんな真似が出来たか分かるか? “人間”だからだ。人間だから人を呪い、人を滅ぼそうとする。

 

 心情を吐露するかのようなズォーダーのコスモ・ウェーブが近付いて来る宇宙戦艦『ヤマト』へと向けられる。

 

 ……人間だから人間を愛し、人間を守ろうとする。

 

 満身創痍で戦う術を持たない宇宙戦艦『ヤマト』は、それでも進む――惑星規模の『滅びの箱舟』に対して少しでも時間を稼いで、一人でも多くの人を地球から脱出させる為に『ヤマト』に残っている古代は、森雪のナビゲートに従って『ヤマト』を操縦する。

 

「波動エンジン、内圧250%。炉心内部は臨界寸前ですが、『滅びの箱舟』への到達は可能」

 

 目の前には『滅びの箱舟』の巨大な姿がある……満身創痍でエンジンすら臨界寸前の『ヤマト』は到達する事が本当に出来るのか、『ヤマト』をぶつけたとして惑星規模の相手に時間を稼ぐほどのダメージを与える事が出来るのか、『滅びの箱舟』の巨大な姿を見て操舵稈を握る手に震えが走る……土星圏に到達すれば残っているコアを吸収して地球を破壊するだけのエネルギーを得て、今度こそ地球は撃ち抜かれるだろう……コアを喰らってエネルギーを得る前に『ヤマト』ごと特攻して、少しでもエネルギー変換を遅らせる。

 

 操舵稈を握って力が入って震える手に そっと手が添えられる。驚いて見上げた古代は、優しく見下ろす森雪の顔を見て表情を緩める……他人のぬくもりを感じるだけで、人は安らぎを得ることが出来る。安らぎを感じる事で人は幸福感を得る事が出来る。二人の心が一つとなった時、臨界を迎えた波動エンジンより黄金の輝きが広がって宇宙戦艦『ヤマト』の全体を包み込む――『ヤマト』を包んだ光は周囲に広がって、宇宙戦艦『ヤマト』の前に光が結集して祈りを捧げる女神の姿を形作った。

 

「……テレサ」

 

 記憶はただの蓄積。思いが人を作り、縁を結ぶ……全ては縁のなせること。あなた方との縁が私をここに――

 

 宇宙戦艦『ヤマト』の前に現れた全てを見通す女神『テレサ』の顕現は、地球へと向かう救命艦からも見えて、その光景を見た真田は呆然としたように呟く。

 

「……暴走した波動エンジンが高次元世界への穴を開け、『テレサ』を……億分の一の偶然――いや、必然なのか……この宇宙に『テレサ』を引き出す為の器……『ヤマト』……」

 

 強い思いは時に定められた未来をも変えてしまう……元に戻すには、別の思いが必要でした――誰一人欠けても、私は此処に来られなかった。

 

 第一艦橋に魂が形となって現れる――それは懐かしい姿も居て、みんなが優しい笑みを浮かべて古代と森雪に微笑みかける……困難を乗り越えて良くぞ成し遂げたと労うように。優しい笑みを見た時、古代と森雪の心に温かい物が溢れる、それは成し遂げた事への達成感であり、使命を果たせた事への充足感でもあった。

 

 ――私も大いなる和の一部、共にまいりましょう――命が紡ぐ未来の為に

 

 微笑む『テレサ』と共に進む宇宙戦艦『ヤマト』は、『滅びの箱舟』を消し去り――宇宙より姿を消した。

 

 

 




 どうも、しがない小説書きのSOULです。

 高位次元より降臨したテレサの言葉……感動的ではあるのですが、内容を考えると感動ばかりしては居られないんですよね……それって、人生が決められていた、という事になるから。


 では次回 第八十四話 残された人々

 3月8日更新予定です。ではでは~。
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