宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
血みどろの『ガトランティス』戦役から半年がたち、いまだ青い姿を輝かせる地球軌道上には一隻の地球軍航宙艦が存在していた。波動実験艦『銀河』――泥沼の戦いを生き抜いた彼女は、『滅びの箱舟』により半壊した月の修復作業に従事しており、マグネトロン・プローブを撃ち込んで、吹き飛ばされて漂う破片を月へと落下させる事で再び満月を取り戻そうとしていた。
「……散らかしたものね」
『銀河』の艦長席で指揮を執る藤堂早紀三佐は淡々と呟く……巨大な白色彗星を擁する惑星規模の都市帝国と熾烈な戦いを繰り広げた地球は多くの船と数えきれないほどの戦死者を出した……戦力の減退のみならず数多くの若い人材を失った地球は、これから苦難の道を歩む事になるだろう――そしてなにより地球は、宇宙戦艦『ヤマト』を失ったのだ。
地球 大都市圏近郊 英雄の丘
赤く焦土と化した大地が『コスモリバース・システム』によって緑の溢れる大地へと蘇った後、『ガミラス』との戦争が終わって地下避難都市から地上へと戻った人々は、それまでの暗く不自由な生活を強いられていた反動からか精力的に復興作業に従事して、天高く聳え立つ摩天楼――メガロポリスと呼んでも差し支えないような大都市が造り上げられた……だが今の大都市は冷たくまるで墓標の群れのように見える。
そんな冷たい大都市から少し離れた所に、『イスカンダル』への大航海を成し遂げて命の炎を燃やし尽くした宇宙戦艦『ヤマト』初代艦長 沖田十三の像が置かれた英雄の丘には、生き残った『ヤマト』の乗組員達が集まっていた。
戦闘の負傷により入院していた者も何とか外出が出来るまで回復して、ようやく集まる事が出来たが その顔は皆沈んだ顔をしており、沖田艦長の名前が書かれた石碑の前には半透明な投影板が設置されており、『ガトランティス』戦役で戦死した『ヤマト』乗組員の名前が流れていた。
「……偉くなりやがって」
古代の名前が流れた時、硬い表情を浮かべていた島の表情が歪んで握る拳に力が籠り、戦死と認定されて二階級特進をした古代に毒づく……自分を置いて一人で『ヤマト』に残り、『滅びの箱舟』と刺し違えた……何故一人で行った、何故共に行こうと声を掛けなかった、候補生時代からの付き合いである島は、最後の最後で一人で特攻をかけた古代に怒りを感じていた。
太陽系外縁カイパーベルト
地球のある内惑星圏から離れた外惑星宙域――海王星から30天文単位(地球と太陽の平均距離 一天文単位は約15億キロ弱)の場所に存在する領域であり、そこには太陽系小天体か、太陽系が形成される際の残余物が固まった100キロほどの大きさを持つ天体が10万以上存在する冷たい領域である。
そんな冷たい領域にある名もない天体の傍には41隻の航宙艦が停泊していた――機動要塞艦『ナデシコD』と『USSタイタン』を始めとする連邦宇宙艦隊である。
宇宙戦艦『ヤマト』と巨大な女性の姿をした『テレサ』と呼ばれる高位生命体の献身により、『ガトランティス』との戦いは一応の決着をみたが、『ヤマト』の地球は『ガトランティス』との戦いによってかなりの被害を受けており、このまま地球宙域に留まっていても要らぬ混乱を招くだけと考えた『USSタイタン』のライカー艦長は、麾下の艦隊を移動させる事にした……目の前に見える青い地球は自分達の地球と似て非なるモノ、混乱している現状での接触は望ましくないと考えたのだ。
『ナデシコD』のユリカ司令も同じ考えのようで、混乱している間にライカー達は太陽系の中でも無数の小天体が存在するカイパーベルトまで後退して、そこで艦を守るシールドを調整して探知を阻害しながら事態の推移を見守る事にしたのだ……本来ならそこで自分達の世界へ帰還するのがベストだろうが、ライカー達をこの宇宙戦艦『ヤマト』の世界へとナビゲートした翡翠は、『バイオ・シップ』に突撃を敢行した白銀の巨大航宙艦『アルテミス』共々ワープにて姿を消しており、自分達の世界へと帰るには彼女の帰ってくるのを待たねばならなかった。
『ガトランティス』との戦いが終わったが、未だ混乱状態にある地球圏より離脱した連邦と『ナデシコ』の混同艦隊は、海王星軌道を遥かに超えたカイパーベルトにある名もなき小天体の傍にて『バイオ・シップ』の眷属達との戦いで受けた損傷を修理しながら今後の行動に付いて協議をしていたが、この世界へとナビゲートした翡翠が居なければ帰還するのは難しく、今は彼女の帰還を待つしかなかった。
いつ帰って来るのか分からない事はもどかしい物だが、これまでの翡翠の活躍というか、やって来た事を思えば誰も彼女が死んだとは思っていない所が彼女らしいと言えるだろう……となると、次は『ガトランティス』戦の終盤に出て来た『滅びの箱舟』と宇宙戦艦『ヤマト』の闘いの時に観測された現象に付いてだろう。
「――あの時『ヤマト』は、上位世界より降臨した『テレサ』と呼ばれる高位の存在と共に土星圏寸前の所で『滅びの箱舟』と接触……あの破壊兵器を倒したが、その割には太陽系の各惑星の被害が“あまりに”少ない」
全長三千メートルの巨体を持つ『ナデシコD』を訪れていた『USSタイタン』のライカー艦長とカウンセラーでありパートナーであるディアナ・トロイそして科学士官長であるメローラ・パズラー少佐は、護衛として第2副長兼戦術部長のトゥヴォック中佐以下数名の保安部門のクルーと共に『ナデシコD』の中に設けられた大会議室にてテンカワ・ユリカ司令や当艦の艦長であるホシノ・ルリなどと言った主要人物と今後の対応を協議する傍ら、『ガトランティス』戦役の終盤で観測された不可思議な現象に付いて協議していた。
『USSタイタン』の科学士官を束ねるパズラー少佐より、会議の参加者の中心に設置されたホログラム投影機より投影された土星圏に近くまで到達していた惑星規模の『滅びの箱舟』へと全長333メートルの『ヤマト』が突き進む姿が映し出されて、『ヤマト』が『滅びの箱舟』に到達した後に眩い閃光が暗黒の宇宙を照らし出す姿に付いて説明がされる。
「惑星規模の物体を破壊するには最低でも2.25×10^32J(ジュール)は必要であり、それを完全消滅させるのはどれほどのエネルギーが必要なのか見当もつきません」
「……そうね、仮にそれほどのエネルギーが太陽系で解放されたとしたら、星に直接被害がなくても軌道がズレるなどの二次災害が起こして太陽に落下するなど、大混乱になるでしょうね」
パズラー少佐の言葉を引き継いで『ナデシコ』の科学部門を統括するイネス・フレサンジュは肩を竦めながら考察する……惑星規模の、しかも一撃で月を半壊させるような凶悪な破壊力を持つ構造物を破壊し、跡形も残さずに消滅させながら周囲への影響は殆ど皆無……それだけの破壊を起こしたエネルギーは何処へ行ったのか? 影響を与えない方向へ全てが消えた? ナンセンスだ。
「……作為的な匂いが一杯ね」
「……あの高位の存在の仕業か」
コスモウェーブにより宇宙戦艦『ヤマト』を呼び寄せた全てを見通す女神『テレサ』は、全知的生命体殲滅を掲げる『ガトランティス』を止める事を託し、古代文明の遺産『滅びの箱舟』を消し去る為に宇宙戦艦『ヤマト』を器として、この世界に顕現して『滅びの箱舟』を消し去った……それで『女神』の目的は果たされた筈だ。
――だが、その後に地球に到達するであろう戦いの余波を消し去ったのは何故だ?
地獄の様な『ガトランティス』戦役から半年がたった太陽系第三惑星 地球では終戦時の混乱からようやく立ち直りつつあり、復興へ向けて動き出そうとしていた。『ガトランティス』の圧倒的な物量の前に地球艦隊は壊滅的な損害を受け、各惑星に設置された防衛軍基地は白色彗星の超重力によって廃滅的な損害を受けており、早急な復旧が急がれる。
そんな地球であったが、今 地球は予想だにしない事態に混乱の中にあった――始まりは、復興に必要な物資を製造している時間断層内の工場の傍で制御しているプロメテウスからの報であった。
時間断層内に突然 宇宙戦艦『ヤマト』が出現した――その報は、地球政府や軍司令部を混乱の渦に敲き落とし、事態を把握――それは本当に『ヤマト』なのか、を確かめる為に大急ぎで調査団を結成した地球は、時間断層内に漂う宇宙戦艦『ヤマト』らしき船へと乗り込み――それが『ガトランティス』と激戦を繰り広げた宇宙戦艦『ヤマト』であると確信したのだ。
『ヤマト』艦内の捜索によって発見された、ただ一人の生存者である航空隊の山本玲の証言や、生き残っていたセンサーの記録を解析した結果、あの時 『滅びの箱舟』を止めるべく特攻を仕掛けた宇宙戦艦『ヤマト』は、『滅びの箱舟』を消滅させたエネルギーの余波と共に一体化した女神『テレサ』によって高位次元世界へと運ばれた可能性が高いと言う事。
宇宙戦艦『ヤマト』が出現した事により改めて時間断層の調査が行われて、時間断層の中に次元結節点が発見され――時間断層は現在 自動工廠が設置されている断層だけでなく、幾つもの次元の断層が重ね合わされたものである事が判明した――宇宙戦艦『ヤマト』は、重ね合わされた断層の一番奥の、時間が無限に引き延ばされて人間には観測出来ない次元から戻って来た……古代と森雪を置き去りにして。
地球の為に命すら掛けて戦った古代進と森雪の両名が高位次元にて生存している――それを知った地球政府と軍首脳部は救出作戦の立案に取り掛かったが、高位の世界へと救出に向かうのは並大抵のことではない――次元とは空間の広がりであり、縦・横・高さと言った3つを知覚出来るのが三次元。時間軸を自由に知覚出来るのが四次元。それ以上、自分達とは少し違う世界を知覚できるのが五次元。(諸説あり)高位次元とは我々には知覚出来ない次元が重なった世界であり、そこから三次元へと下りて来るのは容易だが、逆に下位の世界から高位の世界へと向かうには、無限とも言えるエネルギーを必要とする。
それだけのエネルギーをどこから捻出するのか、波動エンジンといえども出力が足りず、議論は停滞を見せたが アンドロメダの艦長を勤め上げた山南一等宙佐より、波動実験艦『銀河』の『C・R・S・ブースター』を使用して時間断層内の余剰次元を圧縮崩壊させる事による発生するエネルギーを利用して宇宙戦艦『ヤマト』を再び高位次元世界へと押し上げる案が提案された。
――時間断層内で余剰次元を圧縮崩壊させれば、これまで地球の復興を支えていた時間断層は消滅する……古代と森雪の二人を帰還させるか、復興を支える時間断層を取るか、地球は究極の選択を強いられた。
――そこは我らの宇宙より遥かな高みにある高位次元。その不可思議な世界を一人の男が ただ歩いている……彼が属する世界より高次元世界であるが故に その全てを知覚する事は出来ないが、彼は構わず歩き続ける……目的もなく、理由もなく、ただ男は歩いていた……宇宙の、故郷の平和を願い、焦土と化した故郷を復興させる為に尽力し、救ってくれた恩人との約束を反故にする故郷に疑問を持ちつつ、それでも故郷を救う為に戦い――多くの大切なモノが彼の掌から零れ落ち、彼はその手で『波動砲』の引き金を引き続け、全てを失って今、彼はただ歩き続ける……彼は帰れなかったのではない、帰らなかったのだ……傷ついた彼は、ただ歩き続ける……。
『ガトランティス』や『滅びの箱舟』から地球を救った古代二等宙佐と森二等宙佐が生存している――その事実を知った地球連邦政府は、二人を救出するか否かで紛糾した……地球を救った二人が帰還すれば、戦いで壊滅した艦隊戦力の立て直しの旗頭にもなり、復興作業に従事する人々の希望にもなる。
だがその為の代償は、現在の地球を支える時間断層を失うというもの。その重すぎる代償に、連邦議会は紛糾して論争は絶えないかと思われたが、政府の中でも『ヤマト』の功績に理解のある者達の尽力により奇跡が起きる――全ての事実を明らかにして、国民投票で救出の是非を問う――この偉業とも言える決定を受けて、国民投票に向けての準備が急ピッチで行われていた。
宇宙戦艦『ヤマト』の古代進と森雪両名の救出の是非を問う国民投票の日、メガロポリスにある加藤家にて家事をこなしていた加藤 真琴は、まもなく国民投票前の演説が行われる時間が近付いている事に気付いて大急ぎで洗い物を終わらせる……『ガトランティス』との戦いで最愛の夫 加藤三郎を失った彼女は悲嘆に暮れていたが、何時までも悲嘆に暮れて居られなかった……何故なら彼女には愛しい息子 翼がおり、あの子の為にも母親である自分がしっかりしなければならないと思ったから。
洗い物も終わった真琴は、リビングで大人しくしている翼と共に国民投票前の演説を見る為に向かおうとした時、来訪のチャイムが鳴った事に気付いてインターカムを起動する――そこに映し出された懐かしい顔を見て驚いた真琴は玄関へと急いでドアを開ける――そこには昔に比べて背が伸びて栗色の髪も洒落た感じに纏めた少女が一人立っていた。
「久しぶり、真琴ねえちゃん」
にこりと笑った少女――翡翠は翠眼を細めて柔らかく笑った。
どうも、しがない小説書きのSOULです。
時間断層に出現した宇宙戦艦ヤマトにより、高位次元世界において古代進と森雪の生存を知った地球は国民投票にてその是非を問う。
そんな大切な時、地球にて暮らす加藤真琴の元に現れた翡翠は、何を成すのか?
次回 第八十五話 地球よ、ヤマトは…
3月12日更新予定です。ではでは~。