宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 作:soul
高位次元世界に取り残された宇宙戦艦『ヤマト』の古代進と森雪を救出する為に、地球復興を支える時間断層を犠牲にしても行うか否かを決定する国民投票が行われる事が決定し――救出派と反対派のそれぞれの代表が国民に向けて演説を行う事となった。
そして国民投票の前に国民に向けての演説が行われる日、メガロポリスにある加藤家に来訪者が訪れる……栗色の髪を洒落た感じに纏め、服装は何時もの青い結晶を付けた白いボディスーツではなく、どこで調達したのか地球で着られている一般的な服装を来た緑眼を持つ少女――翡翠であった。
三年前の『イスカンダル』への大航海において大マゼランの手前で姿を消した彼女は、『ガトランティス』との戦いの佳境において並行世界の惑星連邦の艦隊と『ナデシコ』を連れて現れ、あの巨大な怪物と共に再び姿を消した筈なのだが、何故ウチに現れたのか?
「……翡翠なの?」
インタフォン越しに半ば確信しながらも問い掛けずにはいられなかった真琴……『ガトランティス』との戦争が終わって混乱しているとはいえ、異星人の少女がこうも容易く地球に潜入してウチのチャイムを鳴らすとは……『ヤマト』に保護されていた頃からハチャメチャな所があったが、この三年間でさらに磨きがかかったようだ。
『――そうだよ、真琴ねえちゃん。久しぶりだねぇ、元気してる?』
……何を能天気な事を言っているのだろうかこの娘は、地球は『ガトランティス』という脅威にさらされたばかりかされたばかりか、『滅びの箱舟』という古代アケーリアス文明の遺産によって月は半壊し、滅びの光から地球を守る為に『ヤマト』は『滅びの箱舟』と共にこの宇宙から消えてしまい……真琴と翼は、愛する夫を、大好きな父親を失った。
それを考えると真琴の表情に陰りが生じるが……それを許さないのが翡翠である。色々な事を考えている内に焦れて来たのか『ねぇ~、入れてよ』とか言いながら扉の方から聞こえて来るカリカリという音。
「――猫か、アンタは!?」
世間体を気にしたのか、素早い勢いで玄関まで来た真琴は勢いよく扉を開けて、扉を引っ搔いていた翡翠の首根っこを掴むとウチの中に放り込んで扉を閉めた。
地球を守る為に死力を尽くして戦い、結果 高位次元世界に取り残された古代進と森雪を救出するか否かを決める国民投票の前にそれぞれの陣営からの代表者による演説が始まろうとしている時、加藤家に突然現れた異星人の少女 翡翠。
彼女がこの戦いに参戦していた事は、中継に映った白銀の巨大戦艦を見た時に分かっていたが……その彼女がウチにやって来るとは、何が目的なのだろうか? 『ヤマト』で保護していた最初の頃は普通の子供の様だったが、途中から本性を現して突拍子もない事をヤラかす悪戯娘と化して散々苦労をさせられたが。
お茶の準備をしながらリビングに目を向ければ、ソファーに座り込んだ翡翠が息子の翼を膝の上に乗せてテレビを鑑賞している……最初は見知らぬ翡翠を警戒していたが、妙に子供の扱いに慣れた様子を見せる翡翠の巧みな話術に、すっかり警戒心を無くして恥ずかし気な様子を見せながらも懐いて行く翼を見た時には息子の将来が心配になったが、父親が居なくなってから寂しそうにしていた翼が楽しそうに笑う姿を見て、安堵の息を付いて柔らかく笑う真琴。
三人分の飲み物を用意してリビングに向かえば、丁度演説が始まる所であった。翼を乗せてソファーを占領している翡翠にスペースを開けさせて真琴もソファーへと腰を下ろす。
そしてモニターに目をやれば丁度壇上に防衛軍の制服を着た男性が立った所であった……時間断層の存続を主張する地球連邦防衛軍統括司令副長の芹沢虎徹が意見を述べ始める。
彼は時間断層が『ガミラス』との戦争で荒廃した地球の復興を支えて来た事実を述べ、滅亡の淵に立った人類が自衛の為に建造した『波動砲艦隊』があったからこそ、今回の『ガトランティス』戦役を戦い抜けたと主張する。そしてこの広大な宇宙には様々な脅威が存在する可能性を説き、それに備える為にも時間断層は有用であり、これからの地球の防衛のみならず、現代社会を支える為にも時間断層が生み出すものが必要不可欠であると主張する。
『――ご覧ください、ここまで復興した首都の夜景を。エネルギー、物資、軍事力、この先も何一つ欠けてはならない。それを支える物こそ時間断層です。これを消滅させるという事が何を意味するのか……拙速な感情論に流される事なく、地球百年の大計を考えて判断を下すべきであります』
「……大人だねぇ」
「……言っている事も分かるんだけどね」
翼を膝の上に乗せた翡翠がぽつりと呟けば、隣に座る真琴も何とも言えない表情を浮かべる……芹沢は一時的な感情に流される事なく冷静に判断するように求めている……けっして高位次元世界に取り残されている二人の救出を反対している訳では無い所が、顔は怖いが案外良心的な人物なのかもしれない。
そして芹沢に代わって救出派の真田が壇上に立つ。
彼は穏やかな声で語り始める……ある一人の男の話を。『ガミラス』との戦争により滅亡の淵に立った地球を救う為に『イスカンダル』への大航海に繰り出し、地球が救われた後も復興作業に従事していた彼が望んだのは、恩人と交わした約束を守るという当たり前の事……だが戦後の地球が置かれた状況はそれを許さなかった……当時、『ガミラス』の辺境を脅かす蛮族と呼ばれた『ガトランティス』の存在、時間断層の使用権と引き換えに『ガミラス』より譲渡された幾つかの植民星との交易を行う準備段階より聞こえて来る、銀河系の中心部に存在する巨大な軍事国家の噂……。
『ガミラス』との戦争によって総人口を大きく減らした地球は国力的にも脆弱であり、滅びの淵を経験した事によって何者にも侵されない“力”を求めた地球は国力の増強する為に時間断層に縋り、『波動砲』を搭載する『波動砲艦隊』計画を推進する……そんな最中に届いた『テレザート』からの通信に応えた彼は、反乱覚悟で『ヤマト』を発進させた……宇宙の平和に貢献出来る地球人でありたいと言う願いにかけて。
『……しかし、その結果は誰よりも多く『波動砲』の引き金を引く事になりました……生きる為に、守る為に』
「……古代さん」
「……青臭い理想論だね」
真田の語る古代の苦悩に共感できる部分があった真琴は古代の苦しみを思い同情するが、古代の苦悩を切って捨てる翡翠に思わず真琴は隣に座る翡翠を睨む。だが不機嫌そうな表情を見せる翡翠を見て この娘も何か思う所があるようだ。
そうしている間にも真田の演説は続く……平和を、未来を求めて、傷つきながらも戦った彼は“引き金”を引かずにすむ道を模索し続けて、時には自分を犠牲にする事も厭わずに模索し続けるが、全てが裏目に出て、彼は己が命すら武器にして、彼を愛した森雪と共に命を懸けて地球を救った……それは苦悩の果てに選んだ道であり、決して英雄的な行動ではなかった。
『――彼は“あなた”です! 夢見た希望や未来に裏切られ、日々何かが失われる事を感じ続けている、生きる為、責任を果たす為に、自分を裏切り続けている事に慣れている、本当の自分を見失ってしまった、昨日の打算、今日の妥協が、未来を自分を食い潰している事を予感しながら、どこへ続くかもしれない道を歩き続ける、この過酷な時代を生きる無名の人間の一人、“あなた”や私の分身なのです』
古代進と森雪が成した事を称賛し、“英雄”だから犠牲を払っても救う価値があると考えるのは間違いだと真田は訴える――彼らは只の人間であり、傷つき苦悩して迷いながらも、より良き未来を齎す為に足掻き続けた“只の”人間――どこにでも居る人間でしかない、と。
人は、命は、より良い未来を求めて生きている……だが現実は過酷で、幸せを掴めるのは一握りの者だけで、多くの者は失意の海に溺れ、妥協して、それでも生きて往かねばならない……何故なら、“生きて”いるから。生きているからこそ未来を求め、生きているからこそ足掻いて幸せを求める。
『――もし、彼と彼女を救う事で自分もまた救われると思えるのなら、この愚かしい選択の先に、もう一度未来を取り戻せると信じるのなら、ぜひ二人の救出に票を投じて下さい。通じ合う便利さ、効率を求める声に惑わされずに、自分の心に従って、未来はそこにしか存在しないのですから』
利便性を求める欲求により人は文明を進歩させて来た……不便さを改善しようと知恵を絞り、いつしかそれは効率のみを追求する物資世界特有の進歩を遂げて、人の心は置き去りとなった……それがストレスとなり、人の精神に歪みを生じさせて――未来の光を見失う要因となる。
「……古代さんや雪さんを救う……もしそうなったら、未来も捨てたもんじゃないって思えるかもね」
国民投票の前の演説が終わり、個人用端末で投票を終えた真琴は、翼を寝かし付けた後に、翡翠と共にベランダに出て星空を眺める……現在投票結果を集計して、結果が出次第発表がある事になっている……未だに加藤家に居て隣で星空に目を向ける翡翠に、真琴は静かに語り掛けた。
「ねぇ、翡翠?」
「――んっ?」
「……サブちゃんは、加藤三郎は立派だった?」
何故、未だに翡翠が此処にいるのか? その理由を考えた真琴は、自分の事を気にかけてくれているのだろうと考えた――『ガトランティス』の巨大な要塞に突入した宇宙戦艦『ヤマト』は、数多くの犠牲を払いながらも『ガトランティス』を倒し、直後に現れた古代アケーリアス文明の遺産『滅びの箱舟』と共に高位次元世界へと消えた……生き残った航空隊の仲間達によれば、彼女の夫 加藤三郎は、都市帝国に突入した『ヤマト』を守って激戦を繰り広げて命の炎を燃やし尽くしたと言う……そして、色々とトンデモない能力を見せる翡翠ならば、加藤三郎の死にざまを知っているのではないかと考えたのだ。
「……サブちゃんは、真琴ねぇちゃんの旦那さまは、最後までねぇちゃん達を愛していたよ――真琴の顔が見たい、元気になった翼を肩車してやりたい、今まで出来なかった事を全部してやりたいって」
「……そう」
「――あの人は、最後まで諦めなかったよ。ねぇちゃん達の所に帰るんだって、最後まで……」
あの戦いの折、翡翠は都市帝国の周辺宙域で宿敵『バイオ・シップ』の眷属どもを相手に大立ち回りを演じていて、改造型光子魚雷『生体分子弾頭』を確実に命中させる為に、眷属どもが放つ思念波を読み込んで回避先へ『生体分子弾頭』を撃ち込んでいた際に、一際強力な思念を感知したのだ――それは最後まで諦めなかった男 宇宙戦艦『ヤマト』航空隊隊長 加藤三郎の断末魔の叫び――死んでたまるか、必ず真琴の所に帰るんだ、という魂の叫びを。
隣で静かに涙を流して愛しい夫の事を思う真琴に寄り添った翡翠は、そっと肩に手を置いた。
地球連邦の全国民の民意を問う国民投票の集計は思ったよりも時間が掛かり、発表までにもうしばらく時間がかかるという……昨夜は加藤家に泊まった翡翠は、ちゃっかり朝食もごちそうになり、玄関先にまで見送りに来た真琴と翼と最後の別れを行っていた。
「――じゃぁね、真琴ねぇちゃん……って、もうねぇちゃんとも呼べないね」
「……アンタの言葉には毒がある様な気がするは気の所為かしらね」
『ヤマト』に居た頃のようにじゃれていた翡翠と真琴だったが、真琴の足にしがみついている翼が何やら言いたげにしている事に気付いた翡翠はしゃがみ込んで視線を合わせる。
「……じゃぁね、翼くん。お母さんの言う事を聞いて良い子にしているんだよ」
翼は表情を曇らせて別れを惜しんでいるような顔をし、そこまで懐いてくれたのかと思ってにこりと笑う翡翠だったが――次に翼が放った言葉に顔を引きつらせる事となる。
「……さ、さようなら、ひすい“おばちゃん”」
――ビシッ!?
翼の言葉に固まった翡翠は、翼の柔らかいほっぺたを両手で挟むとにぎにぎとしながら「……誰が、おばちゃんかな、かな?」と翼が「う~う~」言っているが無視してにぎにぎしていると、真琴が素早く翼を翡翠から救出して噛みつく。
「ちょっと、ウチの子になにするのよ!」
「――だって! こんなかわいい美少女をつかまえて、おばちゃんって、真琴ねぇちゃんならまだしも――」
「――誰がおばちゃんか! 私はまだ20代だ!」
一児の母が何を言っているのやら、ぎゃあぎゃあ言い合いながらも『ヤマト』時代に戻ったような気がする二人……二人とも分かっているのだろう、これが最後の別れになる事を。
「――じゃあね、真琴ねぇちゃん、翼くん」
そこは、あらゆる事が起き、全ての可能性が集う人間には全てが知覚できない高みの世界 高位次元世界。全ての可能性が集って束ねて、巨大な大樹のように見える世界――その巨大な大樹の中に古代進は佇んでいた……誰よりも『波動砲』の引き金を引いた彼は、大切なモノを失い続け、このあらゆる可能性が集まる場所で、引き金を引かない、失わずにすむ道を探し続けたが、見つける事が出来ずにただ佇んでいた。
そんな彼を連れ戻そうとする森雪は必死に彼に語り掛けるが、引き金を引き続けて、失い続けた彼はその手を取る事を躊躇う……戻った所で、また引き金を引いて、大切なモノを失うだけではないか……ならば、ここで佇んでいた方が良いのではないか……彼は失う事を恐れていた。
――それでも森雪は手を伸ばす、一人ではない、これからも傍に居続けるからと……森雪は必死に手を伸ばすが、躊躇う古代はその手を取る事は出来なかった……元の世界に戻った所でまた失うのではないか、と。失い続けた彼は未来に進む事を恐れていた……そんな躊躇う古代の手に小さな指が絡まる――それは未来で出会うはずの“誰か”の指……失うだけでなく、未来では誰かと出会う事も有る筈なのだから。
恐る恐ると森雪の伸ばす手を取る古代――そんな彼らの眼下では可能性の海の底に仄かな光が灯り、それはどんどん上昇して行って可能性の海から飛翔して存在を確定させたモノ――宇宙戦艦『ヤマト』であった。
太陽系外縁カイパーベルト
海王星より30天文単位の先――太陽系外惑星圏に存在する小天体が集まる領域の中にある名もなき小天体の傍にて待機していた惑星連邦と『ナデシコD』は、艦隊全体に
地球の動きは注視しており、彼らの地球に存在している時間断層内に宇宙戦艦『ヤマト』が出現して、古代進と森雪が高位次元世界に取り残されている事を知った地球政府は、地球の復興を支える時間断層を失ってでも古代と森雪を救出するかを決める国民投票を行って僅差で二人を救出する事が決まり――先ほど、地球より余剰次元の爆縮と思われる強力なエネルギー反応を感知し、古代と森雪両名の救出作戦が開始された事を知った。
「……あの二人は無事に帰って来るかしら?」
「成功して欲しいと心から思うよ」
『USSタイタン』のメイン・ビューワーに映し出される地球を見ながら、カウンセラーのディアナ・トロイは作戦の成功を願い、キャプテン・シートに座るライカー艦長も古代達が帰還する事を願う。
「パズラー少佐、この作戦は成功すると思うか?」
「……そうですね、時間断層とやらの各断層を圧縮しながら次々と爆発させてエネルギーを得ようなんて、中々のチャレンジャーですよ」
ライカー艦長の問い掛けに、『タイタン』の科学士官を束ねるメローラ・パズラー少佐は肩を竦めながら答える……それほどこの作戦は危険なものであった……もし制御を間違えれば、地球上で『波動砲』クラスのエネルギーが解放されると言う事なのだから。
機動要塞艦『ナデシコD』第一艦橋 第三階層
地球で始まった古代進と森雪の救出作戦が開始された事は『ナデシコ』側も把握しており、艦長席に座るホシノ・ルリはメイン・ビューワーに映る地球圏を金色の瞳でじっと見ていた。艦長席の傍にある予備のシートに座るテンカワ・ユリカ司令は、膝の上でご満悦のソフィアに問い掛ける。
「……どうかな、ソフィア。上手くいきそう?」
「……今の所は、順調に余剰次元を爆縮させる事で得たエネルギーの波に乗って、『ヤマト』は断層の最奥にある次元結節点へ向かっているよ」
現在の技術を遥かに超えた古代火星文明の遺産『ボゾン・ジャンプの演算ユニット』が肉の身体を得てユリカの娘として生まれたソフィアは、母の問い掛けに事もなく答える……この並行世界へと導いた翡翠が帰還していない現状では、ルリ達に出来る事は船の状態を万全にする事しかなく、強大な敵と戦って高位次元世界という人には知覚できない世界へと取り残された『ヤマト』の古代進と森雪の救出作戦の結果を見届けようと、『ナデシコ』のクルー達はメイン・ビューワーに視線を向けていた。
……見守る『ナデシコ』クルーの中には祈る様に両手を胸の前で合わせて、二人がこの世界へと無事に帰還出来るように願いながら見守るメイン・ビューワーの映像に変化が起きる。
『地球近郊の空間に変化があります――これは、空間が押し広げられていきます』
『――周囲には重力源や重力干渉波は観測出来ません――ルリ姉さま、これは宇宙の外からの干渉です』
第二階層にて『ウワハル』と『シタハル』の観測結果を注視していたアウィンとノゼアが地球周辺宙域の変化に付いて報告を上げて来る――そして、メイン・ビューワーには地球近くの宇宙空間に光が溢れ出し、それが光りのカーテンのように溢れ出す……『ナデシコ』や惑星連邦のセンサーでは解析不能の現象の中で、光のカーテンの中から一隻の船が現れる――まるで水上艦のような独特なフォルムを持ち、艦首には巨大な砲口を備えて楼閣の様な艦橋を持つ航宙艦 宇宙戦艦『ヤマト』であった。
「――『ヤマト』!?」
「――救出作戦は!? 作戦は成功したのか?」
『……地球に向けた『ヤマト』の通信を傍受――作戦は成功した模様――二人の救出に成功したようです!』
事態の周囲を見守っていたウリバタケやアオイ・ジュンは古代と森雪の救出作成の結果を気にし、『ヤマト』の通信を傍受したアウィンより、二人の救出に成功した事が伝えられて歓声に沸く『ナデシコ』の艦橋……宇宙戦艦『ヤマト』とは、それほど関係がある訳では無い。それでも仲間を救う為に力を尽くすその姿に、感じるモノがあるのだ……これですべての懸案事項が解決して――後は放蕩娘が帰って来るだけである。
高位次元世界に向かった宇宙戦艦『ヤマト』は、その世界で古代進と森雪の両名を収容して次元の壁を越えて元の宇宙へと帰還して、歓声に沸く地球から出迎えの船が『ヤマト』へと向かって行く……その傍に……正確には宇宙空間に隣接する亜空間に身を潜めているリバィバル級殲滅型戦艦『アルテミス』の艦橋では、中央に立った翡翠が水晶に映し出された『ヤマト』の姿を見ていた……あまたの星で様々な種族はその持てる技術を結集して、力の象徴たる器を作り上げる。だが『ヤマト』は希望の船として生み出され、『ガトランティス』との戦いにおいては抵抗の象徴となり――今、宇宙戦艦『ヤマト』は人々に望まれて、未来への道標となった。
「――これで『ヤマト』は“完成”した訳だ……満足か、『テレサ』」
光のカーテンから現れて地球へと向かう宇宙戦艦『ヤマト』を見つめる翡翠は、瞳こそ翠色をしているが口角は吊り上がって心底楽しそうにみえる……これなら、『ヤマト』なら、私達の“望み”を叶えてくれるかもしれない……とはいえ、まだ“力”が足りない。今しばらくの時間が必要のようだ。
「『エテルナ』進路を太陽系外縁部――カイパーベルトへ」
翡翠の指示を受けて、『アルテミス』は亜空間内を移動して、程なく目的地である太陽系外縁部、海王星の先の小天体が密集する宙域へと到達する……センサーによれば、連邦艦隊と『ナデシコD』は付近の小天体の傍で停泊しているようだ。
「『エテルナ』浮上」
『USSタイタン』ブリッジ
「サー。本艦より前方50万キロの宙域にて空間異常――時空連続体が押し広げられています」
戦術ステーションにて周辺宙域を警戒していたトゥヴォック中佐より報告がなされ、ライカー艦長の指示により問題の宙域がメイン・ビューワーに映し出される。周囲に浮遊する浮遊物が押し退けられて、宇宙空間が文字通りに波打って巨大なナニかが浮上してくる――白銀に輝く紡錘形の鏡面のような船体――翡翠の乗る『アルテミス』だ。亜空間から完全に浮上した彼女は、ゆっくりと此方に近付いて来る……ようやくご帰還か、あの放蕩娘は。一体どこで道草をくっていたのやら。呼び掛ける様に指示しようとするが、その前に向こうから呼び掛けてきたようでメイン・ビューワーに映すように指示すると、程なく映像が映し出される……『アルテミス』の艦橋は水晶にも似た構造物で形成されており、中央部には人が一人座れるような水晶で出来た席があり、そこには見知った顔が座っていた。
『――やあ、またせたね。君たちのお陰で、宇宙戦艦『ヤマト』は『ガトランティス』や『バイオ・シップ』の脅威から地球を守る事が出来たようだ』
「……世界が違えど地球を守る事に否は無いさ」
ライカー艦長の言葉に翡翠はニヤリと笑う。二人が笑い合いながら妙な牽制をしていると、『ナデシコD』からも通信が入って翡翠が映るメイン・ビューワーに『ナデシコD』のホシノ・ルリ艦長の姿が映し出される。
『……遅かったですね、何をしていたんですか?』
『――なに、ちょっと野暮用でね』
ジト目の金色の瞳が翡翠をチクチクと眼ね付けるが、それでたじろぐような可愛げのある性格をしていない翡翠は、にやりと笑う。そんな笑みを呆れたように見ていたルリだったが、そろそろ真面目な話をしようと こほん、と咳払いをして場を改めて話しかける。
『……これで貴方の望み――宇宙戦艦『ヤマト』の危機を救うというミッションは完了した訳ですね』
「……そうだね。高位次元世界に消えた『ヤマト』も戻って来たし、これでミッションも終了って事だ」
『ならば、そろそろお暇しようと思うのですが』
『ナデシコ』も『USSタイタン』を始めとする惑星連邦の航宙艦群もこの宇宙に取っては異邦人でしかない。あまりこの世界に留まる事は、いらぬ喧騒の元になりかねないし、彼らにも彼らの事情というモノがある。
『――翡翠ちゃん』
「おや、ユリカ司令」
『……ありがとう翡翠ちゃん。あの時にアキトを助けてくれただけでなく、ユウナの事も含めて ちゃんとお礼を言っていなかったと思って……』
そんな中、テンカワ・ユリカが映像の中で顔を出して翡翠にお礼を言う……そこまでは想定内だったが、『……多分、これが最後だと思うから』と続けて翡翠は内心舌を巻く……おいおい、良く分かったなと――今回、惑星連邦の存在する並行世界に転移する時にこの世界との時間的差異は『ヤマト』と共に転移した時に比べて十年も開いていた……つまりこの世界と惑星連邦の世界は少しづつ離れて行っているようだ。
『……それにアキトにも色々とアドバイスをくれたんでしょう?』
デープ・スペース・13のテンカワ家にお邪魔した際にアキトにより双子の娘の可愛さを力説されたが、同時にテンカワ家で男性が自分しかいない肩身の狭さと、年頃になって行く娘たちへの接し方に付いて相談されたのだ……そんな事をローティーンの美少女である自分に相談してどうするんだ、と呆れ混じりに返したが。
『……翡翠ちゃんに言われた事……私達が居なくなった後もソフィアは存在し続ける。この子が寂しくない様に人との付き合い方を教える……そうすれば、私達が抱えている問題――遺跡とリンクできるA級ジャンパーが貴重だから私達が狙われて、自分達の世界に帰りたくても帰れないという大問題……』
小さな事で悩んでいるアキトに珍しい事に翡翠は真っ当な(?)アドバイスを告げたのだ――もっと大切な事があるだろうと。テンカワ・アキトとユリカの間に生まれたソフィアは、元々は古代火星文明の遺産『ボゾン・ジャンプ』の中枢である『演算ユニット』が肉の身体を持って顕現した存在……すなわち肉の身体が朽ちても存在し続ける。
ならば今のうちに地球産の人類の思考に慣れされA級とB級ジャンパーの垣根を取り払えと告げたのだ。
『――みんなが『ボゾン・ジャンプ』を利用できれば、A級ジャンパーの価値も下がる。そうすれば、私達を確保する理由もほぼなくなる』
『……まぁ、その後の どうせならデープ・スペース・13ごと『ボゾン・ジャンプ』して大々的に介入してしまえ、と言う貴方の案は、いかにも貴方らしい案で呆れましたけどね』
傍に居るソフィアを抱き寄せながら柔らかい笑みを浮かべるユリカと、呆れたようなルリ……『ボーグ集合体』からテンカワ・アキトを取り戻す為に並行世界の惑星連邦の技術を取り込んだ『ナデシコ』ならば、元の世界に戻ったとしても後れを取る事も有るまい。
「……ま、上手く行く事を祈るよ」
宇宙戦艦『ヤマト』の世界において、かの船の危機を救った『ナデシコD』と惑星連邦の艦隊は、『ナデシコD』から発せられた幾何学模様に包まれて自分達の世界へと帰還していく――交差した三つの世界は別れ、それぞれの道を進み始めた。
宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブル 完
どうも、しがない小説書きのSOULです。
これにて宇宙戦艦ヤマト 迷い子達のアンサンブルも完結となります。
STRA TREKの小説が無い事を嘆き、無いならば書くしかないじゃないか、と一念発起して書き始め、ついでに好きな作品をクロスさせてしまえと宇宙戦艦ヤマトと機動戦艦ナデシコを混ぜ込んで書いている内に、各陣営を絡ませるのに苦労して、ならばオリキャラだ、とぶち込んだのが翡翠です……ここまで無茶苦茶な性格になるとは私もびっくり。
本来なら並行世界の帰還を持って話を終わる気だったのですが、地球で翼と共に加藤の帰りを待つ真琴が加藤の魂の叫びを知らない事が哀れに思い、彼女達がこれからも生きていく為にも、加藤の思いを伝える事を目的に続けたのですよね。
ヤマトの話は続きますが、2205はオリ要素を入れるのは難しく断念。
話を『翡翠ちゃんシリーズ』として色々な陣営とクロスさせている間に、3199の話が展開されるかな、とのんびり書いて行こうと考えています。
これまで、こんな趣味全開の、マイナ~な小説を読んで頂きありがとうございました。
では、次回作でお会いしましょう。ではでは~。