死神に転職して幻想入りしました ~東方死転職~ 作:生おろしのレンコン
「...ようやく行ったわね」
博麗神社にて、男とルーミアを見送った後、深くため息をついて呟く。
本来ならば、この時間は神社の中で寛いでいた筈なのだが、急な来客によって潰れてしまった事に若干の苛立ちを見せていた。
だが、不思議とあの男の事が気になりもしていた。
形容しがたいのだが、彼から感じる妖力は普通の妖怪のものでは無かったのだ。永い時を生きた歴戦の妖怪と言えば良いのだろうか。取り敢えず、只者では無い事が見て取れていた。
「...そう言えば、名前聞いてなかったわ...」
彼の事を少し監視するべきとは思ったが、名前を聞きそびれた為、調べる手段がほぼ無くなってしまった。
だが、またいつか現れるだろうと、今はこの事を忘れ、神社の中へと戻っていく。
人里と博麗神社を結ぶ道に、ミコトとルーミアが歩いていた。
互いの手を握り、歩幅を合わせ歩いていく。
傍から見れば、身長差から親子と間違われそうな光景だった。
ミコトはこういう事に恥じらいは無いが、手を繋ぐなど何十年ぶりの事だった為、相変わらずぎこちなかった。
それに対してルーミアは、笑みを零しながら幸せそうな顔をしていた。
ミコトからすれば、何故こんなにも懐かれているのか検討もつかないが、先程の様に襲われなければそれでいい、とも考えた。
気が付くと、人里のすぐ近くで、目前には規則正しく並ぶ家が見えてくる。
すると、ルーミアはミコトの手を離し、語りかけてくる。
「それじゃあ、ここら辺でお別れだね!また人里から外に出る時に会いに来るね!」
そう言うや否や、深く生い茂る森の中に飛んで行った。
嵐のように現れ、嵐のように去るその姿にミコトは眺める事しか出来なかった。
だが、ここで突っ立って居ては何も意味が無いため、ルーミアが行った方向に背を向け、慧音の元へ急ぐのだった。
それから時間が経ち、人里の人々が寝静まった頃、ミコトも寝床についていた。ルーミアの事もあり疲れていたのか、息をつく間に寝てしまっていた。
...だが、気が付くと何も無い空間が広がる。
夢かと思い、自身の頬をつねってみたが、少し痛い。夢なのかどうかもの分からず、立ち竦んで居ると、背後から声が聞こえてきた。
「助け舟を出してもらいたいとは言ったが...まさか見覚えのある姿とはな..」
その言葉に反応し、ミコトは後ろを向く。すると、そこには長い金髪に冠、その後ろには言葉にしにくいが、色とりどりのオーラが漂っている。
明らかに力の差が歴然のその姿に、ミコトの身体は硬直してしまう。
だが、目の前に立つ人物はお構い無しに話し続ける。
「そう固まらなくても良い。何も危害を加える訳ではないのだからな。それよりも、お前のその体は何処から手に入れた?」
ミコトはかけられる圧に押し潰されそうな気分になりながらも、その問いに答える。
「こ..この体は...紫さんが用意しまして....借りている状況です..」
「..紫か..余計な事をしおって.....これは少々面倒な事に...」
その女性は何やら考え始めた。そこまで考えるとは、この体は一体何なのか、そう思いつつも邪魔は出来ないため、少し黙っておくことにした。
すると、女性がため息をつき、ミコトへと近寄る。
彼女の手がミコトの肩に触れたと思えば、何かが弾ける音が鳴り響き、肩から黒いモヤが出る。
女性もこれは予想外だったようで、自身の手を一瞬見ていたが、すぐにもう片方の手から一つの弾をを出し、ミコトに放つ。
ミコトは反応が出来ず、目を瞑り腕で顔を守ったが、何も起こらなかった。
恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
女性は狙い通りだったのか、少し微笑んでいる。
そこにいたのは紛れも無い自分、黒い宝石を羽に下げ、鬼の面を付けた姿と、辺りに黒い霧を発生させ、顔は真っ黒の闇の姿。
恐らくどちらも、能力を使用していた時の姿だった。
すると、女性が話し始める。
「もう能力を二回も使ったのか..しかも、不完全な状態で...急ぐのはいいが、焦りすぎだ。能力の説明ぐらいはして置いて欲しいものだが..」
そう言うと、ミコトの姿をした何か二人が女性に襲いかかる。
鬼の面は青い炎の剣を、闇は黒を纏い拳を振り上げていた。だが、その攻撃は届く事は無く、一瞬弾ける音が響いたと思うと、そこに女性意外の姿は無く、元から何も無かったかのように静寂が訪れた。
「な...何が起きて..」
ミコトはただただ立ち尽くす事しか出来なかった。
女性は改めてミコトに近づくと、まじまじと見つめてくる。
よく分からないが、変な事を起こすよりかはマシとじっとする。
すると、女性がミコトに向けて語り始めた。
「ミコトよ、よく聞いておけ。これからお前は異変..分かりやすく言えば災害、その中心に立つだろう。だが決して、諦める事が無いようにな。私からする助言はそれだけだ」
そう言うと、女性は背中を向け、喋りながら歩き始める。
「重要な事を教えたいところだが、それは自身で調べてくれ。私の力ではこれが限界なのでな」
そう言った途端、女性の身体が歪み始める。その奥には穴のような暗闇があらわれ、その中から複数の手が飛び出てくる。
女性はその手に捕まれ、一段と歪みが強くなっていった。
「ミコトよ!もし博麗と紫に会うことがあるならば!この私、摩多羅隠岐奈は行動できないと伝えてくれ!これ以上は、お前らの仕事だともな!」
どんどんと手に覆われていく女性、摩多羅隠岐奈はミコトにこの事を伝えると、黒に覆われていく。
彼女の言った事はどんな意味なのか、ミコトには分からなかったが、ただ事では無いのは理解出来た。
ミコトも段々と意識が落ちる感覚に襲われ始めた。
恐らく、この世界から離れる時間なのだろう。
暗闇に吸い込まれていく彼女を見ながら、ミコトの視界は幻想郷へと戻されていった...。