死神に転職して幻想入りしました ~東方死転職~ 作:生おろしのレンコン
ミコトは覚悟を決めて、目を瞑り、死を受け入れようとした筈だった。だが、どういうことか何も感じないのだ。後ろからは振り上げる様な音がして、確実に振り下ろされていた。しかし、ミコトの身体には何も無い。普通なら更に激しい痛みが襲ってくるはず。
恐る恐る、閉じていた目を開けていくと、真っ先に目に入ったのが、メイド姿の人物だった。銀髪でメイド服、背も高めで脚にはナイフホルダーが装着されていた。また、場所は何処かも分からない路地裏らしき場所だが、熱気と炎の音が大きく聞こえるため、問題の場所とは近いようだ。
ミコトは何が起きたか分からず、困惑した目でそのメイド姿の女性を眺めていると
「..あら、起きてたのね。てっきり気絶してたものかと....応急手当は一応終わらせたけど...まだ痛むでしょ?少しそこで大人しくしてなさい」
そう言葉をかけてくれる。彼女の言う通り、貫かれた筈の場所には包帯が巻かれ、簡単な止血処置が行われていた。しかし、あの一瞬で救出から止血まで出来るはずが無い。疑問には思ったが、吸血鬼とかいる世界だと当たり前なのかも知れないと思い、一人納得した。そんな中、女性は更に話しかけてくる。
「..失礼な事聞くかもしれないけど...貴方、妖怪よね?」
「...へ?....いや、一応人間ですけど...どうかしたんですか?」
「いえ..人間にしては身体が...ね、少し違和感があったのよ。気のせいならそれでいいわ」
「..あぁそういう事ですか。実を言うと僕の身体は妖怪なんですよ。精神は正真正銘人間なので実質妖怪でもあり人間でもある..みたいな感じですね」
「...どういう事?..いえ、今はそんな事聞いていられないわね。動けるなら早くここから離れた方が良いわ。ここがいつ戦場になるか分からないのだから」
動けるのか、という事だが正直な話、結構キツイかもしれない。だが、戦いに巻き込まれるのは勘弁して欲しい。ここは大人しく離れるのが吉だろうと思い、ふらつきながらも壁伝いで歩いていく。
「さて..どうしようか。やるべき事を出来ずに殺されかけただなんて洒落にならないって...」
これ以上は無理出来ないと、寺子屋の方に歩く。後ろからは激しい爆発音が連続して響く。恐らく、あのメイド姿の人が戦っているのだろう。
「迷惑かけちまったな...俺が弱いばっかりに..」
せめてあの人が気兼ねなく戦えるようにと、なるべく早く歩く。すると、隣からいきなり声が聞こえてくる。
「あら?そんなボロボロになって...何があったのかしら?..まぁ、予想はつくけれど..」
聞き覚えのある声、その方向を見ると、紫がそこに立っていた。
「ゆ..紫さん?どうしてここに?」
「貴方の事が気になったから来たのよ。案の定、無茶したらしいわね」
「無茶するも何も..やるべき事をしようとしただけです。..失敗しましたが..」
「そんなに落ち込まなくて良いのよ。貴方には伸び代があるんだから」
紫は口を手で隠しながら上品に笑う。ミコトは少し恥ずかしくなり、紫から顔を背ける。と、紫はミコトをからかうのに満足したのか、優しい笑顔から一転、真剣な表情に変わり、声が一段低くなった気がする。
「さて、ミコト?これから言う事はしっかりと聞いておくのよ?先ずは、貴方に一つ目の仕事を与えるわ」
「し..仕事ですか...このボロボロの身体で出来るのでしょうか?」
「気にしなくて良いのよ、すぐ治るわ。さて、仕事については、暴れている吸血鬼の鎮圧よ。簡単な話でしょう?」
その言葉を聞いた瞬間、ミコトは聞き間違いかと思ってしまった。
「ちょ..ちょっと待ってください!吸血鬼の鎮圧って..そんな事出来ませんよ!?いまさっき殺されかけたばかりなんですから」
身体を蹴られ、貫かれ、逃げる事すら出来なかった吸血鬼を鎮圧出来るわけが無い。誰もがそう思うだろう、だが、紫だけは..いや、恐らく映姫もミコトなら勝てると思っているのだろう。紫は一旦ミコトを落ち着かせると、話を続けた。
「確かに、貴方はあの吸血鬼に手も足も出ないまま倒された..それは私も分かっているわ。でも、貴方の力はそんなものじゃないもの、もっと強大で..私を超えかねない力を持っている。言いすぎかしら?」
「い..言い過ぎだと思います..あの吸血鬼もとんでもなく強いんですよ?対峙したからある程度は分かります。圧倒的な実力差でねじ伏せられるのを..」
今でも思い返せるほどのプレッシャーと恐怖に、ミコトはまた身震いしてしまう。
「..あの吸血鬼も相当強い部類だもの、しょうが無い事よ。今、紅魔館のメイドと主が戦っているけれど..十中八九負けるでしょうね。いくら優勢でも、簡単に壊されるぐらい恐ろしい吸血鬼だもの」
「だったら尚更僕が勝てるわけ..」
「うふふ..ミコト?何故あの吸血鬼があんなに強いかを考えてみて?まずそこからよ」
「え?..えっと...先ずは吸血鬼である事、ましてや夜だから弱点もほぼ無くなってる事ですね。後は..変な力を持ってる事でしょうか。四人に分裂する..とか」
あの吸血鬼が強い理由の大半は種族と+αの力だろうと予測できた。紫はそれを聞くと、軽く頷き話を続ける。
「そうね。種族と能力が強さの根源ね。それをどう使うかによって強さが変わっていくわ」
「そ..それで、僕があの吸血鬼に勝つ為には何をすれば..」
「..説明が面倒くさいからとても簡単に説明するわね。貴方には能力がある、そして、それを使いこなせば十分に戦えるようになる。取り敢えず、貴方にはこれを..」
そう言って紫はまたしても謎の空間を開き、中から物を取り出す。それは、銀色のナイフだった。ナイフの先には鮮血が付着している。そして、ミコトはそのナイフに見覚えがあった。
「それって..あのメイド服の人が持ってたナイフじゃ..」
特徴的な装飾に色から、すぐに分かった。だが、血が気になる。一体誰の血なのかと思い、まじまじと見つめていると..
「ちょっと痛むけど...気を付けてね?」
いきなり、紫がそんな事を言い放ち、ナイフをミコトに突き立てる。
「いづっ!!..ぐァ゛ァ゛!?」
肩付近に深く突き刺さり、激痛が身体を襲う。肩からはドクドクと血が流れ、それを確認した紫はナイフから手を離す。
すると、身体の痛みが段々とひいていった。さっきまで苦痛だった腹も、今刺されたばかりの肩も、何もかもが楽になる。ふと肩を見ると血は止まり、ナイフは地面へと落ちている。傷跡は残っているが..殆ど塞がっていた。
「..大成功ね。失敗しそうで怖かったけど..良かったわ」
紫は笑顔で目の前に立っている。
「..な...何が起きたんですか...紫さん..」
訳が分からず、混乱してしまう。何故か身体の底から力が溢れる感覚もあり、さらに混乱が深まっていく。
「何が起きたかって..ふふ、貴方は人間を辞めたのよ。かっこいい羽よ?ミコト..」
羽と言われ、反射的に背中を見る。そこには、吸血鬼と同じ羽、あの吸血鬼と全く同じ形をした羽があった。ただし、結晶の色は黒く濁り、数も六つと少ない。
「..????...羽が生えてる...あの吸血鬼とほぼ同じ羽が生えてる????」
もう困惑するしかない。頭がおかしくなりそうだった。だが、紫は変わらず落ち着いた声で、
「さぁ、同じ吸血鬼に成った事ですし..これで勝てる様になるでしょ?」
「吸血鬼に..成った??はぁ?????」
もうミコトの頭では考えきれなくなってしまった...