ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 ほのぼの死体蹴りのお時間です。

………さり気にこの作品で一番描写が裂かれてるラグーンキャラがエロドラゴンになりつつあるような。




敗北の翼竜姫

 

「はぁ……」

 

 ここ最近何よりも近しい友となってしまった溜息に何百回目かの別れを告げ、ピアサ=アルトンは窓から空を眺める。

 入れ代わりに肺を満たす空気は薄く、そしてあの煤臭く濁った都市とは比べ物にならないほど涼やかなものだ。高原から見上げる空も鮮やかに澄み渡っている。慣れ親しんだその清らかさは、しかし今では自分を拒絶しているかのような息苦しさしかもたらさなかった。

 

『すぴぃ。ぴぃ』

「あなたは幸せそうでいいですね……」

 

 少女趣味なピアサの私室。ぬいぐるみと仲間であるかのように小さめのグリフォンが丸まって寝顔を曝している。自分と同じ浅葱色の体毛をした鳥獣は華奢なピアサを載せるのがやっとといった体躯なのだが、これで生後数週間程度なのだから驚異的な発育と言えるだろう。

 

「ピアサ様。会議のお時間ですので、お召し替えをお持ちしました」

「どうぞ、入ってください」

「失礼します……ひっ!?」

 

 なりは愛くるしく、そしてピアサの面影を確かに感じられるとはいえ、れっきとした魔神の眷属だ。あの忌まわしき闘技場で何百という魔族に嘲られながらザハークの触手に嬲られ、その結果産まされた卵から孵った呪われし獣。敬虔なエデンの信者である召使の少女が視界に入れる度に怯えるのも無理はない。

 薬を嗅がされて眠っていたため又聞きではあるのだが、アルトン公国にピアサが返還される際この魔獣が彼女を運んできたのだという。

 

 引き渡したその後もずっとその場を離れようとしなかった為、アルトン側は困惑しつつも主の覚醒を待ち―――目を覚ましたピアサは、母親の後を付いてくる大きな雛鳥を切り捨てることがどうしても出来なかった。

 

 触れれば暖かいのだ。母を求めて鳴くのだ。

 強姦されて孕んだ屈辱的な忌子であり、信仰する教義からして許されない化生だとしても、自分の胎から産まれ落ちた命を問答無用に悪として処断するほど冷血になれない。

 

「身支度は一人で済ませられます。ありがとう」

「は、はい。二十分後に将軍様方が大広間でお待ちです……では、失礼しますっ!」

 

 その結果、そそくさと逃げていったあの少女みたいに怯えるだけならまだましで。怨敵である魔族と殺し合い続けた古参の幹部達ほど、ピアサに対し露骨に不信の目を向けてくる。

 親友が敵に回ったことで情に囚われ判断を誤り国に不利益を与え、挙句には魔神に誑かされた愚かな女なのかと。

 

 これから予定されている会議でも、そういった視線は存分に浴びることだろう。そしてそんな女の号令には従えない、ただ玉座に座って自分達の言う事に頷いていればいい、部下達の慇懃な口上にそんな本音が露骨なまでに載せられていて反論すら出来なくさせる。

 救われないのは、そうやって我を通そうとする彼らが必ずしも己の虚栄心や我欲の為に動いている者ばかりではなく、未熟な公主に代わり政を差配するのがアルトンの為だと本気で思っている者も多いことだ。

 

 結果皆が好き勝手バラバラな方針を打ち出し、それを纏められる者が居ない有様になっていれば世話はないのだが。今日の会議だって、メスキア本国からのティア=エリーシス討伐要請にも戦略すら定まらず、もう大将軍ファフネルが軍勢を率いてくるからそれに加われということになって彼女をどう出迎えるかを話し合っている情けなさ。

 自身の至らなさが最大の原因とはいえ、偉大な父に仕えた家臣達の実情がこれと思うとピアサにも言い分は出て来る。

 

「――――言っても、どうせ無駄でしょうけど」

 

………それを口に出す気にもならないくらい、彼女は疲れていた。

 

 親交のあったエリーシスが滅んだと思ったら、その原因は竹馬の友である王女ティアが魔神を召喚したからだと。そんなことは信じ難いと、真実を確かめに行ったら敵に回った彼女に殺意を叩き付けられた。殺されまではしなかったが囚われの身になり、屈従と恥虐の日々を送らされた。そして突然解放されて故郷に返されたと思えば、待っていたのは冷たい視線。

 最早現状に抗う気力も湧いてこない。散々に打ちのめされたピアサには腰の細剣すら重々しく、それ以上に煩わしいものに感じられた。四天将の竜装イヴェレン―――この剣を継承した時、確かに誇りと誓いを胸に宿した筈なのに。

 

 それでも時間は万人に平等に訪れる。またあの視線に曝され首振り人形としての価値しか期待されない会議の時間がやってくる。自暴自棄ぎみの心境とはいえ、それを辛い悔しいと思う感情まで麻痺した訳ではないのが余計に憂鬱だった。

 

………気休めまでに楽観的な予想をすれば、ファフネル将軍もこの城に到着している頃合いかもしれない。

 

 出迎えの飛行便は動かせる限り寄越せと言われたから、部隊を高原の麓からこの城まで丸々移送できるほどの竜籠を先日使いに出した。

 

 エデンに直接侍る本国の最精鋭達と四天将より立場が上の大将軍が来るのなら、彼らとてその面前でみっともない諍いを自重する程度の理性はあるだろう。

 

 だから今日はいつもよりましな日になるかもしれない。

 

 

…………確かにその予想は少しだけ当たった。部下達が勝手な口を利かなくなるという意味では。

 

 

 もう半分――――今日はピアサ=アルトンにとって『生涯最悪の日』だったことを、その予兆が確かにあったことを、考えようともしていなかった。

 

 

 

………。

 

「お逃げください、ピアサ様っ―――ぐはぁっ!!」

「テム将軍!?いやあぁぁぁぁっっ!!」

 

 孤立していたピアサの数少ない味方―――亡き父の腹心であり、遺言でも彼をよく頼れと言われていた軍部の重鎮。戦士としてもアルトン指折りだった男がたったの数合で斬り伏せられた。

 城の床を赤く染めるのは彼の血だけではない。百年以上も対魔族の戦争を戦い抜いた武人達が、誰も彼も物言わぬ屍となって永劫の眠りに就いている。

 

 そんな真似が出来るような強者などそうそう居るものではない。

 

 

「どうしてこんなことを……ファフネル将軍っ!!」

 

「―――どうして?これはおかしなことを訊きますね、ピアサ=アルトン」

 

 

 燃えるような赫髪。純白の鎧に磨き抜かれた大剣、そしてたおやかな笑み。確かに目の前の神竜族は、四天将として何度も言葉を交わしたメスキア最強の武将、大将軍ファフネル=フラグランドに他ならない。だが彼女は今、紅茶を喫する時とまるで同じ笑顔のまま城の者達を尽戮する凶行に及んでいた。

 

「貴女が招いたことではないですか。エデン様から与えられた四天将の力と名誉を裏切り、情けなくも魔族に囚われたかと思うと魔神の子を孕んだ?

 ああ、なんて………穢らわしい」

「――――ッッ!!?」

 

 最後の言葉にだけ覗いた本性、それは紛れもなく狂気だった。あるいは狂信というのが正確か。たった一言で、ファフネルにとって自分がなんとしても抹殺しなければならない存在になっていることをピアサに悟らせるには十分過ぎるほどに、粘性の殺意が声に纏わりついていた。

 

 向けられた本物の悪意に戦慄すると同時に―――かちりとピアサの中で何かが切り替わった。

 

「それが彼らを討つ理由になるとでもいうのですか。長年魔族の侵攻からメスキアを守ってきたのに、こうも簡単に切り捨てる理由になるとでも!?」

 

 褪せて朽ちたと思っていた怒りの感情が魂の奥底から沸々とせり上がってくる。最近は確かに疎ましいと感じていた彼らだが、命を懸けて後背に護って来た者達に切り捨てられる謂れはないだろうに。

 

「勘違いも甚だしいですね。神竜族はエデン様の治める神聖な大地を薄汚い魔族達に荒らさせないよう働くのが役目。

 なのに、あろうことか始祖龍様の骨から作られた大切な竜装を貢物にし、貴女のような穢れた存在を再び戴く為に差し出したなどと!」

「………っ!」

「彼ら自身が最早この地を汚すゴミになり果ててしまった。本末転倒にも程がある。

 私は奇麗好きなんです、エデン様の庭に見るに堪えない汚物があるなら、きちんと掃除しなくてはいけないでしょう?」

 

 興奮が高まり足元の屍を蹴りつけるファフネルにピアサの眦が鋭く吊り上がる。傲慢かつ身勝手、独善的。勝手極まりない理屈を垂れ流すこの鬼女はいやしくも大将軍の席にある者―――つまり、自分達が今まで忠誠を捧げ守ってきたメスキアの思想を代表する者ということだ。

 

「そうやってエリーシスも滅ぼしたんですね、あなた方は。そして今度はアルトンを、と」

 

 裏切られた失望と憤怒の裏側で、どこか冷静な思考が辿り着いていた。親友のティアが神竜族を裏切った理由に。

 エア=エリーシスが、一方的に魔族を悪として排斥することに否定的だったのは知っている。ティアがかつて国境で魔族を保護し、一日だけ共に過ごしたが放逐せざるを得ず、それを気に病んでいたことがあったのを覚えている。

 あの優しい母子は、ファフネルの、メスキアの理屈からすると“掃除すべき汚れ”になってしまうのだから――――、

 

 

――――だから滅ぼされて当然だとでも、言うつもりなのか。

 

 

「風の唄声は死者を弔う夜想曲。我が意に応え、吹き荒れよ、イヴェレン!」

 

 

竜唱(ロア)……あくまで抵抗しますか、ピアサ=アルトン!!」

「抵抗じゃない、これは……怒りです!!兵達はあなた達の玩具じゃない―――!!」

 

 大気が逆巻いてピアサの下に集う。解放された始祖の竜装、その主の意に応え、臨界まで収縮していく。

 散々自分達の盾にしておきながら、不愉快になったから要らない死ねなどと、呑めるものか。そんなものは信仰なんかじゃない。

 

「堕ちた身の分際で一端の口を利く。ならば身の程、教えてあげましょう。

 ここに目醒めたるは破壊の楔。嘆きの巨人は愚者を赦さず、ただ死絶の咆哮を轟かせる。天罰よ来たれ――ヴォルスング!」

 

 対するファフネルも竜唱(ロア)を発動し、その能力である大気中の魔力素(ソーマ)を吸収し己の力に変換しようとする。だが。

 

「エデン様の恵みが―――集まって、来ない!?」

「このアルトンの大気が、私より貴女に味方するなんてことある訳がないんです」

 

 大気などというのはピアサの領分だ。まして生まれ育ったアルトンの風、その全ての制御を掌中に収めることなどイヴェレンの正統後継者であるピアサには無理難題ではない。

 

 そして集めた風を片っ端から次の攻撃に注ぎ込む。

 ピアサはファフネルの本気の戦いを見たことはないが、そのタフネスと剛力が脅威的だと耳にしたことがある。ならば挑むべきは半端な攻撃で様子を見るのではなく、一度に削り切る超短期決戦―――!

 

 

「叩き込むっ、『嵐竜連環撃』ッッ!」

 

「……っっ!!」

 

 

 圧倒的な密度の旋風を巻き起こしファフネルの動きを封じる。本来それだけでも風の刃に全身が切り刻まれる斬殺空間、しかし神速で空を舞うピアサにはただの追い風でしかなく―――故にそこからイヴェレンによる超多重連撃が敵を微塵にすべく全周囲から襲い掛かる。

 全身にマナを纏って体表を強化しても次から次へ切り裂かれ血煙が風に一瞬で押し流される。高速で旋回し続けるピアサから逃れる術はない。

 

「てぇやぁぁーーーっ!!」

 

十重二十重?そんな温いことを言うものか。百でも千でもこの一瞬に斬り重ねようとも。

 

 この瞬間、ピアサはかつてないほどに技の冴えを見せていた。

 まして全てが彼女に味方するアルトンの地で、これ以上ない有利な空間で―――だから。

 

 

 

月鋼竜刃(リディル)!」

 

「な……あぐぅぅぅっっっ!!?」

 

 

 

 一瞬の見切り、経験から来る先読み、そして何より単純な地力の差。

 メスキアの将の将たるファフネルと成り立ての四天将であるピアサの勝敗の溝は、どんな好条件を揃えても埋まり切らないというだけの話だった。

 

 流石に無傷とはいかないファフネルの、本来の地を裂く一撃には程遠い斬閃は果たしてピアサを捉える。風に護られた彼女の胴が輪切りにされることはなかったが、内臓に突き刺さった衝撃と技の反動から来る魔力(マナ)欠乏のせいで地に転がって呻くことしかできない。

 

「はぁ、はぁ……腐っても四天将、…ということですか。やってくれる…!!」

「ぅ、ごいて…っ、動け、わたしのからだ……ッ!」

 

 一方全身に裂傷を刻まれたファフネルだが、荒い呼吸をしながらも大剣を振り上げる動きに澱みはない。そしてそれが振り下ろされた時、ピアサの首は跳ね落ちる。

 

 それを躱す手段も、それを止められる存在も、この場にはない。

 敗北の翼竜姫は、迫りくる刃を見ていることしか出来なかった―――。

 

 





 ピアサ覚醒。流石にぶち切れティアに不意打ちされて乙だけだとちょっとアレだし。でもごめん、ここロウルートじゃないんだ……。


あと神竜族ってそんな簡単に味方の国滅ぼすの?軍事的にとか以前にどう考えてもアホの所業じゃない?って疑問に思う読者も居るかとは思いますが、メタ視点の話になるんで掲示板回でいつも通り痴女に解説させる予定です。本当掲示板形式って便利。

まあ「ヴィーナスブラッドだといつものこと」と言えばそれまでなんですけどねー……。


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