ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 前回の引きからそのままピアサ死亡……でもいい感じに話は展開できそうなのですが(ティア姫の闇堕ち覇道的な意味で)、エロドラゴンさんもこんなところで退場させるには惜しいキャラなので生存ルート行くことにします。

 つまりは―――引き続きほのぼの死体蹴りタイム延長戦(外道かこの作者





慟哭の翼竜姫

 

『ぴいいぃぃ~~っっ!!!』

「きゃっ!?」

 

「な……くっ!?」

 

 可聴域ギリギリにあるかのような甲高い鳴き声と共に、勝敗の決したファフネルとピアサの間を風が駆け抜けた。

 

 他ならぬ冷血の大将軍の手で惨劇の宴と化していたアルトン城の大広間、床に滴っていた乾き切らぬ鮮血が強く撥ねる。粘性の高い液体である血が眼球に付着すればそれは頑健さがどうとかとは別の次元の話であり、さしもの彼女も怯まざるを得なかった。

 風の公主に斬首をもたらさんとしていた剣筋は歪に軌道を変え、その隙に現れた影が掻っ攫う。空を友とする者達の国らしく、翼を広げても通れるくらいに開かれた窓から浅葱色の獣が飛び立った。

 

『ぴぃ!ぴいっ!!』

 

 目潰しを喰らった女騎士が視界を取り戻す前に、その魔獣は母を背に載せて羽ばたく。雲にその身を隠しながら、追撃されるより先に行方を眩ませる為に。

 同族同士で殺し合う神竜族よりある意味上等な知能を持つその幼いグリフォンの上で、救われたピアサは未だ満足に動かない体を必死に祖国に向け続けていた。

 

 まだ見えるから。幾里の彼方にあってもなお、雲に遮られてもなお、天空を翔る将として持つ鷹以上の視力でくっきり見えてしまったから―――燃え盛る集落も、大将軍旗下の竜戦士達に襲われ命を散らす民達も、その中にあの臆病な侍女がいたことも。

 

(―――ぜんぶ、なくなっちゃった)

 

 女子供の別もなく、奴らは『エデン様の為の聖なる務め』に邁進するのだろう。

 力なき民を守る勇士達は討ち取られ、王として導き手である自分は今こうして何もできないまま逃がされている。そんな中で果たしてあの内のどれほどが命を繋げるというのだろうか。

 

 

 アルトンはもうおしまいだ。誰もが自由な空を愉しみ羽ばたきを競う、在りし日の営みが繰り返されることは二度とない。

 

 

 それが分かってしまうと、もうピアサの体に力が湧き上がることはなかった。魔獣の柔らかい羽毛に埋もれ、握っていた竜装を鞘に納めて抱きかかえ、くたりとしたまま背を丸める。

 

(もう何も考えたくない。ずっとこのまま微睡(まどろ)んでいたい。辛い現実はもう沢山なの)

 

 この一月にも満たぬ内に散々に打ちのめされ尽くした心が、誘惑に屈し逃避の霧に沈んでいく。

 しかし―――嗚呼。

 

 

 まだ今日は、ピアサ=アルトンにとって『人生最悪の日』のままだから。

 

 

 

『……ぴ、ぃ……。ぴ―――、………、』

 

 

 

「………。え?」

 

 何もかも失ったピアサの命を救い、“最後”に寄り添った魔獣。その羽ばたきは少しずつまばらに、勢いをなくし、重力に囚われ大地に近づいていき。

 

 ぐしゃり。

 

 墜落の衝撃は、“それ”がクッションになったおかげでピアサには僅かに感じるものでしかなかった。それでも翼竜姫の本能か、地に墜ちるという事態に敏感に反応して意識が呼び戻された。呼び戻されてしまった。

 

 さっきまで厭になる程見せられた、傷口から滴る鮮血が地を塗り潰す光景がまだそこにあった。

 

「待って……なにこれ。ねえ、まってよ」

『。。。。。。。。。。ぴ、ぴ…ぃ』

 

 ピアサを救い出した時の交錯でファフネルに刻まれた斬撃。零れゆく命の雫を吸啜する乾いた大地は、そこが神竜族の領土から遠く離れた場所であることを示している。

 命に係わる傷を負いながら、母親を敵から逃がす為に必死で飛び続けたという事実を、ピアサは“今更”理解してしまった。

 

 そして―――己がもう助からないことを理解してなお、その鳴き声から伝わってくるのは母を案じる“こころ”で。

 

 

――――生きて、おかーさん。

 

 

「~~~~~っ!!!?嫌だ、いや、やめてっ!いかないで!!」

 

 

 溢れ出す涙が邪魔だった。遮二無二縋り付いて叫んだ。そのせいで肌に伝わってくる、命の気配がどんどん小さくなっていく。もう鳴くことすらできなくなったその子は、狂乱するピアサをじっと見ていた。最後に託した想いを伝え続けられるように。

 

「だめだよっ!私、わたし、まだ何も……っ!」

 

 そんな祈りを受け取る資格は自分にはない。だって。

 

 

「――――あなたに、お母さんらしいこと、何もしてあげられてないのに!!」

 

 

 料理を作って食べさせたことも。

 一緒に遊んであげたことも。

 抱き締めたことも。

 

 

 こんな時に呼び掛ける為の、名前すら付けていない。

 

 

 今更この子の母親で在りたいと、芽生えていた母性に気付いたところでそれが何になる。この子の産まれた意味を、幸せを何一つ与えられないままただ母親の身代わりとして死なせた、ただの冷血女だという事実しか残らないというのに。

 

「起きて……ねえ、起きてよお。またすりすりして、『ぴい』って鳴いてよ。今度はちゃんと、抱き締めるから。だから、ねえ」

 

 震える声で呼びかけても、もう応えてくれない。

 触れても暖かくない。母を求めて鳴いてくれることは二度とない。

 

「ねえ、ねえっ!―――――。~~~~~~~~~っっっっ」

 

 今度こそ自分が全てを喪ったことを理解して、彼女はあらゆる感情を慟哭の喘ぎに載せて撒き尽くす。

 

 

 

「ああああああああああああああああああああぁぁぁ~~~~~~~っっっっっ!!!!!!!!!」

 

 

 

 啼いて。

 

 哭いて。

 

 泣いて。

 

 我が子の亡骸を抱きながら全ての悲しみを涙と共に枯らし尽くした時、ピアサ=アルトンに残っていたのは。

 

 

「―――ころしてやる」

 

 

 憎悪だけだった。

 

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる、殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる、殺してやるッ、殺してやる殺してやる!!

――――ファフネル=フルグランド!!お前だけは絶対に殺してやる!!!」

 

 尊敬する父から託された民も、もう一人の親のように思っていた将軍も、ずっと身の回りの世話を焼いてくれた侍女も、そして何よりこんな自分を慕ってくれた我が子も、全てを最低の裏切りによって奪い尽くしたあの女に対する殺意で瞳を濁らせる。

 

「メスキアの連中も、何よりお前が敬愛するエデンもッ!全員地獄に叩き落して、絶望に歪んだお前の顔を串刺しにして殺してやる!!」

 

 もはや生まれてからずっと信仰し続けてきた教義に対する畏敬など微塵もない。自分達を、アルトンを利用するだけ利用して襤褸雑巾のように処分した醜悪な教えよりも、エデンを殺せばファフネルが絶望するという事実の方が億倍大事だ。

 

 

 こうして、漆黒の誓いを胸に刻み。もう一人の復讐姫が誕生したのだった―――。

 

 

 

 

 

…………。

 

 そんなピアサが初めに行動に移したのは。

 

「何故ここに、と聞いてもいいのかしら」

「ファフネルを殺したいなら、あなた達と一緒に戦うのが一番早いと思って」

 

 以前囚われていたデルピュネに逆戻りし、ティア達を訪ねることだった。

 あっさりと城兵に竜装(イヴェレン)を渡して武装解除する態度に、政庁にて彼女との会談に応じたティア達は、ピアサの雰囲気と態度の変化、そしてメスキア軍の首魁に対する殺意を見て事実を悟った。念のため慎重に尋ねてみるが、祖国が神竜族に滅ぼされたことに対してピアサはあっさりと頷きを返してくる。

 

 可能性は低いと思いますが、と前置きはされていたが、起こり得る事象の一つとして『アルトンが粛清される』というのは事前にシルヴィアによって示唆されていたことだ。とは言ってもそのシルヴィアも困惑は隠せないのか、視線をぼかしながら何か考え込んでいるようだったが。

 

 そんな己の腹心を労わる視線で眺めた後、ティアはすっかり纏う雰囲気をひりついたものに変えたかつての親友に問いかける。

 

「貴女という戦力が加わってくれるなら、こちらとしては心強いけれど。

―――その前に、一つだけ確認させて欲しい」

「何ですか?」

 

 

「私が親友だった貴女に与えたこれまでの仕打ちについて、謝るつもりはない。一度下した決断を間違いだったと曲げることは、私を大将と認めてついて来てくれる仲間達に不誠実だから」

 

 

「ふーん?」

「…………」

 

 離れたところで壁に寄りかかって面白そうに唇を吊り上げるレヴィア。参入から日が浅く客将である彼女はしばしばティアを見定めるような言動をしている。気にする必要はない。

 一方で逆上させることも覚悟していた亡国の四天将は、感情の読めない濁った眼をこちらに向けてくるだけ。その意味を考えるより先にティアは言葉を繋いだ。

 

「そんな私と私の仲間への蟠り、捨てられるの?陣営に加わりたいって言われても、恨みを持つ相手に命なんて預けられないわよ」

 

 彼女がこうなったことに関して、犯人はファフネルひいてはメスキア首脳部なのだろうが、事態を誘発したのは間違いなくティア陣営の謀計だ。話し合いに来たピアサを一方的に刺したティアやザハークによる陵辱を発案したシルヴィアなど、もし恨みの矛先がこちらにも向かうようなら受けて立つまで。そこをなあなあにする気はないと眼光鋭く詰問されたピアサは。

 

「くすくす。くひひ。ティアは可愛いですね。そんなことを気にするなんて」

 

 面白い冗談を聞いたとばかりに笑うだけだった。だがその笑顔は幼馴染の自分が見たこともない、面を貼り付けたような歪な笑み。

 

「私は今でもティアのこと、親友だと思ってますよ?

 それは確かに、一時期は恨みましたとも。でも今なら分かります。もし私とあなたが逆の立場で、メスキアの為に命を張って戦おうなんて思ってる間抜けな道化が、賢しくも許しを乞えなんて言ってきたら。殺しても殺したりない仇に頭を下げろなんて言われたら―――」

 

 少なくとも、アルトンに返還される前日まで「どうしてこんなひどいことするんですか、ティア…っ」なんて言っていた頃のお花畑は奇麗さっぱり更地になっているらしい。それがいいことと言われて頷けるのは、相当に趣味と性格の悪い者だけであろうが。

 

 

「―――私ならいくら親友の貴女でもあんなヌルい扱いで済ませる自信ないですもの。うふふふふふ、ティアは本当にお優しいですね」

 

 

 お前は生っちょろい―――復讐者としてティアよりも振り切れた姿勢がそこにある。ティアにとっての相棒(ザハーク)理解者(シルヴィア)も居ない彼女が辿り着いてしまった場所を、その混濁した視線を通して見せてくる。

 

 ティアは、そんなピアサに対し―――、

 

 

∵∵∵演算分岐点∵∵∵

 

 

【警戒する】ロウ+1

【歓迎する】カオス+1

【確信する】破滅+1

 

→【確信する】

 

 

∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵

 

 

 何かが罅割れ落ちる音がする。

 警告のように耳の奥に響くその音を、ティアはもう何度聞いただろう。しかし彼女にはそれが最早自分を応援する祝福の鐘の音のように思っていた。

 

――――親友なのに自分を裏切ったピアサですら、こうして同じ目に遭ったら復讐者になったじゃない。だからやっぱり。

 

 

 わたし(ティア姫)は間違ってない。わたし(ティア姫)は正しい。

 

 

 今まで何度も何度も何度も何度もねだっては聞かせてくれたシルヴィアの優しい声がティアの脳裏に残響してつい口元が綻ぶ。すっかり自分を肯定することができるようになった青の竜姫は、己の可能性に蓋をしようとする迷いや恐れ(余分なモノ)が押し流されるのを感じながら、ピアサに笑顔を返した。

 

 ピアサよりは奇麗で、しかし性質としては何も変わらない歪な微笑みを。

 

「分かった。ありがとうピアサ、歓迎するわ。

 これからも親友として、仲良くしましょう?」

「ええ、私達ずっとずっと親友ですよね!」

 

 互いに美しい友情を再確認しながら、かつての諍いを乗り越え同じ目標に向かって手を取り合っていくことを、彼女達は誓う―――。

 

 

 

「そ、そうなるの……?いや、あなた達がそれでいいなら、私は何も言わないけど」

「?レヴィア様?」

 

 一方、何故か傍で見ていた魔竜姫の顔が引き攣り、何も理解していない機竜が彼女の反応に首を傾げていた。

 

 

 





 復讐者ピアサがティア軍に加入した!

『シルヴィアも困惑は隠せないのか、視線をぼかしながら何か考え込んでいるよう』
→教えてORS掲示板(というか痴女)。これってどうなのー?

『相当に趣味と性格の悪い者』
→つまり、作者のことだな!

『シルヴィアの優しい声がティアの脳裏に残響して』
→わあ、まるで自分で自分に催眠かけてるみたいだあ(直喩)

『己の可能性に蓋をしようとする』
→それ本当に選んでいい可能性なんですかねえ…

『同じ目標に向かって手を取り合っていく』
→ぴあさー、ガシェル殺しに行こうぜー?おまえファフネルなー?

『何も理解していない機竜』
→テュポーンに察しろというのは無茶ぶりである。

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