ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

29 / 84

 詠唱いいよね…。
 VBLだとレヴィアの絶刀版が一番好き。



反撃の賢竜姫

 

 偉大なる始祖龍エデン。五人の勇者と共に災厄の魔神ザハークを滅ぼした御方は、荒廃した大地に恵みを与える為自らの血肉を糧と差し出したと、メスキアの教えではそうなっている。

 その遺骸から滴る黄金色のソーマは自然の実りを再生させ、骨片は鋼よりも優れた武具の材料となる。その恵みに感謝すると共に、勇者らの末裔たる神竜族こそがそれを享受する資格があり、他の下等種はひれ伏し救いを乞うべきなのだ―――流石に言葉は奇麗に飾られているものの、神竜族の統治とは概ねそういう意識の下に為されている。

 

 神話の真偽の程度はさておき、今この場において重要なのは、竜装は始祖龍の骨から造られたものであること。そして竜装は担い手が魔力(マナ)を籠めることでその威力を発揮するが、文字通り始祖龍の力の結晶であるソーマを籠めることと比べどちらが相性が良いかは考えるまでもないこと。

 

 さて。最前線国家であったアルトンが蓄えていた銘のある竜装百本を加工して巨大な突撃槍(ランス)を作ったとして。ソーマ鉱石を燃料として数百トンという貨物列車(ベヒモス)の巨躯を駆動させるエンジンをその巨大武器に直結したとして。それを文明と英知と浪漫の結晶として螺旋回転させながら一つの対象にぶち込んだとして。

 

 果たして神剣ヴォルスング―――古に存命であった頃の始祖龍が勇者に手づから齎した伝説の武器の一振りとて、果たして無事に済むものだろうか。

 

 

 否。始祖龍の遺骸を冒涜することすら厭わぬ邪悪な機械文明の力に負ける訳にはいかぬと、耐えてみせた。

 

 

「ぶち抜けええぇぇぇっ、なのですうぅぅぅーーーーっっ!!!」

「――――――あ、ぐぅっ!!?」

 

 

 耐えられなかったのは、頑強さと膂力ではメスキア大陸一と言っても過言ではない筈の担い手ファフネルだった。

 

 当然ながら彼女に瑕疵はないだろう。およそ単一の生命体に向けるような威力の攻撃ではないし、数秒持ち堪えただけでも瞠目に値する。どころか、彼女が万全の体勢で迎撃出来ていれば打ち勝つ可能性すらあった。

 だが魔神ザハークと裏切りの神竜姫ティアという敵の首魁を前にした大将軍はそちらに意識を取られていたし、それでも相手の螺旋巨槍に大剣を盾にすることに成功したはいいが―――高速回転する最強の矛が神剣という最強の楯を削り割らんとする大金声が致命的だった。

 

 如何なメスキア最強の竜大将といえど、戦場で音という重要情報を遮断できないという意味でも、鼓膜を一定以上に魔力(マナ)強化することはできない。爆発にも等しい音の激震を至近距離で備えもなく受けてしまえば、三半規管ごとぶち抜かれるしかなかった。

 そんな状態で踏ん張ろうとしても長く保つ訳もなく、赫髪の女将軍は錐揉み回転しながら宙に放物線を描く。

 

「………ッ、~~~~ッッ!!」

 

 本来なら意にも介さない地面に叩きつけられる衝撃は、今の彼女にとって全身を引き裂かれるような追い打ちとなった。

 

 聴覚が破壊されたファフネルは、今自分が悲鳴を上げているのかすら分からない。

 だが、鎧が襤褸屑のように自身の肋骨共々粉砕されていることや、両耳の穴から垂れ続ける粘った血が、脳と全身の激痛と共に深刻なダメージを受けていることを悟らせてくる。

 

「……ディアボロスの借り、返させてもらうわ」

「今が好機ッ。ここでファフネルは墜とす!!」

「こういうのは流儀じゃねえが……観念しな!」

 

(まだ、まだ私は……、エデン様の為に…ッ!!)

 

 常軌を逸したエデンへの盲信を原動力に、剣を杖にして立ち続ける彼女だが、それすら左腕一本でしか行えない拉げた体では儚い抵抗でしかない。

 それでも交戦していたティア達三人は当然止めを刺そうと仕掛けるし―――、

 

 

「ふぁーふーねーるーちゃぁん?あ~~そ~~ぼ~~っ??」

 

 

 彼女が最も恨みを買った翼竜姫ピアサが、この好機に指を咥えているだけの筈もない。

 もともとこの奇襲を成功させる為だけに戦線を分けられていたのだ。三次元戦闘を得意とする彼女と相対していたら、ファフネルが全方位への警戒を行ってしまう可能性があったから。だが空の戦闘も趨勢を決した今、彼女はこの場に舞い降り怨敵をその手で討つべく殺意の刃を振りかざす。

 

 大将軍ファフネル、万事窮す―――。

 

 

「祈りは正義、崇拝は至高。我はただ神の前に座し、願うのみ。

 宝珠カルクス、我は望む。この世界が清廉とならんことを!」

 

 

 彼女を覆うように、不意に霧が立ち込める。

 水気の無い晴天の下、荒れて乾いた大地の上と考えれば明らかに不自然な濃霧だった。

 

「ファフネル将軍の回収後、離脱が最優先です!急いで!」

 

 霧の中から聞こえるのは、果たして氷国の四天将の流石に焦りを帯びた指示だった。

 

「ヴィーヴル……お前の仕業かっ、邪魔をっ!!」

「アルトン公、本当に堕ちてしまったのですね」

「そうね、堕ちましたよ。アルトンの皆の仇を、ファフネルを殺す為なら――――お前達メスキアの外道共と同じ品性まで堕ちてあげるわよッ!!」

 

 構わず突撃するピアサだが、翼が鉛のように重いのは自覚していた。霧に敵の魔力(マナ)を奪う効果があるのだろう―――それで尚、視界の悪い中飛んでくるヴィーヴルの魔術を掻い潜り続けるのは執念の為せる業か。

 だが、竜の賢者と称される彼女の攻撃を躱しながら敵兵が連れ去った瀕死のファフネルを霧の中捕捉し続けることは流石に難しかった。ザハークや眷属達も、力を奪われながらの戦場では殿(しんがり)の一般兵にも手こずっている。

 

「逃げるな、ファフネル……っ!お前が殺した罪もない民は、それすら許されずに信じていたメスキアに背中から斬られたんだ!!」

 

 歯噛みしながら霧の中を飛び続けるピアサだが、仇の姿を追うことも出来ずに時間と消耗だけを重ね続ける。

 そしてふとヴィーヴルの気配もまた消えた―――悟ってしまった、ファフネルの回収を終え、それを見届けた賢竜姫もまたここに留まり続ける理由がなくなったのだと。

 

 

「逃げるなよっ、自分より弱い奴を踏み躙ることしかできない卑怯者!

 逃げるな、逃げるなああぁぁぁーーーーっっ!!!!」

 

 

 先陣を切っていた大将の敗北により俄かに混乱し始めたメスキア連合遠征軍、好機を逃さず喰らいかかるデルピュネ軍。未だ血風止まぬ戦場の中、絶好の機会をあと僅かのところで逃した翠の復讐姫の叫びは、途絶えぬ鬨と断末魔の中吸い込まれていった………。

 

 

 

「――――これがヴィーヴル=ニヴェルネ。判断が早い」

 

 時を同じくして、僅かに眉をひそめたシルヴィアの指揮する部隊が、そのヴィーヴルの残した部隊を蹴散らしてメスキア軍の横腹を食い破っていた。

 

 ベヒモスに装備した新兵器でファフネルに痛打を与えた時に鳴り響いた常識外の爆音は、一瞬戦場の兵達の動きを止める程のものだった。当然事前に知っていたレヴィアやテュポーンら幹部達はそれを幸いに攻勢を強めて戦果を挙げたが、それよりも更に早く動いたのがまさかのヴィーヴルだったのだ。

 

 術の撃ち合いを続けながらも思考を及ばせていた。奇襲部隊である筈のシルヴィア隊が自分との膠着状況を作り上げている、即ち“足止めをしている”という事実から、魔神解放戦線を名乗る裏切者の軍が何かしらの切り札を用意している可能性を。

 それをぶつけて最も効果があるのは、当然この遠征軍の大将であるファフネル。メスキア大陸最強の個である彼女なら何があっても問題ない―――そんな楽観は、自分と戦場という盤面で指し合える軍師であるシルヴィアの存在を認識した時点で排除した。希望的観測を徹底的に排除した上で策を立てるのが軍師だから。

 

 故に合図としてはあからさまなあの音が鳴った瞬間、ヴィーヴルはすぐに持ち場を放棄し、近衛のうち飛竜に騎乗した兵に相乗りして一目散にファフネルの救援に向かった。

 その甲斐あってすんでのところで大将軍が討たれることを防げたのは、彼女の優れた機知によるものといって過言ではないだろう。

 

「王手飛車取り、ですけどね」

 

 とはいえこの場に置き去られた術撃部隊の方は、ヴィーヴルの不在で動きを鈍らせる程弱卒ではないが―――元々相対していたのがそれへの対策を最優先して編成された部隊だ。しかも別働隊として少数ながらもティア軍の精鋭が従伴している。

 

 

「踊るように軽やかに、歌うように高らかに。永久凍土に咲く華は、生者の魂を貪り喰らう。

 さあ愛刀シャリートよ、レヴィア=ネフティスの名において、美しく、残酷に、咲き誇りなさい!」

 

 

 四天将を警戒する必要がなくなった魔竜王の娘レヴィアが竜唱(ロア)を詠い、戦場を氷漬けにする。

 

「素敵な舞台をありがとうレヴィア殿下。このジュデッカ、縦横無尽に踊り狂ってみせますわ―――ヘルズヘイム!!」

 

 万物が停止させられる凍結の白土を流麗に滑りながら、目に追いきれない程の疾さで広域に蛇腹剣を振るい、動きの鈍った敵兵を更に凍らせ砕けた氷像に変えていく蒼髪の美女が一人。姫軍師シルヴィアの最初の娘にして後に並ぶ無き至高の従者を己に任ずる、その名はジュデッカ。

 

「ちょっと、私貴女のサポートをする為に竜唱(ロア)を使った訳じゃ……ああもう、母娘揃って油断ならない女ね!!」

「お母様とお揃いだなんて……レヴィア殿下は流石、称賛もお上手ですこと。

―――でもその母様が見てますもの、この場の勲功一等は譲れませんわ」

「上等っ!私と戦果の競い合いしようなんて二十年早いって、教えてあげるわよ!!」

 

 北国ニヴェルネ兵の寒さへの強さなど無意味と言わんばかりに、氷雪に舞う美女二人を先頭に、ネフティスのレヴィア直属部隊や眷属も続いて希少な魔術師兵を仕留めていく。

 

 知略の面で最も警戒すべき賢竜姫の足止めが失敗したならしたで、強襲部隊の本来の目的通り敵軍を横から崩して刈り尽くす。

 この日彼女達が上げた戦果は、敵航空戦力を壊滅させた上でクシナダ軍の攻撃を凌いだテュポーンやピアサの部隊に勝るとも劣らぬものであった。

 

 

 

…………。

 

 その後当初のシルヴィアの目標通り緒戦で痛打を与えられたメスキア連合遠征軍は、数回の散発的な戦闘を続けていた。

 だが、大将のファフネル重症の影響が祟って士気も上がらぬまま時間を浪費し、魔竜王ヴァジェト直々に親征しての本国援軍の報せやヴェリトールの南方方面軍がクシナダを窺う動きを見せたことで代理指揮官のヴィーヴルは撤退を決断。

 

 三か国、メスキアの大将軍と四天将二人の猛攻を独力で凌ぎ切ったティア軍の活躍は、もはや元神竜族の出自に誰にも文句を言わせない実績となる。

 一方でこの戦いに最重要の貢献を果たした姫軍師二人は、互いの存在を強く意識していた。

 

 

「シルヴィア=ハマルティア……『白き魔女』、ですか。次はこうは行きません」

「ヴィーヴル=ニヴェルネ……『竜の賢者』。次こそ完全に勝ち切ってみせます」

 

 

 ティアの復讐の戦いに立ち塞がる新たな四天将。

 次の戦いに向け、再戦に向けた熱は確かに火を灯していたのだった。

 

 





『赫髪の女将軍は錐揉み回転しながら宙に放物線を描く』
→転生トラックならぬ転生トレインなベヒモス…?

『交戦していたティア達三人は当然止めを刺そうと仕掛ける』
→耳栓は外してそっとしまいながら。

「逃げるな、逃げるなああぁぁぁーーーーっっ!!!!」
→煉○さんは最後まで戦ったぞ!

『テュポーンら幹部達はそれを幸いに攻勢を強めて戦果を挙げた』
→この時誰かさんも負傷して戦線離脱してます。

『ティアの復讐の戦いに立ち塞がる新たな四天将』
→初登場なのでちゃんとキャラ立たせないとね。氷のロリはやっぱ強いぜ……!
 え、もう一人初登場の四天将?………いたっけ?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。