ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 明けましておめでとうございます。

 本年も読者の皆様が心あたたまるようなほのぼのした小説を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします。


 今回の更新について一言?
 良い感じにモブの命が軽くなってきたぜいえーい()




抵抗の賢竜姫

 

 白雪に閉ざされた常冬の街。これまで何百年営々と信仰篤き民達が規則正しく行き交ってきた路面にて、積もった雪と泥が無数の足跡でぐちゃぐちゃに踏み荒らされていた。

 悪鬼の雄たけびと恐怖に引き攣った悲鳴。石造りの家々が砕かれ家財が薪となって火の手が上がる。舞い上げられた煤が雲をも覆い、深夜の凛とした静寂を宵闇ごと踏み躙る。

 

 悪鬼羅刹、修羅の巷、百鬼夜行。魔神の眷属たる異形達は、エデンの教えに語られる悪辣さと凶悪さを否定する価値もないとばかりになぞり、安穏と眠りを貪っていた神竜族達を無惨な骸へと変えていった。

 

 アルトンという前線の要衝、氷雪吹き荒ぶ気候と公主ヴィーヴルの知略により保たれていた平穏が、国民にとって首都への襲撃など想定だにしないぬるま湯の認識へと繋がっていたというのは、これまで必死に国を護り続けていた彼女への皮肉だろうか。

 刷り込まれた教義により魔族への蔑視と排斥を常日頃から威勢よく口にする“信仰篤き”民達は、いざ自分達が魔族に襲われた時その分だけ無様さを曝していた。

 

「きひひっ。みぃつけたッ!」

「音紋照合、敵勢力脅威ランクDが一体と断定。ファイア―――抹消確認」

 

 現状を把握しようともせずに家に寝床に籠っていた間抜けすら少なくない。教典上の他所事ではなく自分達を狩る処刑人となった魔族達から逃げようとする者とて、上空から視認されれば刃が風より早く降り注ぐし、息を殺すこともできねば機竜の(ソナー)に捉えられて熱線に穿たれる。

 

 ではいっそ瓦礫に隠れてじっと脅威が通り過ぎるのを待つのが賢明だっただろうか。……実際、苦痛もなく殺してもらえるという意味では正解だったのかもしれない。

 

「指が、うで…っ、うわあああっ~~~~、――――」

「ふふっ。いい悲鳴」

 

 蒼銀の帯で編まれた扇情的な衣装に、肩ではだけた外套を羽織る赤毛の魔女が愉悦を滲ませた狂相で嗤う。艶めいた褐色肌を惜しげもなく晒し、豊満な胸に垂れるように一房にした髪を緩やかに前に流している服装は娼館で怠惰な色気を振り撒く毒婦さながらだった。

 当然氷点下を優に割る雪景色に似付かわしい衣装ではない。だが黄金色に変色した竜眼を細めるアスタは、オーバーなリアクションで寒さに震えてみせただろう以前の陽気な姉御肌の車長とはまるで様変わりしていた。

 

「おのれッ、せめて貴様だけで、も―――ぐぎっ」

「ご苦労様ねぇ。それじゃ、アデュー♪」

 

 抱えた盃はどす黒く濁った魔力(マナ)で疑似的に現出した彼女の竜装『ミュステリオン』。その口からは煙を断続的に吐き出し、その度に近くにいた神竜族の民を白い灰へと変えていく。あるいは、今しがた視線だけで起動した重力魔法で地面に叩きつけられて絶命し、同じように白い灰になって風に浚われたニヴェルネ兵の屍という一幕を見る限り因果が逆か。

 

 全身の魔力(マナ)の一切が略奪され抜け殻になった結果がこの脆く崩れる白い塩塊。杯の竜装はかつてアスタの生命力を使って癒しの霊薬を生み出すという持ち主の優しい気質を表すようなものだったが、堕ちた妹に絡めとられ悪に染まった性格同様その機能を反転されている。即ち、他人の生命を根こそぎ強奪し主を強化する機能へと。

 必死に妹を庇う少年も物の分別も着かぬ幼い少女もまともに足を動かせぬ老人も、生命力を探知して逃げ隠れの余地なくその命を吸っていく。吐き出される煙はそれを魔女竜の糧にした後の残酷な絞り滓。

 

 そんな凶行に及んでいる黒魔女は、この雪下の殺戮劇の中鼻歌を唄いながら散歩でもするかのような気楽さで贄を求めて練り歩く。その足を止めたのは魔導列車周辺の安全を確保してから必死に後を追いかけた狼少女の声だった。

 

「アスタさん!」

「あらムムル。危ないじゃない、眷属の皆とベヒモスを護っててって言ったでしょ」

「……っ」

 

 庇護すべきベヒモスの部下に向ける声はこれまでずっと一緒に旅していた時となんら変わらない、シルヴィア同様に敬愛する恩人の優しさと慈しみが伝わってきていた。ムムルにはそんな彼女が敵とはいえ無力な一般人を虐殺しているなど、そのどす黒い竜装を見てなお半分信じられない位に。

 

「アスタさんは、それでいいのですか……?」

 

 灰毛の狼車掌が震える声で問いかけると、魔女は仕方ないとでも言いたげに苦笑して頷く。

 

「今のままじゃよくないからこうしてるの。この調子でやってればニヴェルネ攻略までにはピアサやテュポーンに並ぶくらいの力を付けられる―――じゃないとこの先の戦いでシルヴィアや貴女達を護れない」

「それは……」

「だーいじょうぶよ。私はあの子と一緒に堕ちる約束をしたからどこまででも手を汚せるけど、ムムルはいい子だもんね。気が乗らないなら、私に従わされてるだけって思えばいいわ」

 

 どこまでも思いやりの籠った声にムムルは返す言葉を失った。自分とてホルスターに収めた大型拳銃で殺めた敵は数え切れないが、怯える神竜族の子供に向かって引き金を引けるかと問われれば即座には頷けない。それでいいのだ、ただ自分達は甘えていればいいのだと受容する車長は次の贄を探してまた歩き始める。

 

―――本当に?

 

 廃坑となって寂れた故郷から逃げエトナに出るも、テュポーンの管理政治下だったため最低限の賃金だけで日々を過ごしていた自分達姉弟。それを機械知識や扱いの才能を見込んでベヒモスに拾ってくれたのがアスタとシルヴィアだった。故郷に残した憂いにも親身になってくれて、今ではまとまった額を仕送りすることもできている。それに二人はどこまでも優しくて暖かくて、アスタは研究バカで部屋を散らかすしシルヴィアは時々変なハイテンションになるけど、そこも含めて大好きな群れの長と姫だった。

 

 だから優しい二人に恥じぬよう、せめてもの恩返しができるよう『いい子』でいよう、それで一生懸命働いて恩返ししようとムムルは思っていた。………だがその二人が敵に容赦なく非情でしかも嗤いながら相手を踏み躙るというのなら、斯く有るべき『いい子』の定義とは、さて。

 

「……とりあえず一旦ベヒモスに戻るのです」

 

 まだ確たる形にならない悩みを脇においてムムルも(きびす)を返す。車掌として任された列車の護りにひとまず専念するべく踏み出したその足元――――アスタの犠牲者と思しき灰の山が積もっていた。

 

 

 何の感慨もなく邪魔なそれを蹴飛ばしたことの自覚もなく、狼少女は護衛の眷属と共に停車中のベヒモスの方へ駆けていく。舞い散った灰は、やがて雪と混じりその痕跡すら消え去るのみであった。

 

 

 

…………。

 

 ヴィーヴルは打てる手は全て打っていた。

 

 蜂の巣を突いたような大混乱に陥ったニヴェルネ軍を城内で掻き集められるだけ集めて即席の部隊にしたのも、魔術を増幅する儀式場の一つを奪還して立てこもったのも、その場で出来る最善手であったと彼女は自負している。………実際のところ最善は奇襲で最高指揮官が討たれるという最悪を防ぐ為のなりふり構わぬ逃亡なのだが、信教上の理由で魔神の軍勢から尻尾を撒いて逃げ出すことができなかった為選択肢から除かれている。

 

 とはいえ次善の対応をしたにせよ、そもそも軍の精鋭は前線基地に張り付けていたこともあり魔神解放戦線の強襲を弾き返せる程の陣容は揃わない。そもそも数百年の間戦場になる想定すらしていなかった首都の防衛設備などあってないようなもので、迎撃態勢など整う訳もないまま兵の命はいたずらに損耗していくばかりなのであった。

 

 故に部下達は眷属を引きはがすのが精一杯。離れに石造りで建てられた儀式場で、ヴィーヴルはザハーク・ティア・レヴィア・シルヴィアという敵の最大戦力の一角に一人で相対することとなっていた。

 

「こうして直接お話しするのは初めてですね、ヴィーヴル=ニヴェルネ」

「魔族と語る舌など持ちませんと言いたいところですが……敢えて問いましょうか、シルヴィア=ハマルティア。我が民達への狼藉、一体どういうつもりですか」

 

 裏を返せば、ここで敵勢力の最も主要な四人を殺せればまだ活路は開ける、最悪エデン様の為に道連れにしてでも―――と自分を奮起させるまでもなく、彼女の脳は『エデン様より預かった』信徒達への暴虐に臓腑(はらわた)が煮えくり返っていた。

 無表情、抑揚のない振る舞いから漏れ出る鋭い殺意を、しかし悪堕姫は鼻で嗤う。

 

「答えの分かっている問いにわざわざ返事が必要ですか?」

 

 感情の話をすれば、神竜族が魔族の殲滅を掲げ実際に魔竜族の民を虐殺してきた過去の所業がある以上、神竜族がいざ侵略される側になったら一般市民には手を出さないでなどという戯言を通す理由がどこにもない。

 実利の話をすれば、ベヒモスのみで地中からこの場に突撃を掛けたティア軍に補給線などある訳もない以上、物資などは『現地調達』も含めて有限だ。貴重な糧食を使ってまで敵国教育を受けてこちらに従順になる見込みのない住民を食わせるぐらいなら、皆殺しにして後顧の憂いを断った方が手っ取り早い。

 

 そういった理屈はヴィーヴルとて思い至っている。納得するかは全くの別問題なだけで。

 

「ティア=エリーシス。かつての同胞を無慈悲に虐げることに何の躊躇いもないと―――本当に心まで魔神に売り渡したのですか、エリーシス公の娘ともあろう者が」

 

「………ふっ。くくくっ、あはははははっ!!面白い冗談ねヴィーヴル。エリーシスの民もアルトンの民も無慈悲に殺戮したガシェルの手先が、神竜族を殺す是非を語るなんて。しかもそこに母様の名まで出して。

――――まさか楽に死ねると思ってないわよね?」

「――っ!!?」

 

 義憤と叱責を籠めて発した言葉は、それ以上の怨嗟と憤激に呑まれて勢いを失った。

 かつてのピアサ並みに蒼竜姫の地雷を踏み抜いた宗教狂いに三流の道化を見るような視線を向けながら、ザハークとレヴィアはそれぞれの武器を構える。

 

「ここまでシルヴィアにお膳立てされたんだ。あとは片嵌めるだけってな」

「これで仕損じたらいい笑い者よ。昔の借り、きっちり返させてもらうわ」

 

「魔神と魔竜王の娘……勘違いしているようですがここは貴方達の死地です。エデン様の大地を穢す不届き者共、ヴィーヴル=ニヴェルネの名の下に抹殺します」

 

 ヴィーヴルが青い宝玉を掲げると、揺蕩う水が帯を引いて無尽蔵に湧き出でる。薄青い魔力光に引かれて自在に形を変える水流は、賢竜姫の意に従い瀑布と化して魔神達に牙を剥いた―――。

 

 





『何の感慨もなく邪魔なそれを蹴飛ばした』
→おや、純真なケモミミ娘のようすが…?

『数百年の間戦場になる想定すらしていなかった首都』
→アルトンが前線で耐えててくれたから平和だったのに……。
 この作品では言わずもがなだし、原作でも負けて降伏しようとしたピアサが暗殺されかけた辺り、忠誠が報われないアルトン公国である。

「まさか楽に死ねると思ってないわよね?」
→四天将はティア姫の逆鱗を撫で回すのが大好き。

「これで仕損じたらいい笑い者よ」
→何故にキミはそんなにフラグを立てたがるのん……?


 次回、ヴィーヴルを心配して駆け寄るピアサなんてこの作品ではあり得ないので、例のアレ(彼女はヴィーヴルではない)はネタとして成立するレヴィア殿下に受けてもらうことになりました(ネタバレ)。ドМだから大丈夫だいじょーぶ。

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