ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

41 / 84

 原作よりも悪に振り切れたティア軍がニヴェルネ滅茶苦茶にするので、好感度高くて機嫌の良いメルジーニちゃん。




喜悦の蛮竜姫

 

「今頃、あの街はどんな地獄絵図になってるんだかねえ……」

 

 万年雪に閉ざされた山道。しんしんと静寂だけが堆積した美しい白の世界に滲みを付けるように、異形の行進が蠢いていた。

 

 薄青く光る水で構成された不格好な泥人形。遠目に見る分には愛嬌があると感じる者も居るかも知れない。だが疑似生命特有の不自然な体の動かし方は軟体と合わせて生理的嫌悪を煽るし、比較対象がない分判りづらかったその巨躯は足元からだと見上げるのが不可能な程でひたすら圧倒される。

 

 造魔ルード・ショゴス。材料などその辺の雪を溶かせば幾らでも調達できる魔の巨人は、進軍と共に一体また一体と数を増やして行き、遂には数十の群れとなっていた。

 

 その中心の一体の肩に少女が足を投げ出して座っている。

 厳かな祈禱服を胸元まではだけるほどに着崩して、ヴェールを脱ぎ捨てて薄紫の長い髪を乱れるままに流していた。

 

 この国を守る四天将ヴィーヴル……その魂が必死に民を守らなければと訴えるのを押さえつけて、本来の体の持ち主であるメルジーニは魔神解放戦線がニヴェルネを蹂躙する様をにやにやと笑いながら空想する。

 

「すっこんでろヴィーヴル。てめえは負けたんだよ、そんで今はオレの手番だ。

………つーかオレがティア達に混ざってニヴェルネのゴミ共を掃除するのに手貸してないだけ感謝すべきだろ、お前は」

 

 拍手喝采を送りたい気分だ。寧ろ自分も率先して協力したいとすら思っている。かつて自分の父と仲間を酷使し死に追いやった神竜族共の末裔が、胴を串刺され頭を射貫かれ何より魔力を全て抜き取られて灰と散る様は痛快極まりなく、そこに首の骨をへし折って行く己の姿がないのだけが残念なほど。

 

 だがそれをすれば今向かっている先―――メルジーニにとって最大の復讐対象であるソーマ鉱山を潰すという目的が果たせなくなる。

 

 この国を豊かにしたい一心で父が見つけた鉱山で、当時の公主は魔族やエデンを信じない異端を奴隷として使い捨てにし、それを救おうとした父はメルジーニ共々同じ奴隷に落とされた。奴隷仲間達と共に脱走して結成した盗賊団は、鉱山によって得た富で強化されたニヴェルネ兵に壊滅させられた。彼らの仇、手向け、弔い、そして己自身の怒りと恨みとけじめの為に、鉱山だけは潰さなければならない。

 

 だが不毛の氷土であるニヴェルネを国として成り立たせているこの資源の宝庫はティア軍にとっても押さえたい場所だろう。一度彼女達に同調して仲間になってから鉱山を潰そうとするのは裏切りになってしまう。

 

 

「オレは仲間は裏切らねえ。都合が悪くなれば平気で同族を使い捨てるエデン信者とは違うんだよ」

 

 

 それは自分はあんな奴らとは違うという意地であり、誇りでもあった。

 だから残念ながら目的を果たすまでは魔神解放戦線はメルジーニにとっても敵。

 

 とはいっても敵の本丸に列車一つで突入した馬鹿共だが、ヴィーヴルを嵌めるようなあの軍師が優先順位を間違える筈もない。首都が陥落し公主が逐電しているとはいえ、敵国のど真ん中で略奪してもいずれ尽きる物資という問題を抱えている彼女らが行うべきは、連携が寸断された各拠点の電撃制圧だ。鉱山はその後に押さえるくらいの優先度に低下しているだろう。

 ニヴェルネの暗部であるメルジーニの事情を魔竜族側が知っている筈もない以上尚更。

 

 その間に自分はこの水の巨人達を鉱山に連れて行って自壊させるだけでいい。湖程の水量が鉱脈を埋め尽くし、年中氷点下を超えない厳寒が掘り起こすこと叶わぬ氷河に変えるだろう。忌まわしき記憶を沈める墓標として、ニヴェルネを繁栄させた『エデンの恵み』はその歴史に幕を閉じる。

 

―――やめて、そんなことをすればこの国の民は…!

 

「貧困に喘いで凍え死ねばいいじゃねえか。オレだって一度は経験したことだぜ?」

 

 霊脈からの魔力の過剰供給が魂にまで傷を付けたのか、弱弱しくも必死に訴える内側の声を賊竜姫は一蹴する。

 

 盗賊団最後の抵抗として奪った宝玉の竜装に宿っていた、大昔の殉教者の少女霊。直接の仇という訳でもなく、安置されていた場所から連れ出したという負い目もあり、肉体の主導権を奪われたとはいえそのおかげで逃亡中の雪山で野垂れ死ぬことを免れた恩もある。

 

 だが『四天将の竜装の継承者』としてニヴェルネ公主となり、あろうことかメルジーニの体を使って憎いこの国を発展させることに尽力したのは話が別だ。長い時間をかけて怒りを鎮めるよう説得し続けてきたのだって彼女なりの誠意なのだろうが、それだって前提を間違えている。

 

 

「『やめて』?―――なあヴィーヴル。お前オレがやめろっつったこと、一度でも聞いたことあるのかよ」

 

 

 国を富ませる為鉱山の開発を更に推進した。エデンの教えに殉じることを当然とするヴィーヴルは、『薄汚い魔族や異端者』を使い捨て続けることを躊躇わなかった。親や仲間の仇であるニヴェルネ重鎮達は、彼女の治世の下報いを受けることもなく天寿を全うした。―――頑迷なヴィーヴルは一方的に恨みや怒りを鎮めろと言うだけで、何一つメルジーニに譲歩したことはなかった。

 

 竜の怒りが貢物もなしに収まるなど虫のいい話にも程がある。何より『何の代償もなく時間が経てば妥協する程度の価値しかないのだろう、お前が奪われたものは』と言っているも同然の無自覚な傲慢さが、メルジーニの復讐心を削ぐどころか一層確かなものにしていたことに、未だに気付いていないのだろう。いくら頭が良くても、結局はエデンを盲信する者なのだから。

 

「お前がこの体を使ってニヴェルネを発展させるのを散々見させられて来たんだ。

 今度はオレがこの体を使ってニヴェルネを破滅させるのをばっちり見ていくんだな」

 

 なおも食い下がる声をもはやノイズとして弾き、ルード・ショゴスを増やしながら進軍を続けるメルジーニ。

 あと数日もすれば目標地点に到達し本懐を達するだろう―――そんな時だった。上空から一つの影が近づいてきたのは。

 

「ぷぎぃ……?」

「あん?届け物か?」

 

 丸々と膨らんだ黄緑の球体。感じられる魔力(マナ)も殆どなく、人畜無害そうな抜けた顔立ちをしているが、一応なんとなく竜ではあった。

 蝙蝠といい勝負の翼しか持たない微妙に竜と呼ぶのも憚られるマスコットに警戒するのも馬鹿馬鹿しかったため、メルジーニはそいつが吊るしている結晶を掴んで受け取る。

 

 掌大の結晶を弄んでいると、すぐに声がそこから聞こえ始めた。

 

 

『二度目まして、でいいんでしょうか。どうもメルジーニさん、デルピュネ宰相兼魔神解放戦線総参謀長シルヴィア=ハマルティアです♪』

「うお!?、っとっと……!あっぶね、落としかけた。しかしこれ、一方通行っぽいな」

 

 

 羞恥の一幕を見られていないことに安堵するメルジーニは、その声がヴィーヴルが戦っているところを内側で聴いていたあの少女軍師の声だと記憶を照らし合わせる。同時に嫌という程知っているヴィーヴルの知謀を手玉に取ったこの女が何を言い出すのか、興味と好奇心が湧いた。

 

 

『ちなみに貴女のことはヴィーヴルの側近さん達から聞き出しました。結構簡単に口を割りましたよ?

 二人並べて一人は普通に拷問、もう一人はサキュバスで篭絡ってやっただけですけど……切って剥いで刻んで炙って刺して捻ってされてる最中に、隣できったないトロ顔で「決して魔族には屈しないんほぉ♡」とか叫ばれると確かに堪えるの馬鹿馬鹿しくなりますよねー?』

 

「~~~~っ!?ぷくくくっ、げほ、げほっ………苦し、開幕笑わせてきやがってこいつ汚ねえ……っ!」

 

 部下の惨状に愕然とするヴィーヴルの気配も含めて噎せ返るほど噴き出して爆笑するメルジーニ。必死に息を整えてるのを知ってか知らずか、シルヴィアの声は軍事機密も漏れなく聞き出しそれにより各拠点を制圧して行っていることを説明していく。自軍の動向を漏らしているようだが、先ほど辿り着いたようにちょっと考えれば思い至る内容のため問題とは思っていないだろう。フェイクが混ざっている可能性もあるし。

 

 そして落ち着いた頃を見計らうかのように、シルヴィアは『本題』に入った。

 

『ところでメルジーニさんはソーマ鉱山を潰す為に今動いていると推察します』

「ま、分かるか」

『私達としては鉱山が無いなら無いでなんとでもなるんですが、私達が動いてる裏で戦果を取られるみたいなのがもやっとするというのが正直なところです』

 

 そりゃそうだな、と蛮竜姫は軽く笑う。戦は抜け駆け不意打ちなんでもありとはいえ、矢面に立っている間に第三者が利益を掠めとるような状況が不快にならない訳がない。

 

『メルジーニさんとしても、堂々と障害を自分の手でぶっ飛ばして目的を達成した方がよりすっきりするのではないですか?』

「ふっ……お上手じゃねえか」

 

 復讐は究極的に自分がすっきりするために行うものだ。仲間達へのけじめなどもあるが、義務感で行っているわけでは断じてない。そこを奇麗に突いた上で自分の関心を惹いたシルヴィアが次に何を言い出すのか、メルジーニにはなんとなく予想が着いていた。

 

 

『という訳でメルジーニさんに決闘を申し込みます♡ちょうどうちの魔神様が前回貴女に鮮やかに逃げられたことに煮えてるので、ザハークさんとの一対一で!』

 

 

『メルジーニさんが勝てば私達は鉱山の封印に全面協力。というかソーマ鉱山の無いニヴェルネとかごはんとルー抜きのカレーライスみたいなものなので、国ごとまとめて差し上げます。こちらとしてはメスキア進撃の邪魔にならないなら更地にして放置でも全然いいので、全国民の生殺与奪の権、握っちゃってください♡まあ魔力持ちの女性は苗床としてくれたらなお嬉しいですけど』

「ほォ……!!」

 

 この時点でメルジーニは話を受ける気になっていた。過去の清算としてせめて鉱山を潰すのが復讐の目標と思っていたが、過去の自分達を破滅させたニヴェルネという国そのものに自ら報復できるチャンスがあるなら逃す手はない。エデンの教えを信仰する者に取って最大級の恥辱であるだろう魔神の眷属の苗床にニヴェルネの女達を落とすのも、その恋人や家族を絶望させて殺すのも、寧ろ進んで自分の手でやりたいと思う。

 

 その上で―――悪に堕ちた魔天の氷姫は、氷の復讐姫の予想の斜め上を飛んでみせる。

 

 

『ザハークさんが勝ったら、ソーマ鉱山は営業続行して神竜族だけを今後そこで働かせるとかどうでしょう。女は苗床、男と爺婆は全て奴隷。

―――今後ニヴェルネでは、神竜族が魔竜族よりも人間よりも低劣な下等生物扱いになります♡』

 

 

「……………。ああ。最っ高にお上手だよ、シルヴィア=ハマルティア―――!!!」

 

 悪辣さと外道さにおいても、メルジーニはこの少女が己の上を行っていることを認めた。ニヴェルネの民を、かつて自分達が受けた仕打ちと同じかそれ以下にまで落とす。その誘惑は、絶対を誓っていた鉱山潰しの決意が揺らぐほどの甘美な果実だ。この勝負、勝っても負けても損はない―――そう自分が考えることも、掌の上なのだろうが。

 

『決闘を受けてくださる場合はその子に伝えてください。日時と場所は―――』

 

「受けてやるよ。魔神ザハークとのサシの勝負、楽しみにしてるって伝えとけ」

「ぷぎっ♪」

「おー、気つけて帰れよー」

 

 おつかいの達成に浮かれたのかぱたぱたしながら首都の方面に戻っていくティア軍の密使。途中で飛竜(ワイバーン)に拾われて高速飛翔に楽し気に鳴いていた。

 和むというか気の抜ける一幕を手を振って見送りながら、更に必死になった内なる声に上機嫌に煽りを返す蛮竜姫。

 

 

「受けた仕打ちを許せ、恨みや怒りを忘れろってお前は言ったよなヴィーヴル。

――――見せてもらおうじゃねーか、神竜族サマのお手本ってやつをよォ?」

 

 





『ニヴェルネの暗部であるメルジーニの事情を魔竜族側が知っている筈もない』
→ORS掲示板とかいう理不尽情報網なんざ想定外ですし。

『頑迷なヴィーヴルは一方的に恨みや怒りを鎮めろと言うだけで、何一つメルジーニに譲歩したことはなかった』
→まあ邪推入ってることは否定しないけど、原作にしたってメルジーニの過去はヴィーヴル視点のヴィーヴルの言い分しかほぼ出てないからなぁ。あれでもまだニヴェルネ贔屓のフィルター掛かってる可能性すらあるし、宗教狂いの最先鋒なヴィーヴルの信条とか頭の固さ考えると、公主としてメルジーニの為に鉱山奴隷の待遇改善とかしたかっていうとぶっちゃけ想像できない……。

『微妙に竜と呼ぶのも憚られるマスコット』
→最初期から竜族雇用タブに一匹だけいる謎の存在感。ただし出撃メンバーに使われることはほぼない悲哀。

『隣できったないトロ顔で「決して魔族に屈しないんほぉ♡」とか叫ばれると確かに耐えるの馬鹿馬鹿しくなりますよねー?』
→本日も凄惨姫はフルスロットル。

『うちの魔神様が前回貴女に鮮やかに逃げられたことに煮えてるので』
→なお余計なことを言った罰でこの後ザハークに気絶するまでぐちゅられた模様。当然ながらご褒美です。

『今後ニヴェルネでは、神竜族が魔竜族よりも人間よりも低劣な下等生物扱いになります♡』
→嫁竜・・・鼻フック・・・触手スーツ・・・うっ頭が

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。