ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 ザハークさんの主人公っぽいところもたまには書かないとね。
 こいつ超かっこいいチンピラだからなー。




決闘の蛮竜姫

 

 吐く息が白く煙り、曇天の空に消えていく。

 

 地熱が強いのか針葉樹の生えた一帯。はらはらと細雪の舞い散る中、一角の竜は掌で融けるそれをただ感じていた。

 淡い青と紫の少女が白化粧の森にぽつんと佇む幻想的な情景だったが、紅血の瞳は無明の闇しか映さない。

 

 魔力(マナ)で薄皮一枚を強靭に覆う神竜族の秘儀、竜殻。それがあればこそはだけた祈禱服一枚で雪山の中何事もないかのように過ごせているが、かつて彼女は国に追い詰められ何十日も雪中を彷徨ったせいで、魔力欠乏とストレスにより視力と翼の飛行能力を失っている。

 彼女の見た最後の光景はただただ冷たい白の闇。家族も仲間も全て失い、虚しさと苦しさの中沈んでいった暗い記憶。

 

 視力の代わりに魔力感知を発達させたって、あの“白”はメルジーニの心にずっと焼き付いたままだ。だから誓った、復讐を。全ての始まりであり、この国を豊かにさせるソーマ鉱山だけは絶対に潰すと。

 

――――だったら何故、決闘など受けたのだろうか?

 

 勝っても負けても魅力的な条件を提示されたというのはある。だが目的の達成だけ考えるならそんなもの無視して鉱山に向かえばいい。向こうが騙し討ちしてくる可能性だってなくはないのだ。

 

 だがメルジーニは今こうしてあの少女軍師に指定された場所でじっと決闘の相手を待っている。まるで引き裂かれた恋人をいつまでも待ち続ける女のような健気さで。

 それとも待っているのは別の何かだったのか―――ぼんやりと考えても糸口すら掴めない中、現実での待ち人が現れた。

 

「よお、機嫌はどうだ?」

「まあまあってところか」

 

 唯我独尊を地で行く不敵な男の声。雪舞う空を裂いて悠然と羽ばたいてきた白銀に輝く巨大なドラゴンに胡坐をかいて乗っていたその父は、身軽に跳躍して卵として産んだ母親と共に雪原に着地する。

 

「ふーん。一対一って聞いてたが、ティアも来たのか?」

「私は見届け役よ。たとえザハークが決着をつけるとしても、この“戦争”は私が始めたものだから」

「はっ。ちょうどいいや、あんたにも訊きたいことがあったんだ」

「何かしら?」

 

 騙し討ちをしようとする可能性はメルジーニ側にもある。さほど遠くない位置にルード・ショゴスの群れを待機させている以上当然の警戒に硬い声を上げる青の竜姫と裏腹に、へらへらと笑いながら蛮竜姫は問うた。

 

 

「あんたにとって、復讐ってなんだ?」

 

「呼吸よ」

 

 

 返答は即座だった。当然だろう―――復讐者は復讐を誓った時からそのことでずっと頭の中を満たしている。斯くあるべき定義など、ここまで戦ってきた彼女の中で固まっていない筈がない。

 

「あの男がこの世界に生きて存在している、その事実が許せない。私が吐いた息を、巡り巡ってアレが吸うかも知れない。私が今こうして吸っている空気は、いつかアレが吐き出した息なのかも知れない。

――――気持ち悪くて仕方ないじゃない。だから殺すの、私が健康に生きるために」

 

「ああ、そうだな……!」

 

 戦慄が走るほどの憎悪を造作もなくまき散らす青の復讐姫に、同色の衣を纏う盗賊竜は凄烈に哂った。

 感謝すら覚えている。己がニヴェルネに復讐する絶好の機会をもたらし、そしてその障害として立ちはだかるのが己と同じ闇を抱えた相手であることに。

 

「おしゃべりはもういいか?俺はお前と()りに来たんだが?」

「ああ、悪い。ついでにさっきも嘘吐いちまった。

――――やろうぜ、魔神様よぉ。今のオレは、まあまあ最高にご機嫌だぜ!!」

 

 

 開始の合図はなかった。

 

 

 どちらが先に動いてどちらがそれに反応したのか、横で見ていたティアにすら判別できない程の全く同時に駆け出す両者。爆発したかのように立っていた場所の雪を跳ね上げ、互いに空を漂う粉雪を背景に相手へと迫る。

 

 繰り出したのは様子見手心一切抜きの鉄拳。比喩ではなく鉄板程度ならぶち抜くそれがぶつかり噛み合う。

 

 素手の拳同士が激突した。見た目からして体重も膂力もザハークの方が上、実際魔力(マナ)で強化しているとはいえ全く鍛練をしていなかったヴィーヴルのせいで肉体が弱っているメルジーニではどうしても追い付けない。

 それでも盲目の竜姫はしてやったりと云わんばかりににやりと笑い―――すぐにその笑みは激しく引き攣った。

 

「~~~ってぇ!?」

「へっ、ネタは割れてるぜ!」

 

 ヴィーヴルの『霧』を集約させたかのような、触れた相手から魔力を強力に吸奪する能力。僅かに触れただけでも明確に動きが衰えるし、十秒も掴んでいれば相手を再起不能にまで追い込める強力な効果となっている。だが状態変化を拒絶する暗黒物質(ダークマタ)には通じなかった。

 黒い炎でコーティングされた拳には魔力を吸い取る異能は働かず、メルジーニの右手にずきりとした痛みを与えるだけに終わる。

 

 レヴィア相手に一度見せた札。ヴィーヴルの思考を借りれば、それに対して性悪軍師(シルヴィア)が対抗策を考えていない筈がない。

 

「だがっ!」

「そうは、いくかよッ!!」

 

 しかしメルジーニも切り替えは早かった。暗黒物質(ダークマタ)はザハークの意のままに操れるとはいえ、常に全身を覆っている訳ではない。というかそんなことをすればザハーク自身が動けない。

 ならば少しでもザハークの意識から外れた場所、特に関節に触れれば―――というのを野生じみた嗅覚で察し懐に潜ろうとする。

 

 触れれば勝ち、そのルールでなら小柄な蛮竜姫はすばしっこさと小回りの良さで圧倒的有利だ。その踏んで更に前に踏み込んだメルジーニの体がふわりと浮き上がった。

 

「な……っ」

「そら、よっと!!」

 

 ザハークがやったのは、足を引っ掛けたと言葉にすればただそれだけ。だが人間など遥かに超えた身体能力で交錯した両者の間でそれをすれば、軽い少女の躰がすっぽ抜けたような舞い方をするのも無理はない。

 そして翼が機能していない者が迂闊に宙に浮けばどうなるか。力強く薙いでくる黒く染まった腕が迫るのを、避けもできずにただ見ているだけ。

 

「ぐあぁっ!!?」

 

 撥ね飛ばされた蛮竜姫が雪上を跳ねる。転がる勢いを利用してすぐさま立ち上がるが、魔神は追撃も掛けずにそれを見送った。

 

「てめ、“慣れて”るのか……!?」

「はん、無敵のチャンピオンとは俺様のことだぜ?」

 

 格闘自体はメルジーニが盗賊団時代から馴染んだ戦い方だが、ただでさえ大きなブランクがある。しかもずっとヴィーヴルが体を鈍らせてしまったせいで魔力(マナ)強化で騙し騙し再現するのがやっとなのだ。

 一方ザハークはホームであるデルピュネの首都に居る間は毎日のように挑戦者達と一対一を繰り返している。魔族領中から強者が集まるかの闘技場でチャンピオンに挑戦できるレベルの闘士だから、誰もが彼をもひやっとさせる何かを持っていた。毒も凶器も反則にならないルールで、迂闊に触れたら凍らされるレヴィアにも目にも止まらぬ速さで翻弄してくるピアサにも一度も負けずに殴り合いでぶちのめして犯してきたのがエトナの憧れの星(スーパースター)ザハークなのだ。

 

………だからこの一対一の決闘というのは実はザハークに大きな分がある訳である。そういうところ本当に性格の悪い軍師姫という話になるのだが。

 

「観客がティア以外人形ばっかってのは不満だが、ほら来いよ。

 まさかこの程度で終いってわけじゃねえだろ?」

「へっ。たりめーだ!!」

 

 その程度のことを卑怯という情けなさをメルジーニは持っていない。むしろ逆、前へ前へ果敢に突進する。ザハークの繰り出す鋭い拳打を身軽に掻い潜り組み技を仕掛けようとするが、雪上という足場の悪さをまるで感じられないフットワークで引き離される。そこに襲い掛かるリーチの長い蹴り。咄嗟のガードは間に合ったが、暗黒物質(ダークマタ)で硬化した足刀は腕の骨を軋ませる程。よろめく彼女に軽くも痛いフリッカージャブが二発飛んでくる。

 

 距離を置いて仕切り直せばわざわざ頭部にそれを喰らってダメージを蓄積することもなかっただろう。だがメルジーニは恐れることなく更に詰めていく。

 肉薄した中、肉体の反射のみで応酬される技術の比べ合い。腕を振るい、足を捌き、体勢を入れ替え、視線を読み合う、その全てが思考を介しては遅すぎるから。ほんの瞬きの内に濃密な鬩ぎ合いが圧縮されていて、一種の機能美とも言える凄みが今の両者からは漏れ出ていた。

 

「まるで踊っているようね」

 

 白銀竜と共に(はた)からみているティアが羨み嫉みを籠めながら呟いたが、当然魔神と蛮竜姫は互いに全神経を集中させていた。

 

 表情だけは、子供が遊ぶような無邪気な笑顔のままで。

 

(ああ、そうか。だからオレは………)

 

 掴めば必殺、だがその勝機はどこまでも遠い。相手の体はこんなにも近くにあるのに。それを捕まえる為に全力で動いているのは、もはや格闘というよりは―――鬼ごっこと同種の児戯に近いのかも知れなかった。その為に命と魂を注ぎ込む全身全霊の“お遊び”だと。

 

 楽しい。今この時が永遠に終わって欲しくないとすら思う。

 

 

 だってそうだろう―――親と友を取り上げられた悪ガキが、世界をその目で映すことすら出来なくなり、肉体の自由すら儘ならないまま憎い仇(ニヴェルネ)に奉仕させられる。

 鬱屈していない筈がない。溜飲が溜まっていない筈がない。

 

 

 鉱山潰しは仇への復讐だが、山に水をぶちまける程度のことで長年の澱みが晴れる訳がない。このイライラともやもやをぶつける相手が欲しかったから、メルジーニは決闘を受けたのだ。

 

 

 そして寂しかった。もうメルジーニの親しい相手などこの世のどこにも居やしない。新しく見つける自由すら存在しない。だから決して相容れない精神と知りながらヴィーヴルと決裂することすら出来なかった―――そうすれば本当に独りぼっちになって封印されて終わりになるから。

 

 

 そんな彼女に、ザハークは真正面からぶつかって(受け止めて)きてくれた。“遊んで”くれた。メルジーニが最も得意とする格闘戦に躊躇いなく堂々と付き合ってくれた。

 久しく体を全力で動かす熱とは別に、心がぽかぽかと暖かい。いつ以来だろう、“幸せ”というものを感じられたのは。

 

「ああ、悔しいなあ―――」

 

 その時間を終わらせたのは衰え切った体力の限界だった。僅かに綻んだ隙を逃してくれる筈もなく、眉間に闇の炎の爪が突き付けられる。この戦いの終着でみっともない悪足掻きなどしたくなかったから、倦怠感のままに体を脱力させる。

 

「なあザハーク、あんた触手召喚して操ることができたよな。遠征の時にファフネル拘束してたやつ。なんでそれ使わなかった?」

「あん?一対一の決闘つったからだろうが。それにいい女は屈服させて染め上げるのが俺の主義だ」

 

 触手を使えば魔力吸奪をもっと安全に攻略できた筈だった。だがそれをやらずに真正面からねじ伏せてこそ、メルジーニという女を屈服させられると思ったからだと好色な魔神は嘯く。

 

「オレ、いい女か?」

「残念だったな、魔神から逃げられると思うなよ?ぶち犯して最高に俺好みのメスに調教してやるから覚悟しやがれ」

「ザハーク、もうちょっとこう………」

 

「――――」

 

 それは口説き文句としてはあまりに最低だろう。事実第三者として聞いていたティアは呆れたように首を振っている。けれどそれを向けられた当のメルジーニにとってどうだろうか。

 

――――性格は粗野極まりない自覚がある。ヴィーヴルがロクに食事も運動もしないから体つきはガリガリだし肌の血色も悪い、何より盲目だからそれを自分で確認することも磨くことも出来ない。

 

 そんな女を欲しいと言ってくれるのか。自分の鬱憤に真正面から付き合ってくれた益荒男が。そんなの、そんなのは―――。

 

 

「わかったよ。オレの負けだザハーク。

………すきに、してください」

 

 

 幸せ過ぎる。あんなにも充実していた決闘の時間が終わったのに、先ほどまで以上に心がぽかぽかしている。何より寂しくない、自分を独りぼっちじゃなくしてくれるって言ってくれたのが嬉し過ぎるから。

 

 屈服の言葉を涙ながらに口にするメルジーニ。氷雪の国ニヴェルネの完全陥落を意味するこの時の涙の暖かさは、彼女だけが知っていた―――。

 

 





 メルジーニちゃん可愛い!!初えっちシーンのおどおどっぷりとかその後すごく幸せそうなのが至高。

 やはり氷ロリはVBにて最強……!!

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