ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~ 作:サッドライプ
なんか頭の良さげなやり取りが展開していますが、片っぽはノリでふわふわ適当ぶっこくことしか考えていません。
真面目に理解しようとすると馬鹿を見るだけなのでご注意ください。
『全知の巫女』エル=メディーナ。
御大層な二つ名は本来始祖龍を信仰するメスキアにおいてある意味禁忌と呼べる称号である。全てを知る、ということは知啓において崇拝対象を凌駕することを僭称していると糾弾されかねないからだ。
しかしながら、彼女がメスキアにおいて表向き批判されることはほとんどなかった。
魔竜族の軍事情報を手土産に神殿の諜報機関に入ったエルは、災害や飢饉の発生をまるで『未来を知っている』かのように次々言い当て、神竜族の統治に深く貢献してきた。
戦争においても他の密偵とは比較にならないほど正確な情報をもたらし、それでいて核心をはぐらかすような言動やふらっと所在が知れなくなる神出鬼没さが逆に神秘的と捉えられたのか、『始祖龍様から神託を受けた巫女に違いない』と彼女に熱狂的な信頼を向ける者も居る。儚げな真白の髪と肌、手折れそうな華奢な痩躯、怜悧さと愛らしさが同居した美貌、そういった外見も味方しているのだろう。
四天将ですら活動実態を把握していないにも関わらずメスキア国内に少なくない影響力を持つ謎の密偵。その『全知』のからくりは―――何のことはない、全て彼女にとっては体験済みの過去であるというだけだ。
幾千幾万も壊されては創られ、やり直しを強制される浮遊大陸の歴史にずっと付き合わされてきた。気まぐれに縷々変動する意思ある者達の営みはともかく、気候変動や瘴気の蓄積による骸獣の発生などといった自然現象はそう時期がぶれることはないし、実力ある者達が作り出す世界情勢も介入がない限りは大体同じ経緯を辿る。飽きる程に見てきたそれらを『予言』として的中させることに労力も何もある訳がない。
全ては何の新鮮味も無い既知。そうだった筈なのに。
ティア軍のメスキア進撃をフォローする為に、彼女らを学術の国ディアボロスの跡地を調査するように仕向け。この国が滅ぼされた直接の原因である、かつて人間を神竜族に変えた薬の効果を目の前で実演させると同時に、ティアと因縁浅からぬ人間の諜報員であるイルダーナフを連れて来て憎悪の火を煽る。自分はわざとザハークに負けて凌辱され、いつも四天将に行われている魂の捕食を逆手にとって意味深な『最初の世界』の映像を見せてその間に離脱する。このフローは確立以来の『いつも通り』。
しかしそこに居る面々に目新しい存在が混ざっていた。
―――代わりに炎龍の四天将が脱落しているが、それはどうでもいい。アスタもピアサもヴィーヴルも言動がなんだかおかしなことになっていたが、それもおそらく彼女の影響だろうから追求は後回しだ。
廃墟探索の為に散開し単独行動を始めたのを見計らい、エルは再び問題の彼女の下に突撃する。ちりちりと胸を焦がすような不思議な高揚を覚えながら。
果たして気配もなく唐突に至近の間合いに入られた癒術師は、しかし予想していたように落ち着き払って応えた。殺気立つ蒼の近衛を手で制止しながら。
「シルヴィア=ハマルティア。あなた何なんです?」
「何なんですと言われても。私は私ですけど」
――――かつて見たこともない程加速しているティア軍の快進撃。その立役者たる軍師の少女は、これまでエルが体験してきた幾百の歴史の中で一度も存在を確認していない。
いや、実験と情報収集を兼ねてティア軍に加入して直接手を貸してみた世界もあったから、かつてエリーシスで迷子になって国境まで送り出された魔族の子供が居たのはティア自身から聞いたことがある。それを「魔族を差別しない母の美談」として語っていたあたり、魔竜族領という荒野に子供を放逐したのも順当に考えてその後すぐに野垂れ死んだだろうことも、ティアの与り知らぬところの話だったと思われるが。
だがこの世界でその子供は、ティアと面識が生まれ、ヴェリトールに拾われ、アスタと意気投合して魔導列車ベヒモスに乗った。その全てが「よりによって」と枕に付けていいレベルの数奇な運命だ。
それだけなら試行回数を重ねればそういうこともあるで済む。しかし。
「これまでの貴女の軍略を確認させてもらいました。特にアルトンへの謀略、メスキア合同遠征軍撃退の采配に、ニヴェルネ強襲の手際。いやーエルちゃん脱帽です。実に効率的かつ大胆不敵。あまりにも的確、“計算された無駄のなさ”。すばらしい!」
緒戦の難関アルトンの組織構造。ファフネルの尋常でない剛力と耐久力。ヴィーヴルの機知が及ぶ範囲と術者としての技量。数多の世界でティア軍を苦しめ続けてきたそれらの限界を事前に把握して作戦を練った―――エルにはそうとしか思えなかった。
「知ってたんですよね?四天将やファフネルの能力と性格」
「おじいさん……ヴェリトール将軍の養女で以前はバシュトラ軍に所属していたもので。彼女達の情報に触れる機会があったというだけです」
「ほうほう?まさかあのヴェリトールから教わったと?」
「どうでしょう?おじいさん無口ですから」
「――――またまた。ノータイムでもっともらしい言い訳が出るの、嘘だって言ってるようなものじゃないですか。わざとやってますよね?」
「うふふ♡」
(あーやっぱりやりづらいパターンの相手ですね、この子……)
道化た物言いのエルに対し、艶やかな笑顔のまましれっと嘘を吐くシルヴィア。
この程度はジャブですらなくただの挨拶だろう、如何に事前知識があるとはいえ竜の賢者ヴィーヴルを嵌めるような策士はやはり一筋縄ではいかない相手と見えた。
ただし“挨拶”をするということは、即ち会話をする気はあるということだ。『とりあえずぶちのめす、話はそれからだ』の魔神殿とは違って。
背に氷の翼を展開した護衛メイドを一歩下がらせたのも含め、言外に仄めかされたメッセージを受け取って案外すんなり話を聞けるかもと期待しながら、純白の密偵は問いを掘り下げる。
「警戒しなくても大丈夫です、フェアに行きましょう。
貴女のことを教えてくれたら、エルちゃんもシルヴィアさんの質問に答えますよ?どうですか?何かないですか?」
「………くすっ」
乗ってくれれば、質問によっては相手の知識量と思考傾向のヒントが探れる。
取引に見えてシルヴィアの正体を探りたいというエルの目的からすれば損失はゼロだという思惑はやはり見透かされているだろう。
その上で不快に感じた様子もなく会話を続ける策謀姫。
「どちらかというと、エルさんには教えて欲しいことより、して欲しいことがあるんですよねえ。でもそれだと後払いの報酬になってしまいますし」
「ほほう?ですがこのエルちゃんにお任せあれ。内容によりますが、精一杯前向きに検討してみせますとも!」
「善処してくださいね♪大丈夫です、そんな難しい話じゃありません。
ちょっとした風説を私達の進軍に合わせてメスキア国内に流して欲しいだけです」
「―――――」
白々しいやり取りの後に提示された“お願い”とその狙いを吟味する。
(なるほどなるほど?言うだけならタダというやつですねえ。
状況を加速させるっていうエルちゃんの目的にも合致してるのは、はてさて狙ってのことなのか)
メスキアの諜報員であるエルの協力を得られればより高い効果を期待できるが、なくても支障は出ない。狙いが分かっていれば対処できる類の謀略ではないから、なんならガシェル達に漏らされても構わない。
「ようござんしょ。このエル=メディーナの溢れる知的好奇心を満たしてくれるなら、貴女の依頼を誠心誠意履行することをお約束いたしましょう!」
まさしくどう転んでも損失はゼロという意趣返しのような提案だったが、新鮮味のある駆け引きに小気味よさを覚えたエルは二つ返事で対価を了承する。風説の流し方に気を付ければ、メスキアでの立場に傷を付けるどころか諜報員として当然の情報収集と提供をやっているだけと主張できる内容なので、自分にとっても損失はゼロだという配慮が見えたのも大きかった。
そうやって自然に好き勝手ぺら回せる状況に会話を誘導した凄惨姫は。
「まずは先ほどの問いの答えから。
―――ええ、知ってますよ。『外』の視点というものを私も持ち合わせています」
※嘘は言ってない、嘘は。
これ以降も頻出する但し書きだが、基本的に詭弁も屁理屈も大部分を事実で構成した方が色々と楽なのだ。嘘を言う為の演技という労力、そして前提条件の矛盾を確認・修正する手間が省けるから。
曖昧な言い方で相手の勘違いを誘導しないとも言っていないというだけで。
ついでに言えば最初のやり取りで『こいつは嘘も言う相手だ』と相手に認識させたのはこの為の伏線でもある。どうせ短時間で相手を絶対的に信頼させることなどできないのだ、なら疑わせるだけ疑わせて全ての発言を検証させればいい。
事実である以上矛盾は出ない。相手の思考のリソースを浪費させられる。その果てに疲弊した主観で出した結論は、しかし『自分で考え抜いた結論』であるが故に堅固なものになる。
―――『矛盾がない』ことと『結論が正しい』ことは必ずしもイコールではないのを見落として。
不可能なものを全て消去すれば真実が残る?ヤク中の妄言を真に受けるな、という話である。
「実際珍しくはあっても『あり得ない』ものではないでしょう?
黒鎧将ヴェリトール=バシュトラ。魔竜王ヴァジェト=ネフティス。大神官ガシェル=ベリングス。少なくともこの三者は多かれ少なかれ世界の在り様について理解していると見ています。ある程度の知識と知恵と、思考の柔軟性さえあれば辿り着けるものですから」
「………ヴェリトールとヴァジェトはともかく、ガシェルもですか?」
「一応神竜族の密偵として来てるんだから呼び捨てやめましょうよ…。
あなたがどれだけ彼のことを見くびっているのかは何となく理解しましたけど、仮にもこの数百年間権力の座から一度も転げ落ちることなくメスキア体制の頂点に立ち続けている怪物ですよ?ついでに言えば、貴女の見て来た世界で一度でも『ティア姫が絡まないところで』しくじって消えた彼を見たことがありますか?」
「………それは、言われてみれば。でもそれこそそんな素振り一度でも感じたことないですし」
「警戒されているんでしょうね。―――神竜族という上位者による管理世界で、人間を奴隷として飼い、魔族を共通の敵として排斥する。
そんな独裁政治を
要素をばら撒く。事実ではあるが、断片的なという形容詞が付くことを悟られないように。
「ぐっ……でもでも、考え過ぎでは?世界の在り方を知覚しているなら、何かしらリアクションを起こすでしょう。流石に殆どの世界でメスキアに身を寄せてるのに、そういう動きまで見落とす程エルちゃんおっちょこちょいじゃないですよ?」
「だったら起こさなかったんじゃないでしょうか?独裁であるが故に彼の主義信条は政治を見れば透けて見えます―――自分が徹底的に管理する箱庭以外はどうでもいい、どうなってもいいと。
それこそこの世が胡蝶之夢でしかないとしても、自分が
「…………」
わざとらしく肩を竦める凄惨姫と、にやけた笑みを引き攣らせて愕然とする『全知の巫女』。実際は反則的なところから得た知識に理屈を捏ねて説得力を持たせただけだが、まあそれを並行世界旅行者のようなものであるエルに批難する資格がないのはどこか皮肉めいている。
正体が割れてることに一万年以上気付いてなかった『全知の巫女』さんねえ今どんな気持ち?と煽るつもりは…ない訳ではないが、狙いとしては二つ。
凄惨姫の知る『望ましくない展開』を防ぐのにこの道化を利用できればいいなというあわよくばの保険。そしてもう一つが、彼女の固定観念を砕いて思考を不安定にさせること。
一度思い込みが崩れた直後に吹き込まれた考えが新たな固定観念と化すのは、存外に珍しいことではない。思考というものはそれなりに不自由なのだ。
「まあティア軍がメスキアを攻略すれば自動的にそこで毎回死ぬ男を警戒しろ、というのも難しい話ですよね」
「……ま、待ってください。あなた本当にどこまで知ってるんです?『外』の視点というのだって、なんで―――」
「さあ?」
「―――、え?」
慰めつつもついでに先ほどから繰り返し撒いていた餌にやっと食いついたエルをすかして受け流す。
一度クールダウンして―――自分では冷静になったつもりの状態で答えを見つけて欲しいから。
(そうじゃないと後で本当に冷静になった時に、流されてたと気づいてしまうかも知れないじゃないですか♡)
物事には手順がある。まくし立ててぶっ込み続ければいいというものではないのだ。
とはいえ
事前に温められたネタをいよいよ開陳する為に―――上品に掌で隠した口元。上唇を舐めて湿らせたいかにもな悪堕ちヒロインは、自分の百倍以上の年月を生きているであろう『神の眷属』相手に毒を吹き込み始めるのだった。
前振りだけで一話分の文字数になってしまったので分割。
こいつらめんどくせえ()
『炎龍の四天将が脱落しているが、それはどうでもいい』
→いや、国を征服されても寝返ることを良しとせず結果ただの苗床になったりそもそも戦死してる四天将はループの中でそれなりに居るだろうから、エルちゃんにとって深く気にする話じゃないってだけです。他意はありません。ないってば。
『自然に好き勝手ぺら回せる状況に会話を誘導した凄惨姫』
→何の対価もなくいきなり情報をぺらぺらしても怪しまれるだけだからね、相手側から引き出そうと動いてるから駆け引きの結果交換条件で仕方ないなあ的な体で、ね。
『正体が割れてることに一万年以上気付いてなかった『全知の巫女』さんねえ今どんな気持ち?』
→実際原作カオスルートのエルちゃんどんな気持ちだったんだろうね(愉悦
『凄惨姫の知る『望ましくない展開』』
→ガシェル観音。VB歴代ラスボスでもインパクト最上級というか、まああんなんリアルで見たくないけども。
『自分では冷静になったつもりの状態で答えを見つけて欲しい』
→凄惨姫の台詞に疑問形・仮定形が多いのはわざとです。上手に騙したいなら程々に煽りつつヒントという名の断片的な事実(本当に事実かは責任持たない)だけ撒いて相手に考えさせ、都合のいい結論を誘導しましょう。これが現代知識チート(詐欺師の手口)by幼女
※よいこはまねしないでください