ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 やっぱりよりによって主人公が竜姫じゃないけどそれはそれ。




再戦の竜姫達

 

(どいつもこいつも不甲斐ない。

 ああ忌々しい、遂にエデン様の御座する本国までも下賤な魔族共が足を踏み入れようなど……!)

 

 ティア軍の侵攻の手が迫りくることを察知し、国境の聖門への守備隊配置を指揮しながら大将軍ファフネルは苛立ちを嚙み殺す。

 

 遥か臨むのはかつての四公国から合流して聖都アマルナへと続く偉大な街道。以前は聖地への巡礼者が絶えることはなかったが、その時代は四公国の滅亡と共に消え失せてしまった。

 厳密に言うのであればクシナダとニヴェルネはデルピュネに降伏したというだけで国家としては残っているのだが、国土奪還後そこに居る民達を全て殺すことは彼女の中で確定事項なので同じことだ。

 

 魔神の仔を孕まされた女達などエデン様の治める世界に棲んでいると考えるだけで嫌悪感を覚えるし、それを防ぐどころか奴隷となって魔竜族の機械文明の再興に尽力させられている男達もゴミ屑以下だ。何故死ぬまで魔族に反抗しないのか。それが出来ないなら何故潔く死なないで惨めな生を繋ぐのか。

 始祖龍の恵み溢れる大地を血で穢すのは悲しいが、裏切り者のティア=エリーシスの軍勢を抹消した暁には、忌まわしき惰弱ども一切を滅した上で本国から信仰を貫く気概を持った者達を選りすぐり改めて入植させなければならないだろう。

 

 そうまでしなければこの怒りは収まらない―――そう自覚している竜将軍は、だからこそ感情に流されることなく淡々と防衛準備を整えていた。

 この聖門は絶対死守する。エデン様の御前に薄汚い魔神や魔族、裏切者達の姿を見せることすら許されない。

 

「ファフネル様。兵長イルダーナフ以下諜報部隊H22、大神官ガシェル様の指示によりこれより将軍の命令下に入ります」

「ご苦労様です。緒戦で出番はないと思いますが、あなたは遊撃として自由に判断して構いません。

 ティア=エリーシスが前線に出て来るタイミングが最も有効でしょう。“ソレ”、使えるんですよね?」

「はっ。………問題なく。ただし状況に応じて適宜指示が必要な為、必ず私が同行していなければなりません」

「結構。戦闘開始まで休息とします。使用する兵舎は三級区画で責任者と交渉しなさい」

「了解いたしました」

 

 そもそも種族として脆弱で影働きにしか使えない大神官子飼いの人間部隊、正確には彼らに預けられたモノ。小汚い恰好―――そもそも身分制度により上等な衣服や鎧を纏うこと自体許されていない―――を見ない振りをしながらもそんな連中の“助力”を受け容れるのだって、敵にこの防衛線を越えさせないことが最優先事項だからだ。

 えぐい手段を使うものだと思うし、己の武にプライドを持つ者としては全く好ましいとは思わない。下手な者を実行部隊には出来ないから、如何様にでも処せる者達を使っているというのもいまいち信用がおけない。

 

 が、常道ならざる手段を戦が始まる前から、それも専門外の軍事に口を挟んでまで捩じ込んで来る程度にはあの大神官も本気という証拠だ。それだけ二国を立て続けに陥落させたティア軍を警戒しているのだろう。

 或いは、不愉快なことだが一度合同遠征の際に負傷離脱したファフネルだけをあてにするのは危険と考えているのか。そもそも最初にティアを取り逃がしたのは誰なのか都合よく忘れているようだ。

 

「まあ腐っても元『最強』。ティア=エリーシスの首を獲るのにこれ以上の適任はないということかもしれません。………哀れなものですね」

 

 メスキアの軍事における最高責任者である大将軍という立場ゆえ、エリーシス滅亡の真実も知っている。あの国に関しては正しく生贄でしかなく、ガシェルの行動を知っていて彼女もまた黙認した。エデン様の為に必要だからだ。

 だから復讐に燃えるティアの気持ちが分からないとは言わないが―――、

 

(魔神ザハークに尻を振った時点で下賤な豚以下の女。“彼女”に殺されるならお前も本望でしょう?)

 

 忠誠を誓った主の敵となる存在に容赦するつもりなど、元より欠片も持つ気もなかった。

 

 

 

…………。

 

 斯くして、魔神解放戦線のメスキア攻略戦は幕を開ける。

 

 ティア軍の強みの一つとして、魔導列車(ベヒモス)の運搬能力と機動力を生かした素早い部隊展開能力が挙げられる。とはいえ防衛設備の整った城壁に位置取るメスキア軍からすれば近寄られる前に魔術砲撃や竜装の弩による集中砲火を浴びせることが十分可能で、普通にやれば攻めるという行為そのものが実行困難とさえ言えるだけの体制が聖門には整えられていた。普通にやれば、の話だが。

 

 地平線の彼方から光のレールを爆走してきたベヒモスが、街道脇に突き出た始祖龍の巨大な肋骨を盾にする位置で停車する。明らかに事前に狙っていた迷いのない位置取りと裏腹に、神竜族側の困惑が一見で伝わるほど散発的にしか迎撃されなかった。

 物理的な障壁以前の問題として、信仰対象の聖骸を傷付けるなどとんでもないというのが彼らの当然の常識であり禁忌とすら言える。いくら魔族相手の戦いとはいえ諸共破壊するなど論外であり、遠距離砲撃はこれで封じられた。

 

 そもそも神竜族が始祖龍様より世界の管理を預けられた正統な支配種族であるというのが彼らの持つアイデンティティである。事前に予期出来ていたとしても、下手な攻撃をすればその始祖龍の骨に傷を付けるような位置に陣取られた時点で打てる手が非常に限定されるのだ。

 ましてエデンの骨を盾にするのはそれがタブーと分かっている元神竜族のティア達だからこそ思いついた発想であり、魔竜族がメスキア本国まで攻め込めたこと自体が歴史にない事例。

 

「しっかしヴィーヴル、お前はいいのか?エデンの骨を駆け引きの道具に使うの」

「構いませんメルジーニ姉様。これでエデン様の骨が破壊されるようならそれは異端者共のより一層罪深いことが分かるというもの。悲しいことですが形振り構わず一刻も早く殲滅し尽くすことが真の信仰であり、エデン様の御心に沿うやり方だと思います」

「………お、おう」

 

 極まった狂信者ならこういった判断も下せるであろうが、大将のファフネルは指揮所の石畳を靴底の形に陥没させながらも神竜族として常識的な対応を採った。即ち防御側の利を捨てて部隊を接近させての白兵戦。

 ただしベヒモスの側からは当然ながら攻撃手段に一切の制限はない。敵の出撃よりも早く指揮車輛の天井から巨大な砲身が迫り出し、テュポーンの操作で聖門に狙いを付ける。

 

 雷鳴よりもなお凄まじく腹の底を浮かせるような轟音と共に発射された砲弾は、稲妻よりも迅く空を貫いた。それ自体が精緻な意匠が凝らされた始祖龍信仰のシンボルとも言える巡礼門に突き刺さり、見るも無残に拉げさせている。

 

 アスタの祖国、今は亡きディアボロスに眠っていた古代文明の兵器ソーマカノン。

 大質量のベヒモスを動かすエンジンと直結して放つ列車砲の威力と弾速は圧巻の一言。初速に耐える専用の砲弾を一発一発工業国家デルピュネの粋を集めて作成する必要があるが、ティア軍に聖門攻略へと踏み切らせるだけの効果は十分であった。

 

「な……っ!?全隊突撃!2発目を撃たせるな!!」

 

「砲身冷却急いで。発射可能と同時に次弾を撃ち込んで!!」

 

 全体がへこんで確実に門としてはもう機能しないどころか、僅かではあるが向こう側の景色が覗いている。もう一発同じものが撃ち込まれれば確実に全壊することだろう。

 魔竜族が持ちだした機械兵器の威力をその目に刻み、必死になって相手を攻略しなければならないのは神竜軍側になった。しかしティア軍側も、ザハークが暗黒物質(ダークマタ)で砲身を補強した上でレヴィアやジュデッカまで駆り出してオーバーヒートした機関や砲身を冷ましている為、眷属達を前線に出して敵の突撃を食い止める必要がある。

 

「いっそ砲身も一射ごとに取り換える形式の方がいいかしらね、流石に問題だらけだわこれ」

「アスタさん、その辺は追々。ピアサ、メルジーニ、ヴィーヴルっ、ファフネルが来ます!迎撃任せます」

 

「あぁ…。お任せくださいシルヴィア姉様ぁ♪」「へっ、これがオレのメスキア相手の初陣だ。腕が鳴るぜ!」

「きひっ。くひひっ。かはひひひひひッッ!!!ファフネルぅぅ―――っっっ!!!」

 

 メスキアの精鋭神竜戦士達とこれまでに強化されてきた眷属軍団が遂に接敵して熾烈な攻防を繰り広げる。大剣ヴォルスングで大型魔獣(マンティコア)を一太刀で仕留めた赫髪の竜将軍に襲い掛かったのは蕩けた信仰と荒んだ殺気、そして凝縮され濁り詰めた憎悪。

 

「貴様ら、死にぞこないめ!負け犬四天将二匹が来たところで、私に敵うとでも―――、」

 

 

「正しき信仰の加護を―――慈戒珠『マーシーズロザリア』!」

「穿ち裂け神侵の毒雷―――『狂奔の獄雷鬼竜(ファナティック・フレイズマル)』!!」

 

 

 かつて圧倒的有利な条件下だった翼竜姫ピアサに実力の違いを見せて土を付けたファフネルだ。大気中の魔力素(ソーマ)を己の力にするファフネルにとって、ホームであるメスキアで四天将の半分を相手にしても確実に敗けないと吠える言葉に虚勢はない。

 

 それを無視して改造霊衣の狂聖女が“3つめ”の宝珠を取り出し掲げると、唐突に戦場へと小雨が降り注ぐ。

 戦の熱気を払う程ではない静かな雨。だが、それを浴びたメスキア軍側だけが動きを崩し眷属達に討ち取られていく。大将軍とて程度の差はあれど例外ではない。

 

「体が…っ!?これは、魔力(マナ)吸収ではない―――ぐあぁっ!!?」

「はーい、ばっちばちですよぉ?ふひひ♪」

 

 精彩を欠いたファフネルに“双剣”を携えたピアサが打ちかかる。

 細剣イヴェレンとは逆の手にあるショートソード。その薄金色の刃が輝いた瞬間、咄嗟に大剣を盾に防いだ女将軍の濡れた肌を稲光が錯綜して焼く。魔力(マナ)防御である竜殻が上手く機能していないのか、肉の焦げる臭いが辺りに振り撒かれて……それを至近で嗅いだピアサが艶めかしく唇を舐めた。

 

「その竜装、一体……ッ!?」

「竜装?ああ、これ?これはタクティカっていうらしいですよ?」

 

 黒魔女アスタが再現した魂の尊厳を冒して力を発揮する禁断の兵器。

 贄にする上質な魂の確保という問題で頓挫しかけていたそれは、氷国の公主ヴィーヴルの申し出により解決している。

 

―――石戒者(シーナ)という、始祖龍信仰の極みに達した信者が肉の体を石に変えて“魂だけになる”最後の修行がある。かつてヴィーヴル自身も受けた洗礼であり、徳の高い“上位聖職者達の魂”が選り取り見取りでニヴェルネ霊廟に安置されているのを彼女はよく知っていた。その中には神話にて始祖龍と共に戦った四天将開祖の一員である聖女ロザリアの魂も居るということも。

 

 知っているから―――狂信者はかつての同胞を全て捧げた。“正しい信仰”を遂行する為に必要なチカラを得る為に。

 

 

「ああ、嗚呼!!貴女の慧眼に感謝しますロザリア様!!

 今こそメスキアの信仰を浄化する時、このような時の為に、皆魂を保存していたのですね!!」

 

 

 敬愛する聖女の魂を囚えた宝珠を愛おし気に抱き締めて、肉体と魂の接続を操るその能力を雨に載せて振り撒く盲目の竜姫。

 強靭な魔力(マナ)を纏えば魂を肉体から剝がされることによる一撃死は防げても、濡れれば濡れるほど魂と肉体の連動が解かれ思い通りに動けなくなった神竜族達は次々と斃される。

 

「けけっ。オレからも礼を言うぜ、ありがとよロザリア・さ・ま」

 

 その身体はメスキアの信仰に振り回されて天涯孤独にされ、神竜族を憎む少女のものであるという皮肉。懐にて同族の悲惨な末路を見届ける宝珠の中の魂は、激しく首を振るかのように明滅していた。

 

 ヴィーヴルは縦に振ってくれていると固く信じている。

 メルジーニは横に振っているのを分かっているが、特に救ってやる気はなかった。

 

 

 





『それだけ二国を立て続けに陥落させたティア軍を警戒している』
→三章の遠征軍撃退成功と侵攻スケジュールが早過ぎると、警戒度アップで肉盾投入も前倒しされてタイムも短縮できます(RTA感)

『そもそも最初にティアを取り逃がしたのは誰なのか都合よく忘れているようだ』
→お前もアルトンで誰か取り逃がしてなかったっけ・・・?

『ファフネルは指揮所の石畳を靴底の形に陥没させ』
→エクストリーム地団太。

狂奔の獄雷鬼竜(ファナティック・フレイズマル)
→愛用のゴスロリをじーさんや兄上や魔王様が着て大活躍してて感無量だと思うので、現在の心情を表現した状態でちょい役出演していただきました。

「このような時の為に、皆魂を保存していたのですね!!」
→違います。暴走ヴィーヴルちゃん。
 これはひどい案件ですが、ロザリア様も「もうみんな肉体捨てて魂だけになろうぜ!」とか言って善意で虐殺始めようとするアレな幽霊なんで、まあ・・・。

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