ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 先に言い訳しときます。
 ここでティア姫のお母さんが敵として出て来るのは原作知ってる読者からすれば分かってたでしょうし、一方的に国を滅ぼした挙句洗脳した母親をぶつけてくる外道作戦だけどこの作品のティア軍は全く批難できる立場じゃないし、悲壮な雰囲気にしようとしても無理があったというか……。

 エアさんは泣いていい。




攻防の竜姫達

 

 メスキア聖門攻防戦。エデンの教えを信奉する民を苗床にし、鉱山奴隷にし、武器の材料にし、改造メカにする極悪非道のティア軍が迫る中、神竜軍が投入したのはティアの母であるエア=エリーシスであった。

 エリーシス公主であり実力も経験も四天将で最上位、大将軍ファフネルに並ぶとも言われる女騎士。かの国の滅亡と共に生死不明になっていた神竜軍最強の盾がその象徴である始祖の竜装を下げて立ちはだかる。

 

「母様……どうして母様がっ!?そんな、本物なの……?確かめないとっ」

「待てやティア。大将が本陣放り出してどこ行く気だ。落ち着け」

「落ち着いていられる訳ないでしょ!?離してザハーク、私行かなきゃ―――、」

 

 唐突な肉親の登場、しかもエリーシスを滅ぼしたメスキアに組みする形で現れたことに浮足立つティア。ザハークの制止も聞かず明らかに思慮と冷静さを欠いて魔導列車の指揮車輛を飛び出そうとする。

 竜翼をばたつかせて暴れる大将の首根っこを捕まえた魔神は面倒そうな顔をして―――対応を然るべき相手にぶん投げた。物理的に。

 

 

「いいからッ!!ママのおっぱいでもしゃぶってろ!!」

 

 

「きゃっ!?ザハークさん、危ないじゃないですか、もー。

 はーい、ティア姫、よしよしですよー♡いったん深呼吸しましょう、ねっ♪」

「………。すーはー、すー、はー。はすはす、くんかくんか―――――ぺろっ」

「ひゃぅ!?お、落ち着きました?

 ていうか本当におっぱいしゃぶろうとしないでください!?流石に今はめっ、です!!」

 

「ごめんなさい。少し取り乱したわ」

 

「「………」」

 

 

 アスタとレヴィアの『こいつが大将で大丈夫なのか』という冷たい視線をものともせず、シルヴィアの胸に顔を埋めて匂いと感触を堪能して、名残惜し気に離れたかと思うと次の瞬間にはきりりとした表情を取り戻していた。

 紅血髪の軍師少女も一瞬だけ見せた母性を引っ込ませ、理性的な判断を出来るようになった大将に戦況を伝える。

 

「ソーマカノン三射目可能まであと六分。機関や砲身の冷却の関係でベヒモスの運行に影響を来さない範囲での計算なので短縮は可能ですが、ファフネルの突撃隊はピアサとヴィーヴルの部隊で十分抑え込めています。

………エア=エリーシスもY-MANと交戦中です。レイスゼロは初の実戦投入なので慎重な判断を要しますが、現状では彼女も三射目の防御は不可能と見ています。無理押しは不要かと」

 

「そう。ありがとうシルヴィア。方針は変わらず、ソーマカノンでの聖門破壊で行きましょう。

 向こうが形振り構わなくなってこちらを砲撃してくるとか、不測の事態に備えて予備戦力はいつでも動かせるようにね」

「了解しました。その場合は多分私が率いることになると思います」

 

 始祖龍の骨を盾に出来ていることもあり、城壁攻めで無暗な犠牲を出さないよう最低限の部隊しか展開していない。まだまだ欠陥が多いソーマカノンの運用の為に手が取られている者を除けば、今前線に追加で出せる将はティアかシルヴィアの二択だった。

 とはいえ堕姫の見立てではその必要もなく三射目で決着となるだろう。ほんの少しの余裕が蒼竜姫の憂いとなって漏れた。

 

「母様、何故……」

「洗脳催眠暗示、何らかの取引や脅迫、あるいはメルジーニさんみたいに意識を封印されて別の都合がいい精神を埋め込まれたとかでしょうか。竜装を使えている以上は魂なき死体を傀儡にして操っている訳ではないでしょうが―――最悪の可能性が一つ」

 

 母が娘に敵対する理由で考えられるものを挙げる。エアは子供だった頃のシルヴィアにとっても恩がある相手だが、軍師である以上そこに希望的観測は挟まない。

 ティアもそれを理解していたから。

 

 

「時間で言えば最も長くメスキアに忠誠を捧げていた四天将がエア=エリーシスです。

 国を滅ぼされ娘を討つことになろうとも、愚直にエデンの側に立って己の意思で戦っている可能性もあります。もしそうならティア姫はどうしますか?」

 

 

「もし母様が正気で私達の前に立ちはだかっているのなら、説得するわ」

「それでダメなら?」

「それは………」

 

 戦場で迷いは死を招く。そうならないように逃げ道を塞いで答えを予め決めておけという意図は理解している。だが即答は出来なかった。当然だ、家族と故郷の復讐の為にここまで戦ってきたのに、その家族を目の前に突き付けられて簡単に割り切ることはできない。

 

 

「ねえザハーク、貴方はずっと私の傍に居てくれる?」

「あん?……お前次第だ、契約者(ティア)。魔神との契約、忘れたとは言わせねーぜ?」

「ふふっ、そうよね。シルヴィアは?」

「かつて誓ったとおりです。私は貴女を全身全霊で肯定します」

 

 

「ありがとう、なら―――、」

 

 ザハークとシルヴィアは自分の味方だ。たとえ己を産み育てた母が敵に回るとしても。

 

 即答“は”出来なかった。

 “簡単に”割り切ることはできない。

 

 

―――『まとめて殺し尽くしてやるわ。結果この大陸から神竜族と名のついた生物が一匹たりとていなくなっても構わない。それが私の戦い!』

 

 

 結論だけなら、とうのとっくに出てしまっている。

 

 

 

………。

 

 その盾公女エアは相変わらず表情一つ動かさない傀儡のまま、しかし汗みずくで雫を散らしながら炎の鉄騎と空中戦を繰り広げる。

 

Y-MAN(ヤマーン)!!」

「――――ッ」

 

(冗談じゃねえ。あれが本当にヤマタ将軍だってのか……!?)

 

 目まぐるしく位置を変える二騎の激突をなんとか馬で追いながらも、エアの“操縦”を任せられているイルダーナフもまた脱水症状で朦朧とする意識と戦っていた。今自分が気絶したら彼女は完全な木偶になってしまう。

 

 周辺一帯の気温すら真昼の砂漠を優に超える灼熱空間へと変えてしまう程の業炎を纏う鉄騎の正体は、おそらくエアと同じく生死不明だったクシナダ公ヤマタなのだろう。

 敵も味方も同じ外道を考えて実行したこの地獄のような戦場に吐き気すら覚えるが、魔族お得意の古代文明の技術を使って改造されたであろう彼女が四天将筆頭格だったエアと互角に渡り合っている時点で或いは向こうの方がより邪悪なのかとすら思えてしまう。

 

 そもそも飛べない筈だった龍剣士なのに、神竜族にあり得ざる爆炎の翼による飛翔は直線速度だけなら風の四天将ピアサにも引けを取らない。それが全身鎧の重量を載せて突進し、これまた爆炎の追撃を纏った刃を叩きつけてくるのだ。

 浮遊する炎剣と超高熱で生半可な武器防具を纏めて焼き斬る刃を以て、近づく者を全て撫で斬る剣客。それが四天将ヤマタだったのだが、今の荒々しい鎧武者はそれと正反対とすら言えた。

 

 寄らば斬るから、ぶっ飛んでって斬り飛ばすへ。どちらが対処に困るかは状況次第であろうが、少なくとも今の炎騎の出力からすれば後者の方が効率がいいのだろう。

 エアの実力と盾の始祖竜装があるからこそ凌げているが、散らされた炎が地面に墜ちた瞬間そこが赤熱しながら溶解する光景を見れば迂闊に援護に入ることすらできない。見失わない程度に、しかし巻き込まれて燃やされない程度の距離を保つ慎重な位置取りは、それだけでただの人間でしかない密偵には途轍もない苦行だった。

 

 それは聖門に待機している神竜族兵士達にも同様だろう。余波が掠っただけで消し炭になるような敵に白兵戦は挑めないし、盾兵であるエアすら時に弾き飛ばされながら突進をいなすことを強制される機動戦に対して援護射撃するには誤射のリスクが非常に高い。

 これで未だ傷一つ負っていないエアは流石の一言だが、盾をかざすばかりで槍を振るうことも満足に出来ていない以上はおそらく押されているのだろう。ここで味方から背中を撃たれようものなら、そのまま炎剣を叩き込まれて文字通り塵と消えてもおかしくない。

 

 いなされた炎騎は鋭い旋回で―――如何な神竜族だろうとあんな機動をすれば内臓が潰れるだろうに―――幾十度目かの突進を続ける。体力の限界かはたまた他の要因か、遂に盾を跳ね上げられ真後ろにたたらを踏む盾公女。

 

「Y、-MAAAANっっっ!!」

「―――ァッ!!?」

 

 容赦ない追撃の爆炎剣に戻した盾は完全に崩され、苦し紛れに突き出そうとした槍よりも早く懐に潜られて鉄の両手に肩を掴まれた。その状態で爆炎の翼が轟々と唸る。

 

「エア様ぁっっっ!!!」

 

 猛烈な加速度で聖門脇の岩壁に背中から叩き付けられる傀儡の公女。彼女の優れた魔力(マナ)による竜殻がなければバラバラ死体になっていたところだが、これで“無力化”程度に留めたのは炎騎の計算の範囲だった。

 故にそれは悪魔的な偶然といえる。

 

 

 

「ソーマカノン、撃てぇっ、なのですーーーっ!!!」

 

 

 

 妨害する者もなく魔導列車から放たれた三射目の砲撃は、聖門を完全に破砕して崩壊させる。

 守備隊の多くを巻き添えにしながら瓦礫が雪崩を打つ中、咄嗟に離脱したY-MANはエアを確保することが出来なかった。今から瓦礫を掘り起こして対象を捜そうとしても、敵の生き残りがうようよ居る中を単騎でというのはリスクが高すぎる。

 

「対象ロスト。任務失敗!Y-MAN、これより帰投します!!」

 

 やはり微妙に五月蠅く暑苦しい言葉を残して、躊躇いなく空飛ぶ鉄騎はベヒモスへと帰っていくのだった。

 

 

 

 そして。

 

 

「全軍、撤退―――!!」

 

 全てを呪うような声で戦場に響き渡るファフネルの号令。

 もはや聖門の防衛という戦略目標は文字通り瓦解し、ピアサとヴィーヴルすら抜けない現状でティア達を仕留めるのも不可能とあってそれ自体は妥当な判断だった。たとえそれがファフネルの傲慢なプライドに深傷を刻む事実だとしてもだ。

 

「……なに、それ。また逃げるの?」

 

 暴走覚悟で竜装ヴォルスングの力を解放し、雨でぬかるんだ地面に叩きつけて泥を巻き上げ―――一目散に背を向けて飛翔する。ピアサの冷たい愚弄を浴びて、歯を噛み砕かんばかりに耐えながら。

 大将軍就任以来かつてなかった屈辱。何者にも劣らぬ無双の肉体を得ながら、エデン様に与えられながら、それを使ってやることは尻尾を巻いて敵から逃げ出すことなのだから。

 

 だが無駄死にだけは出来ない。今回は敵の罠に堕ちたような形だが、次はこうはいかない。

 白亜の鎧すら泥に塗れたこの屈辱、必ず何万倍にもして返してみせる。そしてエデン様に歯向かった愚か者たちを必ず血祭に上げる。

 

 赫髪の竜将軍は怨念の籠った捨て台詞だけを残す。

 

「これで勝ったと思うな、叛逆者どもめ―――!!」

 

 

 

「―――お前こそこんなもので負けだと思うな。獄域の果てまで逃げようが、どこまでも追い詰めて殺してあげる。

 どこまでも、どこまでも……くひひひ、きゃはははははっ!!!」

 

 

 

 怨念という意味でなら比べることすら生ぬるいドス黒さを抱えた鬼子母神を敵に回していたことなど、終ぞ理解している筈もなかった。

 

 

 

 





「ママのおっぱいでもしゃぶってろ」
→生き別れの母親が敵として現れて錯乱したため、シルヴィアママのおっぱい(割と薄い)を吸って正気を取り戻すティア姫。エアさんは泣いていい。

『炎剣を叩き込まれて文字通り塵と消えてもおかしくない』
→一応Y-MANはエアの確保を命令されてるが、イルダーナフから見れば殺す気満々にしか。ていうかつえーなY-MAN。

「……なに、それ。また逃げるの?」
→地味にこの作品だとピアサとの第一戦以来いいとこないゴリラ将軍。強過ぎるからシルヴィアが頑張って外道兵器使ってハメ殺してるだけで、原作だとソーマカノンの直撃喰らってもピンピンしてるような本物のバケモノなんですけどね。

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