ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 原作でメスキア侵攻戦中にネフティス軍は何をしてたんだろう……。
 いやまあメタ視点だと魔神の覚醒の為だとかヴァジェトに色々理由があったのは分かりますが―――神竜の支配からの解放を掲げて建国した筈なのに、ティア軍に一から十まで攻略を押し付けた挙句メスキアが滅んだ瞬間竜杯だけはくすねてからの温存してた全軍でティア軍に殴り掛かる超絶ド畜生ムーブになってるんだよなぁロウルート準拠だと。




久闊の凄惨姫

 

『援軍、改めて感謝いたします―――ヴェリトール将軍』

「ふん。礼は無用だ、腰の引けたトカゲ共を睨み付けるだけの作業だったからな」

 

 ティア軍が神竜族の根拠地であるメスキアを侵攻して以来、何度となく各地の伝達水晶(トーカー)に顔と声を露出してきた魔姫シルヴィア。大将ティアより魔竜王ヴァジェトよりそして魔神ザハークよりも、今のこの国で最も憎悪と恐怖の対象になっている悪堕ち軍師はそれを何一つ気にしていない―――むしろ一層艶やかな笑みで魔竜族の通信機越しに旧知の相手を歓迎していた。

 

 侵攻ルートを討議した際ティア軍が選択しなかったメスキア南方の水上ルートに、魔竜族トップ2の黒鎧将ヴェリトール率いるバシュトラ軍が詰めている。聖門を抜かれ国内各地を魔導列車の機動力で次々荒らされていた神竜軍にそれを撃退する余力はなく、対岸の防衛設備を頼りに牽制するのがやっとだった。

 元々助攻のつもりだったのかバシュトラ軍も無理にそれを突破する気配がないため、結果睨み合いで膠着している。

 

 メスキア陥落は虐げられ続けた魔竜族の本願でもある筈。なのにこの大一番において本国ネフティスの部隊に至ってはレヴィアとテュポーンがほぼ成り行きで客将になっているくらいで、ティア軍に矢面を任せきりという現状。

 しかしながら養父と養女という私的な関係を差し引いても、通信でのやり取りに険悪な気配は全くなかった。ヴェリトールとシルヴィアの間柄に限っては、だが。

 

「余程荒らしたと見える。強行軍で馳せ参じた訳でもないのに、まともな歓迎の準備もなかったぞ」

『エデンとファフネル有利になる地で正面決戦も嫌でしたから。そういう意味では、エデンが出て来ないのはヴェリトール将軍に備えてでもあるでしょうし助かってます』

 

 メスキアの象徴であり始祖龍の生まれ変わりとされる神竜王エデン。ガシェルが大神官の地位にあるのも、元々枯渇の兆しを見せていた資源が復活した『奇跡』と時を同じくしてその地で生まれた赤子だった彼女を『発見』したからである。

 不完全な復活とされつつも信仰対象としては紛れもない本物なのだろう、かつて魔竜族との戦争でヴァジェトと直接戦って引き分けたとされている。

 

 力の質が伝説に言う始祖龍と同質であるのなら、その遺骸の大部分―――『エデンの恵み』が溢れるメスキア本国で彼女と戦うことになった場合魔竜王との決戦時以上の実力を発揮することも予想される。そもそも神竜族にとっては万が一も許されぬ玉体であり、ヴェリトールの北上を警戒して迂闊に首都を空けられないこともあって、彼女が未だ前線に出て来ないのはティア軍が有利に立ち回れている要因の一つだった。

 各地の集落を壊滅または離反させて国力を削ぐのも、虚言と讒言(ざんげん)で信仰による団結を崩壊させたのも、まずはエデンと戦う前に手駒であるメスキア軍を剥がすのが最大の目的だ。

 

 とはいえ当然ながらそれはやろうと思ってそう簡単に実現できるものではない。事実このように力押しではない方法でメスキアを攻略する『ティア軍』を、永く戦い続けた黒龍将は一度も見たことがない。

 

「まさか神竜の宗教狂い共が言葉でああも崩れるとはな。あの胃が凭れる程の甘さばかりだった小娘が随分な魔女に成長したものだ」

『お陰様で。実際はそこまで大したことはしてませんよ?閉じた世界しか知らない純粋培養なんて、不測の事態に直面すれば脆いものですから♪』

「よく言う。あまり蹂躙すれば戦後の統治にも支障が出るとは思わないのか?」

 

 

『下手すれば数か月後には灰になって消えている連中にそこまで配慮が必要ですか?』

 

 

 シルヴィアが神竜族の心の拠り所である教義を詭弁と詐術で貶め、不信と不和の種を全土に撒いたことで勝っても負けてもこの国の未来は暗い。

 実行犯でありながら知ったことかと言わんばかりの酷薄なもの言いに口元を歪める魔将。かつて彼女の優しさに恩を受けた男だったが、それが悪徳に染まった姿を見ても寧ろ機嫌が上向いている様子だった。

 

「ふっ。辿り着いていたか」

『はい。やったらやり返される―――いくら創造主だって勝手に私達を品評して勝手に消そうとしてくるのなら、自分の「夢」が消されたって文句は言わせないつもりです』

 

 

「その大言が(まこと)(うつろ)か見極めさせてもらうぞ小娘―――否、シルヴィア=ハマルティア。貴様達の旅路の果てが微睡みの天蓋を砕く無謬の闇になるかをな。

 その時が来れば連れて行ってやる、終局の戦場まで」

『おじいさん―――はいっ、期待して待っててください!!』

 

 

 甘さも情けもない厳格そのものの偉丈夫と、その性質を理解していながら屈託なく笑う少女。邂逅して四十と幾年を経て、名義を貸して後ろ盾になったこと以外『らしい』ことなど一つたりとてなかったが……それでも血よりも濃い何かが変わらずそこにあった。

 儚い希望を抱いて巣立った少女がそれを否定され踏み躙られ、心を無惨に砕かれ闇に堕ちてなお変わらない何かが。

 

「………見飽きた能天気な顔だったな」

 

 通信を終えても暫くは過去に意識を飛ばしつつ。瞑目した瞼の裏で、己を家族と呼び続ける少女の面影を現在の姿と重ねていた。

 

 

 

…………。

 

 絶叫した。悲憤した。慟哭した。

 

「おおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!?ふざけるな、ふざけるなぁっ!!!!」

 

 密偵イルダーナフにとって生まれ故郷の村は唯一の拠り所だった。竹馬の友があり、親類があり、家庭があり、何より愛しい娘がいた。神竜にありもしない尻尾を振り、媚び諂い、命じられるままに手を汚して心が擦り切れようとも帰りを待ってくれている場所だった。

 彼女達が笑顔で生きられるなら人間のことを家畜としか見ていない大神官に何をさせられても耐えられた。気まぐれに処分されても何も文句は言えない人間と神竜の力関係が骨身に染みているから、任務に失敗することは勿論機嫌を損ねることすら死にもの狂いで回避してきた。

 

 薄氷の上を追い立てられて全力疾走するようなギリギリの生き方しかできなかった。唯一心が安らぐのは家族と居られる僅かな時間だけだった。自分に情けをかけてくれる方とその家族や民を地獄に落としてでも守り抜いてきたのに。

 

 血と汚液が至るところにぶちまけられ、鼻を麻痺させるほどの死臭が漂う地獄と化した故郷。しかも軍人のイルダーナフには分かる、分かってしまう―――これをやったのが人間だということが。

 神竜族や魔族がやったにしては死体の損壊具合が奇麗過ぎる。人を殺すのに刃物で胴を刺すか頭を鈍器で何度も殴るか、そんな『まどろっこしい』ことをする必要のある種族ではないのだから。何より娘を含めた若い女達に凌辱された跡があるが、神竜なら見下している人間との性交など嫌悪感で忌避するだろうし、魔族なら五体がまともな形を残しているようなヌルいそれなど行わない。

 

『隣の集落はメスキア軍のとある隊長さんの家族がいてちょっといい暮らしをしてたのに、自分達はその恩恵を受けてなかったんですから。ご近所付き合いって大事なんですねえ。嫉妬って怖いですねー』

 

「これがッ、これがあぁぁっっ!!人間のすることだってのかよぉぉぉっ!!!!?」

 

『神竜族だけが傲慢と思ってた?全ての種族が平等になって人間の無力ささえなければ世界は良くなると思ってた?神竜族が元々なんだったのか考えたらそんな訳ないの知ってたでしょうに、必死に現実から目を背けてたんですよね?はいはいかわいそうかわいそう』

 

 その『ちょっといい暮らし』をする為にイルダーナフがどれ程の辛酸を舐めなければならなかったのかも知らず、隣の集落の奴らは上辺だけの浅はかな妬みでこれほどの凶行を働いた。殺さないでやるし食糧や衣服を恵んでやるから、と言われて簡単に唆された。

 

「こぉろぉすっ!!来いエアぁっっ!!」

「………」

 

 傀儡とはいえ四天将という重要な手札を預けられたイルダーナフだが、最早守るべきものの無い彼が飼い主の思惑通りに動く理由など何もない。シルヴィアの配信の後エアだけを伴い急いで故郷に戻った結果、現実を突き付けられて冷静さも正気も失った。今雑に命令した手駒がダレだったかも頭から抜け落ちたまま、まずは居場所の知れている隣の集落の奴らに報いを、復讐しようと駆け出した。

 

―――隣の集落の者達がやったことは尻尾を振る相手が違うだけで今までイルダーナフがやって来たことと何も違わない、なんて。己が手を穢したガシェルの行いに対するティアの復讐がこの結果だろうに、なんて。そんな現実からもやっぱり目を背けて。

 

 故に彼はもうそれ以上のナニカを見ることは叶わなかった。

 

「はい。それ無理です♪」

 

「――――もがっ!!?」

「………ッ」

 

 地面から漆黒の紋様が浮かび上がり、闇の鎖が飛び出てイルダーナフとエアに雁字搦めに巻き付いて拘束する。口も鎖を噛まされ、そのまま地べたに顔を押し付けられ、傀儡に拘束から脱し自分を助けるよう命令することすら封じられる。―――仮に盾公女に自由意思があったとして脱出が叶うか怪しい程度には強力な魔術であったが。

 

「イルダーナフさんっていうかエア様一本釣り計画成功~♪」

 

(こいつ、こいつがぁぁぁ―――!!!)

 

 今のメスキアに恐怖を振り撒く魔天の軍師。配信でイルダーナフを挑発した思惑通りに、洗脳されたティアの母であるエアを連れて単身故郷の村にのこのこ戻った哀れな男を嗤う愛らしい声。そして。

 

「で、どうするよティア?」

「裏切者にお似合いの末路は見届けたわ。そこの狗畜生以下なんて、何が何でも自分の手で殺したいとも思わない。

――――殺っちゃっていいわ、シルヴィア」

 

「~~~、~~~ぁッッッ!!!!」

 

 禁忌の魔神、それと契約した復讐姫の声。突然現れた全ての怒りの捌け口に呪い殺さんばかりの憎悪を向けるが―――現実には恨み言を吐くことも睨み付けることすら出来なかった。

 

 

「あいあいさー♡」

 

「~~~~……っっ、……、…………」

 

 

 めき。ぐき。ぐちゃ。鎖に締め付けられて全身の骨を砕かれて緩慢に死にゆくだけの、ただの人間でしかない彼の無力さそのままに。

 

 

 

 

 

 





 じーさんと凄惨姫のほのぼの父娘関係を書いた後に、傷を舐め合う関係だと思ってた同族に娘を殺されて発狂するイルダーナフ君の末路を描写。作者は人の心とかないのかな?

 次回、母と娘の感動の再会(なお

『今のこの国で最も憎悪と恐怖の対象になっている悪堕ち軍師』
→シルヴィア原典のHだと魔族は恐れられれば恐れられるほど力が強くなる設定な訳で、つまり別作品基準の『魔族』でもある凄惨姫は……。

『下手すれば数か月後には灰になって消えている連中にそこまで配慮が必要ですか?』
→どうせ世界崩壊から救ってやる義理はないからね、搾り取るだけ搾り取ってぽいが効率的だよね。

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