ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~ 作:サッドライプ
バスター・ブレイダーとルビを振るといい感じに初代遊戯王への冒涜である。シルヴィアはブレイダーじゃなくてヒーラーだけども。
「シルヴィアさん、これ今週の分の日誌と物資の消耗リストっす」
灰色の毛並みに全身覆われた
華奢な少女と比べるとふた回り以上の体躯に狼の凶相は彼女にとって凄まじい威圧感を与えそうなものだが、慣れているのか豪胆なのかシルヴィアはにこりと笑みを浮かべて応対する。
「はい、確かに預かりました。いつもお疲れ様です、アインくん」
受け取ったのは機関長である彼の業務報告。病人や怪我人や骸獣が出ない限り出番がないシルヴィアは、その分魔導列車の運行に関する事務作業も併せて受け持っている。
本来は車長のアスタが裁く必要のあるものも大量に交じっているのだが、研究者肌で気まぐれ、かつ汚部屋作成癖の彼女に書類を預けると稀によくどこかに消える。流石に本当に重要な書類を紛失したことはないが、シルヴィアに任せた方が確実という空気になるといつの間にやらほぼ全ての事務仕事が彼女に振られるようになっていたのだった。
別世界では三か国の侵略・占領統治を支えてみせたこともある『シルヴィア』の処理能力からすればそれは大して手間にもなっていないが、同じベヒモスで働く同僚から見るとまた違う見方になるだろう。
アインが彼女を見る眼は、憧れとそれ以上の熱を含んだものが混ざっていた。
「いえいえそんな。オレは体力に自信がありますから、手伝えることがあったらなんでも任せてください。バリバリ働くっすよ!」
外見のイメージからするとやや高めの声でばん、と胸を叩いてアピールする狼青年。が、桃髪の少女は細い眉をハの字にしてこてんと首を傾げる。
「……お気持ちだけありがたくいただきますね。というより、アインくんはいつも機関室で体を酷使しているのだから、休める時にはしっかり休みましょう。体調管理も仕事のうち、ですよ?」
「…………。了解ッス」
下心というには純朴な裏はさらっとスルーされ、医務室の主に正論を突き付けられてしょぼくれるアイン。そのまま回れ右したその大きな背中の毛並みは、どこかしおれて乾いているようだった。
そうしてドアを開けて部屋を出た列車の通路で―――。
「おっと?」
「………。ちっ」
浅黒い肌に灰髪の青年とすれ違う。
シルヴィアの恩人の恋人…らしいが、まるで仲良くなろうと思わない相手に対しアインは先ほどの彼女相手と百八十度反対の表情で睨みつけた。
容貌だけなら優男でも通るかも知れないが、狼男の凶悪なガンつけにもにやにや笑って返してくるザハークという男。そのぎらついた眼差しがどうにも気に食わない。
「おい、てめえ」
「あん?」
「シルヴィアさんやムムル姉に近づくんじゃねえぞ。ちょっかいでもかけようもんなら八つ裂きにしてベヒモスの炉にくべてやる」
喉からこみ上げる唸り声と共に威嚇する。獣の敵意は、しかしザハークの表情一つ変えられなかった。
「てめえに指図される云われはねえな。ティアの手前だ、シルヴィアに関しては程々に付き合うぜ」
「…………くっ」
つい先日荒野で拾った少女(とついでにこの男)の関係を言われると、アインはそれ以上つっかけられなかった。
シルヴィアがアスタに、ティア達をベヒモスで保護して欲しいと直談伴していた時、彼もその場にいた。あの時の彼女の剣幕は、万が一二人を放り出そうものなら自分も列車を降りて着いて行くと言わんばかりだったのをよく覚えている。
誰にでも分け隔てなく優しい、慈愛に溢れた清楚可憐な魔導列車のお姫様―――アイン主観の誇張は『多少』入っているものの、そんなシルヴィアの唯一見えた地雷をわざわざ踏む蛮勇は彼にはない。
わざとらしくそっぽを向くと、捨て台詞すら惜しんでアインは立ち去った。
向こうもそんな自分にこれ以上構う必要を感じなかったのだろう、医務室の扉が開きそして閉まる音が背後に聴こえるだけだった。
だが、そんな何気ない生活音が無性に不安を掻き立ててくる。
(……くそ、シルヴィアさんに限ってあんな野郎に靡くようなことはないと思うがよ、でももし強引に迫られでもして……ああもうっ!
かと言って俺があーだこーだ言ってあのひとに嫌われたらって思うと―――うがああああっ!!)
外見に似合わぬシャイボーイな懊悩に頭を抱えその場をうろうろする。怪しすぎる姿を目撃した通りすがりがいなかったのは―――果たして彼にとって幸運だったのだろうか。
悩み抜いた末、彼が走った行動は。
(これは監視これは監視これは監視これは監視ッ。気になるとかじゃなく、奴がシルヴィアさんに汚い手を伸ばさないように俺が見張らないと!)
自分を客観視するという観点が抜け落ちた狼男は、そろっとまた医務室の方に歩き出す。
走行中の列車の運行音は抑えきれない巨躯の足音をかき消してくれたが、代わりに部屋の中の物音も直前まで彼は聞き取ることができなかった。
そして扉を少しだけ開けた隙間から覗いた、その光景は―――。
…………。
その数分前。
「どうぞ、お母様、お父様」
紺の布地に白いフリルを飾ったメイド服姿の女性が、ソファに並んで座る男女に紅茶を給じる。
長い群青色の髪を三つ編みにまとめたその娘子は、きれいな姿勢でスカートをつまんで一礼した。清廉な所作だが、前屈みになった瞬間胸元で弾む双丘が得も知れぬ色気を同時に匂わせる。
「ありがとうジュデッカ。……ふふ、おいしい」
「―――まあ、うまいのはいいんだが。お前生後数日だよな?」
「あらあら。処女だったお母様に私を孕ませたのは当のお父様ですわよね?いけませんわ、お母様の初めてをそんなあっさりと流すように忘れるなんて」
「もう、ジュデッカったら」
シルヴィアにジュデッカと名付けられたこの娘。いくら魔神の眷属の成長が早いとはいえ、既に母親の背丈を超えているのはティアに産ませた仔達と比べるとあまりに突出している。そしてシルヴィアが仕込んだのだろうがお茶汲みや作法を淀みなくこなし諧謔すら使うあたり知能も目を見張る発達速度。
別段雑用をこなさせる為に眷属を産ませる訳ではなく、求められるのはあくまで戦闘要員なのだからそこは勿論これからの更なる成長次第。まして数を産ませてみれば最初だけ当たりだったというパターンも在り得るが―――シルヴィアの産卵母体としての素養はティア以上だと期待が持てるいいサンプルだ。
そんなジュデッカを、産みの母はその成長を愛おしむ眼で見つめている。紅茶で口を潤しながら穏やかに微笑む少女は…………つい数日前に純潔を奪われ、卵により孕まされた仔だという事実などまるで感じさせない。
「……?ザハークさん、どうされました?」
ましてその下手人とソファで隣同士密着しているのに、どこまでもリラックスしているその態度は、封印から目覚めるまでの記憶があいまいなザハークからしてもおかしいと感じられるものだった。
じろじろと無遠慮に観察する視線にも目をぱちくりさせるだけ。警戒心がまるで欠如している―――と断じるには、相応に聡明かつ思慮深い女であることを短い付き合いでも察している。
「シルヴィア。お前なんでそんなのほほんとしてるんだ?」
「のほほん、ですか?………んと、秘密ということではだめですか?」
短い問いだけでザハークの今の思考を推察できる程度には頭の回る女。故にその答えでは自分が納得しないのだろうというところまで先回りした彼女は、返答を待たずして言葉を重ねて来た。
「―――自分の恋人を警戒する女がどこにいますか」
「は?」
「いえあなたが言ったのでしょう、『お前は俺の女だ』と。そんな貴方に私は納得ずくで体を許しました。
―――ならそういうものとして振る舞います。私を苗床か性欲の捌け口としか見ていないのであれば、それはそれで呑みこみますけれど、ね」
「いやそれは……どうなんだ?」
「安いものを譲り渡したつもりはありません。後で泣き言を言う程度の覚悟で純潔を差し出すなんて、そんな浅はかな女に見えますか?」
ドライなのか血が通っているのか、重いか軽いかも判断しづらいその理論に逆にザハークの方が面食らう。正直自分のやることが女性にとって嫌がられることである自覚くらいはあるし、それを屈服させることに愉悦を感じる性質なのだが、シルヴィアは始めから何もせずとも屈服すると言っているのだ。男女の関係になることに同意して処女を捧げたのだからそれは当然だと。
自然体で語るシルヴィアに気負いはない。言葉の通り、本当にザハークに警戒心や嫌悪感を持っておらず、大抵のこと―――事前に告知されていた、触手に嬲られ異形を産卵させられる『程度』のことなら少しも拒まないと。
「ああ、お前はそういう女なんだな……?」
そこまで示されて、ザハークにも理解が出来た。半信半疑ではあるが。
要は―――理性で感情を御するのではない、感情を理性で塗り潰せるのだ。一度決断したならその不純物になるような感情は容易く排することが出来る。ある意味機械以上に機械的な思考が出来る女だと。
(厄介だな……)
従順になってくれるのは勿論いい。だが相手を屈服させ染め上げるというザハークの個人的な趣向からすると不都合でもあった。ただ調教したところで触手に犯されるという嫌悪感や屈辱はないもの同然に思われ、かと言って快楽をどれだけ与えても『ただ享受するだけ』。嵐に曝されてもただ靡くだけで根っこから抜けない草葉と同じように、『ティア姫のため』という根本の部分が優先順位を変えることはないだろう。
が、その程度のことですごすごと妥協するなど魔神の名折れだ。掌中に収めた女に『屈服してもらって』、その心には爪痕一つ刻めていないなどプライドが許さない。
「ふん……じゃあまずは、その言葉がどこまで本当か試させてもらおうじゃねえか」
「何を―――くぁぅ!!?」
ザハークが念じた途端、下腹部を抱えて蹲るシルヴィア。
魔神の仔しかもう孕めない産卵母体として作り変えられた彼女の子宮は、肌に浮かぶ淫紋と共に呪いを刻み込まれ、こうして戯れに刺激を送られて抵抗を封じられる首輪同然のものにもなっている。
疼きに悶える少女を放置して立ち上がったザハークは、すぐ傍の壁に腕を組んでもたれ掛かった。ちょうど、シルヴィアの背丈からするとつま先立ちになれば唇にキスが出来る按配になるように。
「俺に愛を囁きながらキスして来い。恋人として振る舞うっていうなら出来るだろう?」
「………っ、わかりました…」
理由や建前抜きに産卵交尾に夢中になるようにする為の第一歩。小手調べとして彼女に課したのは、立って歩くのも辛いだろう下腹部の疼きを抱えさせながら唇を捧げさせるというものだった。それに対して、シルヴィアもまたよろよろと追従してきて。
――――好き。好きです。大好き。いっぱい好き。愛してます。す・き。愛してる。しゅきぃ。すきすきー。だーい好き。愛してるの。好きなの。大好きなのぉ。好きっ。いっぱい愛します。好き、ですっ。
(おいおい……)
嗜虐的な笑みで待ち構えていたザハークすら照れて赤面しそうになった程の愛の囁きを、文字通り目と鼻の先で浴びせかけてきた。それと同じ数だけ、唇を重ね、食み、はむはむし、舌を突つき合い、絡め、唾液が撥ねる音を立て、口元が濡れ光るのにも構わず、キスを捧げてくる。
数日前まで確かに処女だったし、相手は弱みに付け込む形で自分を抱いた男である筈なのだが、耳年増で変な知識でも仕入れていたのだろうか予想外に予想以上の対応だった。しかし可憐な美少女がひたすら好意を言葉と行動でぶつけてくるこの趣向は悪くない。
キスをし続ける為に背伸びしてザハークの首後ろに腕を回して縋り付き、子宮の呪いに耐えているからなのだろうが顔を真っ赤にして、息継ぎが難しいのか目元を蕩けさせて。
今のシルヴィアの姿は傍目には、惚れた男に一途な愛を捧げる乙女そのもの。それは本当に、『俺の女』として振る舞うと宣言した言葉に嘘はないと証明するかのよう。
そんな彼女を見つめる視線が二対。
一つは同席していたジュデッカ。急に始まった展開にも構わず、二人の接吻を微笑ましそうに眺めている。愛しく可愛くそして自分に深い愛を注いでくれる敬愛する『お母様』が幸せそうに『お父様』と睦み合っているのだ、祝福する以外の選択肢があるだろうか。
もう一つは―――医務室の扉を少し開けてのぞき見していた狼青年。可憐な笑顔を自分に向けてくれる少女が、いけ好かない相手と絡み合っている。どんな言い訳もできない程、誤解の余地なんてない程にそれは恋人同士の姿。普段職場で優しい言葉を掛けてくれるその唇は、今は他の男にキスし愛を囁く為だけのものになってしまっている。
(あぁ、ああ゛あ゛あ゛あああ゛あ゛ぁぁあああ゛あ゛あッッッ!!!?!!?)
一生忘れることのできない光景が目に焼き付く―――激しい頭痛と共に。
脳が壊れるような感覚を覚えながら、無意識にその場から逃げ出すアイン。帰巣本能のまま自室にたどり着いてベッドに潜り込むまで誰にも見つからなかったのは、果たして彼にとって不幸だったのだろうか。
布団を深く被っても目を限界まで瞑っても浮かんで来る最悪の光景に、残された思考できる部分が意味のない問いを放つだけだった。
―――何故こうなったんだ。
――――オレが先に好きだったのに、と。
『後で泣き言を言う程度の覚悟で純潔を差し出すなんて、そんな浅はかな女』
→後で泣き言を言い出した自称親友さんにぶっ刺さるからやめたげて。
『ある意味機械以上に機械的な思考が出来る女』
→実際どこまでが性癖で、どこからがティア姫ガチ勢思考なのやら。ちなみに作者はこーいう微妙にイカれた思考回路の登場人物書くの割と好き。え、知ってた?
『ザハークすら照れて赤面しそうになった程の愛の囁き』
→清楚姫の悪ノリASMR。まあ実際長年の夢()を叶えてくれそうなザハークへの好感度は相当高かったりする。
『何故こうなった』
→ちょっとBSSを書いてみたかったんだ、ごめん。でも楽しかった(こなみ