ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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(六十話目にして今の今までアンチ・ヘイトタグにチェックしていなかったことに気づいてこっそり小説設定を修正する音)




訣別の復讐姫

 

「さて、と。じゃあ解放しますね」

 

 操り手になっていた人間が全身変形した無残な屍と化し、惨劇の背景の一部となった後。その実行者たる大陸屈指の癒し手は何の感慨もなさげにそのまま傀儡の竜公女に魔術治療を施して闇の鎖を解いた。

 

「母様。私が分かりますか。ティアです、ティア=エリーシスです!」

 

 悪意の謀略によって国を追われ、あまつさえ娘を殺す為の手駒とされていた母。しかしもはや両者を阻む障害は何もない。青の竜姫は弾んだ声で駆け寄って呼び掛ける。

 

「母様、母様?」

「…………」

 

 かつてであれば苦笑しながらお転婆を窘めた母は―――だらりと腕を下げたまま応えない。ワインレッドの瞳は焦点を失い呼吸も眠っているかのように規則的。

 シルヴィアの癒術師としての実力を何度も見てきているザハークは、目覚めないエアの様子を見て訝し気に尋ねた。

 

「どういうことだ?術の影響がまだ残ってるのか?」

「いえ、完璧に治しましたよ。エア様の魂も脳も精神も、思考と受け答えに何の支障もないくらいには正常です」

「ならなんで―――、」

 

 

「あはは、そんなの決まってますよ。ただの狸寝入(ねたふ)りです」

 

 

「――――くっ!!?」

 

 鼻にかかった甘い嘲笑に、一気に表情を険しくした竜公女は鋭く片手の十字槍を突き出した。標的は至近で呼び掛けを続けていたティア。再会を願ってやまなかった娘の首元目掛けて、竜装ラヴァムの切先が空を疾る。

 エリーシス滅亡から長きに渡り意識のないまま肉体を無理矢理操られていたとは思えない洗練された武技。かつて国にいた頃はティアが何百回手合わせしても一本も取れなかった最優の四天将の一撃が、確かに殺意を伴って襲い掛かった。

 

 

 その不意討ちをティアは身を沈めてやり過ごし、短く持った片手槍キシャルの穂先で絡め取る。引き寄せられる体勢に逆らうことなくエアは翼から魔力を放出し、低い姿勢からのティアのシールドスマイトに正面から盾で挑みかかる。

 鈍い音と共に、聖盾シルティスと竜盾アンシェラが二本の槍を巻き込みながら激突した。

 

 互いの表情をはっきりと確認できるほどに母娘の顔が近づく。前者は機を逸した口惜しさに歪み、後者は―――笑っていた。

 

 

「うふふっ、あっはははっ!!最高ね。これがエリーシスの仇を討つために遥々こんなところ(メスキア)まで頑張ってきた娘に対する母のプレゼントなのかしら!?」

 

 

「ぅッッ!!?」

 

 凄絶に笑う、その青い竜眼には激情の光が宿っていた。

 たじろぐようにエアはその場から跳び退き、盾と槍を構え直して正対する。

 

 そんな初めて見る『自分に気圧される母親』を鋭く睨みながら、歪んだ唇は棘に塗れた問いを続ける。

 

「一応訊いておきましょうか、何のつもりかしら母様?

 何の罪もないエリーシスの民を、血を分けた肉親(おとうと)のユリアンを殺して何食わぬ顔で崇められている大神官ガシェルを殺す為に私はここに居るのよ?

 まさか私を止めるなんて言わないでしょうね?エリーシスの主であり、ユリアンの親であるあなたがッ!ガシェルを守るようなことをするなんて、ありえないわよねッ!?」

 

 燃え墜ちる城から悲嘆と絶望を胸にザハークに連れられて逃げたあの日以来、シルヴィアの優しい肯定に包まれながら凝縮し濃縮し尽くした殺意と憎悪の宿る眼光。

 優しい娘だった面影などどこにもない悪鬼の姿に顔を苦しげに歪め、それでもエアは毅然と言い返す。

 

「ガシェル、様……には、私も思うところがあります。ですがそれは今の貴女を見過ごす理由にはならない。

 日々を必死に生きる民草にこのような惨い仕打ちをし、破壊と殺戮を振り撒く―――それが貴女の望みですか!?そのようなことを母は貴女に教えましたか、ティアっ!!」

 

 周囲の血と屍に塗れた地獄絵図を示しながら叫ぶ。

 イルダーナフの汚れた献身による支えであろうと、この集落に住んでいた者達に何の罪過があったのだろう。人間同士でいがみ合わされた挙句一方的に殺しつくされた彼らは、生きているだけで許されないことをしたとでもいうのだろうか。

 ましてこの惨劇はティア軍がメスキア全土に次々広めている。ニヴェルネもクシナダも、方向性が違うだけで同じように民が無慈悲に蹂躙されているその元凶が今のティアなのだ。

 

 自分は始祖龍様に選ばれた種族だから他の種族はどれだけ踏み付けにしてもいいという神竜の傲慢を憂いて、せめて自らが治めるエリーシスは人間達も暮らしやすい国になるようにエアは努力してきた。魔族の排斥もいつかはなくしていけるようにと理想を掲げていた。

 その在り方をガシェルに疎まれ国ごと滅ぼされたとしても、願いは娘であるティアに受け継がれていた筈なのに。

 

「母として、貴女を産み育てた者として、今の貴女をそのままにしておくわけには行きません―――絶対に止めます。それが私に出来るせめてものッ」

 

 決意を胸にティアに襲い掛かる、翼と下半身のバネを全力で活かして突進からのランスチャージ。芸術的とすら言える体捌きから繰り出されるそれは無拍子の剛撃。幾度となく魔族の将を沈めて来た必殺の一閃。

 

 

 神竜殺しの復讐姫は真正面から弾き返した。

 

 

逆上(のぼ)せあがるな、半端者ッ!!」

「な……っ!?」

 

 

 ここに居るのはもう母への甘えを残した箱入りの姫ではない。復讐の誓いを糧に一軍を率いて国を滅ぼしてきた魔竜族の王の一角だった。母より教えられた武技はこれまでの戦いで血と肉に馴染み、似て非なる流儀に昇華してかつての師を圧倒する。

 

「自分について来てくれる民や、自分のお腹から産まれてくれた子供を一方的に殺されて出てくる感想が『思うところがある』?ふざけてるにも程があるわ。結局その程度にしか大事にしていなかったってことでしょう。

 そんなあんたに教えられたことなんてたった一つしかない―――口先だけの綺麗言も、見せかけだけの優しさも!そんなものじゃ何一つ守れないし救えないのよ!!」

 

 槍と盾を操る竜騎士が互いに激しい戟音を奏でながら火花を散らす。始祖竜装による鉄壁の護りを敷くエアと、盾を敵の護りを崩す武具として積極的に用いて反撃の暇を与えないティア。

 

「だとしても……っ、理想を掲げるのが将の仕事。そして騎士として超えてはならない一線がある。

 そのどちらにも貴女は背いてしまっている!!復讐はあなたを正当化なんてしない!!」

「ええそうよ!全てを失くした私を支えてくれたのは、肯定してくれたのはあんたじゃない。ザハークと、シルヴィアよ!!

 今更のこのこ出てきて正論だけ言われて……はいそうですかなんて頷くと思うのかッ!!?」

「――――っ」

 

 互いの槍が必殺の間合い同士で干渉して幾十も交錯したかと思うと、次の瞬間には盾同士で互いを圧殺せんと押し付け合う。竜装の質に任せて鬩ぎ合いに打ち勝ったエアが追撃の槍を振り下ろす……よりも先に、体勢を入れ替えて肉迫したティアの蹴りが腹部にめり込んだ。

 

「大体そうやって、あんたが本当に大事に思ってるのは何?何を守りたいの?何を守れたの!?

 国?理想?民?家族?忠誠?信仰?全部が中途半端で、結局全部が台無しじゃない!!」

 

 公王の竜装を持つエアに対してそのレプリカで挑むティアが不利の筈なのに。空中で歪な軌道で吹き飛ばされる母に容赦ない刺突の乱舞を食らわせる娘。

 

「『せめて私を止める』?それが何になるのよ。それで何が救われるのよ。それで何が変わるのよッ!?」

「今の私に出来ることは―――、ぁぐっ!?」

 

 曲芸染みた身のこなしで必死に連撃を躱して捌いて弾くエアだが、勢いに乗ったティアを押しとどめることは叶わない。遂に槍の穂先が右の竜翼を捉え、翼膜を切り裂く。

 

 

「母様が生きていてくれて、こうしてまた会えたのに。『せめてティアだけは守る』って、なんでそう言ってくれないのよ……っ」

 

 

「ティ、ア……っ」

 

 まともに飛ぶことも出来なくなり地に落ちる竜公女。背を強かに打ち付けて、しかしただただ茫然と空を見上げた。逆光で窺えないが、娘が泣いていることに気づけない母ではなかったから。

 自問する、自分は正しさに囚われて何がしたいのかさえ見失っていたのではないかと。ティアに糾弾されたとおり、本当に守り通すべきものが決められなかった結果、全てが零れ落ちたのではないかと。

 

 結局ここまでの戦いはただの親子喧嘩だった。だからザハークやシルヴィアは援護も支援もしなかった。だが決着は付いてしまった。………地に降り立った愛娘の顔はもう冷たい復讐姫のそれに戻っていた。

 

 エアの取り落とした聖盾シルティスをティアが拾い上げる。エリーシスに受け継がれてきた蒼銀に輝く盾の始祖竜装は、正統なる後継者が正々堂々先代を打ち負かしたことでティア=エリーシスこそ現在の担い手と認めたらしい。仄かな燐光と共に内包する魔力(マナ)をティアのものに置き換えた。

 

「これでいい。ザハークの四天将の封印は後で私と交われば解ける。

――――私の母様はエリーシスが滅んだあの日に死んだの。ここに居るのは、結局何も為せないのに迷い出てきたただの亡霊」

 

「ティア姫……」

「後悔しないんだな?」

 

 抑揚のない声で言い放ち、竜装キシャルの刃を母の首に添える。

 労しげなシルヴィアの声と重いザハークの問いに一瞬身体を震わせ、……腕に力を籠めた。

 

「今ここでやれなければ、もう私はこの先この女を殺せない。

――――後悔しないためにこうするのよ!!」

 

 槍が己の首を刎ねるのをエアは静かな心で受け入れる。

 

 

(嗚呼、ごめんなさいティア―――)

 

 

 母親のくせに娘と分かり合うこともできなかった謝罪だけを思い浮かべたまま。

 

 黒髪の公女の首は、切り落とされた。

 

 

∵∵∵演算豈肴ァ倥r谿コ縺吶↑繧薙※∵∵∵

 

『いやああああああああああああああああっっっっ』

 

∵∵∵∵縺昴s縺ェ縺ョ遘√§繧?↑縺∵∵∵∵

 

 

「何、これ……!?わたしの、からだが、消え―――」

 

「来た……ッ!もう、自分だって母親を諸共灰にして消し飛ばしたくせにっ、ええい!」

 

「シルヴィア、何が起きてる!?もう大丈夫なのか!?」

 

「応急処置です!私が結界を解けばまた『デリート』が再開します。

 でも要はこれ魔力(マナ)干渉なので………助けてくださいザハークさん!!」

 

「!!暗黒物質(ダークマタ)か……!

 ああやってやるよ。せっかくここまで調教した俺の女だ、こんな訳も分からない内に消させてたまるかってんだよォ!!」

 

月天の雫(セレスティア)、ティア姫とザハークさんに加護を!頑張って、ティア姫―――!!」

 

 

「ああ……ザハークとシルヴィアが私のナカに入って、融けてく……!すごい……っ!!」

 

 

 そしてその行いによって創造神(システム)の削除対象になったティア=エリーシスは、魔天の姫の加護を受けながらザハークの力を注がれることによって転生する。あったかも知れない暗黒の可能性よりもさらに凶悪に、黒化した聖盾を携えた最悪の竜姫へと。

 

 

「満たされてる、愛に満たされてる!!あはははっ!今なら何でも壊せるわ、何だって護れるわ!!」

 

 

 灰髪褐色肌の魔神と同じ風貌となった少女。竜翼は闇の炎で象られ常に煌煌と燃えている。そして最愛の姫軍師と同様、淫紋の刻まれた扇情的な肢体を妖艶に露出する黒鎧の出で立ちへと。

 

 惨劇の集落で母の骸と馘の傍ら、新たな『禁忌』の竜姫による高らかな哄笑。

 それは確定した神竜滅亡の未来を告げる鐘の音に等しかった―――。

 

 

 





『ガシェルを守るようなことをするなんて、ありえない』
→一応補足しておくと、長期間無理やり術で操られてたのでエアさんの身体はボドボドです。余命なんてなくて正しいやり方でガシェルを裁きたくても到底持たないから、道を誤ったティアを止めることが自分に出来る精一杯だと思って娘の暗殺に踏み切ってます。
 それに対するティアの反論は本文のとおり。まあ、娘含めた敵味方オール外道畜生なメスキア戦の光景にショックを受けたのもあって短絡的な思考になったのが敗因でしょうか。

「『せめてティアだけは守る』って、なんでそう言ってくれないのよ」
→ティアにとって最後の分水嶺。母親としてせめて無条件で娘の味方をして、その上で「貴女は優しい子だったのを思い出して」って死に際のお願いをしたのならちょっとは芽も出たかも知れない。だがもうなくなった。

『黒化した聖盾を携えた最悪の竜姫』
→ここまで来てメインヒロインだけ原作通りってのもね。ユニット名は魔神ティア、とかでしょうか。

『竜翼は闇の炎で象られ常に煌煌と燃えている』
→ベッドで寝られなさそう(ぇ

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