ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 軽くシリアスやってからの掲示板回で凄惨姫の内心を……的なこと考えてたら想像以上に文量が伸びた。

 痴女に解説させないといけない内容がどんどん溜まっていく……()




謹慎の魔竜姫

 

 ベヒモス指揮車輛に据え付けられたモニタの中、メスキア首都アマルナはニヴェルネもかくやと言わんばかりの白一色に覆われていた。浮遊大陸で最も緑豊かな光景を無惨に一変させる存在が神竜に居る訳もなく、娘のレヴィアの能力を考えればそれをより凶悪にしたのがヴェジェトの長刀の竜装アンドルディースなのだろう。

 有象無象は取り込まれるだけで死に至る魔力の吹雪『氷獄結界(コキュートス)』。事実戦場が神竜の本拠地であるにも拘わらず一切の雑兵が魔竜王に纏わりつくのを防いでいるが―――それ以上にはなっていなかった。

 

 大気中の魔力素(ソーマ)を如何なく取り込み、纏った魔力(マナ)が可視化され赤金に発光させるまでに至った震天の竜姫ファフネル。聖門の攻防戦ではヴィーヴルによって発動を封じられていた始祖竜装ヴォルスングの奥義を解放した彼女は、誇張抜きで大陸最強の戦士と化している。

 摂氏マイナス二百度の冷凍空間を意にも介さない耐久力、魔竜王ですら打ち合うことも出来ず避けるしかない重さの斬撃を繰り出す膂力、エデンへの狂信が生み出す一切の揺さぶりが通用しない精神力。

 

 威力、圧力、暴力。それも全ては遂に戦場へ降り立った神竜王への一切の危険を排除する為………即ち、今の竜将軍ですら『供廻り』でしかないという恐るべき事実がある。

 

 黒曜の角と翼を持つ神聖の二文字を身に纏ったかのような竜少女エデン。幼い風貌と裏腹に秘める権能は古の始祖龍のそれ。

 錫杖を振るう度、魔力(マナ)で編まれた黄金の神獣が無尽蔵に召喚されヴァジェトに襲い掛かるのはまだいい。流石の魔竜王というべきかファフネルに対処しながら囲まれないように飛翔し、その片手間で氷刃を操り全て雪景色に沈めている。

 だが錫杖自体が黄金に輝いた瞬間、ふと彼女の姿が霞んだかと思うとヴァジェトの死角に位置を移し錫杖を一閃。それだけは何としてもと言わんばかりに紅翼の竜王は必死に身体を捻る。脇を掠めた軌跡は断裂となり―――背後の凍った大地を豆腐も同然に抉り斬った。

 

 当然隙を見せた怨敵をファフネルが見逃す筈もない。大上段から振り下ろした大剣が魔竜王を捉え、咄嗟に長刀で防ぐも吹っ飛ばされて地面に肢体を叩き付けられ、派手にバウンドしながらもすぐさま体勢を整えて構えた。口元から一筋の鮮血を垂らしつつ、だが。

 

 

「神竜王エデンの能力は時間停止、ですね」

「んっ……」

 

 

 灰に染まった髪を梳いたり尖った褐色耳を擽ったりポップコーンを口元に運んだりして膝の災厄姫(ティア)を愛でながら、紅血の髪を二房に結んだ軍師姫(シルヴィア)は自らが演出した双竜王の激突を冷徹に観察していた。

 

「今のを高速移動や空間転移と考えるには、衣服や姿勢に移動前と移動後で違和感があります。何もかもが停止した場所で自分だけが動いた……そう表現した方が妥当な動きをしています。

 あの不可視の斬撃も、『時間の停止した物体を通常の物体に押し込めば全てを切断する無敵の刃になる』といった理屈でしょうか。凍結への対処だって、温度が伝導するには“時間”が必要ですからね」

「こう遠目に見て解説付きなら、なんとか分かるわね」

 

「な、なんですかそれ、反則なのです!」

「そうッスよ、自分だけが動き放題でしかもどんな硬い物でも斬り放題って、そりゃねえぜ!?」

 

「確かに脅威だけど、対処できない訳でもなさそうよ?あの杖も竜装なんでしょうね、魔力(マナ)で空間そのものに干渉して時間停止を引き起こしてるってことならその干渉を妨害してあげればいい。

 ザハークの暗黒物質(ダークマタ)とかシルヴィの『月天の雫(セレスティア)』の結界掻き消しとか、あとはヴィーヴルの霧みたいな空間全体に影響を及ぼす竜装とか。現にヴァジェトもそうやってエデンの攻撃を避けたんだろうし」

 

 目を白黒させて慌てふためく狼人族(ガロード)姉弟を宥めるように魔女竜(アスタ)が見解を述べる。だがその声音は硬く冷たい。魔竜王に対する敬称がなくなっていることを考えずとも、原因は明白だった。

 

 

「ええ、こうして予め知っていれば対処は出来るでしょう。ですが初見ならこれほど凶悪な能力はなく、為す術なく全滅する事すら考えられる。

 なのに何故、ヴァジェトはメスキアを攻める私達にこの事を伝えていなかったんでしょうね?」

 

「………っ」

 

 

 かつてエデンと引き分け、今でも当然のように時間停止に対処しているヴァジェトが敵の能力を知らなかったとは言わせない。

 

 まして四公国が無力化し国の護りを考える必要が激減したのに、メスキア侵攻に際し兵力を出さず静観していたネフティス軍。なのに首都決戦の当日になって単身戦場に潜り込もうとしていた魔竜王。

 

 汚らわしい悪意に裏切られ大切なものを失ってきたティア軍幹部達に、この期に及んでヴァジェトを擁護しようと思う者はいない。

 魔竜王の意図した思惑を狂聖女(ヴィーヴル)は唾棄するように言い当てる。

 

「このまま私達にすんなりメスキアに勝ってもらっては困る、エデン相手に全滅するか相応の被害が出ていた方が望ましい―――つまりは戦後切り捨てる算段なのでしょうね、魔神解放戦線を。

 ヴァジェトが単身現れたことについては、その前に私達にガシェル達の目が向いている隙にアマルナで何かやることがあったのでしょう。例えば神竜族の秘宝を確保するなど」「こそ泥魔竜王ってか。傑作だな」

 

 戦後シルヴィアの指摘した疑問は必ずティア軍から発せられる。それに対する上手い言い訳なんてある筈もない以上、ヴァジェトの回答は3通りしかない。しらを切るか、開き直るか、死人に口なしか。いずれにせよ上位者として一方的な都合で理不尽を押し付ける対応に変わりはない。

 

「自分の都合のいいように戦わせて、いざとなれば攻め滅ぼす。アルトンの時と同じ。

 なんだ、神竜(ガシェル)魔竜(ヴァジェト)も腐った性根は変わらないんじゃないですか。所詮は屑と屑の喰らい合い」

 

「………抗弁の言葉もないわね」

 

 魔竜王にとってティア軍はメスキアにとっての四公国と同じで、好きに使い潰していい便利な駒でしかなかった―――そんなこの戦役そのものを昏く揶揄する翼竜姫(ピアサ)に、部屋中の面々から白眼視をずっと浴びている客将の魔竜姫(レヴィア)は項垂れて自嘲しか出来なかった。

 

 レヴィアとて民の為に汚れた手管を使う必要を否定する気はない。だがそもそもヴァジェトが王として戴かれたのは神竜族の横暴に対抗し虐げられる魔族を救う為であり、それがネフティスの国是だったのだ。なのに味方の足を引っ張ってメスキアを滅ぼすのを後回しにするような行いをして、今までの戦で大義に殉じて命を散らして行った将兵に果たして胸が張れるだろうか。同胞を救う為の大いなる反抗を自ら『屑と屑の喰らい合い』に(おとし)めて、現場で命を張る戦士達が納得出来るとでも思っていたのだろうか。

 

 ティア達にわざとエデンの能力を教えなかったことについても、魔族の価値観からすれば『騙される方が悪い』『弱いのが悪い』と言えなくはない。だがシルヴィアに暗躍を察知された挙句逆手に取られて神竜王への当て馬にされている現状は、それこそ魔族の価値観からすれば『無様』の一言だった。

 

 故に―――。

 

 

「投降する。敵の本丸に攻め入ろうって時に、魔竜王の娘である私が傍に居たら安心して戦えないでしょう?独房にでも入っているわ……そこで転がってるテュポーンと一緒にね」

 

「――――」

 

 

 理屈も意義も関係なく兵器としてマスターであるヴァジェトの危機を知って駆け付けようとしたが、整備と修理を誰がやっているかを考えれば明らかに無謀な独断出撃をしようとして案の定アスタに強制停止させられて床に俯せで大の字になっている機竜に苦笑を向けながらレヴィアは両手を上げる。

 ジュデッカに腰の竜装を没収されても抵抗しない、堂々として潔い態度だった。

 

「別に俺らの誰も、お前のこれまでの戦いを疑っちゃいねえよ」

「ありがとうザハーク。でもだからこそ、ケジメはちゃんと付けなきゃ」

 

 レヴィアが客将でありながら、今までの戦いで常に最前線で命懸けで戦い続けたこと、軍務に一切の手を抜かなかったこと、それ自体はこの場のメンバー全員よく知っている。親は親で娘は娘、その咎を継承させるべきでないことも。

 だが眷属でない彼女の元々の配下にネフティスの息が掛かった者がどれだけ居るのかなどを考えても、『魔竜王の娘』をこの局面で自由にさせるべきでないのは当のレヴィアが一番分かっていた。

 

 

 

 己の魂が絶対に嫌だと叫んで居たとしても、どうにもならないのだと。

 

 

 

―――魔族の自由と尊厳のため、王女として将として戦い続けた数十年。

 

 やっと本願が果たせる、メスキア陥落の瞬間をこの目で見ることができる。

 自らもその功労者の一員であることについ昨晩まで高揚と誇らしさだけを抱いていたのに、最後の最後でこんなケチを付けられた。それも敬愛していた母親に、だ。

 

「本当に、……何やってるのよ母様」

 

 首都アマルナ攻略戦、魔竜姫レヴィア=ネフティス及び機竜テュポーン不参加。

 軍録に正式に記載される不名誉は、彼女が“自分の戦争”を汚され台無しにされた確かな証拠。

 

 

 独房の暗い部屋の中、黒く煮えたぎる憎悪が心に芽吹いたことに、レヴィアは無意識に気付かない振りをしていた。

 

 

 

…………。

 

 そして命を削りながら更なる猛吹雪を起こすことでなんとかエデンとファフネルの猛攻を振り切ったヴァジェトは、逃げた先で当然のようにティア達一行に囲まれていた。

 

「言いたいことは分かってるわね?」

「ふざけ、るな……そもそも全ては貴様の―――」

 

 

「見苦しい。ガシェルの同類風情が一端の口を利くな」

 

「ぐう゛っ!!?ご、ぁ……」

 

 

 満身創痍とはいえ隙のない構えを取っていた筈のヴァジェトの竜装を虫でも払うかのように弾き、鳩尾に鉄拳を抉り込むティア。

 肋骨を外向きに粉砕されながら芯を貫くような衝撃がヴァジェトの最後の意識の手綱をぶち切った。

 

(ザハーク……わた、しの……)

 

 霞みゆく視界に収めたのは数百年追い求めた魔神の………つまらないものを見る醒めた表情。

 

 それが一大勢力を築き上げ浮遊大陸における神竜族の覇権を脅かし、古くは■神を製作し竜杯の脅威から世界を救った天才科学者が正気で見ることのできた最後の光景だった。

 

 





「こそ泥魔竜王ってか。傑作だな」
→メルジーニちゃん容赦なし。
 実際Hの超ワガメガミ人と似たようなムーブをしてる訳で、アレと同類なのに立派な王様面はちょっと無理がある魔竜王。自分の民のことを配慮する分だけまだましだけど、その辺りがヴェリトールに内心馬鹿にされてる所以なのかなあ。

『強制停止させられて床に俯せで大の字になっている』
→ポンコツ機竜居ると場の重さが和らぐよね。え、この後?
 …………。

『黒く煮えたぎる憎悪が心に芽吹いた』
→戦争大好きなレヴィアちゃんのクライマックスに冷水ぶっかける行為。
 いくら母とはいえ、いやだからこそ―――。

『鳩尾に鉄拳を抉り込むティア』
→母娘揃って腹パン。おそろいですね♡

『天才科学者が正気で見ることのできた最後の光景』
→うん。ぶっちゃけヴァジェト戦はザハークとの因縁でシルヴィアが居たからってなんか変わるもんでもないからわざわざやりたくない。個人的原作ベストバウトのヴァジェト対レヴィア(カオスルート)を超えられる気もしないし。
 という作者の都合なのでさくさく退場しましょうねー(外道)

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