ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 ヴァジェトさん不在のネフティス。中々愉快なことになってます。




即位の魔竜皇

 

 メスキア陥落―――。

 

 魔神戦役に勝利した始祖龍の力により繁栄を謳歌し、浮遊大陸に覇を唱えた神竜族の国が遂に落日を迎えた。

 

 かつて始祖龍と共に魔神ザハークを討伐した勇者の末裔達であり、メスキアを守る四公国の公主でもあった四天将―――だが封印されていた魔神と契約せし災厄姫ティア=エリーシスが母エアを殺してその地位を継承、他の三姫は彼女の軍門に下っている。そして最後の末裔である大将軍ファフネルは風の四天将ピアサに敗れ処刑された。

 始祖龍の生まれ変わりとされた神竜王エデンはザハークの調教に屈し、触手を常にしゃぶっていなければ発狂する苗床奴隷と化した映像を魔竜族領を含めた全土に曝してしまった。エデンを傀儡として権力をほしいままにしていた大神官ガシェルは彼が滅ぼした亡国の姫ティアとアスタにより拷問の果て滅殺される。

 

 主力も旗頭も失った神竜軍は未だにティア率いる魔神解放戦線に抵抗しているものの、最精鋭は国境防衛戦や首都決戦で壊滅している。街一つ解放できないまま討伐を待つだけのまさしく『残党』でしかない。

 まして謀略の堕姫シルヴィアによる民心をばらばらにする悪辣な統治の下では、潜伏してレジスタンス活動を行うことすらおぼつかない。同胞かつ庇護していた筈の同じ神竜の民に売られ、次々と魔神の眷属に蹴散らされていく。

 

 

 最早神竜族がかつての隆盛を取り戻すことなど不可能だろう。息を吹き返す希望の芽は徹底して摘まれ、かつて彼らが魔族や異端に科していたよりも更に惨めな奴隷種族の道を歩むこととなる。

 

 

 一方で神竜の横暴からの脱却の為、魔竜族として団結した者達。

 デルピュネに住む国民、また旧アルトンやクシナダに入植した眷属達は悲願の達成に多いに沸いた。機竜王テュポーンからの革命を為して自分達の生活を劇的に改善しながら、遥々メスキアを征服して二度と神竜の傲慢に(おびや)かされることのない日々をもたらしてくれた英雄達。その名を称え、偉業を(うた)い、感謝の祈りを捧げる。

 

 首都エトナではまるで毎日がお祭り騒ぎのような有様と化していた―――あくまでデルピュネ国内のみでは、だが。

 

 

 ネフティス首都ラムセス。数百年に渡る神魔の相剋の歴史を刻んできた戦乱の浮遊大陸の澱みは、容易く晴れる訳もなくこの地にて噴き出そうとしている。

 

「この者、独断でティア軍と接触を持とうとしていたところを取り押さえられてございます。内通者かと」

「お聞きくだされ!神竜族が滅びた今、かの国と戦端を開くことは魔竜族の為に―――ごばぁっ!?」

 

「―――その薄汚い口を閉じろ、敗北主義者め」

 

 王城の謁見の間、かつてティア軍の面々が魔竜王ヴァジェトに拝謁した場所で手枷足枷を嵌められ引っ立てられていた老魔族。弁解ではなく真実国を想って叫んでいた彼の言葉は、禍々しく歪んだ刃に首を切り裂かれたことで永遠に形になることなく消えてしまう。

 

「流石は幽騎将マキュリア殿。素晴らしい槍の冴えよ」

「然り然り。実に頼もしい、連戦で疲弊したティア軍など鎧袖一触してくれることでしょうな」

「恐縮です」

 

 その惨劇を見届け、ねとりと喉に引っかかるような声で処刑人を褒め称えるネフティスの文武の政官。処刑人―――そう、非力な人族でありながら魔竜族の将軍にまで登り詰めた長身の女騎士マキュリアは、蒼白な肌をした表情を僅かに動かすこともなく賛辞に対して一礼するに留める。

 普段はヴァジェトのお気に入りでもあった彼女のそのような態度に対し『人間のくせに』と妬み混じりの悪意を向ける諸将達は、しかし別の関心ごとにかまけて気にも留めない。

 

「しかしティア軍と戦うななどと。今を置いてかの国と戦う機など在りはしないというのに」

「ヴァジェト様が心の支えだったのでしょう、彼女を失ったことで魂と誇りまで弱ってしまったようで。実に哀れなことです……フフっ」

「ですが我々には新たな魔竜王が着いている。

――――レヴィア=ネフティス陛下。正統なる後継者に一層の忠誠を尽くしますぞ」

 

「レヴィア様、我らと共に必ずやお母君の仇を討ちましょう……!!」

 

 

 

(………あー、しらじらしー)

 

 

 

 交わされる会話に呆れと馬鹿馬鹿しさしか感じなかったが、玉座にて脚を組んで睥睨するレヴィアはそれを完全に覆い隠し冷厳な女帝っぽさを演じる。

 

 シルヴィアの計らいでベヒモスを脱したレヴィアは、あの後()()うの体で逃げ出した感を演じる為に適当に自傷してからネフティスに帰還した。そして、ヴァジェト不在に浮足立ちながらも慌てて出迎えたマキュリア達の前で一世一代の芝居に取り掛かる。

 

 

『ティア達は、メスキア制覇に傲って我々ネフティスを敵と見なしたわ。現地に出向いてきてくださった母様を罠に嵌めて、……ぅっ、口にするのも憚られることになって』

 

『なっ、ヴァジェト様が、まさか……ッ!!?』

 

 

 痛む傷をわざと意識して息も絶え絶えに、悲嘆に暮れる口調で語りつつ『形見』の魔竜王の竜装(アンドルディース)を掲げるといい感じに勘違いしてくれた。まあ実際母の現状としては、産卵苗床として口にするのも憚られる状態になっているだろうが。

 

 

 あるいは、下手をするとY-MANみたいにメカヴァジェトとなってこちらに立ち塞がることになるのだろうか。

 

 

 涙を滲ませながら身を震わせる―――自分の想像に吹き出しそうになるのを必死で堪えていた―――レヴィアの姿に『ティアの裏切り』と『主の末路』を確信してしまったマキュリア達は、仇討ちの戦を起こす為レヴィアが母の後を継いで即位するのを後押ししてくれた。そして魔神解放戦線と友好関係を結ぼうと考える者達を粛清し国内を開戦ムード一色へと染め上げんとする。

 

―――元神竜族でありテュポーンからデルピュネを不法に奪っておきながら、『先代』魔竜王ヴァジェトの計らいでその統治を認められたにも拘わらず、恩知らずにもティア=エリーシスはヴァジェトを害した。奸雄ティア、討つべし。

 

 結果、現在ネフティス政道の大勢を占めているのは概ねこういった主張である。

 

 ただ実際彼女らの働きやそれを新王として容認するレヴィアの後ろ盾がなくとも、この流れは遅かれ早かれだっただろう。

 マキュリアを始めヴァジェトに心酔していた者達は心から仇討ちを叫んでいるが、国内各勢力にも当然それぞれ思惑がある。

 

 果たしてそれは……と勿体(もったい)付けるまでもなく、戦争したい理由なんて感情を除けばもう一択しかないが。

 緑溢れる豊穣の大地。明日の食糧を心配することもなく、鉱石を求めて不毛の荒野を彷徨う必要もない。憎き神竜族が独占していた世界は遂に魔竜族のものになった――――『ならばその権利は宗主国であるネフティスが持っているべきだ』。属国のデルピュネが独占しあまつさえ神竜族だったティア=エリーシスの手にあるなどおかしいではないか、と。

 

 勿論旧メスキア始め浮遊大陸西部はティア軍がこれまで独力で血を流して勝ち取った土地である。だがだからこそ、たった二年でニヴェルネ・クシナダ・メスキアと連戦を重ねて来たデルピュネは極限まで疲弊しているに違いない。ここで一息に軍を起こして背後から強襲し、そのままそっくり領土をいただいてしまおう……とまあそういう筋書きだ。

 

 これまで碌に援軍も出さなかったネフティスが最後の最後で都合よく掌を返し、宗主国だからと上前を撥ねようなどと手前勝手な話である。労せず美味しいところだけ掠め取ろうとする醜悪さを誤魔化すには少々無理があり過ぎる理屈だが、彼らはそれが正しいと心から信じている。

 

 

―――なんのことはない、属国に戦わせる中で宗主国として傲慢さを醸成させるのは神竜族に限った話ではなく、魔竜族も同じだったということだ。

 

 

 ヴァジェトが国を興しメスキアと戦争を始めて最早数百年。前線から離れ他者に戦わせてばかりでは魂も腐るということだろう。

 

 とはいえ彼らの言い分にも一理はある。今こそ戦う時―――というか『戦うとしたら』今しかないというのは尤もなのだ。魔神の眷属によって戦力・労働力があまりに容易に補充できるティア軍が神竜族という上質な苗床の山と資源豊富な旧メスキアまで手中に収めているのだから、瘴気で領土の殆どが荒廃しているネフティスが手を(こまね)いてはいずれ国力に埋めがたい差が出来ていく一方である。

 

 あくまで『戦うとしたら』であり、今の時点でだって彼らが楽観している程ティア軍が疲弊している訳ではない、という前提を無視すればの話だが。当然メスキア攻めにおいても被害は出ているが、元四天将ら主要メンバーはすべて健在。兵力の補充だって数日もあれば部隊の再編制が可能な魔神のインチキさは客将として彼らを指揮していたレヴィアこそが良く知っている。

 更に言えば今やデルピュネを除いた魔竜族勢力最強格である黒鎧将ヴェリトール=バシュトラはティア軍総参謀シルヴィア=ハマルティアの養父であり、そうでなくともあの怪物がこんなくだらない欲得まみれの戦いに都合よくこちらの味方として参戦してくれるかは非常に疑問というのもある。

 

 

 だがそういった悲観的な事実、そしてネフティスの未来の為には先ほど処刑された者が言っていたとおり『敵には容赦ないが魔族には比較的寛容』なティアと友好関係を結んでうまく付き合っていくのが最良だということを、新たなる魔竜族の長は敢えて伏せていた。

 

 

 母の代から地位をそのままにそっくり受け継いだ政官や武将達は王になったばかりのレヴィアを立てて追従の言葉を並べているが、裏では既に分け前の皮算用を始めていることぐらい判らない程愚鈍ではない。絶対のカリスマなき今都合がいい神輿にできるからすんなりレヴィアがネフティスの王として即位出来ているだけで、仮に彼女が非戦論に宗旨替えした瞬間待っているのは暗殺か幽閉か。マキュリア達一派も自分がヴァジェトの唯一の実子である以上一定の尊重はしてくれるが、忠誠が向いているのがただ先代のみという点では大差ないだろう。

 

 

(だから磨り潰しても気が咎めないのだけどね♪)

 

 

 そう、『戦うとしたら』今しかない。

 今なら母が築き上げ、そして目的の為に温存していたネフティスの全兵力を使って魔神解放戦線と盛大な戦争を起こすことが出来る。

 

 神竜族という天敵が消えた今ヴァジェト不在のまま放置していればおそらく権力争いで分裂瓦解していた国だからこそ、『母の形見を持って仇討ちを誓う王女』という道化を演じるのと引き換えに、その全軍を指揮下に置いて戦えるのだ―――数百年の神魔の相剋にあっさりとケリを付けた、恐るべき魔神解放戦線を相手に。

 

 

 なんと心躍ることだろう。四天将を犯す度に強くなっていった愛しい魔神は、全ての封印から解放された今どれほど出鱈目な強さになっているだろうか。神竜共を苗床や武具の素材にして結成された悪夢の軍勢は、魔天の氷姫や狂いし聖女の狡知のもとどれほど無慈悲な蹂躙を仕掛けてくるのだろうか。そして憎悪の果てに魔神の力すら得た災厄の復讐姫は、敵となった魔竜族に対しても果てしなく無情な暴虐を振るってくれるに違いない。

 

 それほどまでに強大凶悪な敵に真正面から向き合い、肉の一片血の一滴に至るまで抗うことを想像すると今から頭が蕩けそうなほどの至福を感じられる。敗北してありとあらゆる尊厳を穢される末路でも、那由他の果てにある勝機に辿り着いて美酒に酔う可能性でも、等しく甘美極まりなく。

 

 

 嗚呼―――私は、戦争が大好きだ。

 

 

 かつては多忙極まる中自分を真っ当に育ててくれた母への孝行心や国を護る誇りによって逸脱することのなかった狂気は、他ならぬ母ヴァジェトの行いによって枷を解かれた。

 狂奔の魔神にあてられ、母への愛情は憎悪へと反転し、不思議な友誼を結んだ謀略姫の導きでこの状況に飛び込んだ氷華の皇はもう完全に自らのブレーキを叩き壊している。

 

 

 

「皆の想いは一つ。奸雄ティア=エリーシスの不義を糺し、この討伐を以て偉大なる母ヴァジェトへの手向けとしよう。そして浮遊大陸(ロディニア)を魔竜族が統一し、我々の永劫の繁栄を掴み取ることをここに誓う。

 

――――魔竜皇レヴィア=ネフティスがここに宣戦布告する。覇国ネフティスはこれよりデルピュネとの戦争に突入する!

 百将万兵すべからく!!魂の尽きるまで奮戦せよ、勇者達よ!!!」

 

「「「「おおおお雄於ォォォォっっっッッ!!!!!!」」」」

 

 

 

 幾度となく情と肉欲を交わした男そっくりの凄惨な笑みを湛え自分ごと全て狂い踊らせる凶姫は、容易く自らの思惑通りに最悪の死地に付き合ってくれる諸将達を内心嘲りながら韜晦する。

 

 

(ねえ、母様。貴女は私の戦場を台無しにした。

―――だから。貴女の残したこの国で……最高の戦争を愉しんだっていいわよねェッ!!!)

 

 

 かつて幼きレヴィアを抱き上げて幸せそうに微笑んでいた母の面影。凍り付いた心の奥底に浮かび上がったその虚像は、氷の砕ける音と共にばらばらになって闇に墜ちていった。

 

 





(………あー、しらじらしー)
→王にあるまじき母の所業と無様さを見て『魔竜族の為に』という大義が消え失せ、誇りある戦場すら一番いいところで取り上げられたせいで吹っ切れたレヴィア様。いい感じにかなりいい性格になっている。

『母の現状としては、産卵苗床として口にするのも憚られる状態になっている』
→監獄戦艦(LiLiTH)みたいになってます。+触手産卵があるからあれよりハードか……?

『最後の最後で都合よく掌を返し、宗主国だからと上前を撥ねよう』
→ロウルート七章は、ヴァジェト個人の思惑はともかくネフティスとしての動きが完全にこれなんですよね……。
 あいペドの時もそうだったけど、尺とかテンポの関係で描写されなかったんだろうこういう舞台裏を考えるの楽しいです。たまにライターそこまで深く考えてないだろうなーと思うこともありますが。

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