ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 あけましておめでとうございます、と言おうと思ったら大変なことになってますがとりあえず書き上がっているので更新。




闇黒の鋼機竜

 

 神竜族に受け継がれし始祖竜装。イヴェレン、斬焔(ZAN-EN)、ラーベラカルクス。

 かつて魔神を討伐した伝説の勇者達の武器は、狂気と悪意の下に振るわれ魔神の系譜たる魔族達へとその神威を解放する。

 

 ある意味で原点回帰。始祖龍エデンを(たす)けるべく当時のザハークが率いた眷属達の軍勢を切り裂いた神話の大戦と同じく、いまネフティス軍を地に撃ち落とすべく籠められた魔力(マナ)を奇跡へと昇華していた。

 しかし決定的に異なるのは、蘇った魔神がエデンの生まれ変わりとされる少女を堕として手懐けており、それを後ろに護る形で彼の敵を討ち滅ぼしていることだろう。千年の時を経た交雑で血の薄まった『魔族』を、より血の濃い直系の眷属を引き連れて駆逐している。

 

 己の身を苗床に差し出した担い手の姫君達が産卵した新世代がいる以上、魔竜族などという古い世代は無用の長物と言わんばかり―――神竜の独強を阻んだ功績こそあれど、仕えるべき魔神とその契約者に逆らったのであれば殲滅あるのみだと。

 

 駆り立てた欲望と衝動の代償はただただ無慈悲なる粛清。

 幽騎将マキュリアが率いるデスドラグーン隊もまた、例外はなく。

 

 

「テュポーン……っ!お前までヴァジェト様の恩を忘れ裏切るのか!!」

 

 部下の竜騎兵達が断末魔を上げながら翼を捥がれ、この世から脱落していく。

 不滅のアンデッドである屍翼竜(デッドワイバーン)達なのに、無機質な闇黒が織りなす線条に衝突した瞬間その力を失って灰に還っていく。

 

「――――ああ、そうか。お前はマキュリア、そう、マキュリアと言う名前だったな」

「リセットされたのか。その程度で忠義を忘れるか機械人形……!」

 

 一切の光を遮断する闇の光翼で滞空し、戦場にあって茫洋とした表情はかつての傲岸不遜な殺戮機械とはまるで別の機体のよう。三つ編みにしていた金髪も神経質に結い上げ、しかし垂らされた前髪は顔の右半分を不気味に覆い隠している。それがマキュリアの侮蔑を受けた瞬間その表情のままくつくつとくぐもった笑い声を立てた。

 

「忠義。ふふふ。お前はまだヴァジェト様の為に怒れるんだな。羨ましいな。妬ましいな。忌々しいな――――そして、哀れだな」

「何……っ」

「皮肉だよ、機械のボクにも心があった。絶望して初めて心があったことを知ったんだ。

 分かるか、絶望。お前が知らないものだよ、お前がこれから知るものだよ」

「このっ!」

 

 うわごとのように言葉を連ねながら、シルエットが削ぎ落されて重砲とは呼べなくなった竜装エキドナ改を無造作に連射する。砲口から放たれた漆黒の光線は明後日の方向に飛んで行き―――不意に鋭角に軌道が折れてマキュリアを含めた竜騎士達を貫かんと迫った。

 巧みに手綱を操り騎乗した屍翼竜(デッドワイバーン)に回避運動を取らせる騎士達だが、更に軌道の折れた光条が背後から騎竜の胴を穿ち(えぐ)る。

 

 銃創を刻まれた死せる飛竜達は、腐食した肉体の欠損が再生して埋まることも、元より死体であるからして胴に穴が空いても平然と動けるタフネスを発揮することも、日光を克服した高位の彼らには当たり前だった法則が何も働かずに―――それどころか断末魔の悲鳴を上げながら墜落していく。

 掠り傷やそれに伴う痛覚すら部位によっては致命傷になる空中機動戦においてアンデッドによる竜騎士部隊が圧倒的な有利を持っていた要素が完全に否定されていた。

 

 不死者の不滅性を看板倒れに帰す魔光。……魔力(マナ)干渉を拒絶する不壊の黒炎で創傷を汚染する闇の光条に捉えられれば、対象部位を丸ごと抉り取りでもしない限り術や(まじな)いによる治癒など出来ない。

 

 リフレクタービット、アルゴス改―――対となるエキドナ改と併せ、投射するのは暗黒物質(ダークマタ)を織り交ぜたエーテルレーザー。禁忌の魔女によって主共々散々に改造・機能追加されスクラップ寸前の姿と化した機械の梟の集団は、完全ステルス状態で敵を包囲し脱出不可能の檻を機竜の眼前に創り出す。

 避けたと思った光線が反射して再度襲い掛かる。不可視故に反射する地点も角度も予測不可能、一方で射手の殺戮機械が行う弾道計算の精密性など今更疑うべくもない。

 

「いいのか、ボクにばかりかまけて。そら仲間がいなくなるぞ、失うぞ、お前の無力の結果だ」

 

「ア゛ア゛ア゛アアッ、痛イ、痛イイイイィ!!?」

「テュポーン、貴様あぁぁぁっっっ!!」

 

 更には今の彼女が引き連れる『人形』たちも幽騎竜兵団(ゴーストドラグーン)には最悪の相手だった。機械人形ではなく、人形。アンティークドールのように美しいながらも、中途半端にヒトガタに似ているせいで生理的嫌悪を感じさせる不気味な陶器人形。しかし帯びているのはエーテルの波動ではなく、神聖な光だった。

 

 無垢なる者(イノセント)―――魔神の遺伝子に外世界のイレギュラーである半神半魔の姫君の母体を掛け合わせて生まれた、神力(エスピリト)で駆動する天界の尖兵達。

 それらが撃つ法術を浴びる度、手にした神剣で斬りつけられる度、呪われた不死の存在は激痛に絶叫しながら浄化されて動けなくなる。

 とりわけ四腕の巨大人形(イノセントグランツ)がその巨躯に見合わぬ俊敏さで片手に一振りずつ保持した大剣を薙ぎ払えばそれだけで盾も鎧も竜装も関係なく両断される。騎乗した飛竜ごと、であり最早再生云々以前の問題だ。あれ単体でかつての四天将に匹敵する脅威を有していた。

 

 アンデッドすら恐怖する情動のない人形達。それを統率する機竜もまた、虚ろな空言を繰り返しながら淡々としかし容赦のない射撃でマキュリア達を追い詰める。僅かな反撃の糸口も見いだせない冷徹な戦術思考で圧殺される側からすれば、どれ程の焦燥と恐怖を与えられることか。

 

「一時退却する!私が血路を切り開くから、皆は―――」

 

 

「―――誤差ゼロコンマ18秒。事前予測の範疇だ」

 

 

 ここから勝ちの目がないと、冷静に逃げの判断が出来た幽騎将は間違いなく歴戦の軍人だった。実行にも躊躇いなく飛竜を翻して槍を振るいイノセント達をガラクタに変えていく姿は、ネフティス有数の将の名に相応しい武威を示していた。

 

 悲しいことにAIの戦術思考にその底を見切られ、戦闘力どころか動き出す時機ですら完全に読まれていたが。

 

 

「大空を裂くは錆びた(くろがね)。終末の炎をその身に宿し、哀れな敵を呪いと共に無に還せ―――啼哭(ていこく)せよエキドナ、牙を折れアルゴス。もう、滅びの時間だ」

 

 

 すすり泣くような哀切に満ちた竜唱(ロア)を詠い、『わざと抜けようと思わせる配置にした』包囲の一角へと殺到しようとする残りのデスドラグーン隊に砲口を向ける。

 突破の為に密集した彼女らに向けられたエキドナ改の銃身に、ステルス解除したアルゴス改がたかるように寄り集まり長大なミラーを形成し―――最大出力のレーザーを幾何学的に反射を繰り返しながら更に集束させ、加速させ、解き放つ。

 

「………っ。申し訳ございません、ヴァジェト、さ―――」

 

 轟閃。闇のプラズマを辺りにばら撒きながら襲い掛かったそれは、振り返ったマキュリアに回避指示すら諦めさせる戦術級破壊兵器だった。

 当然呑み込まれた彼女の部隊は肉片一つ残さずその魂を戦場の露と散らす。そしてついでとばかりに直下のネフティス軍の地上部隊を中隊規模で薙ぎ払った。

 

「ああ、すまないなマキュリア。お前がボクの想定を超える程強くなかったから、ちゃんと絶望を教えてやれなかった」

 

 今の一撃でどれほどの命が消えただろう。かつてのマスターが苦心して築き上げた軍隊であり友軍に膨大な損失を与え、かつてどんな神竜族でもやらなかった規模で魔竜族を虐殺した機竜は殺戮機械に相応しい感慨のなさで見当違いの発言をする。

 当人が訊けば烈火の如く憤るような言いざまだが、その当人を消し飛ばした彼女からすれば意図は嘲りでも挑発でもない。かつてのテュポーンを思い起こさせるズレた発言がこの場において一層歯車が狂ったような違和感を与えていた。ある意味で率いているイノセント達よりなお理解の及ばない不気味な人形。

 

「いや、でも……かつて同じマスターを仰いだよしみだ。自分がヴァジェト様に殉じて従者らしく死ねたと思い込めるのなら、それもまた手向けか。

 今アレがどう成り果てているかを知らずに死ねたんだな、お前は」

 

 

 洗脳され己を完全に慰安娼婦と認識したヴァジェトから痴呆の表情で、しかも下劣な動作と淫猥な言葉で自らを貶めながら、「お前はもう要らない」と言われた道具。

 

 

 機械のテュポーンには心があった。心があるから絶望し、発狂し、諦観に支配される。

 

 マスター権を移譲されたアスタに好き放題改造の手を入れられ、やり過ぎのあまりどこかで暴走暴発するところをザハークの暗黒物質(ダークマタ)で無理矢理補強されているツギハギ人形。それは今のテュポーンの心の在り方そのものだ。

 

 

 ザハークに、ティアに、シルヴィアに、アスタに、憎悪の念を抱くべきだと理性が告げていても感情が発生しない。魔神に染め上げられ思考回路を直接弄られた機竜には、己を拾い上げてくれた『元』マスターの為に怒ることすら許されていない。そんな状態で芽生えた心がまともな形でいられる訳がない。

 

 血潮の濃い臭いが混じった生温い風が吹き抜け、垂れていた前髪を掻き上げる。

 露わになった彼女の右の顔面は、痛々しい機械の仮面が皮膚と癒着して装着されていた。残る片目の鮮やかな翠眼と対照的な赤のセンサーライトをその無機質な眼窩から漏れさせながら。

 

 

 まるでずっと―――血の涙を流し続けるかのように。

 

 





 堕ちシーンがなくても闇堕ちしていたテュポーン。まあ、慕ってたマスターであるヴァジェトが監獄戦艦した時点でこの子がハッピーになる可能性は、ねえ……。

無垢なる者(イノセント)
→恋人を土偶に改造して「美しい…」と悦に浸ってた超ワガメガミ人のセンスが光る神界兵器(なおその恋人に「まじ恨むぞテメエ」と言われた模様。残当)
 飛を持ってないし陸路移動だから多分飛べないんだろうけど、なんかひとりでに浮遊して襲い掛かって来そうなホラー系人形のデザインなのでつい。

四腕の巨大人形(イノセントグランツ)
→みんなのトラウマ微笑みデブ。全特攻+反撃倍加+高イベイドはルキフェル様もそうだけど、嘘対策してればあとは毒で弄り殺せるあっちと違ってこちらをざくざく切り裂いてくるのが酷い。自爆持ちで処理するのが手っ取り早いけど治療費が飛んでいく・・・。

『AIの戦術思考に底を見切られ』
→テュポーンが「貴様の底は見切った!」とか言うと失敗フラグ臭がすごいのだけども。

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