ORS白き皇女は悪堕ちしたい~安価は原作ヒロインの肯定ペンギンでした~   作:サッドライプ

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 この作品では敗れた四天将全員蹴ってきた訳ではあるが、見ようによっては難を逃れたのが約一名居るよね。

 さあこれも最後の死体蹴り。げしげし蹴っていこー(外道)




終着の機械神

 

「えいや」

 

 気の抜けたかけ声だった。

 

 だがたったそれだけでメルトセゲルの至近に空間転移してみせた竜女神シルヴィアは、機能停止した機械神ともども幾重もの光の帯に巻かれ形成した繭の中に(くる)まれていく。

 

「シルヴィア!」

「心配ご無用です。それより、事前の打ち合わせどおりにお願いしますね」

 

 咄嗟に声を上げた大将に、かつて絶望し闇に堕ちる以前を彷彿とさせるたおやかな笑みを返すと、そのまま両名の姿は光の繭の中に消えて行った。

 

 

 眩き神聖なる光が覆う白の景色の中、うずくまる蒼竜姫をただ見下ろす黄金のシルヴィア。

 彼女が有り余る女神の権能を無駄遣いし構築した、多次元的にも因果的にも外界と隔絶する繭の結界。他者が観測することすら不可能な閉じた世界の中で。

 

 

「嫌ああああああああぁぁぁ~~っ、嫌、いやいやいやっ!!?違う、チガウ、ちがうのォォッ!!??」

 

 

 拒絶と悲嘆に溢れる絶叫がこだまする。

 

 別段シルヴィアは彼女を害するようなことは何もしていない。相手が勝手に後悔し、勝手に絶望し、勝手に発狂しているだけだ。ティアが苦しみ悶えているのを冷たく見下ろすシルヴィアという、魔神解放戦線の仲間達が出くわせば夢だと疑うような構図だが。

 

 戯言で追い詰めた訳でも、粛清の光で痛めつけた訳でもない。ただ―――その身に溢れる奇跡を行使し、治癒を施しただけ。

 竜杯によって創造神となってから幾万年を数えるメルトセゲルを元の神竜族の体に戻し、暴走した狂気を全て取り払って正気を取り戻させただけだ。

 

 

「やめてええぇぇぇっっ、私に、こんな現実、見せな、い――――、…………………………」

 

 

「はいはい。イレカライレカラ」

 

 

「あ゛あぁぁあああ゛あぁぁ゛あ゛ぁあ゛ぁああ゛あぁぁ~~~~っっっ!!!!?」

 

 

 繰り返した演算世界(ラグーン)の数とほぼ同じだけ弟が死に、母が憎悪する敵の操り人形になり、竹馬の友と殺し合い、仲間と愛する男と新しい家族は戦場の露と消え、必死に生き延びた者たちすら失格と断じて鏖殺し尽くした。浮遊大陸の生きとし生けるもの全てごと、資源として再利用する為に。他でもない己の手で、己の意思で、気の遠くなるような数の命を冒涜し続けてきた。

 何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何十何千何万回でも。

 

 『憎しみに任せて全てを滅ぼすのではない、皆が笑顔でいられる世界が欲しかった』―――そんな甘い夢物語を空想した少女に、己が創り上げた醜悪な現実が耐えられる訳がない。取り戻した正気はそのまま一瞬で砕け散った。

 

 だから癒した―――発狂した。

 癒した―――心を閉ざした。

 癒した―――気が触れた。

 癒した―――自殺した。

 またすぐに蘇らせた。

 

 癒した。癒した。癒した。

 自分から水面に溺れる幼子を掬い上げては放り捨てるような、そんな残酷な慈悲だけをシルヴィアは与え続けた。

 

 『ティア』の心が壊れる度にそれを癒して二百と数十。絶望にも後悔にも鮮度というものがある。復活させられ続けた心の器は、罅割れ崩れるという逃避すらままならなくなる。

 涙腺が千切れたようなぐちゃぐちゃの泣き顔になって、しかし『ただ悲しむ』程度しか出来なくなってしまった始まりの復讐姫がやっと意味のある言の葉を紡ぐ。

 

「何故、どうして?私を壊れたままにしてくれないの?そんなにまで私が憎いの?」

 

 

「いや逆に憎まれない理由があると思ってるんですかなんかのギャグですか?」

 

 

「~~~っっ、ぁ―――」

 

「っていう冗談はさておき」

 

「―――!!?」

 

 さくっと刺した刃でもう一回『ティア』が発狂したが、例によって奇跡の大安売りで治すシルヴィア。

 次に放ったのは、戻ってきた彼女を突き放すようなより鋭い言葉だった。

 

「正直私はどうでもいいです。その安い感傷にも自己憐憫にも興味はありません。

―――もう貴女に“私達”を滅ぼす力はないのだから、どうぞ好きなだけ悲劇のヒロインに酔っていてくださいとしか」

 

「ふざけないで!貴女に何が分かるのよッ!?」

 

 八つ当たりをする程度には元気になった『ティア』を見届け、しかし冷たく竜女神は天啓を下すだけ。自分が全肯定するお姫様と顔がそっくりなだけの女に向ける慈愛など一片たりとてない。…………ただ。

 

 

「ええ、分かりたくもない。―――貴女の自業自得な絶望は、貴女が創った演算世界(じごく)で何万年も、ボロボロに擦り切れるまで貴女を救う為に戦い続けたヴェリトール(おじいさん)の時間と比べて何か顧みる価値があるとでも?」

 

「ッッ!!……それ、は」

 

 

 かつて独り荒野に放り出された小娘と出逢い、父親になってくれた男が報われて欲しいとは思ったから。

 ご都合主義でもデウスエクスマキナでもいい。見知った顔が繰り返し死に続ける最低の世界で孤独に戦い抜いた戦士が、かつて愛した女に引導を渡して消える―――彼が迎える結末がそんな救われない筋書きとなるのは嫌だと思った。

 

 満たされた幸福(悪堕ち)を捨て去り、忌むべき光に身を窶し(堕ち)てでも、見えてしまったからには選ばずにいられなかった最悪の選択肢。

 

「生きて罪を償えとかそんなおためごかしは言いません。

 彼が貴女の為に失い続けた全てに報いる義務が、貴女にあるのではないですか?」

 

「……もしかしてその為に、こんなことを?」

 

 やっと顔を上げるティア。見上げた竜女神の眼差しは冷たく―――妥協を許さない厳しさが籠められていた。

 そしてそれもほんの少しだけ緩む。

 

「あとは、まあ。たとえ消し去るつもりだったとしても、今の私達が生きてきたのは貴女が創った世界があったからこそですから。その分の借りは返すべきかな、と」

 

 こんな余計なことを考えてしまうんだから光堕ちって嫌ですよねーなどとぼやきながら、錫杖サイズとなり豪奢な装飾が施された『月天の雫(セレスティア)』を振るうシルヴィア。それに合わせて閉じた世界を構成していた光帯が解け、繭がほつれていく。

 

 視界を白一色に染めていた光が消え、『ティア』の蒼眼に飛び込んで来たのはプライマルラグーンの闇黒ではなかった。

 

 

 周囲一面に色とりどりの花々。澄み渡った青空。それを映して遠く煌めく湖。地平線の果てには連なる緑の山脈。

 枯渇した資源に喘ぐ浮遊大陸にはあり得なかった、瑞々しい風景。楽園と呼ぶに相応しい美しい自然がどこまでもどこまでも続いている。夢と疑うにも、自由気ままに吹き抜ける風が運ぶ魔力(マナ)と草花や土の芳香があまりに濃くて。

 

「何、これは……!?」

「プライマルラグーンの外側ですよ」

 

 繭の中で『ティア』が正気と狂気の間を反復横跳びしていた間、始祖龍の次元砲でプライマルラグーンの外殻に穴を開けてグランベヒモスのドリルで地表に出ていたティア軍。生まれて初めて目にする大自然の中はしゃぐ竜姫達やムムルにアイン、眷属達を遠目に微笑ましく見守りながらシルヴィアは詠う。

 

「かつて演算世界(ラグーン)を作るために全てを竜杯で分解した機械神の筐体は、浮遊大陸(ロディニア)を墜落させて獄域に沈み、星の核まで落ちていきました。太古に浮遊大陸が空に脱出した理由、汚染された地上(獄域)の瘴気の中で唯一生存できた魔神ザハークはこれ以上竜杯に餌を与えない為に地殻を暗黒物質(ダークマタ)で覆いました。―――それがあの闇黒球プライマルラグーンです」

 

 星の内側の空洞で幾つもの世界を生み出し『理想の結末』をメルトセゲルが演算し続けた、その一方で暗黒物質(ダークマタ)により完全に隔たれた地表では。

 

「何万年の時をかけて自然は再生する。古代文明に汚染され尽くした大地もその一切の痕跡が風化して、ご覧の通り」

 

 環境再生の為に造られた竜杯も始祖龍も魔神も関係なく、ただ膨大な時間だけが全てを押し流していた。

 そして今、複製データとはいえ連綿と営みを築いてきた竜と魔神の一族がこの新天地に足を踏み入れている。

 

「ガシェル=べリングスの企図していた始祖龍による浮遊大陸の延命などという、絶対にどこかで破綻していた神竜の管理世界(ディストピア)ではなく。結果として神の(くびき)から脱出してみせた私達が新世界(ユートピア)に辿り着いた。

 これはこれでガシェルへの復讐を遂げた『理想の結末』―――なんて、うふふ。ただの言葉遊びですけどね」

「…………」

 

 魔神解放戦線の面々は、戦勝の酔いも併せて皆笑顔で目の前の絶景にはしゃぎ回っている。ザハークやレヴィア、闇に堕ちたティアやテュポーンですら例外なく浮かれ切っていて。

 

 

 その光景は紛れもなく、『皆が笑顔でいられる世界』。

 

 

 当然ながらここに至るまで、悪姫達は色々なものを傷つけ踏みにじり切り捨ててきた。それは理想を描いた『ティア=エリーシス』とは決して相容れないやり方。

 それでも、今の彼女に目の前の光景を否定する気持ちは全く湧かなかった。

 

 そんな内心を見透かしたように、竜の女神は『肯定』する。

 

 

「確かに貴女はどうしようもないくらい間違えた。

 でも、何の意味もなかった訳じゃないんです」

 

「………そう。そう、ね。私の完敗」

 

 

 『ティア』にも言い分や物申したいことが無い訳ではないけれど、すとんと胸に落ちるものがあった。

 それを見計らって、蘇った蒼竜姫に背後から呼び声。

 

 

「話は終わりか?」

 

「ぁ――ザハーク………」

 

 

 原初の魔神、オリジナルの『ティア』と契約していた『ザハーク』。

 咄嗟に勢いよく振り返ったはいいものの、精悍だが皺が刻まれた顔と鎧の下に傷跡だらけなのだろう姿に何も言えなくなる。

 

 ありがとう?ごめんなさい?自分の為に彼が払ったのは、そんな言葉で代えられる程安いモノでは断じてない。

 そう思うともう何も言えなかった。ただ彼の姿を見つめ、唇を間抜けに震わせながらどもるだけしかできない。そんな『ティア』をヴェリトールは暫し目を細めて見つめ。

 

 

「行くぞ。さっさと来い」

 

 

「~~っ、うん。うんっ!!」

 

 

 背を向けて歩き出した彼の傍に、白い竜翼を羽搏かせて寄り添いに行く。

 もう絶対に離れない。どうしようもないくらい間違えた自分をそれでも受け入れてくれる最愛の契約者に、ずっとずっと報いると決めた。

 

「おじいさ~ん、お元気で~~っ!!」

「ふん。貴様もな!」

 

 義父と義娘。これが今生の別れと察していながら、黒鎧の背中は一度も振り返らない。シルヴィアもまたそれをよしとしてただ息災を祈る。

 愛する者を取り戻した彼のこれからに幸多からんことを、と。

 

 

 そうしてただの男と女になった魔神と創造神は、新天地のどこかに静かに去っていった。

 

 





…………あれ、なんか救われてる(ぇ

 次、最終回!!

「はいはい。イレカライレカラ」
→いともたやすく行われるえげつない行為。

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