「ルフィ、口の周りにパンくずついてる」
「おう!」
「またガープさんに殴られたのか。絆創膏いる?」
「いる・・・・」
「ハンバーグ食べきれないんだけど」
「食う!!!!」
ルフィにとって、イザヨイは村で唯一の同い年であり、親友だ。
ウタとも仲は良いが、彼女は少し年上のライバルという感じだし、エースやサボは“兄”で、シャンクスはいつか越えたい憧れの存在。
イザヨイは不思議なやつだった。周囲の人間に礼儀正しく親切で、家のお手伝いもキッチリこなす、日向ぼっこが好きな大人しい子ども……かと思いきや、彼は将来海賊になるのだと言う。
どうしてか、と聞いたら、彼はいつも通りの気怠げな眼差しで、淡々と答えた。
「俺の生きる道は、それしかないから」
それ以上は聞かなかった。それで十分だと思ったからだ。何より、イザヨイは良い奴だし、同士がいるのは心強い。
なんなら、最初からルフィは、イザヨイと一緒の船に乗る前提で考えていたのだが。
「一生のお願いです。どうか連れて行ってください。雑用でも囮でも何でもしますから、お願いします」
出発の1ヶ月前に土下座されて、流石のルフィも参ってしまった。
イザヨイに目をかけていた村長は泡を吹いて倒れ、3日間寝込んだと聞く。その間、村長の家からは終始「ムラノキボウガ……キタイノホシガ……」という呻きが漏れ続けたそうな。
「土下座なんてするなよ。海賊は“なる”ものであって“ならせてもらう”ものじゃねェぞ」
「ルフィ……」
「それに、仲間は多い方がいいしな! しししっ」
かくして、船出はイザヨイと2人で、ということに決まった。それを伝えたところ、イザヨイの両親は1週間寝込んだ。
「……真面目にやりすぎたか」
と、イザヨイはまるで他人事のように呟いていた。
その後、ルフィが出発の準備をしていたところにイザヨイが現れてこう言った。
「荷物は手ぶらでいいと思う。……どうせ大渦に流されるんだし」
「ん? なんか言ったか?」
「何でもない。あまり荷物が多いと自由に動けないから、身軽な方がいい」
「そうだな!」
近所に住む気前のいい人に小船を借りて、最低限の食料とコインをポケットに詰める。マキノに「替えの服はどうするの」と聞かれたが、そんなものが必要なのか? 汚れたら海水で洗えばいいのでは? とルフィは思う。
ちなみに、イザヨイも服はあまり持たない。彼はソラソラの実を食べたことにより、体温が人並みより大分高く、多少の毒や汚れは弾くのだとか。
とりあえずお宝などを入れるための酒樽は用意したが、それを除けばほとんど持ち物はない。
そういうわけで、ルフィとイザヨイは何も持たずに海へ出た────そして、親友のアドバイスが正しかったことを、ルフィはすぐに知ることとなる。
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「あーっ!!!! よく寝たー!!!」
快活な声と共に、
俺ことノースウィンド・イザヨイは今、酒樽の中に隠れている。
いや、マジで大渦に遭ったときは死ぬかと思った。展開を知っていても生で遭遇すると普通に怖い。これが百聞は一見に如かずというやつか。酒樽2個用意しておいてよかった。
この後アルビダが来て吹っ飛ばされ、コビーとルフィがなんやかんや語らったあとにアルビダに襲撃されて反撃して……もうこの流れだけで面倒くさい。事が終わるまで、俺は隠れているつもりだ。
俺は酒樽です。中身はただの酒です。気にしないでください。何故なら何の変哲もない酒樽なので。願わくば開けないでください話しかけないでください。
「おーいイザヨイー!! お前も起きろー!!」
「はっ!? まさかこっちにも人が入ってんのか!?」
ルフィの馬鹿野郎。覚えとけよ、明日ごはん分けてやらないからな……と恨み節を言っていると、アルビダの金棒が飛んできた衝撃により、俺たちは森の中まで吹っ飛ばされる。
衝撃に備えて、太陽光エネルギーを用いた身体強化を……しない!! 面倒だから!! それにせっかく溜めたもん使いたくない!! ちょっと骨折れるくらい平気平気!! どうせルフィに戦ってもらうから!!
……うん、思ったより痛くない。やはりASL*1に振り回されたおかげである程度鍛えられたらしい。強いて言うなら、ずっと同じ姿勢なので関節が痛い。
とりあえずルフィとコビー、君らは2人で友情を深めてくれ。俺はこのまま寝る。
「あの……そこの方も、お怪我はありませんか? えっと、イザヨイさん……でしたっけ」
げっ、これでコビーにも認知されるじゃん。やだなー、未来の将校くんに顔覚えられるのやだなー。
そう思った俺は、樽の中から返事することにした。
「……ないでーす」
「イザヨイも出てこいよ」
「え? イザヨイ? いやぁ知らない人ですね」
「もしかして出られねェのか!? 待ってろ!! 今開けてやる!!!」
聞けや!! 大人しくしろアホ!! ああああああ樽開いちゃったよこれでコビーにもアルビダにも顔覚えられるよああああああ!!
かと言って、ここで良い子のコビーに悪印象を持たれても後々に響く。俺は精一杯取り繕って自己紹介した。
「どうも〜、ノースウィンド・イザヨイでーす……夢は自宅警備員……あはは……」
「ぼ、僕はコビーです。あの、顔色悪いですよ……大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないから顔色が悪化してるんだよ……じゃあ俺、このまま樽の中で寝るから、あとは二人でお楽しみください……」
「何をですか?」
「イザヨイ、具合悪りーのか!? やめろ!! 寝たら死ぬぞ!!」
そう言って、ルフィは俺を強引に引き摺り出してきやがりました。
くそっ、樽を壊すんじゃねえ馬鹿野郎!! せっかくのシェルターが!! 最後の砦が!!
……結局、俺はこの海で一番いかついクソばばあに顔を見られたし、「
もし願い事が叶うならば、風になりたい。
・イザヨイ
意味深で思わせぶりなことを言う才能にかけては天下一。本人は自分のことを冷徹なリアリストだと思っている。ダセェ。
・ルフィ
話を聞くときと聞けないときと聞かないときの差が激しい。イザヨイがヒモになりたがっている件に関しては、「まぁずっと世話になってるし、宝払いくらい当然だよなー」と思っている。それでいいのか?
・コビー
最近、本誌で拉致された。やっぱりワンピースのヒロインは彼なのだろうか。