どうして海賊になったんですか、と聞かれて、イザヨイはひとつ欠伸をしてからこう言った。
「コビーは海軍になるんだろ……海賊の事情なんて知っても仕方ないよ?」
「仕方ありますよ!! だって、海賊も同じ人間なんですから!!」
それに、コビーは気になったのだ。自分を助けてくれた、この変わった海賊2人に惹かれていた。快晴の空みたいにサッパリしたルフィはともかく、常にダルそうなイザヨイが、海賊というハイリスクな自由を求める理由を知りたくなったのだ。
イザヨイはしばらく考えて、隣でグースカ眠るルフィを一瞥したあとに答える。
「強いて言うなら……俺は、何がなんでも、最後までルフィの味方じゃなきゃいけないんだよね」
イザヨイの金色の瞳が、ずっと遠く、水平線よりさらに向こうを映す。
「俺が……イザヨイとして幸せに生きるには、そうするしかない。そうした方がいいって考えた」
海は静かだった。彼の穏やかな語り口を、妨げないようにしているかのようだった。
「つまり……イザヨイさんはルフィさんのこと、信じてるんですね。絶対に海賊王になる人だって……」
「んー……うん、なんかもうそれでいいやぁ」
投げやりな口調だったけれど、コビーには分かった。イザヨイは、“海賊になりたい”のではなく、“ルフィの仲間”でありたいのだ。それくらい、彼のことを信頼している。
「俺もう寝るね……おやすみ〜……」
「え、ええっ!? 駄目ですよ、もうすぐ着くんですから!?」
いくらコビーが軟弱な少年だからといって、海のど真ん中で、初対面の人間の前で寝るなんて呑気すぎやしないだろうか。全く変わった人たちだ。
それとも、脅威として見られていない……舐められている?
コビーは、水平線からせり上がってくる陸地の街並みを眺めた。あそこに、恐ろしいロロノア・ゾロがいると考えると、少し震える。
海軍になるとは決めたが、本当に自分なんかが正義のために戦えるのか、不安でしかない。
……このときは、まさか、賞金首狩りより横暴で理不尽な存在がいるとは、コビーは知る由もなかったのだ。
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「ええ!? ルフィさんが基地の中へ!? またムチャクチャなことを……」
「本当だぜ、何者なんだアイツは」
「……大丈夫。ルフィはここで死ぬような奴じゃない」
そう言って、イザヨイは寝ぼけ眼を擦りながら、ゾロの腕を縛る縄をほどき始めた。
しかし、太陽に当たっているわりに日焼けしていない細い指では、なかなか苦労するようで、コビーも一緒に手伝うことにした。
「おい、いいのか! おれに手を貸せばてめェが殺されるぞ」
「あなたに捕まる理由はないはずです!! ぼくはこんな海兵見てられない!!」
悪人を裁くための力を私利私欲を満たすために使い、人々を恐怖で支配するような奴が海軍にいていいわけがない。そんなものは正義ではない。ただの悪だ。
コビーは、ルフィやイザヨイのように、自分の信念に嘘をつかず生きると決めたのだ。
「ぼくはきっと正しい海兵になるんです……!! ルフィさんが海賊王になるように!!」
「何? か……海賊王だと……!? 意味わかって言ってんのか!?」
「君も近い未来こうなるんだよ……」
「そんでてめェは何なんだ!!」
「海賊王のヒモになる男です」
船の上では、眠いだの死にたくないだの眠いだのと言っていたのに、今はこうして、命を危険に晒した状況で軽口を叩き、ゾロを助けようとしている。
やっぱり、イザヨイさんもルフィさんと同じくらい凄い人だ────
そのとき。
パァン、と物々しい音が聞こえて。見上げる間も、背筋が凍る間もなく、鉄砲玉がコビーの肩を────
「………………邪魔!! ペース崩されるの面倒!!」
貫こうとしたところを、イザヨイが
「えっ!? た、弾を、素手で……!?」
「2日分消費した……最悪……」
ありえない。いや、ルフィは打撃が効かないゴム人間なのだから、銃弾を素手で止められる者がいてもおかしくはない……のだろうか?
ともかく、コビーは腰が抜けて動けなかった。ゾロは一瞬目を丸くしていたが、すぐに眼光が鋭くなる。
「……お前、何者だ」
「悪魔の実の能力者です。“武装色の覇気”とかじゃないんでよろしく……」
「“覇気”?」
おもむろに、コビーの目の前に手が差し出される。イザヨイだった。
「怪我、してない……な。ゾロも平気か?」
「お前ら……いい加減とっとと逃げろ! また撃たれてェのか!?」
「問題ない。そろそろルフィも来る」
そうだ、銃だのなんだのくらいで腰を抜かしている場合じゃない。ゾロを助けて、ルフィたち3人にはここから逃げてもらう。それが、コビーに出来る“正しいこと”だ。
だがしかし、海兵たちの動きの方が早かった。
「そこまでだ!! モーガン大佐への反逆につき、お前達
「なっ……!?」
銃口が向けられる。コビーの顔に、とめどなく汗と涙が湧き出る。
アルビダの船にいたときから、死にかけるようなことは度々あった。でも、今回の相手は、理不尽な海賊じゃない。市民の味方であるはずの海兵だ。
どうして。どうして、ぼくは海軍になりたいのに、海軍に殺されようとしているんだ?
散々殴られたことはあっても、撃たれたことなんて一度もない。恐怖で足が震える。このまま、何も成せずに死ぬのか────いや死んで堪るか、せめてゾロだけでも守って……
そのとき、イザヨイが優しく肩を叩いた。
「落ち着けコビー。君は死なない……多分」
「多分!?」
「少なくとも、君とゾロはここじゃ死なない」
────
「いっ、イザヨイさん!?」
イザヨイがゆっくりと歩き出す。その、あまりにも鷹揚とした足取りと、乾いた視線に、銃を構えた海兵たちがたじろいだ。
「く……来るな!! 近付けば撃つ!!」
「………………」
何をしでかすのかと思いきや、唐突にイザヨイは銃の先端を握った。
「いいよ、
「ひっ……」
「馬鹿野郎!!! 死ぬ気かてめェ!?」
海兵たちが怯み、ゾロが叫ぶ。死を恐れていない────否、ここで死ぬことはないという自信と、幾ばくかの諦めが、彼の声音から感じ取れた。
イザヨイは「ふぁあ……」と大きな欠伸を一つしてから、こう言い放った。
「こうすればさ、ほら────
は、と疑問が溢れる前に。
「基地を取り囲め!! あの麦わら小僧は絶対に────」と胴間声が響く前に。
「ゴムゴムの……ロケットォォォォ!!」
救世主は、太陽を背負って現れた。
「ほら、言っただろ。そろそろ来るって」
イザヨイがその瞬間、微笑んだ気がした……が、陽光が眩しくて、涙で視界が滲んでいて、コビーにはよく見えなかった。
・コビー
ここから一年も経たずに、ミジュマルからダイケンキに進化するレベルの成長を遂げる。なんやかんや言って、初期の眼鏡コビーも純朴で良いビジュアルではある。
・ゾロ
君も近い未来こうなるんだよ・・・・あとコックにやたらめったら喧嘩売り買いするようになるんだよ・・・・楽しみだね・・・・