どうして海賊になったんですか、とコビーに聞かれた。
逆に聞きたい。俺のように海賊ですらサボタージュする気満々の男が、まともに海軍でやっていけると思うのだろうか。
“ルフィの幼馴染”で“海軍”? そんなのウタより死にそうじゃないか。ルフィの成長の糧になって堪るか。世間に1ミリも益を与えず生きていきたい。一生レギュラー恩恵を貪り、ルフィの脛を齧ってやるのだ。
が、そんなことを一言一句違わず伝えたところでクズ扱いなので、とりあえずいい感じのオブラートで梱包する。
「強いて言うなら……俺は、何がなんでも、最後までルフィの味方じゃなきゃいけないんだよね」
具体的には海賊王になるまで。そこまで生き抜けばアガリだろう。敵キャラとしてしぶとく生き残る√も考えたが、主人公陣営と敵対とか面倒くさい。そもそも彼らと戦闘したくない。
「俺が……イザヨイとして幸せに生きるには、そうするしかない。そうした方がいいって考えた」
しかし、まぁ、このワンピ世界で“お約束”が通用するかどうかは未検証だ。もしかすると何らかのif世界線である可能性も考えられる。エース生存√とかコラさん生存√とか。その場合俺が割を食って死ぬことも考えられるが、そこを突き詰めるとキリがない。
俺は適当に感触の良いことを言っているだけなのだが、コビーは真剣な表情で頷いていた。
「つまり……イザヨイさんはルフィさんのこと、信じてるんですね。絶対に海賊王になる人だって……」
ピュアかよ。絶対大将になれよコビー。でもルフィは捕まえないでね俺の扶養先だから。あと、近い未来、君はイケメンになるからコンタクトにしなよコビー。眼鏡男子もアリっちゃアリだが。
「んー……うん、なんかもうそれでいいやぁ。俺もう寝るね……おやすみ〜……」
「え、ええっ!? 駄目ですよ、もうすぐ着くんですから!?」
がんばれコビー。俺の代わりに世界を平和にしてくれ。ついでに海軍大将になったら俺のこと養ってくれ。ATMは何個あっても良い。
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……と、呑気なことを言っていた時期が俺にもありました。
俺は今、磔状態のゾロを助けようとしている。いやマジで結び目固すぎるだろ。でも、よくよく考えたらルフィでもすぐ解けないもんを俺が解けるわけないわな。よし諦めよう。
何せ、もうそろそろ俺たちは
字にするとより怖い。冷静に考えて、俺みたいなニートやコビーみたいな子どもを海兵が撃つってどうよ? いくら犯罪者解放しようとしてるからって直接撃つってある? 威嚇射撃じゃ駄目なのか?
それにしてもこの縄固すぎ……いや待て、もうすぐ解けそうだ。よし、よしいいぞ! よしよしここをこうしてこう……
「ぼくはきっと正しい海兵になるんです……!! ルフィさんが海賊王になるように!!」
「何? か……海賊王だと……!? 意味わかって言ってんのか!?」
「君も近い未来こうなるんだよ……」
「そんでてめェは何なんだ!!」
「海賊王のヒモになる男です」
ありゃ、これもうすぐ射撃来るな。いや待ってあともうちょいだからもう少し……ああああああここが出てこない!!
ふと見上げれば、海軍基地の屋上に海兵が……あー!! あー!! あともうちょっとなのに!! リズムとかテンポとか繊細なあれこれが大事なのに!!
────来る。
そう察した瞬間、利き手と両足にエネルギーを集中させる。単なるタマ一発……1日、いや念を入れて2日分。血液が沸騰するような感覚だが痛みはない。撃たれる箇所は把握済み。原作知識持ちの強みだ。
一発勝負。しかし失敗しても誰も死にはしないさ。そう考えると気持ちが楽になった。
────飛び出して、潰す。
「………………邪魔!! ペース崩されるの面倒!!」
グシャっ、グニュっ、と鉄が多少溶ける感触。気持ち悪いのですぐ捨てる。ポイ捨てはよくないけど。
手のひらを見れば傷一つない。これは成功だ。爽快な気分になる。
振り向くと、ゾロが訝しげな────そして、どこか興味津々な眼差しをくれる。
「……お前、何者だ」
「悪魔の実の能力者です。“武装色の覇気”とかじゃないんでよろしく……」
「“覇気”?」
おっと原作情報を先取りしてネタバレしてしまった。とりあえず、話を誤魔化すためにコビーに手を差し出す。
「怪我、してない……な。ゾロも平気か?」
「お前ら……いい加減とっとと逃げろ! また撃たれてェのか!?」
「問題ない。そろそろルフィも来る」
ここで海兵が来て、モーガンがなんか偉そうに喋って、ゾロの回想挟んだ後にピンチになったところでルフィ登場……と、こんなところか。
……なんかアレだな。面倒くさくなってきた。おっさんの皮肉とか長話とか聞きたくないな。モーガン倒したあとはリカの家で飯食って、中佐かなんかが来てゴタゴタするし、さらにその先に約100巻分の旅路が────駄目だ面倒くさい。
決めた。この辺スキップしよう。
「落ち着けコビー。君は死なない……多分」
「多分!?」
「少なくとも、君とゾロはここじゃ死なない」
だって重要人物だもん。あれ、じゃあコビーのこと守る必要なかった? いやでも、媚はいくら売っても損しない。……コビーだけに。
俺は銃を構えた海兵に向かって歩く。正面から見ると尚更銃は怖い。しかし、射殺されそうなのにまっすぐ近づいてくる異常者に対して、モーガンに逆らえない海兵が引き金を引けるだろうか。
「く……来るな!! 近付けば撃つ!!」
「………………いいよ、
「ひっ……」
「馬鹿野郎!!! 死ぬ気かてめェ!?」
死ぬ気はない。俺はウタみたいに、世界のために毒を食う勇気はない。世界のための供物になるくらいなら、古代兵器でも何でも起動してアポカリプスを引き起こし、唯一の生き残りとして爆睡かましてやるのだ。
さて、ルフィの乱入フラグとは即ち────誰かの命の危機。
「こうすればさ、ほら────
俺が死にに行けば……勝手にヤツは現れる。いずれは、解放のドラムを伴って。
「ゴムゴムの……ロケットォォォォ!!」
飛んでくる。ゴムの反動を利用して、ロケットミサイルの如き神速で急降下してくる。太陽の光は眩しいけれど、こんな危機的状況にも関わらず維持している笑顔はよく見えた。
「ほら、言っただろ。そろそろ来るって」
はい、勝ち確入りました。寝よう。
・イザヨイ
まぁまぁクズ。この後本当に寝た。
・コビー
ピュアで真面目な少年。騙されるな、目の前のそいつはただの怠惰な転生者だ。
・ルフィ
この後、寝ちゃったイザヨイを背負って船に戻った。限りなく良いやつ。
・ゾロ
1人目の仲間。コイツらなんなんだ・・・・滅茶苦茶にも程がある・・・・とか考えているが、君も大概なのである。