バギーのときは、船番を理由に戦闘を欠席した。シロップ村のときは、執事メリーの応急手当を行なっていた。あの人、原作ではちゃんと病院行ってたのだろうか。
というわけで、ここまで大したことをしていない俺ことノースウィンド・イザヨイである。
現在はバラティエ編に入ったところだ。海軍の撃ってきた弾を跳ね返した結果、予定通りバラティエに……
────ここまでやったところで、俺は思った。
「アーロンパーク行くの超面倒くさい」と。
サンジ加入後はアーロンパーク、アラバスタ、空島、ウォーターセブンからのエニエスロビーとイベント盛り沢山。とてもじゃないがやりたくない。更にその後はシャボンディ諸島からの2年の修行からのetc.でもっと面倒くさい。
そのとき、ふと閃いた。いっそ、バラティエに就職してしまえばいいのでは? ルフィの代わりに雑用係として入り、そのまましれっと店に残り続ければいい。問題はルフィ本人だが、そこは上手く丸めこめるだろう。
正直バラティエもまぁまぁ危険なのだが、エニエスロビーで世界政府に宣戦布告なんてして後戻りできなくなるより良い。
そうと決めたらオーナーのゼフに頼んでみよう。待ってろ俺の快適な雑用係ライフ!!
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────と思っていた時期が俺にもありました。
まさか俺の作戦が人情噺としてあっさり消費されるとは。良かったなイザヨイ! じゃないぞルフィ。実は俺のことが嫌いなのか? 昨日寝相悪くてうっかりお前の足を枕にしちゃったことを恨んでいるのか?
しかし嘆いていても仕方ない。俺は真面目に、ストイックに、ときにルフィのフォローをしながら雑用係を遂行した。ここで優秀さをアピールすれば、あちらからスカウトされるかもしれない。
とか思っていたら、本当にスカウトされた……しかもサンジに。
「イザヨイって言ったか? ……お前みたいに良い仕事するウェイターが、1週間だけなんて惜しいぜ。どうだ? 海賊なんざ辞めて、ここで働かねェか?」
「……恐縮です。可能であれば、是非お受けしたいところですね」
やりますやります働きますとも。多少薄給でも文句言わないから雇ってよねぇお願いMr.プリンス。
「ま、お前の船長が許さないだろうけどな。聞いたぞ。お前ら、最初1年も働くつもりだったんだな」
ルフィ〜? ルフィ〜? お前ってやっぱ俺のこと嫌いなのか〜? もしかして俺のゲスい本性バレてるのでは?
せっかくの好機が台無しになり落ち込んでいると、サンジはやけにしんみりした声音で尋ねてくる。
「……なあ、アンタ。初日からなかなか働ける“優秀”な奴なんだったら……海賊になるなんて出て行ったら……故郷の親も、引き留めたんじゃねェのか?」
これは、もしや。自分の境遇を思い浮かべているのか。失敗作として処分された、“ヴィンスモーク・サンジ”の境遇を。
なるほど、サンジの好感度を上げるチャンスだ。ここまでの働きぶりで結構貯まっているだろうし、ここで押していけば第二の扶養先を確保できる。コックのヒモに俺はなる。
手始めに、俺は自分の親について語ることにした。情報の開示は、古来より続く信頼と好意の証明方法である。
「……そうですね〜。父は俺に、大工の仕事を継がせて、
「普通に子思いの親御さんじゃねェか」
「……ええ。きっとそれが“普通”……なんでしょうね〜……」
フーシャ村における俺の父親は大工で、母親は専業主婦。海に面する村で、この構成は珍しくはない。
家族は俺を何不自由なく育ててくれたし、愛はあると思う。……思うのだが、まぁ、俺は欲張りなニートなので、家業を継ぐだの結婚だの出産だのは死んでもやりたくなかった。そんな“普通”のことができるなら、最初から海賊王のヒモなんて目指さない。
でも、うちの親は“普通”の人間だから、それが出来た。出来ない上に海賊にりたい俺のことは疎ましいだろうに、それなりの愛情はかけてくれたので────まぁ10代後半に入ってからは毎日お見合いの話をされてキツかったが────本当に、俺は普通に恵まれている。
昔の思い出に浸っている場合ではない。今はサンジだ。これを取っ掛かりとしてサンジに共感を示すのだ。
「……でも……親が子を不自由なく育てるのは、製造責任があるんだから当然のことですし……てか、この過酷な世界でそんな選択した時点で最後まで責任持てよって話だし……てか親孝行しないからって文句言ってんじゃねェよ見返り求めんなカスって感じだろ……つーか要望通りの個体が欲しいなら胎盤こき使わずに自分でロボット作れや………………別にさァ、親の言うこと聞けない子どもはゴミじゃないですよ。……価値があるかないか、役に立つか立たないか……そういう物差しで人を測る方が間違ってるでしょ」
俺は息を吸って、吐いた。潮風が喉に痛い。喉の筋肉がしんどい。疲れた。というか話しすぎた。途中からただの愚痴になっていた。話が長いやつは嫌われるというのに。
現に、隣のサンジはタバコを咥えたままポカーンとしている。
「えー………………その、あー……話すの疲れちゃいましたね……ふわぁあ……お昼寝してきていいですか……?」
「駄目に決まってんだろ」
「サンジさんのケチ……」
「うるせェぞ雑用!! とっとと働け!!」
蹴りが来たので反射で避ける。ルフィの喧嘩に巻き込まれたときに鍛えたスキルが活用されていた。
こりゃ明日から俺のあだ名は“おしゃべりクソ野郎”だな。あーあ眠い。面倒くさい。一生分の言葉を話したのでもう喋りたくない。本気で昼寝したい。
・イザヨイ
父親は大工。母親はどこかの聖職者。怒られるのが嫌いなので、村では真面目な良い子を演じていた。ルフィと仲良くしていることもあって、ガープに可愛がられており、海軍にならないかと度々勧誘されたこともあった。
・サンジ
騙されるなサンジ、そいつは海賊王(予定)とコックの二股をかけようとしているだけだ。