すぷれえと言います。
稚作で習作ですが、暇つぶしになれば幸いです。
※2013.02.24 改行、段落落としなどの文法ミスを改正。
それは、まだ私が小さかった時の頃。
「凛、いずれ聖杯は現れる。アレを手に入れるのは遠坂の義務であり、何より―――魔術師であるならば避けては通れない道だ」
そう言い残し、父は戦場へと向かった。私の頭を一撫でして、私の瞳を見つめた。その時私は、きっと肯いていたのだろう。これが最期かどうかは分からなかったが、幼心に誉れ高い父と同じくありたいと背伸びをしていたように思える。結果的に、それが父と交わした最後の一時だったのだが。
私は決めていた。父が私に言い残したことが、「元気に育て」などという普通の子供に言い聞かせるようなことか、先ほどのような魔術師としての教えか。それで、私の将来を決めようとしていた。そして、尊敬する父は私に魔術師としての言葉を残したのだ。
なら、とことんやってやろうじゃない――――。
その時から、私、遠坂凛はただの人ではなく、魔術師となった。
父がそのすべてをかけ、誇りを持って戦ったあの時から、はや十年。
待ち焦がれていた――――わけではない。この戦争で父を失い、母も巻き込まれた。いろいろ思うところではあるけれど、魔術師である以上は仕方のないことだ。
それでも、私は自分の心が日を増すごとに高揚しているのが分かった。それも当然。
私の人生は、このために生きてきたと言っても過言ではないその戦争は、あと少しで開幕するのだから―――。
◆
「んん…」
けたたましく鳴る目覚ましの音で、深い微睡から無理矢理起こされる。どうしてこう、中々に優秀なのだが、やはりもう少し寝かせてくれてもいいのに、と思ってしまう。それでも、時計は昨晩の私からの言いつけを忠実に守っている。
「体…重い…」
昨日は遅くまで父が残した書物の解読と、家に伝わる家宝を探すのに予想以上に時間がかかってしまった。何十にも張り巡らされた罠をひとつひとつ解除するのは、宝探しみたいで年甲斐もなくはしゃいでしまったが、結局見つかったのは役に立ちそうにないボロボロの金属片であった。その拍子抜けの残念な結果に、不貞寝に近い形でベットに入ったのが、いつもより2時間遅く。
針を見ると、現在7時。いつもの起床時間から30分も遅れている。これ以上はさすがに寝ていられない。いろいろと身支度もあるし、優等生で通っているから遅刻は厳禁だ。
「むぅ…」
目覚ましとにらめっこすること数秒。
ベルを止めて渋々ベッドから出る人影が一つ。
冬の寒さは骨身にしみる。廊下とリビングの張り裂けそうな空気が頬を刺激し、その足で向かった洗面所の水は、鈍った頭をいやが応にも回転させる。
きゅっと制服のリボンを結び、朝食の準備。この分なら学校にも十分間に合いそうだ。
走って遅刻スレスレで校門に駆け込むことなど、優等生である遠坂凛(自分)にはあってはならない。『どんなことにも優雅たれ』というのが遠坂の教えであり、経済に影響が出るほどの財力は決して無いが、遠坂家は由緒正しい名家であることは間違いないのだから。それは、私が誇っていいことだと思う。
朝食をすませ、鞄を手にとる。
「そうだ―――。ペンダント、持っていかないと」
学校にあれだけのモノを持っていくのは気が引けるけど、飾っておくには勿体ない代物だ。
宝石使いの遠坂家の家宝。それは、百年物の大粒の宝石。紅く澄んだ輝きを放ち、金の装飾がところどころ施され、ネックレスに加工してある。私が持つ内では最強の神秘を秘めたモノ。
これも父の遺言書とも言える手記を解読して手に入れたモノだ。今の私の十年分の魔力を秘めたソレは、不可能なことなどほとんどない分の神秘を内包している。言うまでもなく、私の切り札だ。
だから、昨日新しく家宝の手掛かりを手に入れたときは諸手を挙げて喜んでしまった。次の日の学校のことなど忘れて、そのまま探しにかかるほどに。結果は、価値の見いだせないガラクタだったのだが…。
ちょっとした自慢になるが、遠坂家はかなり古い名家だ。家宝の一つや二つ、あってもおかしくないほどの。きっとこの宝石がそうなのだろう。間違っても、あんなガラクタではないと信じたい。
「…用心に越したことはないわよね」
今となっては父の形見ともいえるペンダントをポケットにしまう。何代もの遠坂の魔力を内包したソレに、やはり父も当主として、魔術師として、魔力を込めたのだろう。私も、次代に繋ぐ時までには魔力を込めているに違いない。
時刻は7時半。そろそろ家を出る時間だ。
家の門の鍵と、魔術的な結界の、二重で、対象の全く違う二つの錠をかける。この家はいわば私の本拠地だ。ここを失うわけにはいかない。それが、たとえツタが張っていても、近所から回覧板が回ってこなくても、子供たちが幽霊屋敷と指さすような家であってもだ。
「あれ…?」
家の前は朝の騒々しさが全くない。このくらいの時間なら、通学、通勤の人々で賑わっててもおかしくないんだけど。
一応手帳で日付を確認するが、なんの変哲もない平日だ。学校だって、会社だってあるはず。
「…ま、こういう日もあるかな」
特に気に留めることもないまま、私は歩き出した。
「あれ…?」
ついに、家から一人も生徒を見かけずに校門まで来てしまった。もう一度手帳を確認するも、やはり学校は休みではない。7時半に家を出たなら、いつも校門は生徒たちでにぎわっている。遅すぎもせず、早すぎもせず、いわば『ちょうどいい登校の時間帯』なのだから。
なのに今、ここにいるのは私だけで、部活の朝練は今始まったばかりの様子。
つまり―――。
「おはよう遠坂。今朝は一段と早いね」
「そういうことか…」
一つ息を吐き、後ろから声をかけてきた女子に話しかける。
「ええ、おはようございます。美綴さん」
「はい、おはよ。今日も寒いね、こりゃ」
気さくに話しかけてくる彼女は美綴綾子。クラスメイトで、学校内でも一段違うところにいる私に、普通に話しかけてくる人だ。
「つかぬことを聞くけど、今何時だかわかる?」
「うん?何時って、7時前じゃない。遠坂寝ぼけてる?」
そう言って、一応心配なふりをする彼女に、ええ、と答える。私が朝に弱いのを知っている彼女は心配のまなざしを向けてくるが、私がそんなことに負けるようなヤワな性格じゃないことも、彼女は知っている。
「うちの時計、一時間早かったみたい。しかも全部。目覚ましも、柱時計も、腕時計まできっかり早まってた」
いったいどういうことなのか。仮にも家宝であるあのガラクタを貶した罰でも当たったのだろうか。
(縁起でもない…)
「遠坂?」
自分自身のバカな考えを押しのけながら答える。
「気にしないで、別に大したことじゃないから。それより、美綴さんは朝練行かなくていいの?」
「ああ、もうこんな時間か。うちの弓道部問題児多いし、もうそろそろ行かないと不味いな。ごめん遠坂、もう行くよ」
「ええ、気にしないで。朝練、頑張ってください」
それじゃ、と言いながら、美綴さんは朝練に向かった。
(さて…)
それにしても、来るのが早すぎた。本音を言えばもう一眠りしたいところだが、間違えても机で突っ伏して寝るわけにはいかない。全く、どうしたものか。
この時の私は知る由もなかったが、軒並みずれていた時計は、私の前で全く笑ったところがなかった父が、困った私を見たいがために仕掛けたタチの悪いイタズラであった。
私はまんまと引っかかってしまったことになる。
◆
何事もなく放課後を迎える。学校に目立った変化は見られなかったし、いつも通りに過ごすことができた。それもそうだ、と思う。いくら戦争が近づいていると言ったところで、今この教室にいる人間には関係のないことだ。
「では、HRを終了する。日直は日誌と戸締りの確認を。部活動のない生徒は速やかに帰宅するように」
一年間全く同じ担任の言葉を聞き流し、そそくさと帰路につく。今の私に友人と談笑しているような時間はない。
学校から出れば、一般人の遠坂凛は終わり。ここからは魔術師としての遠坂凛の時間が始まるのだから。
家に帰ると、点滅していた留守電ランプが私を出迎えた。内容など聞かなくてもわかっているが、なんとなくこのままにしておくのも嫌なので、仕方なく再生ボタンを押す。聞きなれた男の重低音が無機質な物体から流れ落ちる。
内容はおおむね予想通り。相手は、非常に、非常に、非常に不愉快だが、結構お世話になっている教会の神父から。話題はすぐそこまで迫った戦争の話に尽きる。彼は私に、戦うならば支度を、戦わないのならリタイアを求めてきている。なかなか意思表示のしない私に、痺れを切らしてきたようだ。だが、彼も茶番であるとわかって言ってきているであろう。今更命のやり取りに怖気づくような私じゃないし、それは電話の主も知っていることだ。
「聖杯戦争―――たった一つきりの聖杯を奪い合う殺し合い。何百年も前から伝わってきた聖杯の儀式、か…」
これが、父がその誇りをかけて挑んだモノであり、また私が自らを投下しようとしているモノの正体である。
聖杯戦争に参加するには、サーヴァントと呼ばれる使い魔を召喚、契約し、使役することがその資格となる。そしてサーヴァントを呼び出すには、そのサーヴァントに縁のあるモノを触媒とすることが必要になってくる。つまりはサーヴァントが持っていた剣やら鎧やら紋章やらと言ったとんでもない値打ちものだ。
「父さんの遺言に期待してたんだけどな…」
一つ目の遺産はよかった。縁のあるものではないけれど、切り札、古代遺物(アーティファクト)としては最上級の代物であったのだから。問題は二つ目だ。何の役に立ちそうもないただの金属片。これじゃあ昨日必死になって見つけ出した努力も報われない。ヒラヒラと手で弄ぶ。
「ん…?」
でも、よくよく考えてみると、何かがおかしい。昨日、アレを発見した時は、あの大粒の宝石と同等以上に厳重に保管されていた。遠坂に伝わる魔術は宝石を駆使するモノだ。それは、先祖代々変わりのないはず。そちらの方向では、あの金属片は役に立たないことは知っている。ならどうして、先祖は、父はこのガラクタを継承し続け、家宝としたのか。
もし――――。
一見ガラクタにしか見えないこの金属片が、物凄い古代遺物(アーティファクト)であったら?
「父さんの手記…!」
私は、跳ねるように駆け出した。
はたしてそこには、昨日にはなかった文章が浮かんでいた。
『―――凛。これは彼の宝石翁から、遠坂の祖が承ったものとして、我が家に伝わるものだ。相当な年代の古代遺物(アーティファクト)であることは、この私が保証する。だが、これが何の英霊と縁のあるモノかは分からない。先代にそのことを聞く前に、彼は命を落とした。一度聞いた限りだが、『決して使ってはならん』と一蹴されてしまったよ。もしお前がこれを使うのであれば、現当主はお前なのだから、好きにすればいい。ただし、いずれも遠坂の家宝として、次代に次ぐことだけは忘れるな。』
「やっぱり…!」
何も意味のないものじゃなかった。父さんが前回の戦争に挑んだ時に使わなかったから、サーヴァントを呼ぶ触媒として、コレは意味のないものだと決めつけてた。でも、それは違った。きっと、よくわからないモノを呼び出すより、確実に勝てる手札を手に入れるため、違う触媒を選んだんだ。それに、先々代に危険とまで言われたら、大体の人間は躊躇する。
「でも、勝てなかった…。いいわよ…やってやろうじゃない!」
どうせやるなら、召喚するのにはやっぱり触媒はあったほうがいい。この金属片が剣か槍か鏃か鎧か分からないけど、使ってみる価値はある。それに、強いサーヴァントを使役できなくて聖杯戦争に勝てるはずがないのだ。
「危険…?上等じゃない!私は遠坂凛よ!何が来たって使いこなして見せるわ!」
◆
夜。
時計の針は、もうすぐ午前二時を示そうとしている。
私が魔術を行使するのに最適な時間帯。ピークは午前二時ジャストだ。思わぬ収穫、触媒を手に入れたからと言って、手を抜くことなど考えられない。できることはとことんやる。日にち的にも、もう間もなく聖杯戦争は始まる。召喚できるのは、これがラストチャンス。
地下室の床に陣を刻む。実際、サーヴァントを召喚するのにさして大がかりな降霊術は必要ない。大部分は、この地に或る聖杯がやってくれる。私はその呼び出したサーヴァントを魔力によって現界させておくことだけでいい。
「あとは…これを…」
魔法陣の中央に、あの金属片を置く。もう決めたことだ。あの古代遺物(アーティファクト)がどんな代物か知らないけど、私は絶対使いこなして見せる。
一番ほしいのはセイバー。剣のサーヴァントだ。セイバーは過去の聖杯戦争において優秀な成績を残してきている。最優と称されるサーヴァントを、ぜひこの手で使いたい。
私にとって一番いいのは、あの金属片が剣か鞘の一部であること。そうでなくても、今は私が魔術を使うのに一番いい状態。優れた英霊は、当てはまるクラスを複数持っているということだし、無理矢理でも絶対に引き当ててみせる。
「優秀なサーヴァントは優秀なマスターのところに来る、ってね。来なさいよ、セイバー…!」
一つ意気込み、詠唱を開始する。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
本来なら血液で描く魔法陣を、溶解した宝石で描いていく。私が持てる最大の努力だ。ここまでやらせるんだから、よほど良いモノが来てくれないと、目もあてれられない。
「閉じよ。(みたせ) 閉じよ。(みたせ) 閉じよ。(みたせ) 閉じよ。(みたせ) 閉じよ。(みたせ)
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
じきに午前二時。時計の針を確認しつつ、魔法陣に全身全霊で相対する。
「―――Anfang」
私の中の、スイッチをオンにする。私の体にある魔力を行使するための操作。
外界からのマナを取り込み、魔法陣という異世界の扉をあける。体中が、高濃度の魔力に焼かれていく。血液が沸騰するような感覚に、頭が気絶することで逃れようとするが、理性で無理矢理押しとどめる。今更やめるわけにはいかない。痛みで霞む視界の中、時計の針を確認する。午前二時まで後10秒。この上ないタイミングだ。
「――――告げる」
最後に仕上げに取り掛かる。取り入れて、今も私の体の中を暴れまわるマナの奔流を、固定化するための魔力へ変換する。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのならば応えよ」
言葉を紡ぐにつれ、集めたマナが光を発する。膨大な光で魔法陣はとっくに模様が見えなくなっている。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――――!」
文句なし。時間も午前二時ぴったり。手ごたえも十分すぎるほど感じてる!
「――――よっしゃ…!これなら間違いなくセイバーを引き当てた…!」
今は召喚時に出ている光の奔流がもどかしい。早く、それが止んだらそこには召喚したサーヴァントが…!
「え…?」
居ない。部屋には私しかいない。あれだけのエーテルを乱舞させ、光を発してたのに、実体化しているモノが欠片もない。
それに追い打ちをかけるように、居間のほうで爆発と破壊音が聞こえた。
「何でよ―――!」
走った。
先ほどの大呪文で疲れた体が、思った以上に動いた。というか、そんなことは気にしてられなかった。頭の中は真っ白。何がなんだか分からなかった。
「扉…壊れてる!」
かなりの装飾が施された扉は枠が拉げていて、蝶番の金具が見るに堪えれない状態になっていた。
押してもダメ。引いてもダメ。なので、
「邪魔だこのやろぉ…!」
思いっきり蹴飛ばしてやった。
「……」
居間に入った私の頭は、正常に稼働し始めた。いや、本当は扉の前に立った時にはもう正常だったのかもしれない。でも、私の目に映る光景は、今の現状をこの上なく私に理解させた。
地下室にいても聞こえるほどの爆発。それに見合うだけのメチャクチャな居間。
天井から何かが落ちてきたのだろう。星が見え、そこらには瓦礫に満ち溢れている。そして、この惨状を作ったであろう男が一人。こちらに背を向けて立っている。
けど、そんなことよりもっと大事なことが一つ。
瓦礫落下から難を逃れた柱時計。それが指し示す時刻。思い出した。
―――何だか知らないけど、今日に限って、時計一時間早かったんだ。
そこから導かれる意味は―――今が午前一時だということ。
「やっちゃった…」
私がもつ遺伝的な呪い。たいていのことは器用にこなせる私だけど、ここ一番では信じられないようなミスをすることだ―――。
でも…
「やっちゃったことはしょうがない。で…なによ、あんた」
目の前の不審者に話しかける。というか、ほんとは正体なんて分かってるんだ。これが、さっき必死こいて呼び出したサーヴァントじゃないはずがない。だってコイツから感じられる魔力は、どう考えてもそこら辺の魔術師以上なんだから。
それにしても、反応がない。何よ、ちょっとぐらい返事したっていいじゃない。もう一度声をかけようとする。
すると、ソイツは突然身をかがめ、何やら震え始めた。右手は顔の位置に、左手はお腹の位置に回っている。召喚時に異常でも起きたの…だろう。絶対。そうでなければ、リビングがこんな悲惨な状態になどなるはずがない。幸い、心当たりはかなりある。どこか、調子が悪いのか。もしそうなら早くどうにかしなきゃいけない。サーヴァント呼び出したら死にました、なんてあの神父に言ったら奴は盛大に笑うだろう。
「ちょっと…!あんた何か言ったらどうなの…!」
再度の呼びかけにも応じず、震え続ける。いよいよ不味いことになりそうなので、瓦礫の中をかき分けて進むことにした。
「ああ…もう!返事ぐらいしなさいってば…!」
そんな声にようやく男は反応を見せる。しかし、体制はそのまま、震え続けたまま。口から洩れたのは殺し切れていない笑い。
「クッ…クククッ…まさか、三度目があるとは…!さすがに驚くわ…。ああ…生きてる。俺は生きてここにいる…!」
むっ…。完全に無視して自分の世界入ってるわコイツ…さんざん心配してやってんのに迷惑掛けやがって…!
「返事…しなさい…!」
あまりに腹が立ったので、丸まってる背中にとび蹴りくらわせてやった。でも、全然びくともしない。コートの上からしか見てないけど、そこまで筋肉があるように見えない。どちらかと言えば華奢だ。戦場で真っ先に死にそうなタイプの。大丈夫かな…コイツ…。
「ああ…悪かった。どうやら柄にもなく浮かれていたようでね。…それで、君かい?俺を空中に召喚した挙句この建物に打ち付けたのは」
盛大に嫌味を飛ばしてくる。でも、最初に謝ってきた点では評価してやってもいいかもしれない。気が付いたら空中からフリーフォーリングなんて、たぶん誰だって怒るだろう。
「――――」
それにしても、これがサーヴァントというやつらしい。使い魔っていうから、カタチのないモノを想像していたけど、どうやら違ったようだ。振り返ったソイツは、黒いコートを羽織って、紅い目をして、絹のような腰まで届くかという長さの金髪であった。
まるで、私たちとなんら変わらない人間に見えるが…先ほども感じ取った、彼が内包する膨大な魔力が、アレを人間以上のモノだと言っている。人の身でありながら精霊の域に達した『英霊』だ。
「――――――」
なんにせよ、気持ちを切り替えなければならない。目の前のコイツが、私の召喚したサーヴァントなら、やるべきことがある。
「―――確認するけど、貴方は私のサーヴァントで間違いない?」
「ああ…君が呼んだから俺は今ここにいられる。感謝するぞ。召喚は失敗しているが、パスは完璧、召喚後すぐに動けるだけの才能。先ほどのとび蹴り。いや、いいマスターに会えた」
「ふ、ふん。おだてても何にも出ないわよ。それより、契約のことだけど」
「さっき言ったじゃないか。パスがつながったって。繋がりを感じられないか?」
目の前の男に促され、少し自分を見つめてみる。…確かに、若干変な感じ。私の魔力の何割かが流出していって、それを受け取ってんのがアイツ。
「そっか。サーヴァントは聖杯に呼ばれるけど、呼ばれたサーヴァントを現界しておくのは」
「そうマスター。君だ。君の魔力提供で俺はここにいる。魔力量も十分。これ以上は文句はそう言えないさ」
…なんだろう。ちょっと嬉しい。本当なら、自分よりずっと上の存在の彼が、私を手放しで称賛してくれるのが、くすぐったく感じる。
「で…?貴方、何のサーヴァント?」
気を取り直して本題へ。と言っても、腰にある長物は、もうクラス名を言っているようなものだ。召喚の時間を間違えて、さんざんだったけどちゃんと―――
「アヴェンジャー。復讐者のサーヴァントだ」
――――セイバーが…
「え…?」
あれ、剣を腰に差しているのに、セイバーじゃないクラス名を言われたような。
「現実だ。俺はアヴェンジャーのサーヴァント。いわゆるイレギュラーというやつさ」
「せ…セイバーじゃないの…?」
今、私は相当ひどい顔をしているだろう。なんせ、一度切れかけた希望がつながったと思ったら、やっぱり駄目だったのだ。挙げて落とされるにしても、これはないんじゃないか。
「む…そう言われると、こちらが申し訳なくなってくるんだが…。剣は使うよ。でも、セイバーじゃないんだ。すまないな」
「あ…えっと…。気にしないで。私が最初に失敗したんだから。剣を使う貴方をセイバーで呼んであげられなかったのは私のミス。貴方が気にすることじゃないわ」
「そうかい。じゃあそういうことにしておこうかな」
「そ…。じゃあ、貴方どこの英霊?」
そう、私は彼に正体を聞かなければならない。そうしなければ彼の得意とする戦い方も分からないし、弱点も分からない。戦略だって立てることができやしない。
しかし、男は申し訳なさそうにしていた顔をさらに深め、こう言った。
「すまないけど…それは答えられないな」
「ど…どうしてよ。それじゃ戦略もへったくれもないじゃない」
その私の言葉がますます彼を気まずくさせてたのか、非常に言いにくそうに答えた。
「いや…それはそうなんだが…。召喚のせいかな。記憶に靄がかかったようだ。答えたくても答えられないんだ」
「私の…せい…?」
その質問に、非常に答えにくいんだが…と彼は答えた。
「どうすんのよ…」
自分のせいだとわかっていても、彼に当たってしまう。ああ、嫌なマスターだ、私。
「心配ないさ」
そんな理不尽にも、先ほどとは打って変わり彼は陽気に答えた。思わず彼の顔を仰ぎ見る。
「君はもう少し自分に自信を持て。そして俺を信じろ。君が召喚した俺を」
…やばい。今のは不意打ちだった。彼は、この短い時間の中で私を認めてくれている。紅い瞳が絶対の自信でこちらを見据えている。自分を召喚したマスターは最強だと。ならば、私はその信頼にこたえるだけだ。
「ん…。これからよろしくね、アヴェンジャー」
「ああ、よろしく頼む、マスター」
私たちは、どちらからでもでなく握手をした。うん。コイツとはいい関係築けそう。
「じゃ、私寝るから。後よろしく」
「おやすみ…って、俺がアレを片づけるのか?」
「そ。文句ある?」
むむむ…と眉間にしわを寄せるアヴェンジャ―。やっぱり、一緒にやろうかな。いい関係築きたいし。
「いいわよ、やっぱり。明日一緒に片づけましょう」
「いや、俺がやろう。少し違う気もするが…少しは使えるところを示しておこう」
「そう?じゃあお願いね」
「ああ。…今宵は月が綺麗だ。いい夢を見るといい、マスター」
そう言って、アヴェンジャ―はグシャグシャのリビングへ向かった。
「寝よ…」
此処にきて、どっと疲れが出てきた。明日もやることあるし、早く寝ることに越したことはない。ベットに半ば倒れこむように入り、私は微睡に身をゆだねた。
昔の私の小説を読んでいただいていた方は、あの続きが気になってしょうがない、という方もおられるかと思います。
しかしながら、読み返してみたところあまりに酷い出来に匙を投げたくなりました。投げました。
一応、物語的には続いているので、そこらへんの顛末も書いていければいいとおもってます。
ご容赦を。
プロトタイプは、知る人ぞ知る…みたいな。