つながりを納得してくれたら嬉しいです。
※2013.02.24 改行、段落落としなどの文法ミスを改正。
今俺は、遠坂とセイバーと一緒に丘の上の教会に向かっている。アヴェンジャーとか言う金髪の外人の男は今俺には見えない。けど、遠坂に言わせれば隣にいるらしい。あの後遠坂に促されるまま家で説明を受けて、そこら辺の事情を教えられた。
「マスターになった人間は、召喚したサーヴァントを使って他のマスターを倒さなければならない。貴方はそのマスターに選ばれて、セイバーを召喚した。この戦争に、貴方はもう巻き込まれているの。そこらへん、理解はできた?」
「…言葉の上でなら。でも、俺は納得なんかできてない。マスターになったら殺しあわなければならないなんて、そんな悪趣味な事、誰が何のために始めたんだ」
「…それは私が教えることじゃないわ。けど、それを説明できる奴に貴方を会わせることができる。サーヴァントは強力な使い魔だからうまく使いなさいって事だけ、とりあえず言っといてあげる」
そして遠坂に連れられる中、俺たちは隣町の言峰教会まで歩いている。冬の夜は刺す様な空気が漂って、時間帯もあって静まり返っている。俺は今日いろいろあったし、物事を整理する時間がほしかったのだけど、遠坂とセイバーが行くと決めたのだから俺には従う他なかった。セイバーと結んだ契約は十分なものじゃなかったから、かなり危機的状況…らしい。今、それがピンと来ていないから、遠坂にへっぽこ呼ばわりされたり、セイバーに未熟者と心配させられているんだけど。
「遠坂、つかぬ事を聞くけど、歩いて隣町まで行く気なのか?」
「ええ。バスも電車も終わっているし。いいんじゃない、たまには夜の散歩も」
それはどうなんだろう。セイバーと遠坂の二人とも女の子だ。こんな夜遅くに出歩くなんてよくない。もしものことがあったら責任持てないぞ、俺。…なんだよ遠坂。そんなに大きなため息ついて。
「あのね。衛宮君は忘れてるんだろうけど、そこにいるセイバーはとんでもなく強いんだから。相手がどんな奴だってちょっかいかけられないわ。さっきも言ったけど、アヴェンジャーもいるのよ」
「あ」
そういえばそうだ。後ろの女の子は俺なんかよりも全然強いし、あのランサーを撃退してる。セイバーはよくわからなかったようで、遠坂に今のやり取りのことを聞いている。
「セイバー、衛宮君はね。私とあなたが痴漢にあったら助けてくれるんだって」
「そんな、シロウは私のマスターだ。それでは立場が逆ではありませんか」
「そういうの、アイツには全部ないんじゃない?サーヴァントとかマスターとか」
「―――――」
遠坂は心底楽しそうにコロコロと笑う。セイバーはどことなく納得できていないようで、眉間に皺を寄せて黙っている。俺としては、全然普通なことを言ったつもりなのに遠坂に笑われるのは心外だ。いつの間にかセイバーは遠坂と話せるまでになっていたけど、俺とセイバーは全然話していない。出会ってからそこまで喋る奴じゃなかったけど、出掛ける時の一幕で拍車がかかった。ドレスの上に銀の甲冑を身に着けているセイバーは、いくら深夜でも目立つ。どうしても鎧は脱がないというから、仕方なく雨合羽を着せたらますます無言になってしまった。歩くときは俺のすぐ斜め後ろを歩いているんだけど、背中がチクチクと痛い。
「こっちの方が近い。行こう」
あまりにもこの空気に耐えられず、強引に近道の横道に入った。
◆
新都と言えば、開発が進んでいるオフィス街が真っ先に思い浮かぶんだけど、少し行けば昔ながらの街並みが残っている。
郊外はその中で最たるものだ。なだらかな坂道と、海を望む高台。
坂道を上っていくほど、建物は減っていき、外人墓地が見えてくる。この坂道の―――
「一番上が教会。衛宮君も一度くらい行ったことがあるんじゃない?」
「いや、ない。あそこが孤児院だって事くらいは知っているけど」
きょとんと、した後、遠坂は少し微笑んだ。月明かりに映えた横顔がすごく綺麗で、それはいつも学校で見ている優等生の遠坂凛以上に可憐だった。
「そう、なら気をつけなさい。あの神父は一筋縄じゃいかないから」
遠坂は先だって坂を上がっていく。
…見上げれば、高台には教会の十字架が見えていた。
「―――すごいな、これ」
高台のほとんどを敷地に使い、石畳が敷き詰められた参道と教会はとんでもない豪勢さだった。その奥にたつ神の家は誰をも受け入れるはずなのに、どことなく威圧感がある。
「シロウ、私はここに残ります」
「え?なんでだよ、ここまで来たのにセイバーだけ置いてけぼりなんて出来ない」
「私は教会に来たのではなく、シロウを護るためです。ここで帰りを待っています」
きっぱりと言うセイバー。どうにも意思は固いようだ。
「分かった。じゃあ行ってくる」
「はい、何かあったら言ってください。誰に対しても気を許さないように」
◆
広い、荘厳な内装の礼拝堂。席はかなりあることから、日中に来る人々は結構いるに違いない。そこまで頼られるこの教会の神父はかなりの人格者なのだろう。
「遠坂、ここの神父さんはどんな人なんだ?」
「難しいわね。十年来の付き合いだけど、私だって未だにアイツの性格は掴めないもの」
「そんなに長いのか。親戚か、何かなのか…?」
「違うわ。私の後見人。ついでに言うと兄弟子で、第二の師ってところ」
「兄弟子…!?魔術師のか!?」
そんな。教会と魔術師は本来相容れないものだ。教会は異端を嫌う。その異端には、魔術を使う人間も含まれてる。神の加護を得るには、その異端は排除対象のはずなのに…
「そ。まぁいいんじゃない?あんな奴に神の加護があるかなんて分かんないし」
「…ふうん。で、その神父さんはなんていうんだ?さっきは言峰とか言ってたけど」
礼拝堂の奥、神父がいるであろう私室に行こうとしていた遠坂が振り返る。その顔は難しく、なんというかいろんな感情の混ざった顔だった。
「…言峰綺礼。父さんの教え子で、腐れ縁。…できれば知り合いたくなんてなかったけど」
呟きに近い遠坂の一言に、俺以外に反応した人がいた。
「同感だ。私も、師を敬わぬ弟子など持ちたくなかった」
コツン、と言う足音と共に、その声の主は現れた。俺たちが来ている事に気が付いていたのだろうか。
「再三の呼び出しに答えぬかと思いきや…また変わった客を連れてきたな。このような時間に懺悔に来たわけでもあるまい。さしずめ、彼が七人目という訳か、凛」
「そ、魔術師なんだけど、てんで素人みたいだから。…マスターになった者は監視役に名乗りを挙げる。あんたたちの作ったルール、守る気なかったけどこれじゃそんなことも言ってられないし」
「そして君は彼と共に来たのか…。――――なるほど、君には感謝する。よく凛を此処に連れてきてくれた」
先ほどまで遠坂としか話していなかった神父は、そういいながら此方に視線を向けてきた。
「ちょ―――違―――。私――――来た―――――」
遠坂が何やらわめいている。でも、俺はそんなこと気にしている場合じゃなかった。知らず、体は半歩引いている。この神父には恐怖も敵意も悪意すらも感じないというのに、全身に鉛でものしかかるかのような重圧を神父の視線から感じる。
「私はこの教会を任されている言峰綺礼というものだが。君の名はなんというのかな、七人目のマスターよ」
「―――衛宮士郎。でも、俺はマスターなんてものになった覚えはない」
重圧の中、それだけを口にする。今言える精一杯のつもりだった。腹と膝に力を入れて、負けじと神父を睨む。
「衛宮――――士郎」
だというのに、それすらも心地良いといわんばかりに神父は俺の名を口にする。何か面白いことがあったかのように口元は笑みを浮かべ、声は知らずたかぶっているのが分かるほどだ。背中の重圧が悪寒に変わる。それが俺に、何か言い知れぬとてつもない何かを覚えさせるには十分だった。
「改めて礼を言おう、衛宮。君がいなければ凛は最後まで此処には訪れなかっただろう」
フン、といつの間にか隣に居た遠坂が一つ息を吐く。さっき知った、彼女本来の姿。その不機嫌そうな顔が、今はどうしようも無く安心できる。
「では始めよう。衛宮士郎、君はセイバーのマスターで相違ないか?」
「確かに、俺はセイバーと契約している。でも、俺は聖杯戦争とかいうマスターになった覚えはない。マスターがちゃんとした魔術師が成るものだったら俺なんかじゃなくてしっかり選びなおした方がいい」
「ね、重症でしょ」
すぐに遠坂が差し込んでくる。そんなに変なこと言ったつもりはないはずなんだが。遠坂はあきれているし、言峰神父は唇をゆがませている。
「まず、君の間違いを正そう。いいか、衛宮士郎。マスターというものは他人に譲れるモノなどではない。むろん、なってしまった以上辞められるものではない」
「な―――辞めることはできないって、どうして」
「その手に刻まれた令呪はもう知っているな。聖杯自体が選ぶマスターにふさわしい人間にそれは現れる。我らがなろうと思ってなれるものではないのだ。聖杯がそれを選ぶのだから」
「な―――それじゃ、勝ち残ったやつがすごい悪人で聖杯を悪用する奴だったらどうするんだ。それも聖杯が選んだマスターだからっていう理由で黙認するのかよ」
「無論。確かに困るが、望みを叶える杯を持つ者はやりたい放題だろう。それに、私利私欲なく聖杯戦争を戦うマスターなどいない。――――それに、それが嫌だというのならお前自身が勝ち取ればいい。他人をあてにするよりはずっと簡単で確実だろう」
言峰神父は笑いをかみ殺している。マスターのことを受け入れられない俺を愉しむように。それがどうにも気に食わない。
「…俺には戦う理由なんてない。聖杯なんて興味はないし、マスターなんて実感もわかない」
「ほう。十年前の大火災。アレが聖杯戦争の果てに起きたものだとしてもかね」
「――――――」
ガツン――――頭をバットで殴られたような感覚。
脳裏によぎるのは、黒い太陽と、血を垂らしたような空。
この世のモノとは思えない地獄の光景は、俺が衛宮士郎になった時の光景であり、俺が衛宮士郎たる所以だ。
「まさか――――」
吐き気がする。だってあれはあってはならないことだ。誰ひとりして生きてはいられない煉獄の炎。あの光景が聖杯戦争の結果だとすると俺は――――
「聖杯を手にする資格を有するのはサーヴァントを従えたマスターのみ。君たち七人のマスターが最期の一人となった時、聖杯は勝者にその恩恵を授ける。その戦い―――聖杯戦争に、君は参加するかね」
「――――」
言葉に詰まる。戦う理由がなかったのはさっきまでの話だ。今はもう戦う意思も理由も生まれている。
「まだ迷いがあるのか。お前も魔術師なら覚悟ができていよう。…それがないのなら仕方ない。そんなのに戦われても迷惑だ。早々に令呪を使いきり、退場してしまえ」
「――――」
言われるまでもない。俺は逃げたりなんかしない。
神父は言った。魔術師なら覚悟はあるはずだと。
そう、俺は、衛宮士郎は魔術師だ。あの月夜に、あこがれ続けた衛宮切嗣に誓ったのだ。なら俺は――――
「――――マスターとして、戦う。あれが聖杯戦争によって起きた大火災なら、俺はあんな出来事もう起こさせない」
正義の味方になると誓ったのだ。戦わない理由などない。
俺の答えが気に入ったのか、神父は満足そうにうなずいた。
「よかろう。衛宮士郎。お前をセイバーのマスターとして認証する。七人のマスターと七騎のサーヴァントが揃いし今、第五次聖杯戦争の開催を宣言する」
重々しく礼拝堂に響く監督役の宣言。意味などない。それを聞いているマスターは俺と遠坂の二人だけだから。
「そう…もう良いわね。行くわよ衛宮君。もうこの教会に意味はないから」
「お、おい遠坂!仮にも兄弟子なんだろ。ならもっと言う事とか…!」
俺の声を無視して遠坂は入り口に向かって行ってしまった。
「別にお前が気に病むことはない。私とアレは基よりこのような関係なのだから」
「―――――!」
その声にたまらず振り返る。いつの間に背後に移動していたのか、神父が真後ろでこちらを見下ろしている。
「な、なんだよ。まだあるっていうのか」
神父は答えない。俺の足は勝手に後ずさる。…やっぱりこいつは苦手だ。なんというか、絶対に相容れない存在だって感じる。
「話がないなら帰るからな!」
神父の視線を振り払うように足早に出口に向かう途中。
「――――喜べ少年。君の願いは、ようやく叶う」
――――そう、信託を授けるかのように口にした。
「―――な、にを」
聞いてはならない。この男の言葉を耳にしてはならない。でも、足は縫い付けられたかのように動かない。
俺の正義の味方になるという願い。それは悪の存在なくしてはなしえない。神父はそこを的確についてくる。衛宮士郎の最も崇高な願い、最も忌む存在は表裏一体なのだと。
「っ―――――!」
まるで現実から目を背けるかのように、俺は跳び出した。
「道中気を付けることだ。君は殺し、殺される関係になったのだから」
そんな神父の言葉に追い立てられながら。
◆
「分かった。じゃあ行ってくる」
「はい、何かあったら言ってください。誰に対しても気を許さないように」
少女は少年を見送ると、その身に纏った不似合いな黄色い合羽を脱いだ。少女の翡翠の目に浮かんでいるのは不安と憂い。未熟なマスターがどのような判断をするのか。それは彼女の聖杯にかける願いに大きく関わってくる。あの聖杯戦争に対して消極的だったマスターが戦わないとするのなら、彼女は一人でもその願いを聖杯にかけて戦う覚悟を持っている。でも、あの少年の協力がないのは圧倒的な不利な戦いになることは必至。出来ることなら、彼の了承の元に戦えるのが望ましい。
(だが、そうも行かないのは事実…)
奇しくも、彼女は他人(マスター)によって思い通りに戦えないことを知っている。衛宮という名は彼女にとって忌み名に近い存在だが、これも因果であろうか。彼女が忠誠を誓った少年もまた、衛宮と名乗った。
「私は負けられない。この罪の所在は聖杯の奇跡によってのみ打ち消せる。それを叶える為なら――――」
「叶える為なら―――――その続きはなんだ?」
「―――――っ!」
少女の言葉を遮り、青年が声をかける。話しかけられた少女の翡翠の目が大きく見開かれた。先ほどまで少女一人だった教会へ続く参道には、教会の入り口から歩いてくる金髪の青年の姿がある。
「叶える為なら――――何でもする…とか?」
「貴方は…」
不敵な笑みを湛えた青年。彼の血のような紅き瞳。それは少女に、血染めの大地を思い起こさせる。
「何が言いたい、アヴェンジャー」
若干の嫌悪感を持ちながら、少女は青年に向き直る。今まで青年を気にしていた少女が、青年に牙をむく。これまで彼は此方から話そうとしても、自分に話しかけてくることは無かった。自分のことを忘れてしまったのか、それとも違う人間なのか。もし彼が自分の知る人物なら、どうすればいいのか。堪え切れない激情が、衝動としてアヴェンジャーに向く。
「そう睨まないでくれ。記憶なんて薄れるモノ。っと、言い訳はいいか――――久しぶりだな、アルトリア・ペンドラゴン」
それすらも受け流し、青年はまるで同郷の人間に話しかけるような気安さで、セイバーに声をかける。こんどこそ、セイバーは言葉を失った。
「あ、なたは――――」
かろうじて絞り出した蚊の鳴くような小さな声。風にかき消されるほどの小さなソレを、青年はしっかり聞き取る。
「覚えてくれて…るみたいだな。いや、こっちも忘れてた訳じゃないんだ。あまりにも…そう、雰囲気が変わっていただけで。しっかりと、あの日のことは覚えている」
うろたえるセイバー。当たって欲しくない予想、当たって欲しかった予想。自分の心すらも相反する感情でせめぎ合っていたのに、もうどうしようもなくグチャグチャだ。今こうして目の前に立っている人物にかける言葉が見つからない。
「リシュ、アン―――」
出せたのは彼の真名。遠い記憶に彼と交わした互いの名前。二度と呼ぶことのないと思ったその名を口にする。
男は正解、と微笑む。あの時から変わっていなかったその笑顔をみて、少女は心が苦しくなる。この男もまた、自分と同じように聖杯にかける想いがあるのだ。過去の恩義、それを彼女は覚えている。死して尚、聖杯による奇跡の再会をなした今、騎士道に則り返すのは道理であろう。彼女にはもう、自分が信ずる騎士道しか縋れるモノがないのだ。
だがしかし、聖杯を掴むチャンスはこれを逃したらいつ来るのか分からない。終わらない拷問と受け続ける責苦には、もうこれ以上耐えることができない。己が願いに従い、是が非でも少女は聖杯を勝ち得なければならない。
――――だがそれは同時に、目の前の青年が希望を失うという事。
「なぜ、貴方がこの戦いに―――」
過去の彼はかなり強かった。それこそ自分以上に。まるで地上の覇者のごとく振る舞えるほどに。だが何故…、彼が聖杯に望むものとは一体―――。
「なに、取るに足らないちっぽけな願いの為だよ」
「――――――」
「―――そういう君の願いは…」
言葉を一度切る。その血の様な紅き瞳が、翡翠の瞳を捉える。たっぷり五秒はそうしていただろうか。少女にとってはそれがとてつもなく長く感じられた。
「…やめておこう。どうせ、聞いたところで意味はない」
瞳を閉じ、さぞ落胆したかのように青年は続けた。
「な…何故!」
思わず少女の口から疑問がこぼれる。それほどまでに、青年の言葉は許容できないモノだった。
「――――その目が、何より物語っている。過去の君は何にも雲らない強い輝きがあった。今の君は濁っている。これ以上ないくらい、な」
残念だ、そう言って青年は消えていった。あとに残ったのは、少女一人だけ。
「貴方に…何が分かるのですか――――――!」
拳を握り締め、歯を食いしばり、歯の間から洩れた呻き声が夜の空に消えた。
◆
「そう…もう良いわね。行くわよ衛宮君。もうこの教会に意味はないから」
私はそう言って、早々に教会からでた。あまり綺礼と顔を合わせて居たくない。いつもの思う事だけど、あの神父らしからぬ大男は絶対職を間違えていると思う。
教会を出たところには、黒いコートを着たアヴェンジャーが待っていた。律儀な奴だと思う。その後ろ、少し離れたところにはセイバーが見えた。
「終わったか、リン」
「お待たせ、アヴェンジャー。…セイバーと何か有ったの?」
従者の顔は優れない。コイツから感じる存在感は全然普通だから、戦ったとかじゃないだろうけど。表情はかなり豊かな奴だから、付き合っていて楽しいし、良くも悪くも表情から感情が読み取れる。
「いや…別に」
「そんな何か有りましたよーって顔しながら言われたって、説得力の欠片もないわよ。ま、大したことないなら詳しくは聞かないけど」
「――――――」
アヴェンジャーは何も言わないで霊体化した。
ゴウ、と一段と風が強くなってきた。ここら辺はひときわ高いところになるからだろう。周囲一帯に、コレと言って風を遮るものはない。少し遅れて衛宮君も出てきた。若干息が上がっている。性格の悪い神父に何か言われたに違いない。そんな衛宮君に、いつの間にか近づいてきたセイバーが話しかける。
「話は終わりましたか、シロウ」
「ああ、嫌っていうくらい状況の把握はできた」
「それでは――――」
衛宮君に、ズイと身を乗り出しているセイバー。それも無理はない。もしここで、彼が戦わないというのなら彼女は戦わずして敗北を喫する。奇跡を争う事すらさせてもらえないというのは召喚に応じた意味がない。
「…ああ。俺はマスターとしてこの戦争に参加する。未熟なマスターだけど、一緒に戦ってくれないか、セイバー」
「それは愚問です、シロウ。もとより、この身はマスターの剣。そう誓ったではありませんか」
ああ、あぁ。その実直な態度。ますますへっぽ…衛宮君には勿体ない良いサーヴァントだわ。別にアヴェンジャーが悪いっていう訳じゃないんだけど…。なんか、ねぇ…。隣の芝は青いってことなのかしら…。
「それじゃ、握手しよう。これからよろしく、セイバー」
「今一度誓いましょう。貴方の身に令呪がある限り、この身は貴方の剣になると」
彼らが手を重ねている。マスターとサーヴァントの契約には、そんなもの必要ないのだけど、カタチとしてこういう事をしておくのは関係を築く上で結構大事なことだと思う。そう言えば私、アヴェンジャーとこういう事したかしら…。いや、そんなことしなくても大丈夫か。
『そうは言うが、君がいつもセイバーに浮気をするたびに俺はひやひやしているんだが』
霊体化したアヴェンジャーから抗議文が送られてくる。確かにそうだ。自分のマスターがほかのサーヴァントを褒めていたら機嫌も悪くなるというもの。ごめんね、アヴェンジャー。
『いいさ。まだそこまで働いていないしな。せいぜい頑張るよ』
期待しているわ。貴方とこの聖杯戦争、戦い抜くって決めてるんだから。
さて、危なっかしくてここまで連れてきたアイツは、と…握手していたんだっけ。そろそろいいかしら。
「―――ふぅん。その分じゃ放っておいてもよさそうね、貴方たち」
「―――っ!」
弾かれたように、あわてて手を放す衛宮君。私が居ること忘れてたわね…。
「仲いいじゃない。さっきまで話すことなんてしてなかったのに、大した変り様ね。セイバーの事、完全に信頼したの?」
「え、あ…いや。うん、きっとそうなんだろうな。まだセイバーの事知らないけど、これから一緒にやっていくんだから」
そ、覚悟はできたってことね…。なら衛宮君…。
「ならせいぜい頑張んなさい。貴方たちがそうなったのなら、私も容赦しないから」
私たちは敵同士って事…その顔見ると分かってなかったわね。アホ面しちゃって。ちょっとイライラする。
「…あのね、私たちは敵同士。貴方をここまで連れてきたのは貴方がまだ敵にもなっていなかったのよ。そして、貴方は聖杯戦争をセイバーと一緒に戦うことを選択した。なら、私と貴方でやることは一つしかない」
「―――ん?なんでさ。俺、遠坂と喧嘩するつもりはないぞ」
…予想通りの回答が返ってきた。後ろのセイバーも呆れてるわよ?
「―――はぁ、まいったな。こんなんじゃ連れてきた意味がないじゃない」
どうしよう。でも、ここまでやったんだからもう十分な気もする。今日は疲れたし、もう帰ろう。
「せいぜいセイバーと悩みなさい。貴方がなんと言おうと明日から私たちは敵同士なんだから。…ま、ここまで連れて来たのは私だから、町につくまでは面倒見てあげる」
これ以上構ってられない。視界にへっぽこを入れないようにして歩き出す。
「行きましょう、シロウ。ここに長居するのはよくない」
「―――――」
可憐な少女の声が後ろからした後、二つ、足音が私に続いた。
◆
後ろの二人も何も話すことなく、坂を下り切る。
ここから先は単純に左右へ道が分かれている。片方は新都の駅前に続く大通り、もう片方は深山町に続く大橋だ。私はこれからアヴェンジャーと一緒に、新都へ行って情報を集めるつもりだ。衛宮君はこのまま帰って、セイバーと一緒に作戦会議でもした方がいいだろう。つまり、ここで私たちは別れる。
「じゃあね、衛宮君。貴方たちはこのまま帰るんでしょうけど、私たちはこのまま探し物していくから。悪いけど、セイバーと二人で帰って頂戴」
「探し物って―――他のマスターか?」
衛宮君にしては鋭い。これなら多分、自分の置かれた状況を分かってくれるだろう。セイバーもいることだし、時間を置けば彼は理解してくれるはず。
「ええ、そうよ。さっきの綺礼の宣言、貴方も聞いていたでしょう?聖杯戦争はもう始まっている。おとなしく帰るなんて選択肢、私にはない。貴方と違って、私はこの時を待って覚悟していた。準備なんてとっくにできてるんだから」
そう、私は待っていた。この時を十年間も。父さんが成し得なかった遠坂の悲願を達するために。
「だから、ここでお別れ。貴方が無様にやられたら気が済まなかったからここまでしたわ。でも、これ以上は私が関与することじゃない。明日から私たちは敵同士。ここで戦ってもいいけど、明日までって約束しちゃったし」
そう、こんなのホントはありえない。ただ、私が父さんの形見の宝石を使って、それが無駄になるのが嫌だったからちょっかいかけただけ。ただ公平に、この戦争を戦う準備をさせてあげただけ。こんなの、本当に勝ちに行くんだったらすることなく何も知らないまま殺すのが一番。だけど、私はそうしなかった。そんな私の考えを見透かすように、一つ肯いたコイツは一言。
「――――ああ。遠坂、お前良い奴だな」
そんなことを、口にした。こちらをバカにしていない、本心から言っているのが分かる分、イラつく。自然、口調は厳しくなる。
「は?おだてたって何にも出ないわよ」
それすらも判っていると言わんばかりに、
「知ってる。でも、俺は敵同士にはなりたくない。俺、お前みたいな奴は好きだ」
…。どうしてこう、コイツはストレートにモノを言うのだろう。普通の人なら恥ずかしがって勇気を出さないと言えないようなことを平然と口にする。その嘘偽りのない本心からの賛辞が頬を染める。顔が熱くなる。それは私も女の子だし、言われて嫌な気持ちにはならない。これ以上は変に感情移入しちゃいそう。ボロを出さないうちに、早々に分かれるようにしよう。
「―――。せいぜい気をつけなさい。貴方がやられたらセイバーも現界できないんだから。セイバーがいくら優れてるからって油断してるとすぐ負けるわよ」
そう言い残し、私はアヴェンジャーと一緒に新都に向かう。振り返った私は、それ以上進むことができなかった。
「ねぇ―――――お話は終わり?」
冬の夜に、不釣り合いな幼い少女の声が響いた。