学校に通う生徒はクラス分けされている。それは、あいまいだけど確かに境界線だ。授業はクラスごとに異なるし、教える教諭も違っている。私のクラスは真面目と言う言葉がこれほど似合う人もそうは居ないだろうという先生だが、C組の先生は毎度毎度ホームルームのたびに騒ぎを起こす人物で、朝の喧騒は、クラスを一つ挟んだ私たちのクラスまで聞こえてくることもしばしば。
他のクラスに入ることはあまりないし、その内部にいる人間は入ってきた人間に対して、確実に異質で、異物である印象を持たせるほどだ。だから、他のクラスに用事がある時は、近くの人間を呼びつけて、教室の外で話し合うのが常。そうすれば、無用な混乱や注目は抑えられる。はずなのだが。
「―――――――」
昼休み。衛宮君の居るC組の前で待つ。皆思い思いの行動をとる一番の時間。ある者は購買へ、ある者は持参したお弁当を仲のいい人たちととる。この時ばかりはみな自分の事で精一杯になる。それは私も例外ではない。時間は有限なのだから。なのに。なぜか出てこない衛宮君にイライラしてる。私がC組に用事があっていく事はほとんどないから、教室内の彼らが何事かと注目するのは分かる。それで周りが騒がしい事に普通なら気が付くはずだし、さっき、ここの人間に衛宮君を呼び出してもらった。その証拠に、一度こちらに視線をよこした後気まずげに逸らした。ふざけんな。貴方の方から来てくれとは…いや、それぐらいの気概は見せて欲しいとは思うけど、要求していない。ただ、こちらの呼び出しくらいは応じてもらわなきゃ困る。こうなったら、最後の手段を―――。
「ごめん、遠坂。遅くなった」
教室に入ろうとする私を遮ったのは、今の私を怒らせている最大の原因だった。済まなそうな顔をしているけど、ならば余分な時間を使わずに早く来い。怒りで塗りつぶされている私の心情とは対照的に、頬はどんどん上がっていく。
「ええ。ずいぶんといい心がけね。とりあえず、屋上に来なさい。話はそこで」
そうして、階段へと足を向ける。数歩歩いたところで、後ろの気配が微動だにしていないせいで私は振り向いた。
「何してるの、衛宮君?早く行きましょう」
彼の顔が盛大に引きつっていたのは、私を怒らせたことに対しての後悔か、それとも普段の私とのギャップゆえか。私は前者だと信じたいけど、意外と後者がないとは言い切れないあたり、自分自身のこととはいえ、どうなんだろう。けど、落ち込むのは此処までにすべきだ。
屋上にいる人はほとんどいなかった。寒い冬に、わざわざ外に出てご飯を食べようなどと言う酔狂な人間はめったにいない。風がチクチクと刺すように頬に当たってきた。体が収縮して、骨が軋んでくる。屋上の隅、壁に囲まれて風がしのげるところに向かう。そうすると、幾分か寒さは和らいだ。
「ここでいいかな?遠坂」
「ええ。人目もないし、ちょうどいいわね」
そうして、衛宮君の隣に腰を下ろした。無機質な屋上の壁とは違い、触れても無いのに暖かさを感じる。
「で。今後の事だけど。まず優先すべきはこの学校にある結界。この破壊、及び術者の殲滅。これは第一目標としていいかしら?」
とは言いつつも、これは確認に過ぎない。衛宮君はこういう無関係な人間を害するマスターと戦うために聖杯戦争を戦っているのだから。衛宮君は当然、首を縦に振る。
「そう。聖杯戦争が始まってから、私はこの結界の基点を破壊してまわってる。ここ、屋上にも一つ見つけたわ。でも、それは基点でしかない。一番大元の起点はまだ見つかってないの。放課後、時間が許す限り校内を探索、見つけ次第基点の破壊をしていきたいのだけど」
「それは、別にいいんだけど。でも、俺は基点なんて言われても分からないぞ。遠坂の助けになれるとは思えない」
「そんなこと無いわよ。貴方だってちゃんと結界が張ってあることを認識できているから。貴方が感じる『異変』の、一際大きいところを探せばいいのよ。後は私が何とかする。その間はセイバーと一緒に周りを注意してもらえればいいわ」
「そ、そうか」
基点を破壊し続けたら、きっとサーヴァントとの戦いになる。それが起こるのはきっと破壊している最中だ。そうすれば、二人という戦力差は大きなものになる。同盟関係にある以上、戦力を遊ばせておくには惜しいし、そんな余裕など、欠片もありはしない。
「ということで、セイバーも放課後は呼びましょう。貴方にとっては許しがたい事だろうけど、続いている不審なガス爆発のおかげで部活は今無くなっている。彼女が人目に付くのは極力避けられるわね」
「そ、そうか。なら、放課後になったら来てもらうように今日の夜言っておくよ。いや、ホント学校についていくって言って聞かなかったからさ」
「ホントはそれが一番いいんだけどね。なぜかセイバーは霊体化できないし」
セイバーがここに来れないのは大きな損失だ。なんでも、彼女に原因があるらしいのだが。
「いざとなったら令呪を使うことをためらってはダメよ。セイバーは空間移動系の魔術は身に着けていない。でも、令呪の力を使えば家からここまで一瞬で来れるんだから。この結界を作っているサーヴァントを見かけたら、必ずセイバーを呼びなさい」
「分かってる。俺一人じゃどうしようもないもんな」
こういう風に言っておきながら、コイツは勝手に無視して無茶するのだ。せめてできるのは、目を離さないようにしておくことぐらいか。勝手にいつの間にか脱落してる、なんてことはやめてよね。
そんな事を話していたら昼休みは終わり。衛宮君とはバーサーカーを倒すまでの同盟だったけど、どうやら長い付き合いになりそうだ。
この学園で結界を張っているサーヴァントはどのクラスなのだろうか。
ランサーは除外。クーフーリンは確かにルーン魔術の使い手だけど、ここまで凶悪なものは用意しないだろう。キャスターのクラスならまだしも、ランサーとして呼ばれた以上、あの戦闘力は正しく使うべきだ。
では、バーサーカーは。考えるまでもない。今回最強格のサーヴァントに、このような魂食いによる力の増強は必要ない。マスターも一級。己の僕の十全の力を発揮するだけの魔力と頭脳があることは確認済み。
ならば、アサシンは。隠密起動が生命線のアサシンが、こんな分かりやすく敵に見つかりやすい行動などするはずがない。もし結果をはるなら、私はそれを認識することなくアサシンの術中にはまるはずだ。
アーチャー。仮にも三騎士の一角が、これほど姑息な手を使用するだろうか。前三つよりは可能性があるが。まだ戦争が始まって以来、見たことが無いので保留。
ライダー。騎乗するモノが肝心なこのサーヴァントは、どうか。やはり、見たことがないから保留するしかないが、可能性はなくはない。
最後にキャスター。可能性は一番高い。でも、私がアヴェンジャーを召喚してから既に5日はたっている。もう自分の工房とも言える場所を作っているはずだ。キャスターによって要塞化しているであろうそれは、決してここ(学園)ではない。新都で起きているガス漏れ事件は十中八九コイツの仕業であろうけど、それは今も続いている。魔力を得るために、同時に二つの事を進めることが出来るだろうか。
マスターに関しても、疑問は残る。学校関係者であることは明白。そうでなければ目立ってしょうがない。学校にいる魔術師は居ないはず。いや、衛宮君という例を持ち出されてしまうと、私が見落としていた可能性も浮上する。とは言いつつも、怪しむべきは間桐慎二と間桐桜。始まりの御三家の一つ、間桐家。廃れたとはいえ一流の魔術の名家であることは間違いない。廃れたからと言って、マスターを輩出する可能性はないものと思っていたけど、頭の片隅に置いておく必要があるかもしれない。彼らを中心に、洗い出していこう。
◆
そうして、放課後。セイバーは此処にはいない。今日のところは彼女は必要ないだろう。彼女が必要なのは『確実に勝利する』時であって、『勝利する』ことに関しては、彼女の力を必要とはしないし、してはならない。最終的には、私は衛宮君とは戦う運命にあるのだから。
放課後の部活動は全面的に休止。冬の寒さがはびこる教室に残りたいという人間はそうはいない。今教室には、私と、遅れて入ってきた衛宮君だけがいた。茜に染まった教室は、刻一刻と魔術師の、聖杯戦争の時間が近い事を告げている。
「士郎。貴方、今日校門をくぐった時にどう違和感を感じた?」
私の場合は背中を撫でられるような不快感。感じ方は人によって違うはず。私の場合、感じるには感じるけど、その強弱が分かりづらい。やはり視覚情報、目が一番知りたい情報をくれるが、そこまで望んではいない。
「んと。なんていうか、甘いにおいがするんだ。こう、ケーキとか焼いてるときのにおいじゃなくて、どろっと。水あめみたいに纏わりつくような雰囲気と言えばいいのかな。他には一瞬空が赤く見えたんだけど、それはすぐに消えたかな」
「そっか。なら、今から校舎内から順に歩いていくけど、そのにおいが強まるところを教えてちょうだい。そこが基点よ。行きましょう」
衛宮君を伴って歩いていく。斜め後ろにはアヴェンジャーが霊体化して護衛をしてくれいている。今からの作業、結界の主は見ているのだろうか。もし出てくるのなら、それも良し。もし出てこないのなら破壊させてもらうだけだ。謂わば、自らを餌にした釣り。さぁ、来い。
今の私は、きっと瞳をギラギラさせている事だろう。
――――結局。夜の九時を過ぎるまで学園内を注意深く捜索したけど、基点の発見は4つに留まった。その中には私には分からなかったところを衛宮君が見つけてくれたモノもある。やはり、彼の方がこういう事には向いているようだ。私も魔術を使えば彼より正確に場所を特定できるけど、索敵範囲は彼には遠く及ばない。学校の敷地内など、全て索敵することは不可能だ。魔力が尽きてしまう。体の方も、すでに五時間近く探していたからそれなりに疲労はあった。戦闘が起こりうることを考えると、これ以上の捜索はやめるべきだろう。サーヴァントに遭遇することは無かった。今日は様子見という事なのだろうか。仮にアーチャーが居たとすると、どれほど遠くから見られていたのか見当もつかない。
「そろそろ帰りましょうか。帰り道にもし戦闘があるとすると、これ以上は危険だし」
「そうだな。セイバーも待っているし、藤ねぇにも、これ以上遅くなったら何言われるか分からないし」
そうだ。優等生ということでなんとか同居を許してもらっているが、相手は仮にも教師。目をつぶる事にも限界があるだろう。アレでいて、しっかりした一面も確かに持っている人間だ。きっと、夕飯時も一波乱あるのだろう。なんだかんだ、寝るのは遅くなりそうだ。
自然、私たちの足は校庭へと向かう。空には満点の星空と、この戦争には似つかわしくないほど綺麗に輝く月が浮かんでいた。
◆
冬木市にある教会。神の家に従事する神父は、今回の戦争の監視役でもある。神聖な聖杯が、誰の手に渡るのか。人の身為れど、神に最も従順であろう『神父』は最も適任だと言える。神父である言峰綺礼は質素な自室にて、この役目を守るべく重要な案件について話し合っていた。
「――――その件に関しては既に確認済みです。真祖とも接触を果たし、その際の彼女の言動からほぼ間違いないと思われます。第九席も既に城を抜けだし、この国へと向かっているとの情報を得ました」
受話器から聞こえてくる女の声。努めて事務的に話そうとしているが、にじみ出ている緊張が伝わってくる。埋葬機関、異能に対するトップエージェントとも言うべき彼女がそれほどまでに焦りを感じる事がこの問題の大きさを物語っていた。
「私としては、まだこの冬木において異常を確認したことは無い。聖杯戦争も、滞りなく進んでいる。ただ、前回大会ならまだしも、今回は注意を喚起にしようもこちらの招集に応じないマスターがほとんどでな。無論、サーヴァントを召喚しているのでみすみす殺されたりしないとは思うが。そもそも、その案件には疑問が残る。何故、今になって動いたのか。何故真祖や第九席に接触しないのか。…それとも、なにか接触できない問題があるのか」
「―――それについては埋葬機関内でも議論されています。過去の記述によれば、あの第三席が消滅したことは確認済みです。それは真祖も疑っていなかった。そもそも、そうでなければ彼女に現れた特異性が説明できない。世界の精霊たる彼が一体どのように再び現界したのか。もしこれが『星自身の生命延長への祈り』だとするならば、彼に意思は残っているのか。…私には分かりかねます」
「――――――。私が出来るのは近く接近するであろう第九席の監視と、冬木の街の警戒か。こちらでも、調べて見よう。まだ君は、そちらを離れられないのだろう?」
「ええ。すみません。よろしくお願いします」
そういうと、女は神父の返事を待たずに通信を切った。よほど忙しいらしい。ともすれば無礼な対応だが、言峰綺礼はその無感動な目をわずかに細めただけであった。
「――――――」
綺礼は考える。この問題を内々で処理するべきかどうか。一代行者でしかなかった自分では死徒二十七祖の一角など、とても太刀打ちできない。あれは、埋葬機関に任せるべき相手だ。そもそも、彼には倒そうという気すらないのだが。とりあえずは、この冬木の管理者である遠坂に一報を入れるべきか。聖杯戦争はおろか、この街に住む人間全ての生活すら崩壊しそうなこの案件は、管理者に伝えない方がおかしい。今この地に居る戦力全て、―――サーヴァントと魔術師―――を使っても、太刀打ちできるか怪しいのだ。第九席と、その従者たちは。
受話器を取る。連絡が取れないであろうその行為は、伝達そのものよりも行ったという証拠が大切となる。遠坂凛が聞き入れればそれも良し。聞き捨てても、それもまた良し。
元より、言峰綺礼個人にはさしたる問題ではないのだから。
◇
月下の花園。
白き花が辺り一面に咲き誇る、どこまでも広い箱庭。
星より振る光は、可憐な花弁によって広げられる。
そんな白い世界は今、紅と黒に塗りつぶされようとしていた。
男と女。舞を舞うようで、その実二人が行っているのは壮絶な殺し合いだった。地は抉れ、風は荒れ狂い雄たけびをあげる。二人は非常に似通っていた。長い金髪、金の双眸。ただ違うのは、一人は男性体でもう一人は女性体。黒き衣装に身を包んだ男と、純白のドレスを着飾った女。しかしその月光を紡いだ様なドレスにはワインをこぼしたような赤黒い染みが口から這っており、見る影はない。 振るわれた腕は轟音を伴い、それを防ぐ腕は軋み、火花を散らす勢い。
女が攻め、男がいなす。女が自身の腕と爪を使うのに対し、男は剣技をもって相対する。実力、容姿ともに似通った二人で、決定的に違うのは表情であった。
「ぐっ――――!」
男の端正な顔が歪む。自分から無理な攻撃は仕掛けられない。耐えるだけの、終わらない時間。だが、何よりも悲しいのは、禁忌を犯して狂気に染まった女の顔をこうして見続けることしかできない事だった。
「■■■■■■■―――――!」
伸びた牙。咆哮は劈き、溢れ出す瘴気は天まで伸びる。手を伸ばせば触れ合える距離。この世で最も彼女に近いところに居る自分。最も自分の思い通りに出来るだけの力を持ったはずであった。
―――――そんなモノは、今、彼が本当にしたい事に、これっぽっちも役に立ちはしない。
男にもはや余裕はない。全力で相手をしなければ、彼女は止められない。それが最悪のカタチでしか止められない自分を呪う以外、男にはできない。
―――――剣を捨てた。捨てざるを、得なかった。
剣はリミッターだ。幾銭もの激闘を戦い抜いた男にとって、剣よりも自身の肉体の方が優れた武器となっていた。それを捨て去らなければ、全身全霊、殺す覚悟すら持たねばならないほど、女の攻撃は熾烈であった。男に自分の命に対する恐怖はない。ただ、女を止められずに護るべきモノを失う事が怖かった。その女すら、護りたいモノの一つだというのに。
嘆き、悲しむ。この終わりない戦いの果てに、一体何が残るのか。堕ちた真祖はもう二度と『還って』は来ない。それを知りながらも、このように彼女と愚直に戦い続けることの意味を男は見失い始める。何が彼らに手を差し伸べられることができるのか。神か。悪魔か。心が絶望に縁どられる。奇跡を信じつつも、もうどうしようもないこの状況。
殺すしかない―――――?
誘惑が鎌首をもたげる。誰かの手にかかるまで、彼女は止まらないだろう。それならばいっそ、この手で眠らせるべきか。それが最上のはずなのに、男にはどうしてもそれが出来なかった。葛藤が、男の中を暴れまわる。その間も、女は幾通りもの手段を駆使して男に襲いかかる。もはや、猶予はない。男の心が、絶望に沈んだ。
その時。男は一度目を見開いたかと思うと、戦闘中にも関わらず目を閉じた。決して力を入れず、穏やかに。男の瞳を瞼が覆う直前、女の金の瞳は、たしかに男の紅い瞳に映る、爪を振りかざしている自分を捉えていた。
瞬間、男の腹を突き抜ける女の腕。
それに構わず、男の両腕は女を抱きすくめた。
「あ、―――――」
吐息が漏れる。狂気の色に染まっていた女の金の瞳は、いつの間にか色を失って紅に戻っていた。頬に飛んだ赤い液体と、その原因たる男の腹に深々と刺さった自らの右腕。
―――――自らの過ちを、認識せざるを得なかった。
◇
「――――――」
なんなの、あれ。私には理解できない。アヴェンジャーと、彼に良く似た女性の戦闘。それが最後は、彼がお腹を貫かれた所で夢は終わった。彼女が誰なのか。それは分からなかった。ただ、彼と実力を拮抗させるだけの実力の持ち主で、彼が不殺を貫こうとしていた相手だという事。でも、それで自分が殺されてちゃ話にならない。戦闘中に目を閉じたこと。自分から彼女の腕を受け入れたこと。彼女を抱きしめたこと。分からないことは多い。
けど。一番わからないことは、彼女を受け入れたときにアイツが見せた満ち足りた表情。なんで、あれだけの狂気を向けられた相手をあんな慈悲深い顔を向けられるのか。分からない。
「ああ―――イライラするっ!」
朝だからか。夢のせいだからか。最後の死に際として、あんなモノを見たせいか。英雄には満ち足りた死は訪れない。それを再認識させられた。分かってる。ただ無駄にイライラしているの過ぎないなんて。記憶がないアイツにぶつけたって意味がない事なんて。でも、それでも――――。
「アヴェンジャー!」
ベッドの脇にはさっきまで戦っていた男がいた。首を傾けてこちらを見ている。それには目もくれず、私はベッドから這い出た。はからずも、アヴェンジャーとすれ違う形になる。
「リン―――――」
「勝つわよ、アヴェンジャー」
前にはそれを言うべき人間はいない。振り向くことなんかできない。今アイツの顔を見たら、私は何を言うのか分からなかった。ただ、私は必勝の誓いをするだけ。少し間が空いて、彼が答えた。背中越しでも、感情は伝わる。
「了解した、マスター」
――――――負けられない理由が、一つ増えた。