【完結】流れ星の転校生~とある武術家ウマ娘がトレセン学園に転入する話~   作:カンヌシ

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 微シングレ要素有ります。似ている世界線の延長線上だと思って頂ければ。


12話 部外者、郷に入る

 

 

 

 トレセン学園食堂の入り口に立つシンボリルドルフに皆の視線が集まる。

 

 ルリもチラリと『皇帝』に目線を向けた。先のオグリキャップの威圧感により一筋の汗が額に垂れていた。

 

 

「……『芦毛の怪物』オグリキャップの次は、『皇帝』シンボリルドルフ……か。ファンが聞いたら卒倒しそうな面子ね」

 

 

 コツコツとルドルフがマリンたちのテーブルまで歩いてくる。そして、ルリイロバショウの目の前に立つ。

 

 

「私の名を存じて頂けて光栄だ。貴方は『ルリイロバショウ』で相違ないかな?」

 

「!!………レースウマ娘界の『皇帝』がなぜ、私の名を……?」

 

「私は各界隈で活躍するウマ娘は常日頃よりチェックしている。もちろん格闘ウマ娘についても抜かりはない」

 

「……………………」

 

 

 

 ルドルフの威厳ある風格に感心するルリだが、その表情は依然険しいままだ。

 

 

 

「……なるほど、流石『皇帝』と呼ばれるだけあるのね。けど、これは私とマリンの間の問題よ。例え、あのシンボリルドルフでも……あのオグリキャップでも……話の腰を折るのはやめて欲しいわ」

 

 ルリの目に殺気が篭る。

 

 

「だが……」

 

 

 と、ルドルフは意に介さず、語気を強めて言う。

 

 

「その問題は、そう簡単に解決するものではあるまい。特に、その様な非常に強い想いのぶつかり合いはな。そこでだ……」

 

 ルドルフはルリの目を真っ直ぐに見つめて、微笑を浮かべた。

 

「ここはトレセン学園……そして、マリンアウトサイダはここの在籍生だ。学園の生徒たちはお互いの主張がぶつかり合う時は、ここの生徒として相応しい方法で決着をつけるのだが……どうかな?」

 

 

 周囲が少しざわついた。うそでしょ、マジ?、と聞こえてくる。

 

 

 

「……まさか……『走れ』って言うの? 私に」

 

 

 

 ルリはルドルフを睨みつける。しかし、ルドルフは動じずに答える。

 

 

「選ぶのは君だ、ルリイロバショウ。ここで口論を続けるより、幾分か建設的だと私は思うのだが……マリンアウトサイダも、異論はないな?」

 

「……………」

 

 コク、とマリンは黙って頷いた。長い沈黙があたりを包んだ。

 

 

 

「………………いいわ、乗ってあげる。マリンとレースをしろって事でしょ? 上等よ。格闘ウマ娘だって、ダッシュと走り込みくらいはしているわ」

 

 ルリがマリンの方を向く。

 

「マリン、アンタは中距離か長距離を走ってたわね。アンタが距離を決めて良いわよ。2000メートルだろうが、3000メートルだろうが、どんな距離だろうと構わないわ」

 

 

 ルリの言葉に、マリンは目を閉じて深呼吸する。そして彼女に向かって告げた。

 

 

 

「……500メートルだ」

 

 

 

 周囲のざわつきが更に大きくなる。テーブルにいる4人のウマ娘も皆、驚いていた。

 

 

 ルリはそれを聞いて苛立つ。

 

 芝の短距離走レースでも最短距離が1000メートルなのはルリでも知っている。その半分の距離をマリンは提示したのだ。

 

 

「何……ハンデのつもり?」

 

「違う」

 

 マリンは屹然と言い放つ。

 

 

「直線500メートル、これならば私とルリとの間に能力の差は無い……それだけだ」

 

「ふぅん……」

 

 

 ルリは更に一歩近付いて、マリンの目と鼻の先に立つ。

 

 

「いいわよ、それで。でも覚えておいて、アンタは私を『納得』させなきゃならないのよ。それが最優先」

 

 

 ルリが顔を更に近付ける。キスをしてしまいそうな距離だ。だが、2人の間には深く暗い溝があった。

 

 

「言っておくけど、負けた時の為の言い訳じゃないから。それは理解してるわよね?」

 

「……ああ、理解している」

 

 

 

 両者の間で決闘の条件が定まったところで、タッタッタッタッ!と廊下から走る音が聞こえてきた。

 

 入り口から入ってきたのは緑の帽子を被った駿川たづなだった。彼女はマリンとルリが相対しているのを見て、厳しい目付きになる。

 

 

「ッ…………これは、何事ですか? ここは『部外者』は立ち入り禁止ですよ。本日は他校からも、UMADからも来訪者の予定は無いはずですが」

 

 それを聞いたルリは目を細めた、が……

 

 

「たづなさん」

 

 

 ルドルフがたづなに呼びかけた。

 

 

「彼女……ルリイロバショウは、私がここに呼んだのです。個人的な相談がありましたので」

 

「えっ!? ですが!」

 

「たづなさん……」

 

 

 ルドルフはたづなの目を見つめて言った。数秒経ち、たづなは「はぁ」と観念したように目を閉じてため息をついた。

 

 

「……分かりました。ただし、後で詳しいご説明をお願いしますね」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 ツカ、ツカ……とたづなが食堂を出て行った。それを見届けてからルドルフは食堂のコートに向き直り、その場のウマ娘たちに向けて言った。

 

 

「諸君! 私の客人が迷惑を掛けて申し訳なかった。授業開始時刻も近い、各々その準備に戻ってくれ」

 

 

 最後にルドルフが小さく頭を下げた。『皇帝』がその様なことまでしたのなら、それに文句を言える者は誰もいない。皆戸惑いながらも、食堂を出て次の授業の準備へと向かった。

 

 

「……シンボリルドルフ……」

 

 

 ルリがルドルフに口澱んでいると、ルドルフはそれを手で制止した。

 

 

「さっきのことは気にしないで良い。それよりも、今は君たちの事が優先だ。たづなさんは見逃してくれたが、急ぐに越した事はない。さあ、グラウンドへ移動しよう。この時間帯なら使う者はいないはずだ」

 

 

 ルドルフが出口へ向かって歩き出す。マリンとルリは互いに一瞬目線を交わすと、静かに彼女の後をついて行った。

 

 

 

……

………

 

 

 

 食堂から出て行く3人を、蒼い星模様の耳カバーをしたウマ娘がテーブルから真剣な眼差しで見つめている。

 

 

「…………私も行くわ」

 

 

 ガララ、とアドマイヤベガが立ち上がる。

 

「え、行くって……マリンさんたちのところへですか? もう授業が始まっちゃいますよ!?」

 

 トップロードが慌てて言った。

 

「あんなの見せられて、今更無視なんて出来る訳ないわ」

 

「わ、私も行きますぅ〜!!!」

 

 メイショウドトウも立ち上がる。

 

 

「マリンさんは……もう私たちの仲間です……私も、マリンさんの側に居てあげたいですぅ!」

 

「ドトウちゃんまで…………ああもう、分かりました! 学級委員長にあるまじき行動ですが、授業よりあの2人の対決を見守るのを優先します! 後でみんなで仲良く叱られましょう!」

 

 

 ナリタトップロードと、それに続いてテイエムオペラオーも立ち上がった。

 

 

「はーっはっはっはっ! やはりボクら『覇王世代』の心は一つ! さあ、共に行こう! 輝かしきコロッセオへの道を駆け「行くわよ」

 

 

 アドマイヤベガはオペラオーの台詞を遮り、さっさと歩き出した。それに続いて残りのウマ娘たちもグラウンドへ向かって行くのだった。

 

 

 そして、それを離れたテーブルから眺めていた小柄なウマ娘がニヤリと笑う。

 

 

 

「……ほな、ウチも行ってくるわ」

 

 

 ガララと音を立てて椅子からタマモクロスが立ち上がる。

 

 

「タマ? お前さん喧嘩に興味は無ぇって言ってたクセして、どう言う風の吹き回しでぇ?」

 

「そら殴り合いには興味あらへんで? でも、今からやるんは格闘ウマ娘同士の本気の『駆けっこ』や。こんなオモロいもん、中々見れへんやろ!」

 

「ふふふ、これはもう、みんなで行くしかないですね〜」

 

 スーパークリークもいつの間にか立ち上がっていた。

 

 

「あ〜あ〜、年長者が揃いも揃って授業をサボるってかい? 

 

 そうこなくっちゃなぁ!! こんな喧嘩を見逃したとありゃあトレセン学園一の傾奇者の名が廃らぁ!!!」

 

 イナリワンも威勢よく立ち上がる。

 

 

「もちろん、オグリも来るやろ? もう当事者みたいなものやしな」

 

 

 タマモクロスはオグリキャップに笑いかけた。しかし、タマモクロスの明るい声とは対照的に、オグリキャップは暗い面持ちで俯いている。

 

 

「……ああ、私も行く。みんなは先に行っててくれ……後で追い付く……」

 

「……ああ、待っとるで。ほな、2人とも行こか」

 

 

 タマモクロスがポンとオグリキャップの肩を叩いて食堂の出口へ向かう。

 

 スーパークリークは少し心配そうな顔をしたが、イナリワンと一緒にタマモクロスの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人の去って行く足跡が、賑わいを失った食堂に響く……

 

 

「…………………」

 

 

 食堂にはオグリキャップだけが残された。

 

 さっきのルリイロバショウの声がまだ頭の中に響いている。

 

 

 

『私だって…………私だってアンタに『夢』を見ていた!!!!!』

 

 

 

 オグリキャップは目を閉じる。ルリの姿が記憶の中の、ある芦毛のウマ娘と重なる。

 

 

 

『私の目標は東海ダービーだ』

 

『貴様を倒して、私は頂上へ行く』

 

 

 

 思い浮かぶのは故郷の景色。そして、カサマツトレセン学園で出会った『初めてのライバル』の姿。

 

 

 

『これはなんだ!! 東海ダービーはどうした!?』

 

『私との…約…束…ッ……バカに…しやがって……ッ!』

 

 

 

 私も……『誰かの夢』を裏切った。その時の彼女の顔を、私は一生忘れる事はないだろう。

 

 

 

『お前よりも永く、レース場に立って見せる』

 

 

 

 オグリキャップは目蓋を上げる。

 

 

 「カサマツのみんなは……最後は笑顔で送り出してくれた……だから、後悔なんて絶対にない」

 

 

 

『一緒に東海ダービーで走ろう』

 

 

 

 記憶の中で、自分がそのウマ娘に語りかけている。

 

 

 

「でも……でも……ッ!」

 

 

 

 オグリキャップは拭い去れない悲しみに唇を噛む。後悔も、無念もない……ただ、『そうならなかった』現実を噛み締めるしかない。

 

 

 

「私は1日だって……お前との『約束』を……『夢』を……忘れたことなんて無かったんだ……………………マーチ……………」

 

 

 

 

 オグリキャップは、今は遥か遠くとなってしまった日々に向かって、1人呟いた……

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 グラウンドには3人のウマ娘の影があった。

 

 1人はマリンアウトサイダ、体操着に着替えてストレッチとウォーミングアップを終えたところだ。

 

 もう1人はルリイロバショウ、マリンから体操着を借りて、シリウスのロッカールームの予備のシューズと蹄鉄を使っていた。

 

 シンボリルドルフはそんな2人のレースのスターターを務めることになった。

 

 

 つま先をトントンとターフに打って、ルリはシューズの履き心地を確認する。

 

「しっかし、蹄鉄シューズなんて小学校の行事で履いて以来よ。こんな物、また履くことになるなんて……」

 

 ルリは憎たらしいものを見るように、足元に視線を向けていた。

 

 

「……嫌なら、私は裸足でも別に構わないけど」

 

「気にしないで、トレセン学園に踏み入ったのは私だもの。郷に入っては郷に従うわ。ただ、シューズのサイズは大丈夫なんだけど……」

 

 

 ルリがグイィ〜〜と背を反って言う。

 

 

「この上着、胸囲が足りなくて少しキツいわね。ま、マリンのなら仕方ないか」

 

 

 ルリが姿勢を直した時にユサッとその膨らみが揺れる。ちなみに彼女の身長はマリンより頭半分高いくらいで、胸は少しとは言えない差があった。その空手の実力はさることながら、ルリはビジュアル面でもかなり人気がある方だった。

 

 そしてトレセン学園の体操着は同じサイズでも胸囲によって複数のタイプに分かれている。マリンの物は『小さい方』である。

 

 

「…………だったら脱いで走れば?」

 

 黒髪のウマ娘はジト目で呟いた。

 

 

 マリンは普段その様なことは気にかけないが、ルリに言われると無性にムカついたのだった。

 

 ルリはそんなマリンを無視するようにグラウンドから歩道の方を見る。何だか騒がしい様子だ。

 

 何人かギャラリーが来ていて、その中で誰かが誰かに抱き締められて窒息しているような……?

 

 と、思ったが、ルリはあれは見てはいけないものな気がしたので目線を戻した。

 

 

 

「コホンッ! 2人とも、そろそろ準備は良いだろうか?」

 

 

 そして、ルドルフが2人に話しかける。

 

 

「私が立っているこのあたりから、向こうのナリタトップロードが立っている所までが凡そ500メートルだ。直線の一本勝負、それで……決着だ」

 

 

 マリンとルリは再び相対した。互いを睨み合っている。頭のスイッチが切り替わり、格闘技の試合の直前の様な雰囲気になっている。

 

 

「マリン……さっき言ったこと、忘れてないわよね? 私を『納得』させなさい……!」

 

「………………」

 

 

 ルドルフが右手に乗せたコインを2人に見せる。

 

 

「私がトスしたコインが地面に落ちたら、それがスタートの合図だ。2人とも、位置についてくれ」

 

 

 マリンとルリ、ルドルフはゴールの方に向かって、間隔を空けて横一列に並ぶ。

 

 

 真ん中に立つルドルフはスッと右手を突き出して、コインを弾く用意をした。

 

 それを見て、マリンとルリは走る体制を取る。

 

 

 キィンッ……!とコインが回転しながら宙に舞う。

 

 

 そして………………………………芝に落ちた。

 

 

 

 ヴゥオンッ!!!!!!!!!!

 

 

 

 と、2人のウマ娘がスタートダッシュを決めた。その勢いは、ルドルフの予想よりも激しく、彼女は少し目を見開いたのだった。

 

 

 

……

………

 

 

 

 数分前……

 

「それじゃ私、ゴール役をしてくるので行ってきますね!」

 

 タタタタタッ!とナリタトップロードはゴール地点に向かった。

 

 

「……こんな時でも真面目なのね、トップロードさん」

 

 アドマイヤベガがため息をついたように言う。

 

「でも、トップロードさんらしいですぅ〜」

 

 

 グラウンドから見て、土手の上にあるような歩道のゴール付近にアドマイヤベガ、メイショウドトウ、テイエムオペラオーは並び立っていた。

 

 トップロードは対決する2人のウォーミングアップ中にルドルフに話しかけ、自らゴール役を買って出たのだった。

 

 

「……………………………」

 

 

 常に饒舌で騒がしいと言われるオペラオーは、今は珍しく黙ってスタート地点付近の2人を見つめていた。

 

 

(……オペラオー、いつも喧しいと思っていたけど、静かなら静かで気味が悪いわね……)

 

 

 アドマイヤベガがそんなことを考えていると、後方から複数人の足音が聞こえてきた。振り返ると、そこには偉大すぎると言っても過言ではない伝説の世代のウマ娘たちが並んで歩いてきていた。

 

 

 

「おーっす後輩たち、ウチらも見物に混ぜてもろてもええか?」

 

「……はい、もちろん……です。その、タマモさんたちも、あの2人のレースを観に……?」

 

 アドマイヤベガが聞いた。

 

「ああ、そやで。レースっちゅうか『駆けっこ』やろ、これは。興味深いもん観れそうやなーと思ってたら、いつの間にか脚が勝手に教室やなくてこっちに進んでたんや」

 

 タマモクロスがニヤリと笑った。そして、表情は崩さず、少しだけ真剣な調子で言う。

 

 

「さっきはオグリの奴がすまんかったな。でも、アイツあれ無意識にやっとんねん。許してやってな。ドトウもビビってもうたやろ?」

 

 タマモクロスがドトウに話しかける。

 

「あ、は、はいぃ〜身体がビクビクして……怖かったですぅ……」

 

 ドトウは俯いてオドオドと答える。しかしその後、タマモクロスの方に向き直った。

 

 

「で、でも、良かったですぅ〜。オグリさんが……マリンさんを止めてくれて。もし止めてなかったら、マリンさんが、何というか……道を……間違えてしまっていた気がして……だから、オグリさんにはその、ありがとうって、お礼を言いたいんですぅ……」

 

 

「!!………ほ〜……」

 

 

 タマモクロスはドトウをジッと見つめた。臆病なのは性格だろう。しかし、その瞳の奥には芯の強い精神があるのを感じた。

 

 

「そかそか、見直したでドトウ、流石『世紀末覇王』と渡り合っただけの事はあるなぁ〜」

 

「え、そ、そんな、私なんて、タマモさんにそんな事言われるようなウマ娘じゃないですぅ〜……ただ、マリンさんの事が心配なだけで〜……」

 

 そう言って、ドトウはストレッチを終えて、何かを話しているマリンとルリを見て、心配そうに呟く。

 

 

「マリンさん、勝てるでしょうかぁ〜……」

 

「その心配はしなくても大丈夫だよ、ドトウ」

 

 

 同じく2人を見つめていたオペラオーが答えた。

 

 

「マリンさんが勝っても、ルリイロバショウさんが勝っても、関係ないんだ」

 

「え、えぇ〜!? オペラオーさん、どういうことですかぁ……」

 

 

 オペラオーがドトウの方を向いた。いつになく真剣な表情にドトウはドキリとする。

 

 

「これは2人の魂、そして過去と現在(いま)の『夢』を全力でぶつけ合うこと、それ自体が目的なのさ。どちらが先にゴールするかなんて関係ない。だからこれは『レース』とも、『決闘(デュエル)』とも言えない……こういうのをきっと……『喧嘩』、と言うのだろうね」

 

「『喧嘩』……ですかぁ……」

 

 

 

 それを聞いたタマモクロスがニヤニヤしながらイナリワンを肘で突いた。

 

「イナリ〜、後輩の方が『喧嘩』を分かっとるみたいやぞ。ええんか〜? 江戸っ子なんやろ〜?」

 

「う、うるせーやい! ヒトにはヒトの、ウマ娘にはウマ娘のそれぞれの『喧嘩道』ってものがあんでい! 比べるものじゃねぇ!」

 

 

 そして、そんな2人の後ろでプルプル震えていたスーパークリークが、我慢の限界を迎えてドトウに一瞬で近寄り抱き寄せた。

 

 

「あ〜もう〜! ドトウちゃん、健気過ぎて私、甘やかしたくて我慢出来ません〜! ママって呼んで良いのよ〜! ねぇ、ドトウちゃ〜ん!」

 

「あ、あわわわわわわぁ〜〜! く、クリークさん、い、息が、わぷぅ!! も、もう始まっちゃい、むぐぅ!」

 

 

 その様子をターフにいるルリイロバショウが見ていたが、彼女は目を逸らしたのだった。

 

 

 ダッダッダッダッダッ!

 

 と、騒がしくなって来たところで、オグリキャップが走って来て皆と合流した。

 

「お、遅れてしまってすまない! マリンアウトサイダの勝負は始まってしまっただろうか?」

 

 タマモクロスが振り返って、オグリキャップに言う。

 

「オグリ、危なかったなぁ。ちょうど始まりそうなところや」

 

 

 オグリキャップがターフを見ると、3人が横一列に並んでいるのが見えた。ルドルフが右手でコイントスを行おうとしている。

 

 

 流石にスーパークリークもドトウを解放して、皆で『喧嘩』が始まる瞬間を待つ。

 

 

 

 そして…………………

 

 

 ヴゥオンッ!!!!!!!!!!

 

 

 と、音がこちらまで聞こえてきそうな勢いで、2人はスタートダッシュを決めた。

 

 

 

………

……

 

 

 

「!!! 速い……」

 

 オグリキャップは呟いた。

 

「へぇー、やるやん。スタートダッシュの精度は2人とも中々大したものやな。片方はしかもレースは素人のはずやのに」

 

「あの2人が格闘ウマ娘だからかもなぁ。格闘技の勝負は一瞬で決まる。反射神経と瞬発力はレースウマ娘以上ってのもあり得ない話じゃねえ」

 

 タマモクロスとイナリワンが驚きの声を上げた。

 

 

「……でも500メートルなんて、ウマ娘にとってテクニックでどうにかなる距離じゃない。純粋な身体能力だけの闘いになる。マリンさん……遅れてるわ……!」

 

 そう言ってアドマイヤベガは目を細めた。

 

 

 皆がこの闘いの行く末を見守っている。早くもレースは中盤にさしかかっていた。

 

 リードしているのは……ルリイロバショウだった。

 

「ま、マリンさ〜〜ん!!! 頑張って下さいぃ〜〜〜!!!」

 

 

 ドトウが精一杯の声でマリンを応援していた。

 

 

 

……

………

 

 

 

 ルドルフはコイントスの後に、2人の姿がよく見えるように高台に移動していた。

 

 レースはあっという間に中盤戦に入った。見ると、リードしているのはルリイロバショウだと分かった。

 

(マリンアウトサイダ……君は純粋なフィジカル面においては、残念だがルリイロバショウには劣る。この短い距離で、君が勝つ為には……)

 

 

「………………………」

 

 

 ルドルフは腕を組んで、静かに勝負の行方を見守った。

 

 

 

 

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